Aクラスとの試召戦争の末、新たな学年首席の実力を見せつけられた日の午後。今まで試召戦争で潰れてしまった分を取り戻すかの如く、授業が進められる……。そう思っていたけれど、私達は今、本来なら生徒がやることのない、『とある作業』をFクラス全員で行なっている。
そう、『設備交換』だ。正確には、『設備のランクダウン』と言うべきだろうか。
下位クラスが上位クラスに敗北した際、下位クラスの設備のランクが落とされる。
実際の例で言えば、CクラスがAクラスと勝負して、Cクラスは敗北した。その結果、現在のCクラスの設備は、Dクラスと同じものになっている……はず。
本来ならこの仕事は、用務員や手の空いている教師が召喚獣を使って、生徒が部活に励んでいる間や休日に終わらせるものなのだが、それを今私達がやっている、ということだ。今まで第二学年のほぼ全てのクラスに、直接的及び間接的に迷惑を掛けまくってたからね……。これでも罰としては軽い方だろう。
雄二「ふう…………。これで卓袱台は全部か?」
秋希「うんうん。後は、畳が6枚ほど。そっちは吉井君達を待とう。」
卓袱台を、あらかじめ教師に指示された場所に置いて、坂本君が大きく息を吐く。
西村先生は今頃、設備移動をサボったor
そうして残ったメンバーで姫路さん達女子&秀吉君は、Fクラス教室で
…………故に今、この倉庫にいるのは私と坂本君の二人のみ。
秋希「……さて坂本君。今私たち……、二人きりだね……。」
雄二「…………なんだ?反省会でもするのか?」
…………冷静に返された、チクショウ。
秋希「うん、そうなんだけどさぁ…………。少しはノってくれてもいいんじゃない?」
雄二「勘弁してくれ。命令で無理矢理とはいえ、翔子と付き合うことになったんだ。その直後に他の女に手を出すほど、俺はクズじゃねぇよ。それに、こっちだって一つ二つお前に言いたいことがあるしな。」
何かな?まあ、だいたい予想はつくけど。
雄二「……まずは、すまねえ……。お前との約束を守れなくて……。」
約束?……………………ああ、アレか。Dクラスとの戦争後に話した約束か。
あの時私は、打倒Aクラスを掲げる坂本君に一つ約束を取り付けたんだった。それは、『零次達に勝利して、坂本君達の絆の力を見せて欲しい』というものだ。
零次は孤独だ。誰も信用しない。誰からも信頼されない。歩み寄ろうとしなければ、惹き付けることもしない。彼が信じるのは自分のみ。
そうなった原因の一端は私にある。だから、償いのために、零次と同じステージに立てる人間を作るためにαクラスを立ち上げた。バカばっかりやってるけど、楽しそうな吉井君達に目をつけた。零次が人を信用できるようになるために。
秋希「…………別に?気にしてないわよ。そもそも、期限なんて設けてなかったしね。三ヶ月後、Aクラスにリベンジするときに達成してくれたらいいよ。」
そう言うと、坂本君は渋々だけども、納得してくれた。
秋希「それで?他には何かあるかしら?」
雄二「ああ。もう一つは、双眼の腕輪の能力についてだ。お前は双眼と仲が良いし、何か知ってそうだからな。」
秋希「別にアイツと仲良くはないって……。百歩譲って仲良いとしても、だからって腕輪の能力を知ってるかは別じゃない?坂本君だって、吉井君達がどんな腕輪を持ってるか把握してないでしょ。」
雄二「俺の場合は別にいいだろ。ムッツリーニ以外はどうせ、腕輪なんて使えないんだから。」
それもそうか。そもそもAクラスでさえ、腕輪を使える生徒は上位の数名程度なんだ。それ以前に、試召戦争そのものが頻繁に起こるものではない。わざわざ頻度が少ないうえに、使う人も少ない要素なんて、無駄な警戒もいいところだ。精々初見殺しにひっかかるリスクをなくせるくらいだ。
そう考えたら、他人の腕輪能力を把握している私の方が異常なんだけどね。
雄二「…………話を戻すぞ。姫路との戦いを見た限り、アイツの腕輪の能力は二つだ。一つは他の召喚獣への『強制ダメージ』、もう一つは『腕輪能力の封印』だ。」
……流石だ。あの一戦だけで、ほぼほぼ正解を言い当てるなんて。
雄二「ま、それでも疑問は尽きないがな。なんでアイツの腕輪だけ能力が二つもあるのかが謎だし、そんなチート染みた能力を今まで存在すら知らなかった理由も分からん。そもそも双眼以外、誰も使った奴がいないのが一番不可解なことだ。何か莫大なデメリットがあるんならまだしも、アイツの様子を見る限り、そんなのがあるようにも見えない。……言いたいことは大体言ったぞ。答えを聞かせて貰おうか!」
……さて、どうしようか。坂本君の推測は、かなり惜しい。零次から聞いた、霧島さんの推測と比べたら、かなり正解に近い。
正直、このまま全部坂本君に教えてやりたいくらいだ。寧ろ坂本君だけでなくFクラスの連中全員に零次の腕輪能力の恐ろしさを、流布してもいいかも知れない。
