秋希「どうもー、近衛秋希でーす。」
零次「そして、双眼零次だ。」
秋希「皆さんお待たせしました。大問2、清涼祭編のスタートです!」
零次「と言っても、まだ前日談なわけだが……。まあ、これからもよろしくお願いしますよ。」
零次「はあ…………。」
憂鬱だ。分かりやすく言うなら、最悪の気分だ。
別に清涼祭の準備が面倒だとか、そういうことじゃない。寧ろ、今年は宣伝ポスターを考えたり、料理の試作品の味見を頼まれたりと、準備に携われることを嬉しく思ってる。
去年は、久保以外全員が、『俺みたいなクズに学園祭を楽しむ権利などない』とかなんとか言って、教室から俺を追い出し、準備にすら関わらせてくれなかったからな……。まあ、その後校舎を歩き回ってたら、そんな俺を拾ってくれたとある先輩と出会って、『清涼祭運営委員』の大義名分を得ることが出来たわけだが。
じゃあ何が不満かと言われたら、『作業着』だ。霧島が『清涼祭当日はしなくてもいいから、代わりに準備期間中はメイド服を着て準備を手伝って欲しい』と、アホなことを要求してきたのだ。しかも、さっきまで味方だった工藤が今度は敵に回る始末。理由は『面白そうだから』という、ある意味彼女らしく、悪く言えばふざけたものだった。
で、まあ、紆余曲折あって、俺が折れる結果となったわけだ。しかも、メイクまで綺麗に施されるおまけ付きだ。
それで何の違和感もない仕上がりになっている己の体型に嫌悪を覚え、ことあるごとに『カワイイ』を連呼する女子に苛立ちを覚え、こっちに目を向けてはすぐに視線を反らす男子に腹立たしさを覚えながら作業を進めていったわけだ。
そして何よりムカつくのは、久保だ。アイツの挙動が他の男子と比べて明らかにおかしい。心ここにあらずというか、俺の方に微妙に怪しい視線を送ってきてるし……。明久がαクラスにやって来た時から薄々気づいてはいたが、どうやら久保は好意の対象が、同性に向いているみたいだ。……他人の趣味嗜好など、俺からしてみればどうでもいいことだが、実害が出るようであれば、それなりの処分を考えるべきだろうな。
閑話休題。
今日もそんな状況下で清涼祭の準備を進めていた最中、俺は校内放送で学園長から呼び出しを受けた。流石に『作業着』で学園長室に向かうわけにもいかないので、素早く制服に着替え、10分と掛からずに学園長室の前まで来たわけだが……。
『……賞品の……として隠し……。』
『……こそ……勝手に……如月ハイランドに……。』
『…………に関しては…………ですが、学園の…………。』
何やら学園長が何者かと言い争っているようだ。
雄二「……ん?そこにいるのは、双眼じゃねぇか?」
明久「あれ?零次も学園長に何か用事があるの?」
そこに学園を代表するバカコンビが合流してきた。コイツらを呼び出す旨の放送は無かったはずだ。となると、個人的な用事だろうか?……学園長に対して、個人的な用事がある一般生徒というのも大分おかしい気はするが……。
零次「学園長から『来い』と放送で言われたんでな。なのに、どうやらお取り込み中のようだから、待機していたところだ。そういうお前らは何だ?『新しい』設備に嫌気が差したか?」
雄二「……嫌気が差したのは教室のほうだ。あんな隙間風が吹きまくるような教室など、今はそこそこ快適でも、冬になったら最悪凍死しちまう。生徒の健康に害を及ぼしかねない状態だから、直訴しようってことだ。」
なるほど、至極まともな意見だ。まともなんだが…………、坂本ってそこまで先のことを考えて動くやつだったか?というか、そんなレベルまで酷くなってるのかFクラス教室……。
雄二「とにかく、学園長がいるってことなら無駄足にならずに済んだな。さっさと中に入るぞ、明久。」
そう言って、坂本は学園長室の立派なドアをノックしようと…………って、待て待て待て。
