バカと無情の試召戦争   作:Oclock

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小問3-A 交渉を終えて

雄二「………………なあ双眼、聞きたいことがあるんだが。」

 

 それぞれの要件を終え、学園長室をあとにした俺達だったが、不意に坂本に呼び止められた。

 

零次「何だ?言っておくが、俺のスリーサイズは答えんぞ。測ったことがないからな。」

 

雄二「いらねぇよ!んな情報!男のスリーサイズとか、誰が欲しがるんだよ!」

 

零次「…………近衛のバストはB寄りのAカップだそうだ。……いや待て、A寄りBだったかな……?」

 

雄二「女子のだったら、欲しいわけじゃないからな!?というか、わざと言ってるだろ、お前!!」

 

 ハハハ、何を当たり前の事を。

 

零次「大方、俺の腕輪についてだろ?それに関しては一度近衛と話して解決したんじゃないのか?」

 

雄二「そうだな。お前の腕輪の『能力』、それだけは分かった。」

 

零次「ほう?お前は俺の腕輪をどう思ったんだ?」

 

 坂本が言った俺の腕輪能力。それは、『相手の召喚獣にダメージを与え、かつ腕輪の能力を使えなくする』というものだ。

 

 まあ…………、惜しいな。霧島が唱えた、『特定の条件に満たない召喚獣を戦死させる』という能力よりかは言ってることは近いが、それでも正答じゃない。

 

雄二「そうなのか……。」

 

零次「落ち込むな。お前の考察の方が、いい線行っていたぞ?学校科目じゃないが、霧島に勝てたぞ、喜べよ。」

 

雄二「喜べるか。それに、お前の腕輪はいろいろ謎が多すぎるんだよ……。」

 

 謎、ねえ……。一体、何を言うのか。

 

明久「謎、って……。どこにあるのさ?零次の腕輪がすごく強い能力を持ってるのは分かったけど……。」

 

雄二「そうだ。腕輪の能力が強力なのは、姫路やムッツリーニのを見ればわかる。だが、お前のはその二人を明らかに超えた能力を持っている。それが謎なんだ。」

 

明久「…………どういうこと?」

 

雄二「あのババァもサラッと言っていたが、コイツの腕輪には『システムからもキツイ制限が掛けられている』そうだ。おそらく、その代償にあんなえげつない能力になったんだと思うが……。なんでお前の腕輪だけ、そんな特別仕様になっているんだ?」

 

 コイツ、しれっと学園長を『ババァ』呼ばわりしてるな……。確かに、あの人は数年前に還暦を迎えてたはずだが、一応学園の最高責任者だぞ?明久も、先程の坂本の交渉中『ババァ』呼びしてたが、コイツら学園長を敬う気がないな?そういう俺も心の底から敬える気はしないが。

 

零次「……それを聞いたところで、お前にメリットがあるのか?お前のことだから単純に興味の範囲を出ていないと信じてはいるが……。それはこの腕輪のトップシークレットだ。金を積まれようが、命の危機が訪れようが、口を割る気は一ミリもない。」

 

雄二「そりゃそうだろうな……。少なくとも、お前の実力を知ってる奴が『学年首席専用』を建前に、双眼専用の腕輪を作ったのは間違いないと推理してるが……。」

 

 それほぼほぼ答えが出てないか?さてはアイツ、口を滑らせたな?

 

明久「……ねえ雄二、ちょっと聞きたいんだけどさ。」

 

雄二「んあ?明久まだいたのか。」

 

明久「いたよ!二人が僕そっちのけで話してたから、話しかけることが出来なかっただけだからね!」

 

 別に仲間外れにした覚えは無いんだが。まあ、明久のことを忘れて話してたのは事実だが。

 

明久「それで雄二、どうしてそこまで零次の腕輪に拘るのさ?いくら試召戦争に興味があるにしてもさ……、なんか…………その…………あまりにも固執してるように見えて、不気味……なんだけど……。」

 

雄二「そうか?双眼に勝たなきゃ、俺達の悲願は叶わないんだ。そのために、あらゆる手段を使って、情報を集める。至極当然のことだと思うが?」

 

 確かに、坂本の言葉も一理あるが……。だとしても、俺の腕輪一つに固執してる様子は違和感しかないぞ?

