バカと無情の試召戦争   作:Oclock

40 / 62
エピローグという名の解答欄

零次「それでは、我々の勝利を祝して……。」

 

「「「乾杯!!!」」」

 

 文月市某所のとある食べ放題の店。そこで俺達αクラスは祝勝会を行なっている。

 放課後に近衛からいきなり『祝勝会をするから適当に店探しておいて』なんて言われた時は、正直困った。そういうことは思いつきで突発的に言わないで欲しい。

 一応アテはあったんで、予約の電話をいれ、無事OKを貰ったところで俺の仕事は終わりだ。あとは近衛を経由して、αクラス全員に連絡するだけだ。

 

 ちなみに明久は欠席だ。近衛の話からするに、多分今頃姫路&島田とデート(っぽい何かを)してるんだろう。

 

零次「……さて、諸君。我々αクラスは、本日行なわれた試召戦争において完全なる勝利を手に入れた。」

 

 対外的にはAクラス5勝、Fクラス2勝でAクラスの勝利となっている。だが、選出メンバーを細分化した場合、次の通りとなる。

 

先鋒戦:近衛秋希(α) ◯ー● 豊嶋圭吾(A)

 

次鋒戦:吉井明久(α) ◯ー● 西京葉玖(A)

 

五将戦:土屋康太(F) ●ー◯ 影山幽也(α)

 

中堅戦:島田美波(F) ●ー◯ 工藤愛子(α)

 

三将戦:根民円 (F) ●ー◯ 佐藤美穂(α)

 

副将戦:姫路瑞希(F) ●ー◯ 双眼零次(α)

 

大将戦:坂本雄二(F) ●ー◯ 霧島翔子(A)

 

 この通りαクラスが6勝と、実質俺達の勝利。さらに大将戦でも、そのついでで俺や明久含め7名が同じテストを受けたが、それらを加えると、トップは俺だ。折角、霧島には100点を取るための秘策を授けたというのに……。

 

利光「僕は何もしなかったけどね……。」

 

ねるの「わたしゅはCクラスだから、関係ないっしゅけどね……。」

 

零次「……ともかく、全ての試合でαクラスが勝利したのは紛れもなき事実だ。だが、その勝利の余韻に浸るのは、今日までだ。」

 

 同時に空気が少し重くなった。皆、改めて姿勢を正している。先程まで夢の中へと旅立ちかけていた真倉でさえもだ。

 

零次「理由は……言わずとも分かるな?試召戦争なんてものはあくまでおまけ、他の学校には存在しない代物だ。試験召喚システムの中心にあるのは『意欲的に勉強をすること』と『それを継続すること』だ。それに終点(ゴール)は存在しない。」

 

 別に試召戦争で勝って喜ぶことは、悪いことではない。悪いのは、その余韻に浸り、歩みを止めることだ。

 言うなれば、テストの点で一喜一憂して、良い結果が出たときに浮かれているのと同じことだ。

 

零次「そもそも、ここに集まっているのはどんな集団だ?ここに来ていない明久(可能性を秘めたバカ)を除けば、皆Aクラスに入れる素質を持った猛者達だ。勝って当然なのに、こうやって大騒ぎする必要がどこにある?」

 

 召喚獣は召喚者のテストの点数によって動かされ、高得点を取れば取るほど、その能力も上昇する。故に学力最高クラスであるAクラスが、他のクラスに勝つのは至極当然であり、負ければ見せかけだけの無能集団と裏でも表でも呼ばれるようになる…………かどうかは定かではない。

 だって、Aクラスが敗北した事象は今まで無いわけだからな。ただ、文月学園の連中なら、そうやって言い回っても、何の違和感も不自然さもない。

 …………そう思う時点で、俺も大分毒されてるような……。

 

零次「そういうわけだから、今後は試召戦争で勝っても、こうやって祝勝会を開くことはないだろうな。例えこれから『新メンバーが加入する事があってもな』。」

 

美穂「え…………?」

 

利光「新メンバー……。」

 

幽也「…………加入…………?」

 

 やはりと言うべきか、皆最後の言葉に驚いているようだ。

 

 …………一人を除いて。

 

零次「気づいてないと思ったか?お前が去年から裏でコソコソと何かしていることは知っていた。先生方からも確認をとり、確証を得て、あえて何も言わないようにした。もう隠す必要はない筈だ。」

