バカと無情の試召戦争   作:Oclock

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~前書きRADIO~
秋希「皆さん、お久しぶり~。近衛秋希で~す。なんだかんだで、また2ヶ月近く空いちゃったね……。本当は後書きRADIOもやりたいところだけど、まずはこんな状況から脱却しないと始められないわね……。という愚痴は置いといて、さっさと本編に移りましょう。」


小問5-F 冬の訪れ、秋との擦れ

 時は零次と合流する数分前に遡る。

 

 私達Fクラスの出し物、中華喫茶『ヨーロピアン』は、私の事前予想を覆し、そこそこの盛況ぶりを見せていた。……ちなみに名前に関してのツッコミは吉井くんにして?出し物の案を急ピッチで捻り出そうとして、聞こえてきた単語を適当に拾った結果、こうなっちゃったんだから。

 

 ……まあ、名前なんて、この際どうだって良いかな。トラブルもなく、無事清涼祭の二日間を乗りきれれば、些細な問題よ。いくら私や姫路さんがいるとはいえ、基本自堕落と劣等感の塊みたいなFクラスの出し物にいちゃもんつけるほど暇してる奴は来ないでしょ。そもそも学園祭の出店に妨害をかけたところでされる側はもちろん、する側にもメリットなんて無いしね……。

 

?「マジできったねぇ机だな!これで食い物扱っていいのかよ!」

 

 ……そう思ってた数日前の私を殴り飛ばしたくなった。よくよく考えたら、文句付ける奴が、メリット・デメリットを考えるわけなんてなかったわ。ああいう奴らは、主張が正当かどうかなんて関係ない。気に食わなければ、その場の感情で叩くのだから。

 

秋希「うわ~……。随分、大変なことになってるみたいね。……まあ、段ボールの机しか用意できなかったのはこっちの落ち度でもあるけどさ……。」

 

明久「……あれ?近衛さん、今までどこ行ってたの?大会まではまだ時間あったよね?」

 

秋希「…………ちょっと、野暮用で席を外してたのよ。それよりどうしようか。やっぱりまともなテーブルなしで飲食系の出し物は無理があったみたい……。」

 

?「随分と騒がしいね。他の客にも、店員にも迷惑だ。」

 

 私たちが頭を悩ませていると、一人の少年が割って入って来た。もう少しすれば夏になるというのに、冬に着込むようなコートを纏い、口元はマフラーで隠れていた。

 そんな奇抜な格好で飲食を扱う出店にやってくる奴なんて、私の知っている中でも……いや、世界中探したってたった一人…………。私の弟、冬由(ふゆ)しかいない……!

 その証拠に数メートル後ろからは、さらに何人か歩いてくる姿も見えた。全員それなりにラフな格好はしてるけど、シャツもズボンもカッチリとしている。見る人が見れば、祭りを楽しみに来ているようには見えない。多分全員、冬由の付き人、ボディーガードだ。

 

?「あん?誰だ、お前は。」

 

?「こっちは、ここの責任者に用があるんだよ。お子様は帰ってた方がいいぜ。」

 

 そして彼の姿を見て、驚くことも恐れることもしなかった人も(身内以外で)見たことがない……。アイツと初対面の人でも、謎の寒気を感じるというのに。多分あの二人は余程肝の座った奴なのか、世間知らずの馬鹿なのだろう……。多分後者だ。

 

冬由「……なるほどね。机の正体がみかん箱で、それをクロスで隠してた、ってところか。……確かにこれだけ見れば、飲食の出し物としてはマイナスだろうね。」

 

 そんな先輩の声など気にも留めてないかのように淡々と店内を見渡し、冬由は状況を整理していく。台詞だけ聞いてると、先輩達の肩を持つ言い分みたい。

 

?「ハハッ。そうだよ、そうだよなぁ!」

 

冬由「……だけど、君達が言える文句じゃなくないかい?」

 

 ま、実際は逆だけどね。冬由の評価は『上げて落とす』『下げて上げる』で有名なのだ。

 『どんな一流の店だろうと、常に改善すべき場所は見つかるし、どれだけボロい店だろうと、強みはどこかに必ずある。』冬由が自分のブログに載せている自論だ。それを証明するかのように、彼はどんな店を紹介する時も、その店の良い部分と改善できる部分をそれぞれ必ず一点は挙げている。

 

冬由「文月学園は日本中、いや、世界中で見てもとても風変わりな教育方法をとっていると聞いているよ。生徒の学力に合わせて、学級設備の待遇が変化するとか。もっと嚙み砕いて言うなら、優秀な成績を収めた生徒(人物)には、過剰なほどに豪華絢爛で最先端技術の備わった教育環境が与えられて、逆に毎回赤点を取るような劣等生には、自宅学習の方がまだマシと呼べるほど劣悪な環境での学習を強いられるそうじゃないか。」

 

雄二「……明久、近衛。今のうちに、あの小悪党共の顔を覚えておけ。」

 

 先程まで、何やら秀吉君と話していた坂本君がそう指示してきた。後から報復でもするのか、出禁にするのか……。まあ、何だっていいけど。

 

