召喚獣に着けられる『腕輪』は、強者の勲章だ。それだけに能力も強力なものが多く、それ一つで格下の相手を、点数が許す限りは一方的に蹂躙することだって可能だ。
とは言え、『生徒の学力向上』を目的とした学校公認の『ゲーム』としての側面もあると言えるわけで、そうなればバランス調整も致し方ない。だから……。
藤堂「アンタが今使ってる『王者』の腕輪、その能力を清涼祭の間、封印させて貰うよ。」
先月のCクラス及びFクラス戦でとんでもない性能を見せた、その能力を制限されることは容易に想像できた。ただ、『清涼祭の間』というのは短すぎる気もするが。
明久「ちょ、ちょっと待ってよ!どうして零次だけ、そんな妨害をするのさ!」
雄二「ま、当然だろうな。姫路が手も足も出せず、無様に敗北に追いやるような腕輪、バンバン使われちゃ、たまらんからな。」
零次「スマートフォンのゲームアプリでもよくあることだろ。特定のキャラが強すぎるから、ステータスやスキルを調整する。それと同じだ。」
明久「ごめん、僕携帯でゲームはやらないんだ……。」
まあ、そうか。水道や電気の料金を度々払えず止められるコイツが、携帯の通信料金だけはちゃんと払ってるというのも違和感があるからな……。
藤堂「そういうことだよ。ま、当の本人は使う気なんて無いだろうし、システム側でもキツーい制限が掛かっているから、問題は無いだろうけど、一応通達しておかないとね。試験召喚システムを管理する者として、そして学園のトップとして最低限のことだね。」
何故だろうな……。立場上、学園の『トップ』なのに、全くそれっぽく感じない。多分あれだ。普段接点がないから、偉さが全く滲み出て来ないんだろう。
藤堂「なんだい、双眼。何か言いたげな顔をしてるようだけど、アンタの意見も文句もこっちは聞き入れるつもりはないよ。召喚大会は一応学園のPRも兼ねてるんだ。それなのに、『王者』の腕輪で無双されちゃあ、PRにならないし、観客も白けるだろう?対戦相手だって納得しないよ。」
でしょうね。俺の口から説明したって、相手が素直に聞き入れる可能性は、クラスメイトでない限りほぼゼロだ。なんなら、
藤堂「それに、アンタ達にとっても、メリットでしかないと思うんだけどねぇ……。」
坂本達に向き直って、学園長はニヤリと笑みを浮かべた。……やはり言うことになるのか。気づかないなら、気づかないで、当日に驚く様子を近衛から聞きたかったのだが。
雄二「メリット?どういうことだ?」
藤堂「アンタ、察しが悪くないかい?双眼も
明久「ええ!?零次も出るの?」
零次「当然だ。2年はもちろん、3年はそれ以上に俺のことを軽視していることが、前に行なったαクラスの退部試験で浮き彫りとなったんだ。いつまでも情報をアップデートしない連中に灸を据えることが、俺が大会に参加する目的だ。正直、如月ハイランド?のプレオープンペアチケット?なんか、全く興味ないな。」
まあ、この状況を狙っていたのか、と言われると反論の余地がないんだが……。俺が学年首席になって一ヶ月経った今でも、俺を問題児扱いしている先輩が多いことは、想定外だった。
それとも、認知されるにはまだ時間が掛かるとでも言うのだろうか?