 

秋希「やれやれ……。この日のためにサプライズを仕込んでおいたのに、まさか零次に気づかれるなんてね……。」

 

 そう言うと、近衛は立ち上がり深呼吸して言葉を続けた。

 

秋希「実はね?このαクラスが、文月学園公認の部活動になりました!というか、してきました!」

 

「「「え、えええええええ!!」」」

 

 …………お前ら、驚く気持ちは分かるが声量抑えてくれ。他の客の迷惑になってるぞ。

 

愛子「ど、どどど、どういうこと!?」

 

秋希「いや……そのまんまの意味だけど。部活動新設の書類やら手続きやらを私の独断で行なってたの。」

 

 もっとも、αクラスを学園公認の活動にしようという動きは去年からあった。しかし、部活動を行なうために必要な最低人数は4名。去年の時点では一人足りなかった。名前を貸してくれる生徒を募るという案も近衛(発案者)から出たが、正直、勉強するだけの訳分からん活動に、そんなことしてくれるお人好しがこの学園に存在するとは思えなかったし、俺がいることを知られれば確実に断られるだろうから却下した。

 

零次「ま、これまでと活動内容は変わらん。ただ、部活動となれば、学園内の設備を使っても、それを理由に出来る。それに、顧問教師という心強い味方も出来る。」

 

 そこが一番の強みだな。まあ、誰が顧問なのかは知らないが。俺としては、西村先生か信楽先生、一歩譲って高橋先生が顧問だといいが。

 

零次「……さて、俺達からの話は以上だ。折角の食べ放題だ。どうせなら、元取って帰ろうじゃないか!」

 

 さあ…………、行動開始だ。

 

 

・・・

 

 

明久「や、やっと解放された……。」

 

 思えば今日は散々な日だった。

 試召戦争には負けちゃったし。……いや、αクラスとしては勝ったのか?

 設備交換は、皆僕に押し付けてどこか行っちゃったし。……まあ、これは僕が観察処分者だから仕方ないけど。

 放課後は、姫路さんや美波と一緒に映画観に行ったり、クレープ食べたりして、思いの外散財しちゃったし。……でも、近衛さんが帰り際にくれたクーポンやら割引券やらのお陰で、明日からも水道水を主食に出来る。もしそれがなかったら、公園の水が主食になりそうだった!

 

 …………あれ?『散々な日』って言うほど、『散々』でもない?

 

零次「ようやく帰路に着くのか?随分と余裕そうで何よりだ。」

 

 そんなことを考えてたら、僕のもとに一つの黒い影が近づいてきた。

 ……そういえば、αクラスで何か集まりがあったんだっけ。

 

明久「ご、ごめん零次。でもこれには訳が……。」

 

零次「明久。お前、理由を話せば、納得して許して貰えると思ってんのか?」

 

 や、やっぱり怒ってる!!

 

零次「……ハァ……。安心しろ、お前が来れなかった理由は近衛から聞いている。お前はお前で美味しい思いしてたんだろ?なら、お互い様だろ。」

 

明久「…………。」(目をそらす)

 

零次「おい、何故そこで目をそらす。女子二人両脇に並べて、映画鑑賞にスイーツ巡り……。大多数の男が羨む光景じゃあないのか?女子一人でも、こんなイベントに行き着く奴が何人いるか知れないのに、お前はそれが『二人』&『同時に』かつ『比較的平和に』行なわれたはずだ。どこに落ち込むような要素がある?」

 

 正直、美味しい思いをしてるかと言われたら、答えはノーだと思う。だって映画館でも、美波が連れてって欲しいって言ってた『ラ・ペディス』ってお店でも、僕は自分に一切お金を使ってないからだ。美味しいスイーツがたくさんあるお店で、水だけ飲んで女の子達がスイーツを食べてる様子を眺めてるだけの男を店員さんはどんな目で見てたんだろうか……。

 

明久「いや……別に……、僕じゃなくてもいいんじゃないのかな……って思ってさ。」

 

零次「…………それは何故だ?」

 

明久「だって、姫路さんと美波だよ!?バカでブサイクで甲斐性なしの僕といるより、一緒にいた方がいい人間なんて、いくらでもいるでしょ!?」

 

 突然、零次が吹き出した。

 

明久「え?どうしたの、いきなり。」

 