 それじゃあ、情報を整理しましょう。今、私達のクラスは謎のクレーマーによる営業妨害を受けている。主犯は二人。どちらも外見上性別は男性。実は精神面は女性、という可能性も超低確率であり得そうだけど、本筋とは関係ないので、置いておきましょう。

 一人は中肉中背と一般的な体格で、髪型はその体つきとは対称的にソフトモヒカンと、一般的な髪型からはやや逸れたものにしている。

 もう一人は、坂本君よりちょっと小さめ……だいたい175cmくらいかしら?……で、頭は坊主に丸めていて、なんとも目立つ風体をしている。ウチの野球部でも、そんな髪型にしている人はいないでしょ。

 

 …………と、ここまでクレーマーが特徴を挙げてきたけど、ハッキリ言わせてもらうわ。この二人、召喚大会の参加者なのよね。名前は、坊主の方が夏川俊平、モヒカンの方が常村勇作。どっちも3年のAクラス、しかもどっちも両手で数えられるほどに高い順位に位置していて、成績面『だけ』は優等生なのよね。

 まあ、それは他の3-A生徒のほとんどに言えるけどね。なんでこの学園は、彼らを野放しにしてるのかしら。勉強を教えるだけが学校の役割じゃないでしょ。もしかして、教師側が『そういう』認識でいるとか……?今はもういない山口先生とか八木沢先生の件を考えると、あながち間違ってなかったりして。

 

冬由「……そして、この喫茶を運営しているのはFクラス。成績の面を見たら、劣等生の集団だ。それでも君達が騒ぐ前にそこそこの人の集まりが出来て、運営が出来ているのは、リーダーの統率がいいのか、単純に学力以外の一芸に秀でた人間の集まりなのか…。僕には知る由もないけど。」

 

俊平「……何が言いたい……!」

 

冬由「最初に言いたいことは言っただろう。ここはこの文月学園の中でも劣悪な成績を取っている生徒たちのたまり場。おそらくその段ボール箱は、そこで使われている貧相な設備を今回の学祭用に改造したんだろう。そして、君達が着ているのは文月学園(ここ)の制服。当然、この教室の設備の酷さは知っている訳だ。にも関わらず、わざわざクロスを大袈裟に捲って、怒鳴りたてている。ということはつまり、君達は営業妨害をする目的でこの店に来た、ってことかい?」

 

俊平「んな…………!」

 

勇作「んだと…………!」

 

 ……さて、このまま冬由がクレーマー先輩二人組を論破する光景を見ているのもいいけど、そろそろ時間だ。こちらから誘ったのに、こんなしょうもない理由で遅れた挙句、不戦敗になったりでもしたら、近場の海に沈められかねないからねぇ。それにアイツのことも、ちょっと聞いておかなきゃだしね。

 

秋希「……まあ、とりあえずは大丈夫そうね。とは言え、これじゃあ流石に今の状態のまま喫茶運営は不可能じゃない?」

 

雄二「安心しろ。すでに手は打ってある。」

 

 そういう坂本君の後ろには、秀吉君達が立派な造りのテーブルを運んでくる姿があった。おそらく演劇部で使っている大道具のテーブルだろう。

 

秋希「……なるほどね。よし、それじゃあクレーマーのことはアイツに、その後のことは坂本君達に一旦任せるわ。私はそろそろ召喚大会に出る時間だから。」

 

雄二「そういや、お前は双眼と組んでるんだもんな……。正直、どこか途中で敗退してくれると、こっちは助かるんだがなぁ……。」

 

秋希「残念でした。トーナメント表を見た限りだと、真正面からぶつかって私達に勝てる相手は、まあいないわね。それに、妨害に来たところで、私達ならまず、返り討ちにできる自信があるわよ。」

 

 これから戦うことになる相手の不幸を哀れみつつ、私は零次と合流することにした。

 

 

 

・・・

 

 

 

秋希「ただいま~。そっちの首尾は……。」

 

雄二「お、戻ったか。こっちは、そこそこ調子を取り戻してるぞ。」

 

 私が一回戦を終えて教室に戻ってきたところ、段ボールを積み上げただけの簡素な机は教室から姿を消し、その場所には立派な造りの豪華な机が設置されていた。ただ、置かれた机はサイズはバラバラで、天板にガラスが使われてるものとそうでないものが混在してたり、置き方も乱雑だったりと、統一感なんてものは無い。そもそも結構見覚えのあるものがちらほらとあるんですが……。

 

秋希「……ねえ、まさかとは思うけど、コレ、一部学校の物じゃないの?」

 

雄二「ああ。応接室のと、職員室そばの休憩室と、その他色々、な。いくら学校の物と言えど、そんなの客からすれば関係ないし、一般客が使用中の机を学園側が回収する手段などないだろうからな。」

 

 この代表はなんでこういう悪知恵となると、頭の回転が早くなるのかしら……。いつか、なんかの事件で代表が逮捕された時は満面の笑みでこう言ってやろう。『いつか、こんな日がやって来ると思ってました』って。

 

雄二「それよりも、一つ聞きたいことがある。」

 