 まあ姫路も土屋も、能力が単純だからな。それらに比べりゃ、俺の腕輪が異質なだけなんだが……。

 

零次「だからと言って、本人に聞くのもどうかと思うがな……。条件を達成している人数がごく僅かなために、勝敗に直結する状況が少ないとはいえ、試召戦争においては腕輪能力も重要な要素の一つだ。素直に教えると思っているのか?」

 

 そう言うと坂本は苦虫を噛み潰したような表情になった。アイツ自身も『本人に聞く』のは、最終手段と考えてたのだろうな。

 

零次「……………………ま、お前みたいに、俺の腕輪についてあれこれ考えてくれるだけでも、こっちからすればありがたいがな。」

 

雄二「そ、そうなの、か…………?」

 

零次「ああ。あまりにも突拍子もない出来事に直面したせいで、呆然と立ち尽くすような阿呆共よりかはよっぽど好感が持てるな。」

 

明久「零次、それさりげなく姫路さんのこと馬鹿にしてるでしょ?」

 

零次「……………………。」

 

 敢えて沈黙。俺の頭に最初に浮かんだのは、Cクラス代表の小山とかいう奴だったんだが、姫路もあの戦闘では終始あたふたしまくってたからな……。否定することも出来ん。

 

零次「というわけで、だ。坂本、一つ交渉といこうか。」

 

雄二「……は?交渉?」

 

零次「そうだ。そこまで貪欲にこちらの腕輪について考えてくれるのなら、少しだけだが情報をくれてやってもいい。」

 

雄二「……本当か?」

 

零次「ああ。だが、さっきも言ったように、本来この情報は敵から与えられるものではない。故に対価はそれなりのものになるがな……。」

 

 『対価』。その言葉に若干坂本は顔を歪ませた。

 

零次「俺が望む対価。それは、お前達が学園長からもらった特権。つまりは、召喚大会の教科選択を俺にもさせろ、ってことだ。」

 

雄二「……は?そんなんでいいのか?」

 

零次「そんなのって…………。お前にとっては大事なものじゃあないのか?お前達が有利になれるよう、自由にプランを立てられるのだからな……。」

 

雄二「それもそうだが…………。お前の言う通り、本来は敵から貰っていい情報じゃない。だから、もっとこっちが不利になる……、例えば『次の戦争で姫路と近衛の参加を禁止する』とか言い出すと思ったんだが……。」

 

零次「『次の戦争』の相手が必ずAクラスだと限らないだろ……。お前達Fクラスを敵視してる奴は大勢いるからな。」

 

 例えば、Cクラスとかな。アイツらは『木下優子(笑)偽装作戦』で、坂本にまんまと嵌められ、俺達Aクラスと無駄な戦争をした挙げ句に敗北しているわけだからな。霧島の口から真実が伝えられた現状、後はきっかけさえあれば、後先考えずにFクラスに突撃していくだろう。

 正直Fクラスは姫路や近衛の戦力に依存している節はあるが、全員が一つの目標に一致団結している。その団結力は、動機が不純ではあるが、学年一だろう。それにBクラスとの戦争では、最後にトドメを差したのは『保健体育のエキスパート』である土屋だ。その他にも、決して軽視できない生徒はいるし、明久だって徐々に成績は伸びつつある。

 

 とにかく、そういう制限をかけたところで、坂本の頭脳なら、俺達が相手でないなら勝つ可能性の方が高い。

 現状Fクラスに宣戦布告の権利はないだろうって?それなら相手を挑発して、向こうから挑まれるように仕向けばいい。それを禁止するルールは存在しないからな。

 このように、坂本が言うような制限も考えてたが、結局自分達の利益にはならない。ならば現在の状況から確約された近い未来に干渉する方がマシと判断したわけだ。

 

雄二「そうか……。まあ、どちらにしろ、トーナメント次第だろうな。誰が出場するかは一応一通りチェックはしたが、苦戦が必至であるのには変わりないからな。」

 

零次「つまり、当日まで権利をあげられるかは未定。期待は薄め。そう捉えていいか?」

 

雄二「まあ…………そうだな。そう思ってくれていい。」

 

 返答は『拒否に近い保留』。まあ、成功報酬が『教室環境の改善』だから、コイツらにとっては失敗は死活問題に繋がるからな……。

 だが、坂本がそこまで執着してるような感じがしないのは、気のせいか?それとも『学園長から教科選択の権利が貰えた』という事実が大事なのか……?

 何か裏がありそうな気がするな……。ま、今考えてもしょうがないな。

 

零次「了解した。そうだ、折角だ。明久と共にαクラスで勉強でもするか?」

 

雄二「いや…………、誘いはありがたいが、やめておく。作戦会議だってあるんだ。そんなの、お前達に聞かれるわけにもいかないからな。」

 

 作戦会議ねぇ……。となると、明久はどうするか……。αクラスで勉強、その後坂本と作戦会議でもいいが……。

 

零次「そうかそうか、了解した。なら明久は清涼祭が終わるまで、αクラスへの出入り禁止にした方がよさそうだな。うっかり作戦を漏らされでもしたら、優勝できなくなるだろうからな……。」

 

明久「零次、いくら僕がバカだからって、話していい事と悪い事のの区別はついてるよ……。」

 

零次「念には念を、だ。俺に話さなくても、例えば久保とかに、うっかり口を滑らせてしまう可能性だってあるだろう。」

 

 それに、普段から島田の地雷をわざとやっていると思えるレベルで踏みまくっている奴が、本当に話していいことの区別がついているのか、非常に疑わしいからな……。

 

零次「ま、お互いに頑張ろうか。それぞれの目標のために、な。」

 

 さて、行動開始といこうか。


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