「う、うおおおお!」
「なんか、よく分からないけど、勝ったぞ!」
「お前なら、やってくれるって信じてたぜ、吉井ー!」
Aクラスが味方の降参宣言に動揺を隠せないでいる中、Fクラスの生徒達は狂喜乱舞していた。その喜びようは、宝くじで一等を当てた時や、できの悪い子供が高偏差値の大学に受かった時の母親が見せる感動に似ている……多分。
雄二「なあ……。本当に明久が勝ったんだよな?」
秋希「坂本君、試合をちゃんと見てた?それとも現実を受け止めきれない?でも残念でした。この勝負、吉井君の勝ちだよ。」
雄二「だよな……。一応言ってみただけだ。」
……まあ正直、あれを『勝ち』と言えるかどうかは微妙なラインだけどね。
雄二「それにしても、明久があんな点数取れるなんてな……。」
秋希「そりゃあ、教えた人が優秀だからね。今回は時間が足りなかったから、一教科だけに集中して教えたけど、この戦争が終わった後は、もっとハードモードになるだろうね。」
ま、吉井君からしてみれば、今までの勉強も結構ハードだったと思うけど。
雄二「そうか……。なあ、近衛。一体誰なんだ?誰が明久に勉強を教えていた?アイツが一人で黙々と勉強してる姿なんて想像できないからな。」
……随分と踏み込んでくるなあ。どうしようか。別に適当なことを言って、あしらってもいいけど、情報屋の土屋君がいるから、警戒して監視に差し向けてくるかもしれないし……。
秋希「ハア……。そんなこと聞いたって、何も得なんて無いでしょうに……。まあ、いいわ。吉井君に勉強を教えたのは、主に零次と久保君よ。ついでに、私とその他複数名のAクラス生徒ね。」
雄二「マジか……。あの久保がか……。お前や双眼が関係したとは思ってたが、久保が、なぁ……。」
なんか失礼な言い回しだなぁ。坂本君の中での久保君のイメージは、一体どうなってんだか。
秋希「さてと、そろそろ試召戦争の話をしようか、坂本君。事態は思ったよりも、『私達』にとって良い方向に進みつつあるみたいだけど……。どうする?」
坂本君の『裏目的』のことを考えれば、わざとこの後の三試合を捨てて、霧島さんがほぼ確実に出てくるであろう第6か7戦目まで引っ張ることもできる。でもそうすると、ここまで積み上げてきたアドが無くなるうえ、向こうが優位になる。
正直な話、私は坂本君を全く信用していない。折角坂本君VS霧島さんの幼なじみ対決を実現できても、それに勝てなければ坂本君は戦犯もいいとこだ。
雄二「そうだな…………。ま、折角明久が活躍したんだ。この有利な状況を維持しよう。ムッツリーニ、出番だ!」
康太「…………。(スック)」
坂本君の呼び掛けにムッツリーニ君、もとい土屋君が立ち上がる。
彼こそ、Fクラスの秘密兵器と呼べる存在であり、今回の科目選択権を最も活かせる生徒である。というのも、彼は島田さんや吉井君同様の一教科特化型の生徒であり、しかも、その教科で400点を超えているのだ。その特化ぶりは、総合点数の殆どを占めるほど。彼の得意なフィールドで、勝てる奴などほとんどいないだろう。
もっとも、ここまでは『私達』の想定通り。計画の鬼門であった、吉井君が勝利した以上、『私達』の勝利はもはや揺るぎのない決定事項となった。
・・・
高橋「では、三人目の方どうぞ。」
あれだけの騒ぎがあったにも関わらず、何事もなかったかのように五将戦が行なわれる。Fクラスからは、土屋が選出された。どうやら先の二戦で、Aクラスが大したことない、名ばかりのクラスだと思われているようだ。なら、そのくだらない空想を、粉々に砕くとしよう。
高橋「…………どうしましたか?Aクラス側からも三人目を出してください。」
………………?一体何を言っているんだ、高橋先生は。
零次「高橋先生、こちらはもう既に出ていますよ。………なあ、影山。」
幽也「………………………………うん。」
一瞬にして、教室中がざわめきの声で埋まった。まあ、傍から見たら、今まで誰もいなかった場所にいきなり人が現れたように見えるからな。実際は、ずっとそこで立って待ってたのだけどな。
