無事一回戦を終えた後、再び俺は店番へと戻った。といっても、やっぱりほとんど暇だ。近衛の話だと、Fクラスには早速……と言うべきか、クレーマーが来たらしい。しかも、詳しく聞けば、3-Aの先輩だそうで。たった2日しか営業しない店に上流階級のごとき振る舞いをしているとは……その先輩方はどれだけ暇なんだ?…………いや、俺が言えた身ではないな。
零次「……さて、と。αクラスの……いや、ついでだから、Aクラスの大会の進出具合でも見てみるか……。」
先程、取材を名目にやってきた青葉先輩から貰ったトーナメント表(二回戦進出者には分かりやすいように赤いマーカーがひかれていた)を眺め、Aクラスやαクラスのメンバーを探していくことにした。
一回戦敗退ペア(Aクラス・αクラス抜粋)
Aブロック
梶恋太 & 塚本大平(2ーD)
(工藤愛子 & 1-B
Bブロック
豊嶋圭吾 & 工藤信二(2ーB)
(3-A宝風月 &2-F 木下秀吉 に敗北)
Cブロック
西京葉玖 & 横沢芽衣
(3-A東堂茜 & 2-E戸祭太子 に敗北)
Dブロック
近藤昇(2-E) & 飯島卓也
(2-C小山友香 & 2-B根本恭二 に敗北)
二回戦進出ペア(Aクラス・αクラス抜粋)
Aブロック
霧島翔子 & 木下優子
加賀屋寛(2ーB) & 森兵恵
工藤愛子 & 木戸藍蘭(αクラス)
Bブロック
井川健吾(2ーB) & 紺野洋平
佐藤美穂 & 真倉ねるの(αクラス)
Cブロック
双眼零次 & 近衛秋希(αクラス)
久保利光 & 影山幽也
Dブロック
吉井明久(αクラス) & 坂本雄二(2ーF)
潮村渚(αクラス) & 緑川罪(3-F)
αクラスが全員参加しているのは当然なのだが、Aクラスもそれなりの数参加していたのだな……。
零次「…………ん?」
今、俺の目の前には、二種類の不審者が映っている。
一つはたった今出てきた客。ソフトモヒカンと坊主頭の二人組だ。学園の制服を着ていること、そして見覚えがあまりないことから、3年生だろうか?この二人組は、さっきから短時間で入店・退店を繰り返している。ちょうど今出てきたので4回目。最初に店に来た時から時間はまだ15分くらいしか経過していない。こんな頻繫に店に出入りして、怪しまれないと思ってるのだろうか……。
そしてもう一つは、カメラを構えた小柄の男性。こちらも学園の制服を着ている。その男は、教室の足元の位置にある小窓から、パシャパシャと頻りにシャッターを切っている。…………前者はまだ不審者『容疑』の域を出ないが、後者は明らかに不審者そのものだ。それに一応知り合いだから、注意するか。
零次「…………今回、お前からカメラを借りたのは、店内治安維持のためなのだが…………。それは店外からの盗撮を許可するものではないのだが、土屋。」
康太「…………!!(ブンブン)」
零次「誤魔化すな、お前の一連の行動は既に録画しているからな?『現行犯で運営委員に突き出す』or『今すぐさっきの写真のデータを消す』……お前はどっちを取る?」
康太「…………一枚百円。」
康太が選択したのは三番目の選択、『買収』でした。
零次「買収しようとするな!反省の色が見えないようだから、現行犯で逮捕し、運営委員会に……いや、それよりも西村先生に突き出すか……。」
康太「……!!(カチカチカチカチ)……………………データは全部消去した。」
零次「念のため確認するぞ?…………それよりもお前、クラスの出し物はどうした?まさか、サボりか?」
康太「…………。(ブンブン)…………敵情視察。」
零次「お前の『敵情視察』は店員をローアングルから撮影することなのか…………。」
そんなやり取りをしていると、明久が坂本と共にやって来た。
雄二「明久、ここはやめよう。」
明久「ここまで来て何を言っているのさ!早く中に入るよ!」
雄二「頼む!ここだけは、Aクラスだけは勘弁してくれ!」
やっては来たが……、何やら坂本は激しく抵抗している様子だ。
零次「毎度のことだと思いたくはないが……。本当に騒がしいな。」
明久「あ、零次。どうしたの、こんなところで。」
零次「店番だ。例えば無銭飲食者が出たときは、店を出る瞬間を狙って確保する。もし失敗した時は机の中にある、この無線を使って、運営委員会に応援を要請する……とかな。」
明久「へえ。近衛さんから去年のことを聞いてたから、また仲間外れにされてるんじゃないか、って思ってたけど、楽しんでいるようでよかったよ。」
零次「……………………それは嫌味か?」
どうやら、さりげなさ過ぎて、洒落には気付かなかったようだ。
明久「ええ!?いや、別にそういうつもりじゃ……。」
零次「冗談だ。まあ、いくらなんでもクラス代表を邪険に扱うのは無理があるだろうからな。」
そんなことがあったら、流石に高橋先生も黙っちゃいないはずだ。
零次「……それで?お前達は何しに来た?単純に昼食をとりにきたのか、敵情視察か、それとも………………営業妨害じゃないことだけは願いたいが。」
最後の方は語気を強めて言った。ただでさえ、またいつ現れるかも知れない不審者の問題を解決せねばならないのだ。そこにコイツらが問題を起こすようなことがあったら、手に負いきれないぞ。
そんな中、最初に口を開いたのは、案の定坂本だ。
