明久「こ、この上ない屈辱だ……!」
秀吉「明久、存外似合っておるぞ。」
明久が何やらメイド喫茶の制服(もちろん、未開封の予備だ)を持って店を出てきたため、ちょうど大会から戻ってきた久保に店番を任せ、彼らについていったところだ。
明久「まさか、ここまで完璧に着付けをされて、メイクまでやられるとは……。」
秀吉「そうは言うがのう……。変にお主らしさを残して、いざバレでもしたら、そっちのほうが恥ずかしくないかのう?」
零次「その通りだ、明久。分かっていると思うが、今回の作戦のキーはお前が握っている。つまり、お前達Fクラスの文化祭の成功・失敗は、全部お前にかかっているということだ。故に失敗は絶対に許されない状況、身バレ防止のために変装は完璧にこなさねばなぁ……。」
坂本から話は一切聞いてないが、今この状況を見るだけで、奴が何を考えているかは大体想像できる。明久を
零次「……ま、普段なら絶対にしない格好だから、気味悪く感じる気持ちも分からんでもない。だが、だからってコソコソしてるとかえって怪しまれるぞ。逆に言えば、敢えて開き直り、堂々としていれば……。」
文「ネタの匂いはここですかー----!!」
零次「うるせぇな!……って、青葉先輩ですか。何なんですか、いきなり。」
明久に作戦実行に際しての心構えみたいなものを説いている最中、広報部の部長である
秀吉「お主は確か、新聞部の部長じゃったか?一体、何をしに来たのじゃ?」
文「あややややややや。そんなの、何やら面白そうなネタの予感を感じ取ったので、大会をサッサと決着をつけて、木地君を振り切り、ここにやって来たに決まってるじゃないですかー。……それと木下君、ウチは『新聞部』ではなく『広報部』なので……以降お間違えなきよう…………。」
過去の腐敗しまくった部活の名前を出されて、大変ご立腹のようだ。……まあ、そんな『新聞部』なのだが、近衛曰く、かつての部員は未だにしぶとく水面下で活動しているらしい。……あくまで噂のレベルで、決定的証拠みたいなものは、まだ見当たらないみたいだが。
文「あや~。それにしても、いいですね、いいですねぇ。その表情、華奢な体型、どう切り取っても最高ですよ!あ、もう少し恥じらいの表情とか浮かべてくれます!?女装している今のあなたは、とっても輝いてイッタアアアアア!頭ァァァァ……。」
そうやって、明久の写真を大量に撮っていたところ、青葉先輩はいきなり拳骨をくらい、その場に倒れこんだ。その手の行方を追うと、そこには広報部副部長の
標示「ようやく見つけましたよ……!上から下まで…………!旧校舎から部室棟に新校舎まで……!そうして……あなたが……行きそうな場所を……『予測』して……先回りしても……見つからないしで…………!だから祭りは……嫌いなんですよ、毎度毎度…………!」
文「あややや……イタタタ、もう見つかってしまいましたか。ですが既に写真は撮影済み!あとはここからトンズラするだけです!」
標示「…………ここは3階ですよ?まさか、向こうの窓から飛び降りるつもりですか?」
いや、流石に無理があるだろう。木地先輩の言う通り、俺達二年の教室は、3階にある。目の前のバカは、その気になれば平気で飛び降りそうだが……。ここから飛び降りたとて、まず無事ではいられないのは確実だろう。
文「…………くっ、そうですね。以前の私でしたら、あなたから逃げるため、最短経路でネタの元に辿り着くために、そういう自殺行為に等しい行動をも厭わなかったでしょう……。ですが、あなたの『予測』を前にこれ以上逃げてもそれに釣り合うリターンは無さそうですし、それに一度だけそれをして、足を捻ってますからね……。ここは、大人しくお縄につくとしましょう。大変不本意ではありますが。」
やったことがあるのかよ……。しかも、案の定無事では済まなかったらしい。
標示「賢明な判断、感謝いたしますよ。…………それに先程、あなたのクラスに立ち寄った時、ある生徒が『トラブルが発生した』と言っていたので……。早く戻ったほうがいいですよ。」
文「あやややややややや、トラブルですか!?それを早く言ってくださいよーー!折角、学園長から許可をもらって、広報部として新たなスタートを切ったばかりなのに……。学園内に限らず、学園外の人間にも私達のことをアピールする機会!絶対に失敗はあってならないんです!というわけで、私はマッハで戻らせていただきますー----!」
ダダダダダダダダ……
現れ方から去り際まで、とにかくやかましい人だったな。
