零次「どうも。双眼零次だ。番外編がまだ途中だが、こっちが先に書き上がったのと、向こうがやや難航しているために、本編をちょっとだけ進めることにした。」
秋希「現状、番外編はあと3話ほど、清涼祭準備期間の話があと1、2話ほどを予定しているわ。どちらも気長に待ってくれると嬉しいわ。」
零次「それでは、本編をどうぞ。」
プロローグという名の問題文
桜の季節は終わりを向かえ、文月学園の木々が緑一色に染まる時期。
俺達が通う文月学園では、新学年最初の行事である『清涼祭』の準備が進められている。
俺が現在把握している出し物は次の3つ。
1つめは、3-Dと3-Fが合同で行なう縁日……っぽいもの。偶然にも両者ほぼ同じタイミングで出し物がきまったため、折角だから一緒にやらないかと、Fクラス代表が声をかけたことから始まったそうだ。
2つめは、3-Cの『召喚システム研究室』……要は試験召喚システムを使った出し物だ。試験召喚システムについて簡単な説明をするブースや、実際に召喚獣を召喚および操作の体験をするブース、他には学園中にスタンプラリーを設置する予定だとか。あのCクラス代表らしい出し物だ。
3つめは、2-Dの喫茶店。進級初日にFクラスに敗北した爪痕なのか、提案者が強気な性格でそれに押されたからなのか、クラス代表そっちのけで決まったらしい。どちらにしろ、Dクラスのクラス代表の存在は、吹けば飛ぶホコリ以上に軽いもののようだ。
そして我々Aクラスの出し物もちょうど決定した。
翔子「……それじゃあ、私達Aクラスの出し物は、『メイド喫茶』に決定。」
パチパチパチパチ……。
教室中が拍手で埋め尽くされる。
やはり、霧島に実行委員を頼んで正解だったな。これからも、団結力が重要視されるイベントは霧島に
その後もメニュー、店名、役職と、次々滞りもなく決まっていった。当然、俺の役割も、な。
零次「……なるほど、『店番』か。まあ、それしか選択肢は無いわな。」
これが、俺の役職。『メイド喫茶』において、霧島が挙げた役職は三つ。『接客』『調理』『呼び込み』だ。
まず『メイド』喫茶と言っているのだから、『接客』は無理だ。だから、候補となるのは残り二つ『呼び込み』か『調理』かだ。
前者は、チラシ作り程度なら協力出来るし、後者も…………レシピ通り作るだけだから、おそらく問題ないとは思う。木下優子をはじめとした他のクラスメイトからも、『それで問題ない』ということで、無事役職が決まった。……そう思ったんだがなぁ…………。
そこに横槍を入れてきたのは、まさかの霧島翔子だった。彼女曰く『代表が裏方に回っているのは、どうかと思う。』と珍しく訳分からん理由で却下しやがった。
そうなると必然、選択肢は『接客』になる訳だが、それで提案されたのが『
そんな訳で、霧島中心の『接客派』VS木下中心の『裏方派』&『接客でもいいけど、執事服の方がマシ』という、いわゆる『妥協派』VS◯ークライみたいな構図が出来上がった。一応たった二人だけ『出禁派』がいたが、他の連中の圧力に十秒足らずで敗北し、教室の隅へと追いやられていた。
そんな不毛な論争に終止符を打ったのも、また予想外の奴だった。このメイド喫茶の案を出した張本人でもある工藤愛子だ。普段はお調子者で、内心評価の低い彼女が、先の妙案を提案したのだ。
店に入る時に必ず顔を合わせることになるから、『クラスの顔』として十分に機能するし、基本的に見張りの仕事だから、半分裏方の仕事みたいなものでもある。そして何より、暴動が起きても鎮圧できる腕力がある。……最後の理由には物申したいところだが、ここで茶々入れてもメイド服を着せられる未来しかないので、黙っておくとしよう。
零次「さて、と。Aクラス諸君。」
霧島がいる、教卓の方へ足を進めて、声を大にして話す。先月は教卓を叩いて威圧してた事が、この一ヶ月間で、警戒はされているものの、どういうわけか、ちゃんと話を聞いてくれるようにはなっていた。
零次「お前達のことだから、こんなこと言わなくてもいいと思うが、今一度言わせてもらおう。我々はAクラスだ。学年の模範となるべき集団だ。」
事実、こうして話をする間も皆姿勢を正し、浮わついた感情を抑えて真剣に聞いている。
零次「……まあ、簡潔に言うと、だ。たとえ勉学と一切関係のない行事だろうと、我々が他のクラスに後れをとることなどあってはならない、ってことだ。誰よりも本気でこのイベントを楽しみ、はしゃぎ、それでいて冷静さを保て。全力でこのメイド喫茶を成功させるぞ!」
「「「おおおおおおおお!!!!!!」」」
全員が高らかに拳を上げ、教室中に歓声が鳴り響いた。
この校舎に試召戦争を前提とした防音機能があることを心から感謝した日は、後にも先にもきっと今日しかあり得ないだろう。
さて、こうして清涼祭の開催日が刻々と近づいていった。
しかしその裏で、何やら恐ろしい計画が進んでいることに気づかなかったことを後悔するとは、この時の俺は夢にも思わなかっただろう。