雄二「なるほどな。だが、肝心のペアはどうした?詳しいルールは覚えてないが、確か名前だけ貸して、実際は一人だけで出る……みたいな真似は出来ないんじゃなかったか?」
坂本の言う通り、そういう『名前貸し』にあたる行為は今回の召喚大会のルールに抵触する違反行為だ。
大会のルールでは『二人一組のペアでの参加』が絶対条件。一回戦だろうが決勝戦だろうが、規定の時間までに会場に二人揃わなかった時点で、敗退が決定する。
実際2年前、まだこのルールを制定していなかった頃に行われた召喚大会で、ペアを組めなかった先輩方が、参加する気のない、特にEクラスやFクラスの生徒を恐喝して無理矢理ペアを組み、実際は一人だけで参加する、という暴挙が横行したらしい。
結果、本来お互いのチームワークが見せ場となるはずだった大会のほとんどの試合が、一対一で行なわれるという、異常事態が発生。最初の開催で、早くもコンセプトが崩壊する羽目になった。
それでも学園外に召喚システムをアピールする数少ない企画だ。そのため先生方は、ルールの再調整に新たな企画の考案等々……連日連夜の会議が余儀なくされたのだった。当時の先生方、お疲れ様でした。
他にも色々な事情が絡んで、結局去年は召喚大会が行なわれることが無かったのだが……。まあ、どうでもいいな。
零次「安心しろ……と、お前達に言うのはちょっと違うが、αクラスが存在する以上、一応アテはあるんだ。残念だったな。俺が不戦敗になることに賭けてたかもしれんが、そんな未来は元から無かったってことだ。」
藤堂「念を押して言っておくけど、双眼の相方を妨害して失格にしようなんて、考えるんじゃないよ。もしやったら、アンタ達も失格。つまりは、教室の改修工事の話も白紙になるからね。」
この妨害行為への処分もまた、2年前に起きた出来事に関係している。さっきも言ったが、召喚大会に出たくとも、ペアが見つけられなかった奴らは、下位クラスの奴らと無理矢理組んで出場していた。それはつまり逆を言えば、ペアを組めた奴は大抵上位クラス同士組んで出ていたということでもある。
当然、前者のペアと後者のペアとが対決となれば、有利なのは明らかに正規の手順で組んだ後者だ。そのため、下位クラスを無理矢理巻き込んだペアの連中の中には、両者の同意のもとで組んだペアを妨害し、試合に出せなくして不戦勝を狙うという、場外戦法を仕掛けてくる者もいたそうだ。
無理矢理組んだ相手を更に脅迫し、相手のペアを妨害させる者。相手が食べる料理に下剤を仕込むなどの細工を施す者。一番酷いものとしては、友人関係にあるゴロツキ集団に相手を襲わせ、物理的に出場出来なくする奴までいたそうな……。
そういう思考に至る奴らは、全体で見れば、出場者の10%にも満たないうえに、確たる証拠も清涼祭当日に出てこなかった。とはいえ、試験召喚システムを導入して、たった二年で問題が起きまくってることを考えると、文月学園の試験校の看板が偽りにしか見えてこない。
俺が処暑中にいた頃でも、ここまで酷くはなかったぞ?
雄二「そ、そうだよな…………。ハァ……、となると、双眼が俺達と当たる前に、どっかで負けることを祈ることになりそうだな……。」
随分と弱気だが、理に適っているのも事実だ。なぜなら、この大会にαクラス全員を参加させるつもりだからだ。
折角、勉強の成果を学校全体に知らしめることが出来るのだ。俺の評価を変えるためにも、出来ることはしておきたい。
もっとも、αクラスの面子であっても、俺を倒せるとは思ってないがな。アイツらが簡単に負けるとも思ってないが。
零次「ククク……、そうかそうか。坂本、そんな調子で本当に優勝出来るのか?今年は前回の開催より、三年の先輩方が多く出場するぞ?」
特に、明久のラブレター騒動の最中に行なわれていたという、三年の試召戦争。その勝者であるEクラスや、振り分け試験を途中退室してしまった人達が集まったFクラスからのエントリーが多い。特にEクラスは、担任教師の特別授業の影響もあって……かは知らないが、2-Fと同等の戦力を持っていると見積もっていい。そう、近衛は言っていた。
雄二「…………ハッ、何を言うかと思えば、そんなことか?正直お前に勝てる気がしないのは事実だが、優勝を諦めてる訳じゃないぞ。」
零次「…………ほう?」
明久「え!?そうなの!?」
雄二「当たり前だろ、明久。これは優勝『出来る』か『出来ない』かの話じゃねぇんだ。俺達が優勝『する』、いや『しなきゃならない』んだ。そうでなきゃ、俺達の根本の問題は解決しないだろ。」
…………はて、坂本から聞いたFクラスの問題と言ったら、『教室そのものの環境の悪さ』なのだが?それの改善要求のために、コイツらはわざわざ学園長室まで来たと思ったのだが……。
さてはそれと同等、もしくはそれ以上に深刻な問題を抱えているな?例えば……学習環境の悪化に耐えかねて、Fクラスの誰かが転校する可能性がある……とか?
