バカと無情の試召戦争   作:Oclock

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小問16(8) 戦争終了

高橋「5対2でAクラスの勝利です。」

 

 あの悲惨な結果を見て視聴覚室になだれこんだ私達に、高橋教諭はそう締めくくった。

 そこで私が目にしたのは、床に手をついて項垂れている坂本君と、零次に頭を下げている吉井君と霧島さん、それから吉井君の点数の高さに開いた口が塞がらないFクラスの姿だった。まさか、私と零次が思い描いた結末通りになってしまうとはね……。

 

翔子「……雄二、私の勝ち。」

 

雄二「……殺せ。」

 

秋希「へぇ……。覚悟はできてるって訳ね。…………いいわ。ひと思いにやってやるわ。」

 

 坂本君の言葉に私が真っ先に答えた。他のFクラス生が答えると、色々ややこしいことになりそうだからね…。

 それにしても、久しぶりね……。こうやってまた、人を殴ることになるとはね。

 

瑞希「こ、近衛さん、落ち着いてください!」

 

秋希「大丈夫。十分落ち着いてるわよ。」

 

 そうでなかったら、殺せの『こ』の字で右ストレートぶちかましてる。

 

秋希「まあ安心してよ。このしょうもない結果について、坂本君から理由を聞いて、納得いかなかったらぶん殴るだけだから。」

 

美波「納得がいったら?」

 

秋希「こんなアホみたいな負け方した代表に制裁を加える。」

 

秀吉「どっちにしても、殴るんじゃな……。」

 

 逆に殴らない理由でもあるのかしら?

 

秋希「で?この点数は何なのかしら?これが貴方の実力だとでもいうのかしら。」

 

雄二「……ああ。」

 

 瞬間。殴り飛ばしてしまった。机や椅子が巻き込まれて倒れる。…………流石にやり過ぎたと反省している。

 

翔子「……雄二、大丈夫?」

 

雄二「痛ってて……。クソ、近衛め……。予想より思いっきり強くぶん殴りやがって……。」

 

 あ、思ったより大丈夫そう。

 

翔子「……でも、危なかった。雄二が所詮小学校の問題だと油断していなければ負けてた。」

 

雄二「言い訳はしねぇ……。」

 

 くっ。落ち着け、私の右腕。アイツはさっき吹っ飛ばしたばかりだろ。これ以上殴ったら、流石の私でも停学・退学は免れないわよ!

 

翔子「……ところで、約束。」

 

 あ、ここで言うの?まあ、Aクラスの人達もいつの間にかやって来た以上、戻るのも面倒だからね。

 

雄二「わかっている。何でも言え。」

 

 坂本君も腹を括ったようで。それじゃあ、霧島さん、言っちゃって下さい!

 

翔子「……それじゃ……雄二、私と付き合って。」

 

 …………まさか、こうもサラッと、恥ずかし気もなく言えるものだとは。他のFクラスの奴らと違う意味で固まっちゃったよ。

 

雄二「やっぱりな。お前、まだ諦めてなかったのか。」

 

翔子「……私は諦めない。ずっと、雄二のことが好きだから。」

 

雄二「その話は何度も断っただろ?他の男と付き合う気はないのか?」

 

翔子「……私には雄二しかいない。他のひとなんて、興味ない。」

 

 もう諦めなよ、坂本君。彼女が君のことしか見ていないのは明白だ。去年、とある一件で霧島さんから君のことを聞かせてもらったことがあるけど、その時の彼女の熱弁ぶりは、今でも脳内で完璧に再現できる。

 

雄二「拒否権は?」

 

翔子「……ない。約束だから。今からデートに行く。」

 

雄二「ぐぁっ!放せ!やっぱこの約束はなかったことに……。」

 

 

 

零次「待った、霧島。まだ、この試召戦争の戦後対談は終了してないぞ。」

 

 先程までの悪役ぶりから一転して、某TCGを題材にした漫画の主人公を思わせる台詞で、零次は霧島さんの行く手を阻んだ。

 

翔子「……なんて?」

 

零次「そもそも霧島。今何時だと思ってるんだ?下校するには早すぎるし、学校デートをしようにも中途半端な時間帯だ。まさか、早退するつもりか?Aクラス二番手の生徒の行動としては、らしくないな。」