 先程までの飄々とした態度をやめて、改めて坂本君は私に向き直る。

 

雄二「さっきの営業妨害についてだ。俺が店に乗り込む直前、見るからに暑苦しい……というか、大分季節外れな格好した奴が入っていって、常夏コンビと口論してただろ。ここまではお前も見ていた通りだ。」

 

 …………常夏コンビ?……ああ、『常』村先輩と『夏』川先輩だから『常夏』、か。なかなか良いネーミングセンスしてるなぁ。

 

雄二「……で、お前が大会の方に行った後もしばらく口論……というよりは、一方的な論破に見えたんだが…………、まあ、それが続いて遂に向こうが殴りかかったんだ。」

 

秋希「うわあ、めっちゃ想像できるわ。どうせ、直前で横槍入れられて返り討ちにあって、逃亡したんでしょ。そこのやり取りで、クレーマーの名前も知った、ってところかしら?」

 

雄二「ああ、その通りだ。ホントお前は頭が回るな。」

 

 まあ結局、今の様子を見る限りだと、冬由の助力でクレーマーは追い出せたけど、客足は遠退いたままみたいだ。もうすぐ昼時になるし、そこで売上を伸ばせないと、坂本君が言っていた『設備改修』も怪しくなってくるかもしれない。

 

雄二「……で、ここからが本題な訳だが、そのクレーマー追っ払ってくれた奴の名前は『近衛冬由』だそうだ。十中八九、お前の弟だろ?」

 

秋希「………………だとして?それが直接君に関係はないでしょ。」

 

雄二「まあな。ただ、ソイツが教室を去るときに言われたんだよ。『秋希姉(あきねぇ)に頼るのはやめろ』ってな。あの時の目は相当怖かった。間違いなく、人に向けていいモノじゃなかったぞ。」

 

 うわぁ…………。坂本君がそこまで言うって、普段から目付きは決して良いとは言えないけれど、一体どんな目で睨み付けてたっていうのよ……。

 

秋希「それは後で霧島さんにでも慰めてもらうとして……。まあ、安心しなよ。その目はそれこそ間違いなく、君じゃなくて、私に向けられた物だから。」

 

雄二「そうなのか?俺はてっきりシスコン拗らせて近くに男がいるのが気にくわないのかと思ったんだが……。だとしたら、お前どんだけ嫌われてんだよ……。」

 

秋希「ウチは結構複雑な家庭事情を抱えてるのよ。弟との軋轢もそれによるものだし……。」

 

 というか、冬由がそんな子だったら、こんな学校通ってないから。

 

雄二「そうか。…………じゃあ、だとしたら結局アイツはなんでここに来たんだ?お前と弟が不仲なら、姉がいる教室に来るのは、ちょっと不自然じゃないか。」

 

秋希「あー……、それは単純な理由よ。Fクラスが飲食系統の出し物をしてたからってだけ。アイツはこれまで全国各地、あらゆる料理……それこそ、三ツ星のレストランから大衆食堂、和食も洋食も中華にゲテモノ料理まで喰らって、厳正な評価を下してきているからね……。」

 

 一流料理人の間では、『アドバイザー』やら『審判員』やら呼ばれてるとか。あくまで噂程度で真偽は不明だけど。

 

雄二「それだけの理由でわざわざ学祭まで来るのか……。とは言え、色んな料理をこよなく愛する姿勢は、いざというときに利用出来そうだな。」

 

秋希「まあ、必要ならこっちから接触してみるのも、悪くないかもね。大丈夫、仲は悪いけど、こっちの言うこと全部無視されてる訳でもないから。実際頭を床に叩きつける勢いで土下座して、それでもお願いを拒否されたことはないし。」

 

 本当はそんなこと一度もしたことないけどね。なんで実の弟に対して、そこまで顔色を伺わなきゃならんのか。

 

雄二「さっきの近衛弟の目を思い出すと、嘘か本当かわからないな……。」

 

秋希「ハハハ……。それよりさ、坂本君。そろそろ私も接客に回っていいかしら?これ以上家族のことを嗅ぎまわられるのも気分悪いし……。」

 

雄二「あー……、まあ、気持ちは分らんでもないな。誰にだって、隠したい()()とか、そんなモンはいるしな……。」

 

 どうやら私が得ている情報以上に坂本君は母親に苦労しているようだ。……まあ…………。

 

秋希「……私にとって母親は…したいほどに……対象だけど……。

 

雄二「…………?な、なんか言ったか?」

 

秋希「…………できれば忘れて…………。」

 

 もしかしたら、悪意しかない先輩が昼時に本格的に嫌がらせをしてくるかもしれない。もっと言うなら、常村&夏川(例の先輩方)がより悪質な方法でこのクラスに打撃を与えてくる可能性すらあり得る。そうなったら、確実にこのクラスの、代表が目標とする金額まで売上を持っていくことができなくなってしまう。『困難』ではなく、『不可能』に……。

 ま、そうならないためにも、二回戦が始まるまで、ひたすら客に愛想を振りまいて、Fクラスに貢献するとしますか。


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