バカと無情の試召戦争   作:Oclock

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小問17ーA トイカケ

 Fクラスとの試召戦争の末、奴等の野望をくい止めた日の午後。今まで試召戦争で潰れてしまった時間を取り戻すかの如く、急ピッチで授業が進められた。

 

 文月学園では、第二学年以降はクラスによって授業の進み具合も変わってくる。近衛が先輩から手にいれた情報では、2-Aが四月中に終わらせる授業の内容は、2-B・C・Dが五月上旬に、2-E・Fが五月までに終える内容らしい。当然クラスが違えば、同じ授業の進み具合でも、内容が変わってくるが……。

 

 そしてこれは、試召戦争にも関わってくる。俺たちに渡された試召戦争のルールには明記されてないから、知ってる奴など、ほぼ皆無だがな。

 試召戦争で下位クラスが上位クラスに勝利した場合、上位クラスと設備を交換できる。上位クラスの設備とサービスが優遇されるのは、それ相応の努力の賜物だ。それを下位クラスが奪い取るということは、この授業進度・授業難度がクラスごとに違う状況下で、その差を埋めたということだ。

 となれば、それ以前の授業の進めかたと内容は、もう十分であるとも解釈できる。例えば、仮にDクラスがBクラスに勝利した場合、前者は後者より優れていると(極端であるが)言える訳だ。それなのに、授業の進み具合が変わらないというのは、『Bクラス相応の学力を身につけたDクラス』に対して失礼ではないだろうか。

 ……何が言いたいか簡潔に言おう。試召戦争で下位クラスが上位クラスに勝利した場合、変わるのは設備だけではない。『授業の難易度も、その設備相応のものに変わる』のだ。

 つまり、あの場面で仮に俺達がFクラスに敗北した場合、Fクラスは最高の設備を手にいれる代わりに、授業の難易度が急激に上昇する訳だ。それだけじゃない。Aクラスに代わって学年の顔となった奴等には、少しの気の緩みも許されない。欠伸一つに目くじらたてられ、居眠りなんてものはご法度。授業態度が悪ければ、学校の評判にまで傷がつく。AとFでは、そういう意味での『授業の厳しさ』も天と地以上の差があるのだ。

 ちなみにだが、上位クラスの場合は負けたからって、下位クラスの授業進度に下がるわけではない。クラス全体がそれを望むなら別だが。

 

 そんなこんなで、午後の授業が終了した。

 終業のチャイムが鳴るのとほぼ同時で、霧島はもはや人間とは思えないほどの速度で教室を飛び出していった。……誰か怪我でもさせなきゃいいんだが……。

 そして俺は、途中近衛からとある依頼を受けつつ、新校舎の屋上へと向かっていた。というのも6時限目開始直前に久保から、『とある人物』が放課後にそこに来て欲しいという、伝言を貰っていたのだ。

 誰からの伝言なのか、久保に聞いたが、それについては教えてくれなかった。曰くソイツは、正体が判明したら、俺が話に応じてくれないと思ったらしく、堅く口止めをされたのだとか。

 別にそんなことはしないのだが……。ただ、向こうがわざわざそう言って、久保を通して間接的に接触しようとしているのだから、俺も深くは尋ねまいと、久保からの伝言をそのまま預かることにした。

 屋上へ出る重たい扉を開けると、そこにその生徒は凛とした姿で立っていた。

 

零次「……なるほど。お前か、俺を呼んだのは……。」

 

 西京葉玖。過激派と呼んでるメンバーの良心とも言える存在。彼女こそが俺を屋上に呼んだ人物だ。

 

「…………正直に言います。本当に来てくれるとは思いませんでした。」

 

零次「何を言う。こうやって話がしたいから、久保を利用したんだろう?俺に直接話に行けば、豊嶋あたりがあることないこと、いちゃもんつけに来ると思ったんだろう?」

 

「……否定はしません。あの人達とは、あなたのことが嫌いということだけで意気投合しただけであって、個人単位で見たら、あなたのこと以上に気に食わない人達ですから。」

 