幽也「……どうも……、影山………幽也で…す……。よろしく………………。」
康太「…………土屋康太だ。」
数秒間の沈黙。これまでが大分騒がしかっただけに、異様な空気になっている。
高橋「……で、では、教科は何にしますか?」
康太「…………保健体育。」
そしてまた、数秒の沈黙。
高橋「それでは、召喚を開始してください。」
「「…………試獣召喚≪サモン≫。」」
そして、互いの召喚獣が召喚される。土屋のは忍者装束を纏った小太刀の二刀流。対する影山のは全身を覆い隠すような黒のロングコートにフードを目深に被り、右手には身の丈と同程度のトライデントを持っている。
康太「…………一気に終わらせる。加速!」
先手を仕掛けたのは土屋だ。彼の召喚獣の腕輪が光り、その姿が一瞬にして消えた。
奴の腕輪の効果は、セリフからしてもおそらく、速度の上昇という単純なものだろう。だがそのスピードはもはや瞬間移動と言ってもいいレベルだ。腕輪の能力なだけあって、あの攻撃を躱すのは難しいだろうな……。
そう、相手が影山でなければ。
康太「…………何!?」
次の瞬間、土屋の召喚獣の左肩をトライデントが掠めていった。その結果、能力が発動中だった土屋の召喚獣はバランスを崩して転倒。詰めていた距離も元々の距離と同じくらいに戻ってしまった。
[フィールド:保健体育]
2-A 影山幽也・・・401点
VS
2-F 土屋康太・・・572点→501点
「「「な、何ぃぃぃぃ!?」」」
そして表示された点数に、両陣営から驚きの声が上がる。いや、正直俺も声を上げるほどではないが驚いている。まさか、ここまで影山の点数が上がるとは。だが、影山の召喚獣が腕輪を装備している様子は見られない。多分、ロングコートの下に隠れてるのだろう。
康太「………………隠してたのか…………実力を。」
そんな中、土屋が影山に尋ねてきた。それにしても『隠してた』と聞くか……。ということは、気づいたのか?………………いや、それは多分無いだろうな。
幽也「…………違う。」
康太「…………何?」
幽也「僕は…………普通………………こんな点数………取れない。……『代表』が………今回……の戦争に……備え……て………………僕に……指示を……出した。」
康太「…………指示、だと。」
幽也「そう。…………もともと点数が一番…………低かった…………数学。吉井明久君…………対策の………日本史。そして………………君対策………の………………保健体育。………………これら……を…中心に……………点数……を………………上げろ……と。」
途中、土屋はしびれを切らしてか、攻撃を仕掛け続けたが、残念ながらすべて、影山に防がれた。
[フィールド:保健体育]
2-A 影山幽也・・・401点
VS
2-F 土屋康太・・・501点→419点
幽也「だから……言葉……通り…………これらだけ……を…………ひ…たす…ら、………………勉強した。………………付け焼き刃な………部分は………多…い………し……、他の…………科目が……おろそ…かに………………なる……か…ら………………ここ……まで…………高い………………点数が取れ…るのは………………これが………………最初で………………多分………………………………最後。」
[フィールド:保健体育]
2-A 影山幽也・・・401点
VS
2-F 土屋康太・・・419点→335点
「何やってんだ、ムッツリーニ!」
「そんな奴、さっさとやっつけろ!」
自分が参加しないからって、随分と言いたい放題だな。点数だけで見ても、相当な実力の持ち主だと分かるはずなのに。
幽也「だから………………この腕輪を………………使うのも………………多分……最初で……最後。」
土屋が攻撃を中断すると同時に、影山の召喚獣は左腕を掲げ、ロングコートの袖をまくった。やっぱり、コートの下に隠れてたのか。
幽也「………………………………隠蔽≪インビジブル≫。」