零次「いや、すまんな。お前がそこまで自分を卑下しているとは思ってなくてな。どうせ、アレだろ。坂本辺りがからかい半分……実際は悪意100%だろうが……で、言ったことを真に受けてんだろ。」

 

 確かに雄二からは何度も『不細工』だとは言われてる。『バカ』も事実だから否定できない。けど、アイツに『甲斐性なし』なんて言われた記憶はない。

 誰からだっけ……。もっと…………僕に身近な…………それでいて、年上の人に言われたような……。

 

零次「まあ誰だっていいけどな。けど、もう少し自信を持ってもいいと思うぞ。」

 

明久「ええ……。そうかなあ……?」

 

零次「確かにお前はバカだ。調子に乗ってふざけたこともしただろう。だが、お前の後先省みない行動で救われた人間もいるのも事実だ。」

 

 そう言われても、全く実感がないんだけど。

 

零次「ピンと来てない顔だな。だが、あの二人が本当に誰でも良かったんなら、お前を取り合うように映画館や喫茶店に誘ったりはしないさ。男子なんて、Fクラスは他より多いんだから。」

 

明久「うーん……。美波はともかく、姫路さんは男子のグループ入れるような勇気はないと思うけど……。」

 

零次「…………それでも最悪の場合、秀吉がいるだろ?本人が悩みの種としてるルックスのお陰で、そこらの男よりかは気兼ねなく話せるだろう。それに彼と一緒なら、何も知らない観察力の欠けた他人から見たら、女子二人が仲良く遊んでる風にしか見えないだろうよ。だが彼女らがそうしなかったということは…………。まあ、そこから先は自分で考えてくれ。」

 

 そうは言ってもね……。美波はBクラスとの戦争の時に交わした約束を守っただけだし、姫路さんは、その話を聞いて美波と一緒にクレープを食べたかっただけだと思うんだけど。姫路さんって、スイーツが好きそうだし、実際美味しそうに食べてたし。

 

零次「……さてと、本題はここからだ、明久。先程の祝勝会で、今後のαクラスの活動方針が決まった。」

 

 なんでも、これまでは零次の家で活動していたことを、部活動として学校で堂々と行なえるようになったとのこと。また、それに伴って、部員を募集するために今のαクラス全員で『入部試験』を作ることになったそうだ。

 あれ?これもしかして……。

 

明久「僕にもその入部試験の問題を作れと……。」

 

零次「そう言っているが?」

 

明久「…………いやいやいやいや、無理無理無理!無理だって!僕の点数分かってるでしょ!?」

 

 元々の点数は地を這うようなもの。今日のAクラス戦のために、零次達と勉強した日本史だって、美波の数学やムッツリーニの保健体育の点数と比べたら霞んでしまうレベルだ。

 そんな点数しか取れないのに、Aクラスレベルの問題なんて作れやしない。

 

零次「……点数?お前は何を言っている?」

 

明久「へ……?」

 

零次「αクラスで求められるのは『努力し続ける意思』だ。それがあれば、クラスがどうこうなんて問題はささいなものでしかない。ただその集団に、偶然にもAクラス上位陣が多数含まれていたに過ぎない。そもそも学力云々でαクラスの入部資格を決めるんだったら、振り分け試験と何も変わらんだろ。わざわざ部活にする意味もない。」

 

 そ、それもそうか……。

 

零次「まあ、そう簡単に問題なんて作れないのも事実だ。時間もそれなりに余裕を持たせている。お前らしい問題を期待しているぞ。」

 

 そう言って、零次はさっさと彼の家がある方向へと向かっていった。

 

 どうやら僕は、少々面倒臭いことに巻き込まれてしまったようだ。正直逃げたい。でも、逃げるわけにもいかない。

 結果として、Fクラスは負けちゃったけど、僕自信の点数が上がってることは確かな事実なんだ。このまま零次達と勉強を続ければ、観察処分者の仕事で手に入れた召喚獣の操作技術と合わせて、Aクラスを、ひいては零次を倒せるかもしれない。

 

 鉄人の監視下から逃れるためにも、次こそは必ずAクラスに勝つ!