 俺の問いかけに西京は素直に答えた。元々、彼女は噓をつくことが苦手だと聞いている。否、苦手と言うよりは嫌悪か。西京はそれだけ堅物なのだ。

 

零次「…………それで?一体何のようだ?」

 

 視線は彼女に向けつつも、警戒は決して解かない。豊嶋も横沢も帰宅部だ。他の生徒が部活中でも、自由に活動できる時間が奴らにある。俺が西京との会話に夢中になってる間に背後から……なんてこともあり得る。

 もしかしたら、この呼び出し自体が、俺をおびき出す彼女の罠という可能性も…………。

 

「今まで…………まず、その…………今まで、すみませんでした!」

 

 ………………………………………………………………は?

 

「私……ずっと考えていました。あなたが本当に先生方を脅して代表になったのか……。結局のところ、証拠なんて無いわけですし、先生方が嘘を吐くとも思えません。」

 

 …………もう少し聞いてやろうか。

 

「そして今日…………おそらく、高橋先生と西村先生が気を利かせてくれたのでしょう……、モニター越しに貴方の戦い、点数を見て確信しました。あなたは脅迫なんてしてなかった。あんな点数が取れるのなら、そんなこと必要ないですから。……いや、寧ろ………………。」

 

 そこまで言って、急に黙りこんだ。なんだ?何を言いたかった?

 

「……いえ、流石にそれはないでしょう(ボソッ)。……とにかく、私はあなたのことを色々誤解していたのです。……本当にすみません……。」

 

 そう言って、西京は頭を下げた。

 ……そうかそうか…………。ハァ…………。

 

零次「西京…………お前、ふざけてるだろ。」

 

「え…………。な、何故ですか!?何でそんなこと……!」

 

 どうやら、分かってないようだな。西京の行動が俺にどううつっているかなんてことは……。もっとも、俺が捻くれてるってだけかもしれんが。

 

零次「なぜか、だと?お前、自分で理由になりうる要素を言っていただろ。証拠も無いのに、人のことを疑った。それだけで十分、信用出来ない奴だと思わないか?」

 

「そ、それは……。」

 

零次「それだけじゃない。『先生が嘘を吐くと思わない』だと?先生だって人間だ。ミスをすることもあれば、嘘を吐くことだってある。お前の口調からはまるで、『教師は善人であり、悪人は存在しない』かのように聞こえるのだが……?」

 

 実際のところ、俺は文月学園のほとんどの先生を信用していない。去年だけで、俺に関わる出来事がいくらあると思う?そのすべてが、他生徒及び教師間の伝達ミスや情報改ざん。少しでも俺が関われば犯人扱い。俺の話は信用されず、まさに正直者が馬鹿を見る……、そんな学校生活だった。正直、何事もなく進級できると思ってなかった。

 

零次「そもそも、その謝罪に何の意味がある?そうやって、『自分は反省しています』とアピールしたところで、俺には多数派の意見に混ざりたいだけにしか見えないのだが?そうやって、手のひら返して俺に取り入ろうとする奴が、俺はこの世で二番目に嫌いなものだ。」

 

 そこまで言うと、西京は俯いて黙り込んだ。

 そもそも俺は、Aクラスはもちろんαクラスのメンバーも完全に信頼していない。そういう絶対的な信頼を寄せると視野が狭まることは、去年までで死ぬほど学ばされた。

 

零次「で、それだけか?だとしたら、もう話は終わりだ。お前に望むものなど何もない。仮に何か望むとするなら、二度と俺達に関わるな。……それだけだ。」

 

 そう言って俺は踵を返し屋上を後に……。

 

「待ってください。まだ話は終わってないです。寧ろ、ここからが本題ですから。」

 

 ……できなかった。まあいい。もう少しくらい話を聞いてもいいだろう。

 

零次「そうか……。分かった、聞こうか。ただし、さっきの謝罪以上に下らないものだったら…………、覚悟しておけよ?」

 

「……女子に手をあげるのは、どうかと思いますよ?」

 