康太「…………しまった!」
影山のセリフに反応して、腕輪が輝く。そして、その光が消えると同時に……。
[フィールド:保健体育]
?????? UNKNOWN・・・???点
VS
?????? UNKNOWN・・・???点
すべての召喚獣の姿が消えた。
康太「…………い、一体……何が……。」
幽也「それでは、………………さよなら………………。」
[フィールド:保健体育]
2-A 影山幽也・・・101点
VS
2-F 土屋康太・・・戦死
そして、何もわからぬまま、土屋の召喚獣は影山のトライデントに貫かれていた。
~後書きRADIO~
秋希「さあ!後書きRADIOの時間だよ~!!」
零次「今回で第14回だな。」
秋希「今回は第3回戦目ね。それにしても、影山君がここまで点数が上がってるなんてね……。元々がAクラス最下位なんて思えないわね。」
零次「それは俺も思ったさ。今回の戦争において影山の役割は、俺が特記戦力としてカウントしている4人のうち、吉井と土屋を抑えるという、特定生徒への対策札としての役割だ。残り2人の姫路とお前だけは、流石にどうしようもないが、残りは一教科特化型だ。彼らがをなんとかしてしまえば、勝ち星は拾えるわ、科目選択権を無駄にできるわといいことづくめだろう?」
秋希「まあね。ただ、まともな戦力が少ないこっち側からしたら、今回の敗北は結構な痛手だよ。坂本君も土屋君が負けることは全く想像していなかったし……。」
零次「俺が坂本の立場だとしてもそうだろうよ。」
秋希「…………それじゃ、戦争の振り返りはここまでにして、折角だからここで土屋君と影山君の腕輪の能力を公開しようか。」
零次「ようやく、今回の本題に入れたな。それじゃ、まずは土屋の腕輪からだな。」
名称:加速
消費点数:20点(総合科目でも同点数で使用可能)
詳細:
現在自分がいる場所から、召喚者が指定した地点まで一直線に高速で移動する能力。
零次「まあ、原作通りの能力だ。見ての通り、本来は緊急回避用で、自動攻撃等の機能は無い。つまり、あの腕輪を攻撃に使用している土屋と、それを見切れた影山は、よほど動体視力がいいんだろうな。ちなみに、土屋が最初の影山の一撃を躱せたのは、とっさに能力を解除したからだろう。」
秋希「それじゃあ、次は影山君の腕輪ね。」
名称:隠蔽
消費点数:100点(総合科目では1000点消費)
詳細:
フィールド上の全ての『召喚獣の情報(所属クラス・名前・点数)』、『召喚獣の武器』、『召喚獣の姿』のいずれかを見えなくする能力。情報は伏字になり、召喚獣の武器や姿は透明になる。対象は召喚者が指定できる。
秋希「こうして見ると、随分使い勝手が悪そうな能力だね……。」
零次「武器の間合いだとか、点数(体力)管理を怠れないことを考えると、記憶力がいい奴が有利な能力とも言えるがな。情報だけ伏字なのは、召喚獣の位置が完全に分からなくなると勝負にならなくなる可能性があるからだろう。ま、絶えず移動し続けてれば関係ないが。」
秋希「確かに零次の言う通り、記憶力がものを言う能力だとすると、いざという時の何かしらの目印は必要になるものね。」
零次「それと、この効果は後からフィールドに召喚された召喚獣にも適用される。この能力のように『フィールド上の全ての……』で始まる能力は全て『フィールド効果』と呼ばれるもので、後からフィールド効果を持つ能力が発動すると上書きされる特性がある。……ぶっちゃけ、死に設定になりそうだが。」
秋希「……一応零次の腕輪もフィールド効果だけど?」
零次「まず、隠蔽の腕輪と併用する機会無いだろ。俺の腕輪は使用条件が厳しければ、発動条件も厳しいんだぞ。」
秋希「あ~……。それもそっか。」
零次「ま、そういうわけで今回はここまでだ。」
秋希「えっと……この調子でいくと次は4回戦だよね?」
零次「…………さて、どうなるだろうな。」
秋希「何その意味ありげな沈黙は。まあ、いいけど。それじゃ……。」
「「次回もよろしくお願いします!!」」