 

 確かに時計を見ると、その時刻は13:20を指していた。これから午後の授業もあるというのに、学校外に出ようとする様子は確かに優等生らしからぬ行為だ。

 

零次「……まあ、そんなことは些細なものだと思うことにしよう。本題はお前だ、坂本雄二。」

 

雄二「俺、だと?」

 

零次「ああ、そうだ。この勝負で勝ったのなら、何も言わなかったのだが、負けたのだから、素直に耳を傾けろ。」

 

 そう言うと、零次の目は先程までとは一転して、暗く冷たいものになった。

 

零次「まず、この勝負内容は、お前がやるべきものでは無かったな。これまでお前達が起こした試召戦争では、皆が皆、召喚獣を使い戦ってきた。今回の戦いでも、皆例外一つなく召喚獣を使ってきたのに、お前はそれから逃げたのだ。ルールを熟知していたとはいえ、これでは腰抜けと言われても、ぐうの音も出ないだろうよ。これが文句の一つ目だ。」

 

雄二「一つ目って……。他にもあるのかよ。」

 

零次「ああ。二つ目に、この勝負内容は、本来なら試験召喚システムでやってはいけないタブーだ。」

 

 零次の発言に皆目を丸くした。そりゃあ、実際適用されてしまっただけあって、何故ダメなのか、誰も理解出来てないからね。

 

零次「そもそも、試験召喚システムは、『生徒の学力向上』を目的に、この学校で試験的に導入されたものだ。こんなこと、わざわざ言わなくとも、少なくともお前なら理解してるだろう?」

 

雄二「……。」

 

零次「沈黙は肯定と捉えるぞ。その上で聞くが、俺達(高校生)が小学生レベルのテストを解いて、学力向上に繋がるか?そもそも、こんな勝負が出来るという事実が罷り通ったら、システムの存在意義が消滅する。こんな簡単なことで、Fクラス(最底辺の集団)Aクラス(最高レベル)の設備を、奪取出来てしまうのだからなぁ。」

 

 『手段』としては簡単だけど、その分交渉などの『過程』のハードルは、エベレスト級に難しいけどね。こんな方法でAクラスに勝とうとするのなんて、後にも先にも私達だけでしょうね。

 ま、仮にその手段で設備を手に入れたところで、一瞬限りの夢物語で終わるだろうけど。

 

零次「そして最後に……坂本、気づいているか?お前が掲げてきた目的と、取ってきた行動が矛盾していることに。」

 

雄二「矛盾……だと?」

 

零次「お前が試召戦争で個人的に掲げてきた目的は、『学力がすべてではないことを証明する』ことだと聞いている。なのに何故お前は、学力(テストの点数)で勝負をした?」

 

 坂本君はそっぽを向いたまま、何も答える気配はない。

 

零次「それだけではない。Dクラス戦も、Bクラス戦も、各代表(平賀や根本)にとどめを刺したのは、Aクラスに匹敵する点数を所持した生徒だった。それを見て、お前が伝えたかったメッセージが伝わると思うか?それとも『Fクラスが上位クラスに勝利した事実があればいい』とでも言う気か?いくら命題や過程で素晴らしいことを述べようと、結論がそれに伴わなかったり、命題と矛盾していたりするようでは、証明の意味がないだろう。」

 

 坂本君は依然として、黙ったままだ。

 

零次「……さて、坂本。お前からも一つ聞かせて貰おうか。」

 

雄二「…………なんだ。」

 

 随分と不機嫌な態度で、ようやく重い口を開いた。

 

零次「今回の戦いと、それより前のCクラス戦を通して、正直言って俺達が敗北するビジョンは現状見えないと言っても過言でない。ここまで言うと傲慢が過ぎると思われるかもしれんが、仮に俺の腕輪が使えなかろうと、その自信は揺るぎない。」

 

 いやぁ、実際零次が負けることは無いでしょう。そもそも、零次にとっては腕輪の方がおまけだ。その能力は強力だけど、それ故に零次はその能力を嫌っている。

 

雄二「随分な自信だな。まあ、あんな戦いを見せられりゃ、流石に俺も心が折れそうだ。」

 