 その想いを胸に、僕もまた、家に向かって歩き出すのだった。




~後書きRADIO~
秋希「さあ、後書きRADIOの始まりだよ!」

零次「今回で第19回目だな……。そして、ようやく大問1の終了か。」

天:ハロー♪久しぶりにゲストで呼ばれたよ。天鋸江《あまのこえ》だよ。

零次「というわけで、今回はかなり久しぶりに、後書きRADIO限定のオリキャラ、天鋸江をゲストに迎えている。……正直、俺か近衛のポジションと交代してもいいんじゃないか?」

天:そうだねー♪元々不定期更新なのに加えて、不定期開催の後書きなんだから、出番をくれるんなら、何でもいいけどー♪

秋希「でも、零次と二人で上手く回せるの?私と天は相性悪いから、二人で進行するなんて無理なんだけど。」

零次「……三人体制の方が現実的か……?」

天:それじゃあ、今回の議題に行ってみよー♪

零次「といっても、雑談なんだがな。近衛についての。」

秋希「私?」

零次「正確にはお前の名前『秋希』についてだ。実はバカテス原作に由来した名前なんだ。」

天:へー♪どんなものなんだい?

零次「結論から先に言ってしまうと、『明久と島田の距離を縮めさせないため』に付けられたものなんだ。」

秋希「『遠ざける』じゃなくて、あくまで『縮めさせない』なんだ……。」

零次「まあ、アレでもサブヒロインだからな……。」

天:それで?彼女と『秋希』の名前にどんな関係があるんだい?

零次「それを話す前置きとして、原作キャラクターが他のキャラをどう呼んでいるか、知っているか?」

天:えーと……。件の吉井君と島田さんは、こんな感じだったよね?

[吉井明久の場合]
・仲の良い男子生徒…名前で呼び捨て(雄二、秀吉)orニックネーム(ムッツリーニ)
・その他の男子生徒…名字に君付け(久保君など)
・女子生徒…名字にさん付け(姫路さんなど)

[島田美波の場合]
・男子生徒…名字で呼び捨て(坂本、土屋など)
・仲の良い女子生徒…名前で呼び捨て(瑞希など)

零次「ああ。そんな感じだ。ついでに姫路の場合も示しておこうか。」

[姫路瑞希の場合]
・男子生徒…名字に君付け(坂本君、土屋君など)
・仲の良い女子生徒…名前にちゃん付け(美波ちゃんなど)
・その他の女子生徒…名字にさん付け

秋希「一例ではあるけど、確かにそんな感じね。」

零次「で、ここからが本題だ。明久と島田のお互いの呼び名は最初の、本当の最初の頃は、『島田さん』『吉井』と、上記の法則通りの呼び合っていたのだが、Bクラス戦初日の放課後から『美波』『アキ』と呼び合うようになった訳だ。」

天:うんうん。

零次「ここでもう一度、島田の他キャラの呼び方を見てもらえば分かるが、島田は基本、女子生徒は名前を呼び捨てにして呼んでいるんだ。つまり、近衛のことは『秋希』と呼んでいるはずだ。」

秋希「あー、なんとなく言いたいことが分かったわ。その状態で島田さんが吉井君を『アキ』と呼ぶと、私と被るのね。」

天:ついでに姫路さんは、近衛さんと仲が良ければ彼女を『秋希ちゃん』と呼ぶことになるけど……。これもまたある意味吉井君のことを指してるよね?

零次「天の言う意図は当時の……作者には無かったがな。どのみち、原作ヒロインの好感度稼ぎイベントを阻害する要素になってるのは確かだ。」

天:そして、本作のヒロインである近衛さんと吉井君を……。

秋希「くっつけないでよ。そもそも私は吉井君のこと、そんな好きじゃなければヒロインでもないし。」

天:え?

零次「近衛のポジションは、どちらかと言えば『もう一人の主人公』って感じだ。そもそもヒロインだったら、カップリングの対象は主人公である俺になってしまうだろ。」

天:まあ、二人が付き合う可能性は、キャラ紹介の時点で皆無だってことは分かってるけどね♪

秋希「そういうこと。」

天:じゃ、キリもいいところで、次回予告といこうか。

零次「予定は二つだ。一つは原作の『○.5巻』にあたる話を作製する予定。もう一つは、『大問2』つまり清涼祭(学園祭)編に突入する予定だ。一応保険として、後者を優先して進めるつもりだとも言っておく。」

秋希「それでは…………。ここまでありがとうございました!」

「「「次回もよろしくお願いします!!」」」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。