でも、これの実行には、リスクがデカすぎる。その能力はあまりにもチートが過ぎる故に、学園で暴動が起こる姿が容易に想像できる。それは、自殺行為というより、自爆テロのレベルだ。
零次の腕輪も、学園長が能力の詳細を吟味し、調整を行なったうえで組み込んだ、言うなれば『学園公認』の腕輪だ。けど、それがなんだ。そんなこと、生徒には知ったことではないのだ。
こうして学園で何かしらの騒動が起これば、それだけで学園の存続は一気に危うくなる。その場合、坂本君達は転校すればいいけど、私には
その居場所を『今』、自分の手で潰す訳にはいかない。だから、坂本君にも零次のことはあまり話せない。
秋希「う~ん……惜しいっちゃ、惜しいかな?能力に関しては、合ってるっちゃ合ってる。でも腕輪一個につき能力は一つだけ。能力を二つ持つ腕輪は存在しないわ。」
雄二「…………本当か?だとしても、姫路の点数が一気に減ったのも、腕輪が使えなかったのも事実だろ。まさか、アイツだけ腕輪を二つ持ってる、なんて言わないよな?」
秋希「……ま、まあ、そう思うのも無理ないわね。前者はともかく、後者の腕輪封印は、実際あるし。……何にせよ、零次の腕輪は、皆と同じで一つだけよ。」
……待って…………今の坂本君、結構頭が冴えてない?なんで試召戦争の時は、ここぞという時にポカをするクセに、こういう時に限って、『真実』に近い答えを弾き出すの!?脳ミソの使いどころを間違えてない!?
雄二「……なんか変なこと考えてなかったか?」
秋希「イイエー、ベッツニー?」
雄二「そうか……?まあ、なんだっていいや。となると、この二つ能力のうちどちらかが双眼の腕輪ってことか?……まあ、能力が一つだというなら、『強制ダメージ』が双眼の能力だろうな。ダメージを負って腕輪が使えなくなったのか、封印のおまけでダメージをくらったのか……。そのどちらかなら、『ダメージ』がメインの能力だと考えた方が自然だろうよ。」
……これは喋ってもいいかな。
秋希「はあ……。概ね正解よ。というか、姫路さんに起こった現象は、君の言ったことそのままよ。零次の強力な腕輪能力の影響で、姫路さんの召喚獣が大ダメージを負うだけでなく、腕輪まで破壊された。そんな感じね。」
雄二「なるほどな。しっかし、改めて聞いてみると、クソチート能力だな。姫路の点数の減り幅を見るに、総合科目でほぼ4000点削るんだろ?そのうえ腕輪が使用不可って……。逆転の目を完全に潰しに来てるじゃないか。」
秋希「まあ……それがコンセプトの腕輪だからね。腕輪を持たない召喚獣は零次と同じステージに立つことを許されない。腕輪を持つ者も、その力のほとんどを零次の腕輪によって削り取られ、十分な力を発揮できぬまま倒される……。それが零次が持つ腕輪。その能力の名は…………『王者』。その名の通り、学年首席にのみ託される腕輪よ。」
この能力を使えば、敵がほとんど消滅する。しかし、この能力は味方にも作用する。さっきも言ったように、Aクラスでも、腕輪が使える生徒は上位数名くらいだ。総合科目となればさらに少なくなって、片手で数えられる程度まで減る。
強大な力を見せつけることができる代償に、味方も減っていく。「誰からの助けも得られず、孤独の中戦う。それはまさに零次の現状を体現したような腕輪……。」
雄二「……ほう。確かに双眼の現状を考えたら、学園側の誰かがそんな腕輪を作ってもおかしくはないか……。」
…………ハ?
雄二「お前、途中から声に出てたぞ。おそらく開発者は、零次が翔子と同等の学力を持っていることを知ってる奴だろうな。『死神』の通り名のせいで、双眼が多くの生徒・教師から虐げられていることを知って、この腕輪を作り、双眼に復讐話を持ち掛けたんだろう。双眼はその話に乗っかり、今年の振り分け試験で学年首席となった。『死神』の名に踊らされ、アイツと距離をとって、比較的安全な場所から叩きまくっていた俺達の腐った性根が、今の状況を作り出したってことだろうな……。」
ヤ、ヤバイ……。本当に坂本君が『真実』にたどり着きつつある……。今ここでバレるのはちょっと……いや、かなり都合が悪い、悪すぎる…………。どうにか、誤魔化せないか…………?
ガララ……。
明久「ふ、二人ともお待たせ~……。」
秋希「お、おー、お疲れー。」
吉井君達が残りの畳を持って来た。ちょうどいいタイミングで来てくれたわね……。
明久「ところで、二人はさっきまで何してたの?」
秋希「フフフ……。人にはちょっと言えないこと、かな?」
そう言って、私はさっさと倉庫を出ていった。
その数秒後に坂本君の悲鳴が聞こえてきたことと、西村先生が倉庫にいた全員を補習室に連行していったことは言うまでもない。