零次「待て、坂本。さっきも言ったが、向こうは誰かと話してる最中だ。内容は不明瞭だが、もし文月学園に投資してくれているスポンサーのお偉いさんが相手だったらどうする?」
雄二「そんなの、こっちが知った事かよ。そもそも、数分前に校内放送を使ってまで、お前を呼びだすほどの用事があったんだろ?なら、今話してる方は学園長からしても予期せぬ来客ってことだ。律儀に待ってやる必要もないな。」
その言葉、そっくりそのまま返って来るぞ、坂本。学園長からしてみたら、お前らの訪問も『予期せぬ来客』だろう。
雄二「……ってことで、失礼しまーーす。」
もう話す気は無いと言わんばかりに、ドアをノックして返事を待つ間もなく、学園長室に入っていった。……仕方ない、結局コイツらのフォローにまわらねばならないのか……。
零次「学園長、2年Aクラス代表の双眼零次です。申し訳ございません。お取り込み中のご様子だったので、先程まで待機していたのですが、そこにいる暴走したバカ二人を止められませんでした。」
?「まったく、本当に失礼なガキどもだねぇ。普通は返事を待つもんだし、人が話してるときにズケズケと割り込むもんでもないよ。」
そう答えた長い白髪が特徴の人こそ、藤堂カヲル学園長だ。他にも教頭の竹原先生と三学年主任の小林先生がいる。
竹原「やれやれ。取り込み中だというのに、とんだ来客ですね。これでは話を続けることもできません。……まさか、貴女の差し金ですか?」
藤堂「馬鹿を言わないでおくれ。どうしてアタシがそんなセコい手を使わなきゃいけないのさ。負い目があるというわけでもないのに。だいたい、そこの生徒は先に私が呼んだんだ。アタシからしたら、とんだ来客はアンタ達の方さね。」
小林「そうですね。私の計算でも、彼が来ると想定した時間を3分14秒も超過していましたよ。……まあ、彼なら10分までなら待っていてくれるだろうと踏んでましたが……、まさか、私達以上に想定外の来客に計算が狂わされるとは……。」
ほら見ろ、坂本。やっぱり待っていた方がよかったみたいじゃないか。
竹原「まったく……、こんな学園に害しか与えない生徒を呼び出して、何をお考えでいるのやら……。学園長は隠し事がお得意なようで困りますね。」
藤堂「さっきから言っているように隠し事なんて無いね。それに、双眼が『害しか与えない生徒』というのも聞き捨てならないね。撤回しな。」
小林「全くもってその通りですよ、竹原教頭。貴方今の発言は、一人の生徒を侮辱するものですよ。もう少し教育に携わる大人として、誠意ある言動を心掛けたらどうです?」
竹原「小林先生……!貴方はどっちの味方をしているんですか…………!」
小林「私はあくまで、客観的に見て正しいと思っていることを言っているだけです。どちらかの味方をするつもりはありません。強いて言うなら、私は私の味方、それ以外の何者でもありませんよ。」
藤堂「……とにかく、アタシは何も隠し事なんかしてないし、何かやましいことを企んでもいないさ。全部アンタの見当違いだよ。」
竹原「……そうですか。そこまで否定されるならこの場はそういうことにしておきましょう。」
そう言って、竹原教頭と小林先生は学園長室を出ていった。…………竹原教頭が去り際に部屋の隅の方を見ていた気がするが……、まずは要件解決を優先しよう。
藤堂「ふう……。みっともない所を見せちまったね。で、そこのガキどもは一体何の用だい?」
雄二「今日は学園長にお話があって来ました。」
な……坂本が敬語を使ってる……だと……?って、そんな驚くことでもないか。もう高校生だ、敬語くらい知識として知ってても不思議じゃない。ただ驚くほどに使う機会がなかっただけだろう。
藤堂「私は今それどころじゃないんでね。学園の経営に関することなら、教頭の竹原に言いな。それにさっき小林先生も言ってたけど、これ以上予定外の来客に構っていられるほど、アタシも暇じゃあないんだよ。」