零次「なら、Aクラスのことは諦めるか?相手が悪すぎることは、かつて直接戦ったこともあるお前なら、分かっていることだろう。来年、霧島がもう一度主席に返り咲くことを願う方が賢明だろうよ。」

 

 確かに、零次が代表である以上、私達がAクラスの設備を手に入れるためには、零次を倒すことが絶対条件だ。圧倒的な点数と操作技術を持ち、あんな反則級の腕輪も持っていては、勝負から逃げても誰も文句は言わないだろう。

 

雄二「……ハッ、何を言うかと思えば……。諦めるわけないだろ。」

 

 だけど、それで諦めるほど、坂本君も弱い男ではない。

 

雄二「大体、お前があんな点数取れることを考えたら、翔子が代表になることに賭けるなんて、消極的な考えだろ。それに、今回で俺はお前に二度も負けているんだ。このままお前にやられっぱなしでいられるか!」

 

零次「……そうか。そう言ってくれて、俺は嬉しいよ。喧嘩も試召戦争も、お前が相手の時が最も退屈しないからな。…………だから、お前達に強力な助っ人をプレゼントしよう。もっとも、お前達(Fクラス)にとっては、最大級のペナルティだと思うがな。」

 

西村「双眼。人のことをペナルティ扱いするな、まったく…………。それはさておき、Fクラスの皆。お遊びの時間は終わりだ。」

 

 零次が視聴覚室の扉の方へ目を向けると、そこには腕を組んで仁王立ちしている西村教諭の姿があった。

 

明久「あれ?西村先生。僕らに何か用ですか?」

 

雄二「双眼、まさか…………強力な助っ人って、鉄人のことか?」

 

 あの登場の仕方で、他に誰がいるというのだ。

 

零次「教師のことを堂々と渾名で呼ぶ、その態度は気に食わんが……、そういうことだ。」

 

西村「ああ。既に知っている者もいると思うが、今から我がFクラスに、補習についての説明をしようと思ってな。」

 

 『我がFクラス』。その言葉に皆首をかしげる。

 

西村「おめでとう。お前らが戦争に負けたおかげで、福原先生から俺に担任が変わるそうだ。これから一年、死に物狂いで勉強できるぞ。」

 

「「「なにぃっ!?」」」

 

 クラスの男子生徒全員が悲鳴をあげる。

 無理もない。西村先生と言えば、教師間でも『教育の鬼』なんて言われるほど、厳しい教育をする先生だ。その異名もあってか、試召戦争では補習室の管理を最も任されている先生でもあるし。私も興味本位で、西村先生のマンツーマン指導を1週間ほど受けてみたけど、アレは地獄だった。

 西村教諭の名誉のために少しだけ明言するけど、決して問題が解けなかったり、間違ったりしただけで怒鳴り散らすようなことは無かったよ?ただ、授業態度が悪いと怒られる。それが他の教師の何十倍も怖いだけだ。だから、常に気を張ってないといけない訳で、それがものすごく疲れる。ちょっとでも緩めれば、ドスのきいた声が教室中に鳴り響く。その時の恐怖を比較するなら、今日の零次の十数倍は怖い。(ただし、感じ方には個人差があります。)

 そんなわけで、勉強にはそこそこの意欲を持つ私ですら、体が震えるような教師が担任になるなんて、勉強嫌いな奴がほとんどであるFクラスにとっては、もはや地獄そのものじゃないかな?

 

西村「いいか。確かにお前らはよく頑張った。FクラスがAクラスに挑むことなど今まで一度もなかった。そういう意味では、お前達は快挙を成し遂げたと言ってもいい。でもな、いくら『学力が全てではない』と言っても、人生を渡っていく上では強力な武器の一つなんだ。全てではないからと言って、蔑ろにしていいものじゃない。」

 

零次「その通りだ。大体、仮に俺達に勝ったところで、その後お前達はどういう学園生活を送るつもりだったんだ?俺にはAクラスの設備を手にいれたことに満足し、余計に堕落する姿が目に見えている。それを、黙って見て見ぬふりをしてくれるほど、先生方は寛大ではないぞ。そうなれば、どのみち西村先生が担任になることに変わりないだろうよ。」

 

 普段なら、零次が口を開けばギャーギャーと喚き立てるような場面だけど、担任変更の衝撃と、西村教諭の存在のおかげで、そんな気も失せているようだ。

 