零次「……さて、大分時間を食ってしまったようだが、そろそろ覚悟を決めろよ、明久。周囲の込み具合を確認した後、お前達に合図を送る。」
明久「さっき、思い切り写真を撮られたんだけど……。」
零次「青葉先輩なら心配ない。後で掲載許可くらいは貰いに来るだろ。その時に写真データを削除するよう、お願いすればいい。それより早くしないと、奴らが帰ってしまうぞ。」
さあ、行動開始といこうか……。
・・・
利光「あ、代表、お疲れ様。」
零次「どうだ、久保。あれから例の二人の様子は。」
明久達より一足先にAクラス教室前に戻り、店番を頼んでいた久保に話しかける。昼時ではあるが、人混みはまばら。サッと合図を送る。
利光「相変わらず、大声でゲラゲラ話しているようだよ。『2-Fの中華喫茶は酷かった』とか、『料理には虫が混入してた』とか、『店員の態度も最悪。いきなり自分達に殴りかかってきた』とかね……。」
零次「そうか……。先程明久達から聞いた情報と纏めると、あの二人組……夏川俊平と常村勇作は、2-F内で妨害を仕掛けていたようだ。だがそれが失敗して、二の矢で人が多く集まるであろう、昼時の飲食店で悪評を広めようって魂胆なんだろうな。もしくは一度目の妨害で客が少しばかり離れているから、作戦の第二段階に移ったとも考えられる。まあ、どちらにしても、今俺達の店で騒いでいる事実に変わりはないから、こっちの対応にも変更はないぞ。」
利光「……分かった。吉井君達が店内でなんとかするから、僕達は退路を断つ。…………ところで、肝心の吉井君は?」
……よし、どうやら気づいてないらしい。俺が会話で注意を引いていたのもあるが、この距離で違和感を持たれないなら、あの先輩達にも通用するはずだ。
明久『お客様』
勇作『なんだ?……へぇ。こんなコもいたんだな。』
俊平『結構可愛いな。』
案の定、全く気づいていない。とはいえ間近で舐めるような視線を浴び続けてる本人からすれば、溜まったもんじゃないだろう。……あとで昼飯か何か奢ってやるか。
利光「…………もしかして、アレが吉井君?」
零次「察しがいいな。まさしく、『偽装メイドで悪質クレーマーを冥土に送ってやろう作戦』だ。」
利光「なるほど。『メイド』と『冥土』が掛かっているのか。それにしても……作戦名が長いね。」
零次「なら略して『偽装メイド作戦』としよう。これ以上使用用途があるかは知らんが。」
さて、作戦は順調かな?開け放たれたドアの方に視線を移すと……。
明久『くたばれぇぇっ!』
俊平『ごばぁぁっ!』
坊主の先輩にバックドロップを食らわせた明久(メイド服着用)の姿が。…………そこまでする必要あったか?
明久『こ、この人、今私の胸を触りました!』
凄いな。あんな豪快にバックドロップを見せた後に、痴漢冤罪に話を持っていくとは……。いくらなんでも
俊平『ちょっと待て!バックドロップする為に当ててきたのはそっちだし、だいたいお前は……。』
利光『絶対に許さん!!』
俊平『ぐべらぁっ!』
零次「久保ォォォッ!」
アイツ……。何の躊躇もなく、先輩を殴りに行きやがった……!もう、収拾つかねぇよ……。
茜「なぁんだぁ?ちょっと来ない間に、随分賑わってんなぁ。」
零次「東堂先輩……。数時間ぶりですね。」
茜「なぁに。今回はちゃんと客としてやって来たぜぇ?ちょうど昼時で腹ぁも減ってきたしなぁ……。」
この事態から目を背けることも視野に入れ始めた瞬間、東堂先輩が再びやって来た。この文化祭の運営委員長を務めている彼女がこのタイミングでやって来るのはとても都合がいい。
茜「それよりよぉ、あそこにいるのって……、ウチのクラスの夏川と常村じゃねぇか。アイツら、自分のクラスの出し物そっちのけで、いつまで油売っていやがる……!」
零次「ああー……、それが先ほどから、他店の営業妨害のためだけに、何度も訪れているのですよ……。そのうえ、つい先程は従業員にセクハラ行為を働きまして……。」
茜「双眼、これ以上はよい。……これは少々話をするだけじゃあ、済みそうもねぇなぁ…………。」
そう言いながら東堂先輩はボキボキと拳を鳴らしている。
勇作『くっ!いくぞ夏川!』
俊平『こ、これ、外れねぇじゃねぇか!畜生!覚えてろ変態めっ!』
クレーマーの先輩方は旗色が悪くなったのか、退散しようとしているようだ。しかも坊主の先輩の方はブラジャーをおみやげにして。……いや、メイドの格好をした男子生徒と頭にブラをつけた男子生徒だったら、明らかに後者のほうが変態なんだが……。明久が押し付けたのか?