 やかましい。あんな上っ面ばかりの反省を見せられては、期待のしようもないだろう。それに、なんか勘違いしているようだが、俺だって女子を殴ったことはない。…………アイツを除いてだが。

 

「まあ、いいでしょう……。あなたに聞きたいのは吉井くんのことです。」

 

零次「明久?なんだ、アイツに気があるわけでも無いだろう。」

 

「……少なくとも、私に勝ったのですから、意識はしてますね。……付き合いたいかどうかは別として。」

 

 意外だ。俺としては、近衛のようなからかい方をしただけだったのだがな。

 

 話が逸れるが、明久の恋愛事情に関して、俺が知っているのは三つ。

 明久に好意を持っている奴が『三人』いること。

 そのうち一人と結ばれる運命にあること。

 そして…………、ソイツと恋人の関係でいられる期間が一週間どころか三日も持たないことだ。

 最後に関しては、別に明久が悪いわけでも、相手が悪いわけでもないけどな。……詳しい事情は伏せておくが。これらのどれもが、近衛から聞かされたことだ。

 

「私が聞きたいのは、彼の点数です。彼の努力も元々の点数も知りませんが、それでもFクラス相当の点数からCクラス下位レベルにまで上がるのは異常です。……そう思いません?」

 

零次「思わないな。元からそれだけの実力を持ってたとは考えないのか?」

 

「……今だから言いますけど、私、去年部活から帰る時に、日本史の山口先生が彼のテスト用紙を見て、一人大声で笑っていた所を見たことがあるんです。あの様子からして、吉井くんが去年からあの点数を取れたとは思いません。」

 

零次「山口先生か……。」

 

 またその名前を聞くことになるとは。しかも、西京が言うには、生徒が間違う度に、大なり小なり吹き出し笑いをしながら、問題の解説をするという、言うなれば、他人の失敗を笑い者にする先生だったそうだ。

 あの人、よく去年までこの学園で教鞭とれてたな。ここって一応試験校なんだろ?というか、あんな指導を許していた学園側もどうかと思うが。

 

零次「なるほど、な。だったら…………、アイツが実力を隠していた、という考えはどう反論する?普段のバカな言動そのものが、本来の実力を隠すための演技だとしたら?」

 

「……それは…………反論…………出来ませんね。そこまで考え出したら、キリがないですよ。」

 

 それもそうだ。

 

零次「で?結局何が言いたい?明久の点数は、アイツの努力の結晶だ。お前だって、そう言ったろ?」

 

「彼一人の努力の結果だと思えない。そう言いたいのです。かといって、いつも仲良くしている三人が力を貸したとも思えません。」

 

零次「坂本なら、明久一人に付きっきりで勉強を教えるのは不可能ではないと思うがな……。だが、それだと話の筋道が絶たれたのではないか?明久一人の努力じゃ不可能、友達は力不足。ついでに言えば、お前はカンニングしたとは思ってないし、先生に聞きに行ったとも思ってないんだろ?」

 

 西京が小さく頷いた。肯定……ということか。

 

零次「なら、どうやって明久が点数を上げたというのだ?まさか、試験召喚システムに干渉した、なんて言い出すのか?」

 

「それこそ、とんでもない不正行為じゃないですか!そうじゃないです。他に交友があって、かつ学力も十分ある生徒が力を貸したってことです。」

 

零次「馬鹿馬鹿しい。そんなお人好しがこの学園にいるとでも?」

 

「……いますよ。去年、観察処分者となった吉井くんの仕事を手伝っていた生徒が……。貴方のことを言っているんですよ、双眼零次。」

 

 …………ほう。

 

零次「意外と、人のことを見てるんだな、お前。」

 

「失礼ですね。学校で目立つ人のことなんて、自然と耳に入ってきますよ。……貴方達の場合、ほとんど悪口ですけど。」

 

零次「そうかそうか。ま、お前の言う通り、明久に勉強を教えていたのは俺だ。正確には他にもAクラスの生徒が数名関わってるが。」

 

「一体、どういうつもりですか?他のクラスに手を貸して……。自分を認めないAクラスの皆への腹いせですか?」

 