西村「吉井、坂本。お前達は特に念入りに監視してやる。なにせ、開校以来初の『観察処分者』とA級戦犯だからな。」

 

明久「そうはいきませんよ!なんとしても監視の目をかいくぐって、今まで通りの楽しい学園生活を過ごしてみせます!」

 

雄二「明久に同じだ!アンタに怯えて、つまらない学園生活を送るだなんて、死んでも嫌だね!」

 

西村「……お前達には悔い改めるという発想はないのか。特に吉井は、ここ最近点数が伸びてきてるというのに……。」

 

 溜息まじりに西村教諭はそう呟く。けど安心してください。いくら坂本君が策を弄して、西村教諭の目から逃れようと、私や零次の目からは逃れられませんから。

 

西村「とりあえず明日から授業とは別に補習の時間を二時間設けてやろう。」

 

零次「それと、今回の戦争のペナルティとして、Fクラスの設備のランクダウンと、三か月間の宣戦布告禁止を言い渡す。坂本、異論はないな。」

 

雄二「ああ……。というか、それこそ拒否権が無いだろ。」

 

零次「ま、今まで第二学年のほぼ全てのクラスに、直接・間接関係なしに迷惑をかけてきたんだ。それを考えたら、ランクダウンも宣戦布告禁止期間も、倍にしたところで文句は言えないけどな。」

 

 でも残念ながら、試召戦争で敗者に与えられるペナルティについては、設備のランクダウンについても、宣戦布告禁止期間についても、ルールでキチンと決められている。

 宣戦布告禁止期間は、立ち合いの教師の許可が下りれば、最低でも一ヶ月間まで短縮可能だし、設備のランクダウンを破棄すれば、最大半年まで延長可能だったりする。

 設備のランクダウンも同様に、その戦争で勝ったクラス以外への宣戦布告禁止期間を無くすかわりに、設備を2ランクダウンさせることができたりする。

 また、両方のペナルティを無効にして、両クラス間同意のもと、別の要求を敗者にのませることで、それをペナルティ扱いにすることも可能だ。今まで坂本君がやってきた『和平交渉』はこういうルールのもとに成立しているのだ。

 まさか、ルールの穴を突いてきた坂本君が、ルールに守られるとはね……。

 

 なんにせよ、これでFクラスの長いようで短い戦いは、Fクラスの敗北で幕を閉じた。でも、これは私達が戦いの場から退いたわけではない。私達が火種を燃やさなくても、きっと周りが火をつけて、私達のもとへ持って来るのだろう。そんな予感がする。

 

 それでもとりあえず、今は何気ない日常に戻るとしましょうか。




~後書きRADIO~
秋希「さあ、皆!後書きRADIOの時間だよ~!」

零次「これで第18回……。長かった小問16も、これにて終わりだ。」

秋希「今回は、戦後対談の回だね。原作と大きく違うところは、本文を見ての通り、この後も学校で授業を続けることになってるところだよね……。どうしてこうなったの?」

零次「理由は二つだ。一つは、原作を読み返してみて、たった五回(この作品では七回)の戦闘だけで、下校時間まで時間を潰すのは無理があったからだ。」

秋希「そうなの?そこはフィクションなんだから、いくらでもやりようがあると思うんだけど。」

零次「原作は四戦目まで、描写だけ見たら十秒足らずで終わった感じだろ。最も時間が掛かっていそうなのは、高橋先生のテスト作成時間だろうけど、あのハイスペック教師が、小学生レベルの問題の作成に手間取るとは思えないんだよな。他の先生と協力して作ったのなら尚更、な。」

秋希「四戦目までは、戦闘前に各々掛け合いもあったけど……。それでも下校時間まで引っ張るのは無理か。」

零次「で、もう一つの理由は、次回の話に繋げるためだ。次回は、Fクラスの長いようで短い戦いを終えた後の、Aクラス及びFクラスの話になる予定だ。特に、Fクラスには教室でやることがあるからな。」

秋希「やることって……もしかして『アレ』?」

零次「そう。『アレ』だ。」

秋希「…………じゃあ、今回はここまでかしら?」

零次「そうだな。」

秋希「それでは…。」

「「次回もよろしくお願いします!!」」
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