雄二「広義では敵情視察かもな。ウチの店の悪評を流している奴がこの店に来ているらしい。」
零次「悪評だと?中の会話はほとんど聞こえないから誰かまで特定はできないが、頻繁に店を出入りしている先輩二人組が怪しい気がするな。」
明久「二人組?やっぱり常夏コンビの仕業なのかな?」
零次「怪しいのは店の出入り頻度が高いだけじゃない。タブレットで店内を監視しているんだが、あの二人はメイドの案内も待たず、店の中央の席に座ることもあった。それから少しの間何か話している様子なんだが、その後何も注文せずに店を後にする。どう考えても不自然極まりないだろ。後一回……または二回同じことを続けるようなら…………とも考えてたんだが、どうする?お前達に任せてもいいか?」
『仏の顔も三度まで』なんてことわざがあるが、今回の場合、その『三度目』はとっくに過ぎている。だが俺の立場上、相手が何かしらの現行犯でなければ、いちゃもんをつけられて、こちらが不利になる。
雄二「そうだな、そうしてくれ。元々俺達のところで起きたことだし、それに…………お前に貸しを作りたくないからな。」
零次「実にお前らしい答えだな。それじゃあ、奴らをとっちめる作戦でも思いついたら連絡してくれ。作戦の根幹は任せるが、退路を塞ぐ人員も必要だろう?それくらいは手伝わせてくれ。」
こっちも多かれ少なかれ迷惑を被っている訳だ。坂本らが問題を誘発して、例の不審行動を繰り返す先輩らを巻き込んでくれれば、それにたまらず逃げ出してくるところで足を引っ掛けるなどして、足止めくらいはできる。ついでに怒りの矛先がこっちに向いてくれれば万々歳だ。
こうして、話は纏まっていき、坂本と明久……そして話の途中から合流してきた姫路らと共に、Aクラス教室……もとい、「メイド喫茶『ご主人様とお呼び!』」へと入店していった。
……そういえば、今回のメンバーの中には、明らかに小学生かそれ以下の女児もいたのだが……。明久達と一緒にいて、変な騒動に巻き込まれないか心配だな……。
~後書きRADIO~
秋希「さあ、第22回目の後書きRADIOを始めましょう!」
零次「今回の話のタイトルなんだが、『
秋希「というわけで、今回のゲストは、そんなふざけた店名の生みの親に来てもらいました!」
優子「……なんか、そんな理由で呼ばれたって言われると、気分が落ち込むわね……。あ、えーと、木下優子よ。」
零次「今回の話でAクラスとαクラスの大会出場メンバーが判明したな。……本作の話には大して関係はないが。」
秋希「まあ、どうせ誰が勝ち上がってくるかなんて、大体分かりきってるでしょ。」
優子「身も蓋もない言い方するわね……。まあ、吉井君と坂本君がちょっと気になるけど、貴方達が負けるところとか、想像つかないわね……。決勝で戦えることを楽しみにしているわ。」
零次「……そもそも、決勝以前に準決勝に行けるかどうかも、怪しいんだがな……。」
優子「え?」
秋希「ところで、Aクラスはどうしてこんなネーミングになったのよ……。」
零次「…………きだ……。」
秋希「え?」
優子「あー、名前はくじ引きで決めたのよ……。これでも色々悩みに悩んで浮かんだのがこの名前なんだけど……。まさか、当たるなんて…………。」
秋希「それはお気の毒なことで…………。ところで、つかぬ事お聞きしますが、この店名は一体どこから持ってきたの?なんか、最近古本屋で似たようなタイトルの本を見かけたような……。」
優子「うええっ!?き、気のせいじゃ、じゃあないかしら。ハ、ハハハハ……。」
(言えない…………。最近読んでいるBL本のタイトル『執事様とお呼び!』から引っ張ってきた…………、なんて、言えない!)
零次「まあ、お前の趣味嗜好がバレるのも時間の問題だろうがな……。」
優子「……どういう意味よ?」
零次「お前、Cクラスとの一件を忘れたわけではあるまい。秀吉がまたお前に成りすますような機会があれば、確実にやらかすだろうよ。アイツはお前が学校でどういう生活を送っているか、あんまり知らないだろうし、興味もないようだからな。……アイツの良心も意外と当てにはならんものだな。」
優子「だ、大丈夫よ。秀吉だって、その件で痛い目をみたんだし、アレ以上私に迷惑をかけるようなことはしないでしょ。」
零次「痛い目をみせた本人がそれを言うか?そもそも去年の時点から、何かとお前に恨みがあるような素振りを俺には見せてたぞ?よかったな、アイツが勉学を疎かにしてでも演劇に熱を入れるような奴で。それでいて、問題児達と付き合いがありながらも、良識を持ち合わせた人物で。さらに言えば、情熱を注ぐ『演劇』そのものがアイツにとってのストレス発散の場にもなっているのだろう。」
秋希「その他諸々の要因はあるかもしれないけどね……。でも、零次が挙げた要素のどれか一つでも欠けていたらきっと………………。」
零次「『優等生の木下優子』はもう既にいなかっただろうな。」
優子「……………………。(ガタガタガタガタ)」
零次「……さて、今回の話はこれくらいにしておこう。」
秋希「次回は、Aクラスに頻繁に顔を出しているというクレーマーを吉井君達が撃退する話ね。……作者の視点だと、今回の章で一番ではないけど、必ず入れたい場面ってことになるのかしら?」
零次「それでは……。」
「「「次回もよろしくお願いします!!」」」