零次「なるほどな。まあ、お前達の奇策がどこまで相手に通用するか、見せてもらおうか。」
雄二「ああ、目にもの見せてやる!」
もう坂本の目には、さっきまであった陰りは無くなっていた。
藤堂「…決まりだね。それじゃ、ボウズども。任せたよ。それと双眼は…、余計な真似をするんじゃないよ。」
「「おうよ!」」
零次「……まあ、わかりましたよ。」
『明久・坂本のペアと決勝で当たった際に、俺のペアが優勝する』、これ以外は履行できる。
学園長もなにかと誇張していたが、召喚大会は試験召喚システムのPRも兼ねている。流石にそんな大会の決勝戦で八百長は出来やしないし、するつもりもない。それ以前にコイツら相手に手心を加えるつもりもないが。
こうして、文月学園最低コンビがここに誕生した。
~後書きRADIO~
零次「さ、後書きRADIOの時間だ。」
秋希「今回で20回目ね。それから、ゲストには坂本君を呼ばせてもらったわ。」
雄二「ま、よろしく頼むぜ、二人とも。」
零次「少々不安はあるが、まあ全力でついてきてくれ。」
秋希「今回は清涼祭期間中、零次に召喚獣の『腕輪使用禁止令』が出たわね。」
零次「まあ、現状発動したら『一方的に勝つに決まってる』訳だからな。多分、今後もまたどこかのタイミングで
雄二「結局のところ、お前の腕輪に関しては能力がちょっと割れただけで、ほとんど情報がないからな……。姫路やムッツリーニ以上に複雑な能力なのは間違いないが……。」
零次「ま、謎解きにしろ、答え合わせにしろ、次回以降に期待してくれ。」
秋希「それから、2年前の文月学園についても、ちょっと掘り下げられたわね。確か大問1で、『下位クラスに試召戦争を挑まれた時に、上位クラスが使者に八つ当たりをしていた』こと、『一番最初に行なったのは、当時の2-Aである』こと。この辺りをどこかで、ちょっとだけ触れたのかな?」
零次「一応言っておくが、『2年前』の設定は本作オリジナルだ。原作1巻で明久が宣戦布告の度にボコボコにされていた描写と、原作7巻での2-Fと3-Aの言い争い、その他細々とした描写から想像した結果、こうなってしまった。」
秋希「まあ、この設定を作ったからこそ、
雄二「…………なあ。上位クラスの報復の件も、今回の召喚大会の話も、全くの初耳なんだが。」
零次「そりゃあ、本編ではお前達に、一度も話したことが無いからな。」
雄二「いや、俺が言いたいことは、そういうことじゃねえ!今回で召喚大会は二度目なんだろ?なら、三年生辺りは当時のこと知っているはずだ。召喚大会の掲示がされてた所を見に行った時、それなりに人がいて、先輩方もいたはずだが、そういう噂一つ聞かなかった。これはどういうことだ?」
零次「それについても、納得いくかは怪しいが…………、理由はある。当時のスポンサーの大半は問題を起こした先輩方の親が代表だったんだ。」
雄二「……つまり?」
零次「問題が起きたら、親達が圧力をかけて事件を揉み消し続けてきた、ってことだ。そういう事に協力を惜しまないのが、当時のスポンサー連中だ。」
雄二「……この学園……、大分終わってんな……。」
秋希「まあ、今は代表が変わってたり、スポンサーを降りる企業がいたり、逆に新しくスポンサーになった企業がいたり……。2年前よりは大分マシになってるはずよ。」
零次「…………ま、一社だけこの学園の生徒と繋がりがある企業があるわけだがな……。(ボソッ)」
雄二「……んあ?何か言ったか?」
零次「いや……。別に何でもないが。」
雄二「……………………。」
秋希「さ、さて、そろそろ次回予告といこうか!」
零次「次回も清涼祭の前日談、学園長室を出た後の雑談になる予定だ。ぶっちゃけ、あってもなくても物語の筋道に影響は無いが……な。」
秋希「それでは……。」
「「「次回もよろしくお願いします!」」」