零次「いえいえ、俺は待ってますよ。この部屋に先に入ったのは彼らですし、小林先生の言う通り、10分くらいは我慢の範疇だ。おとなしく聞き役にまわるか、外で待ってますよ。」
坂本がわざわざ学園長室まで足を運ぶことになった、ということは、それだけFクラスが危機に瀕していると言ってもいい。だとしたら、ここで帰るわけにはいかないわけだ。俺からもやんわりアシストしておこう。
まあ、暗に彼らにも『話をさっさと終わらせろ』と言ってるみたいなもんだが……。坂本なら分かってくれるはずだ。
藤堂「ふん……。まあ、アンタがそういうなら、話を聞いてやってもいいかもしれないね……。だけど、まずは名前を名乗るのが社会の礼儀ってモンだ。覚えておきな。」
雄二「失礼しました。俺は二年F組代表の坂本雄二。そして、こっちが…………。」
そう言って、坂本は明久の方を示して、彼の分も紹介する……。
雄二「二年生を代表するバカ…。」
零次「…の友人の吉井明久です。」
……わけないと思ってたよ、当然。
雄二「テメェ……。」
零次「何か間違いがあるか?お前が
藤堂「ほぅ……。そうかい。アンタたちがFクラスの坂本と吉井かい。良いだろう、話を聞いてやろうじゃないか。」
そう言って学園長は、映画の悪役みたく口の端を吊り上げた。……なんというか、随分と様になってるな。こんな表情、役者でもない限り人生でする機会などないはずなのにな。
そして、坂本による交渉が始まった。
要求はさっき部屋前で聞いていた通り、『Fクラス教室の改修』。坂本曰く、教室は学園長の脳味噌並みに穴だらけで、戦国時代から生きているような人間じゃなきゃ、まともな生活を遅れないから、被害が出る前にさっさと直せ、このクソババァ……とのことだ。
当然、彼の口の悪さと学校の規則を理由に改修を却下…………するかと思いきや、提示する条件を呑むなら工事を頼むと、半分承諾の回答を貰った。
その条件が、『召喚大会の優勝商品である如月ハイランドのペアチケットを回収すること』だ。ただし、優勝者からの強奪及び説得による回収は無効とする、とのこと。要は『召喚大会に出て優勝しろ』という、現実的に考えればFクラス二名に提示するものではない条件だった。
暗に『教室の改修工事を行なう気はない』と言われてるようなものだが、坂本は何か策があるのか、更に条件を加えることで、その条件を呑むと言った。
それは『召喚大会で使用する教科を坂本雄二が設定する』というもの。学園長は特に躊躇う様子もなく承諾した。
…………ここまでが、目の前で行なわれた、坂本と学園長のやり取りだ。途中明久が改修工事のついでに設備向上を要求していたが、後者は完全に自業自得だ、当然通ることはなかった、ということを蛇足で付け足しておく。
藤堂「さて。そこまで協力するんだ。当然召喚大会で、優勝できるんだろうね?」
雄二「無論だ。俺たちを誰だと思っている?」
明久「絶対に優勝して見せます。そっちこそ、約束を忘れないように!」
どうやら二人とも、やる気が出て来てるようだ。まるで、何かFクラスで起きてる問題を解決する手段が、この召喚大会に詰まっているかのようだ。
藤堂「……さて、それじゃようやく本題だね、双眼。」
零次「はい。いやあ、先程までの話し合いが、端から見てる分には随分面白かったので、すっかり忘れるところでしたよ。」
藤堂「そうかい、そうかい。本当なら、一方的にアンタのことを茶化してやりたいところだけど、時間も惜しいから、単刀直入に言うよ。」
一呼吸いれて、藤堂学園長から言われた言葉は……。
藤堂「アンタが今使ってる『王者』の腕輪、その能力を清涼祭の間、封印させて貰うよ。」
俺からしてみれば、どうでもいいことだった。