零次「腹いせ?そんなことをすることに何の意味がある?ただ明久の友達として、俺にできることをやった。ただそれだけのことだ。」

 

「それだけのことって……!今回は無勝てたからよかったものの、貴方のその軽率な行動のせいで、もし私達が負けでもしたら、どう責任を取るつもりなんですか!」

 

零次「……随分とおかしなことを聞くな。お前のそれは、まるであの時点で、Aクラスが敗北する未来を想像していたように聞こえるぞ?」

 

「…………ええ、覚悟しましたよ。私が負けを認めたあの瞬間に。」

 

 ……………………なん…………だと…………。

 

「意外ですか?最初に豊嶋くんが近衛さんに負けて、私も吉井くんに敗北した。保健体育が得意な土屋くんと、去年学年三席を久保くんと争っていた姫路さん。この二人が控えている状態で、二敗した時点で、そう考えてもおかしくないでしょう。」

 

 そうかそうか……なるほどな……。

 

零次「…………意外だな。俺でさえ『自らの陣営』の勝利を疑わなかったというのに。」

 

「それこそ意外な反応ですね。貴方でも慢心することがあるとは。」

 

零次「慢心?ある意味そうかもな。俺が敗北を想定していないのは、絶対的な事実と自信から来るものだからだ。相手のことを相手以上に理解し、自分のことを誰よりも正確に把握すれば、負けることはないさ。」

 

 確かにFクラスには、思わぬ伏兵が潜んでいた。『最弱クラス』のレッテルの影に姫路が。その後ろには土屋が。『観察処分者』の蔑称を背負った明久も、その名を覆す程の実力を今回の試召戦争で見せつけた。そして、そんな彼らを纏めるのは、かつて『神童』とも呼ばれていた坂本だ。奴がいつ、その全盛期の実力を取り戻してもおかしくはない。

 だが、そんな伏兵にも弱点はある。土屋や明久の場合は得意科目以外の点数が軒並み低いこと、姫路や坂本は不測の事態に弱い、といった感じだ。敵の脆い部分を把握し、それに合わせた対処を適切に行なえば、最悪勝てなくとも、醜態を晒すことはない。

 もっとも、そんな対策をせずとも、俺にはあの強力かつ理不尽極まりない腕輪がある。あれを攻略する者が現れぬ限り、誰一人として俺に勝つことはない。

 

零次「だから、そんな敗北した後のことなんて、考えにない。これが正直な答えだ。だから聞きたいのだが、仮にAクラスが負けてたら、お前は俺に何を望む?」

 

「そうですね……。今までの私だったら、『退学しろ』……とでも言っていたでしょうね。豊嶋くんは、今でもそう思ってるでしょうが。」

 

零次「…………一生徒が退学することを、不祥事起こした人間が勤め先を辞職することと同義と考えてないか?そんな理由で、学校側が退学届を受理する訳ないだろ……。」

 

 そもそも俺には、どんなことがあろうと文月学園(ここ)を退学できない理由があるんだよ。そしてそれは、文月学園に関わる全ての人間の平穏のためでもある。

 

零次「…………ま、なんであれ、俺は試召戦争で負けるつもりはない。これから先も、だ。」

 

「………………そうですか。では、最後に一つだけ。根拠も何もない事ですけど……。」

 

 その後西京の放った言葉は、俺が西京の認識を約180度変えるには十分なものだった。だが……。

 

零次「その『真実』に辿り着くのに、時間がかかり過ぎたな……。お前の推測は正しい。が、残念ながら、その点で『不合格』だ。」

 

「そうですか……。」

 

零次「まあ、最初の詫びの時に、それを理由に謝らなかっただけ、良かったと思ってやる。だから、もしお前が今までのことを負い目に感じているなら、これまで通り自分が正しいと信じた道を進め。今のお前なら、きっと新しい道を拓けるはずだ。」

 

 そう言って、今度こそ屋上を後にした。どうやら西京はまだ、屋上に留まるらしい。

 

 さて……。それじゃ、近衛から頼まれた依頼をこなしますか。

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