ドンッ
俊平「……っ痛ぇ……。クソォ……、テメェ、何ここで突っ立ってやが……る…………んだ……。」
勇作「オイ、夏川。何止ま…………って……。」
茜「ヨウ、お前ら。後輩どもに迷惑かけて食う飯は、どんな味だ?あぁ?」
だが、タイミングが悪かった。既に客用唯一の出入口は俺と東堂先輩が封鎖している。あと30秒ほど早ければ……、いや、関係ないな。間接的にだが、俺の邪魔をした以上は、見逃がすつもりなどないのだから。
勇作「と…………東堂…………。」
茜「お前らぁ、休憩時間はとっくに終わってんのによぉ、いつまでほっつき歩いていやがる。それに隣のAクラス代表からも、お前らが従業員への痴漢行為を働いていると報告があった。」
雄二「ああ、その話は本当だ。さっきもウエイトレスの胸をもみしだいていた挙句、ブラジャーまでパクっていったからな。坊主の先輩が被ってる下着が動かぬ証拠だ。」
足止めしていたおかげもあって、坂本も余裕で追い付いてきた。これで先輩方は包囲された。逃げ場はないし、既にこちらは相手の情報を十分に握っている。先輩らの担任に証拠映像とともに告発すれば何かしら処分は下るだろう。……つまりは、チェックメイトだ。
勇作「…………ふ、ふざけんな!こっちは、ただ楽しく談笑してただけなのに、そっちがいきなり夏川にバックドロップ食らわせたうえに、下着まで押し付けてきただろうが!被害者はこっちだ!」
雄二「『楽しく談笑してただけ』?その言い訳は苦しくないか、先輩よぅ。今の時間は丁度昼食時で客もそれなりに入っているし、そうでなくとも、店には会話の内容を一言一句違わず記憶しているウエイトレスがいるんだ。証人には事欠かないぞ、先輩。」
零次「そうでなくとも、会話の内容が似通ったものを大声で話していたら、他の従業員だって嫌でも覚えるだろう?あなた方が、何度も店に出入りしていることは確認済みだからな。」
証拠の動画もキッチリ録画してある。今この場で東堂先輩に引き渡すことも可能だ。
茜「まあ、何であれよぉ。清涼祭の運営委員長を務める身としては、トラブルが起きたからには、キチンと解決せにゃならねぇよなぁ。詳しく話を聞かせちゃぁ、くれねぇか?」
俊平「じょ、冗談じゃねぇ!コイツらのデタラメな言葉に耳を貸す気かよ!俺達優等生と、そこの問題児二人、どっちの言葉が信用に値するか、聞くまでもないだろ!なあ、東堂!」
コイツ……、自分の状況が不利だからって、学校での立場を利用して、何が何でも正当化しようとしてきてる。この人達、本当に東堂先輩と同じクラスなのか?
茜「…………はぁ。そんなのよぉ、答えるまでもねぇ。」
俊平「そ、そうだよな!コイツらみたいなクズ連中の言うことなんて、聞く必要……。」
茜「自分の役目を他人に押しつけて、陰湿な後輩イジメをする同級生とよぉ……、普段は問題児だが、学校行事にはクラス一丸となって全力で楽しむ後輩……。アタシがどっちの言葉を信用するか、それこそ聞くまでもないんじゃないかぁ……?あぁん!?夏川俊平ィ!常村勇作ゥ!」
「「ひぃっ!」」
東堂先輩の怒号が校舎中に響き渡る。扉がずっと開けっ放しだったから、メイド喫茶の客はもちろん、他のクラスの出し物を楽しんで出てきた人達も、全員が俺達に注目する。
そりゃそうだ。東堂先輩は所謂『天才』と言われる部類の人間だ。勉強するのは必要最低限の所だけ。それ以外の時間は、家事手伝いをこなし、休日はボランティアに行ったり、市内外問わず開催されるあらゆる祭りに参加したり…………。とにかく地域との交流を大事にしていると、本人から聞いたことがある。
そんな彼女からしてみれば、祭りを楽しむ者の評価が高くなるのは当然のこと。逆に、クレーマーの先輩方みたいに、勉強の出来不出来『だけ』で人を判別する人間を冷たい目で見るのも、当然のことなのだ。
茜「テメェらは、祭りを侮辱し、後輩を傷つけ、これだけ他人に迷惑をかけておきながら、自分は悪くねぇと言い張り続けやがったぁ……。アタシをここまで怒らせといて、ただで帰しはしねぇぞ。今から西村先生か小林先生んトコ行ってぇ、罪を洗いざらい白状したうえで、反省文がわりの補習でも受けてもらおうかぁ。」
勇作「わ、悪かった、東堂!Aクラスの奴らに迷惑をかけたことは謝る!」
俊平「ああ、常村の言う通りだ。それに東堂、お前ここに昼飯食いに来たんだろ?俺達がお前の分の飯代、立て替えるからさ……。」
茜「黙れ。もうお前らの言うことやること、全部信用ならねぇんだわ。それに、『Aクラスに迷惑をかけた』だぁ?それ以上に被害被った場所があんだろうが。それを理解するまで、お前らに祭りを楽しむ権利はやらん!お前らだってその方がいいよなぁ?自分達の仕事サボって、後輩に迷惑をかける暇があるほどに、周りとの協調性より勉強が大事だって思ってんだからよぉ……。」
もはや、東堂先輩は彼らの言葉に耳を傾ける気はないらしい。先輩二人の襟首を掴んで、さっさとこの場を去っていったのだった。折角、昼食をとりに来たのに、その先でこんなクラスメイトの尻拭いをさせられたのでは、もう東堂先輩は二度と来ないだろうな……。
…………と、そんなことをしていたら、もう少しで大会の二回戦が始める時間だ。今度は俺が遅れそうになってしまっては、近衛に一回戦のことを蒸し返されかねない。さっさと会場に向かうとしますか。