バカと無情の試召戦争   作:Oclock

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~前書きRADIO~
零次「双眼零次だ。久しぶりだな、と言っても2ヶ月くらいだが……。いくら趣味100%で書いているとはいえ、ありがたいことに読んでくれている人がいるんだ。これからも更新はマイペースでしていくつもりだそうだ。少なくとも、余程のことがない限り、途中で頓挫するつもりはない。それでは本編を見て行ってくれ。」


小問6(4) 波乱の二回戦(Aクラスside)

秋希「やあやあ、零次君。君が約束の時間に遅れてくるとは珍しいね。誰かに足止めでもされた?それともAクラスも私達同様、飲食系の出し物だから……、クレーマーの対応にでも追われたのかな?」

 

 二回戦開始前。零次より先に会場入りしていた私は、一回戦前の零次のセリフをお返ししてやった。

 こういう聞き返しをしている時点である程度答えは予測しているけど、零次が時間に遅れた理由は確実に『クレーマーの対応』が理由でしょう。そもそも、零次を妨害なんて出来る人間など、そうそういないからね。

 

零次「…………俺達が一回戦を戦う前に、俺がお前に投げかけた質問の形式をパクったな?お前の予想する通り、答えは後者。もっと言えば、お前のところに来たクレーマーと……多分同一人物だ。」

 

 零次の所にもクレーマー?しかも私達の所に来ていた人と同じ?もし本当なら、あの先輩方はどれだけ暇なのよ……。

 

秋希「……その『クレーマー』ってもしかして、上に尖った髪型と、坊主頭の二人組だった?」

 

零次「そうだ。明久からも聞いていたが、やはり同一人物だったか……。」

 

 やっぱりか。冬由にボロクソ言い負かされたのに、まだ懲りずに他所の店で営業妨害を仕掛けていたとは。しかも、零次の監督下にある場所(テリトリー)でそんな行動に出るなんて、怖いもの知らずのバカなのか、零次に本気で勝てると思ってるバカなのか、…………それとも自分達が何をしても許される立場だと思ってる馬鹿なのか。

 

秋希「それは大変だったね……。」

 

零次「まあ、実際対処に取りかかったのは明久と坂本だし、後処理に動いたのは東堂先輩、久保、霧島の三人だしな……。俺は何もしちゃいないさ。」

 

 そうして駄弁っていること数分。一回戦と同じように、運営委員会の生徒の指示に従って、私達はステージへと上がる。一般公開は四回戦から行なわれるからか、まだ人は少なく、空席の方が明らかに多い。それでもここに来ているのは、敵情視察に来ている殊勝な人か、大分暇を持て余しまくってとりあえず来てみた、って人だろう。

 

零次「……近衛、一回戦は俺一人で戦わせたんだ。次はお前の番だからな。」

 

 二回戦の勝負科目は英語。零次も私も点差は殆どないけど……。零次の言う通り、一回戦は私の独断で零次一人で戦わせたわけだし、どこかで私が同じ立場に立たなければ、釣り合いが取れない。

 自分に要求を出しておいて、相手は同じ要求に答えない。それは、零次が嫌うことの一つだからね。

 

秋希「……わかった。零次なら、そういうと思ってたよ。対戦相手の先輩方には悪いけど、私達のチームワークは三回戦までお預けだね。」

 

?『この世に悪臭蔓延る限り!』

 

?『その臭い、俺らが消し去ってやろう!』

 

 スピーカーから対戦相手の口上らしき声が聞こえたかと思ったら、その直後、トランペットとドラムを主軸とした、アップテンポのメロディーが流れてきた。何かの特撮ヒーローの主題歌かな……?音楽を多少は聞きかじっているし、特にアニソンはメジャー・マイナー問わず網羅している。けど、この曲は聴きなじみが全くない。

 …………まさか…………自作している……?それに…………コレ、一回戦の時もしていたのかしら?だとしたら、大層手の込んだ演出だこと。

 

 ……けど、そんな疑問も些細なことに感じられるほど、不可解な事があった。その謎はすぐに零次の口から出てきた。

 

零次「……なあ、一応聞くが、今俺達は二回戦を戦うんだよな?そして対戦相手も間違いないんだよな?『何故か明久達の声が聞こえるのだが……。』」

 

 これは『私達』にしかわからないことだけど…………。今聞こえている声は、Fクラスの二人組、吉井君と坂本君のものに酷似しているのよ。本人達が事前に録音していた可能性も頭を掠めたけど、わざわざそんな小ネタを仕込む必要など皆無なはずだし、そもそも今回の『対戦相手』と、二人は面識がないはずだ。

 

 というか、これってあの二人に限った話ではないんだけど、私達二年生って、三年の先輩達とほとんど交流なくないかしら?私は既に情報として仕入れているけど、多分二年生で三年のクラス代表を答えられる人は一人もいないんじゃない?

 

明久?『安らぎを与える薄紫の香り。ラベンダーパープル!』

 

雄二?『爽やかさ広がる薄荷の香り。ミントグリーン!』

 

『『芳香戦隊ラベンジャーズが二人、ここに見参!!』』

 

 …………あ、いつの間にか、口上も終わりを迎え、ステージ上にはヒーロースーツ着込んだ二つの人型が立っていた。ごめんなさい、対戦相手のお二方。もし、次にまた見る機会があったら、その時は一言一句、一挙手一投足に至るまで見逃しませんから。

 

 さて、それでは対戦カードを見ていきましょうか。

 

 

 

2-F 近衛秋希

2-A 双眼零次

 

VS

 

3-C 上野糸広(うえのひろし)

3-C 鈴木達男(すずきたつお)

 

 

 

 3-Cの先輩方ですか……。青葉先輩が代表で、印象としては、『バリバリのオタク集団』ってところ。とにかく、勉強以上に、自分の趣味に時間とお金と労力を費やす人達が多い傾向があるクラスなのよね。

 傍目からだと、Fクラス以上に勉強していないように見えるけど、クラスの順位が物語っているように、ちゃんとやることはやっている。勉強にも精をだし、趣味を謳歌する。文月学園で最も人生をエンジョイしてるクラスじゃないかしら?

 

達男「ここで会ったが百年目!『死神』双眼零次よ、お前が行なってきた、罪の数々。今ここで、その全てを裁いてやろう。そのためにも、まずは近衛秋希をお前の呪縛から解放する!」

 

 ……はい?

 

糸広「君がどうやって彼女を籠絡したかは知らない。だけど、君のくだらない野心のために、何の罪もない女性を巻き込んでおいて黙っているほど、僕らの心は広くない!」

 

秋希「…………あのー、先輩方?その台詞って、あくまで先輩方のショー?の演出ですよね?身も蓋もないこと言いますけど。」

 

 どうも上野先輩達はやたらと零次だけを『敵』として見ていて、私を被害者のポジションに置こうとしているように見えるのよねえ。一応、私も対戦相手の頭数に入るはずなのに…………。

 

達男「ホント、身も蓋もないこと言うな……。ただ、それの答えはノーだ。最初の口上こそ台本通りだが、そこから先は100%アドリブ。俺達は本気で君を救いたいと思ってる。」

 

 ヒーロースーツの頭部分を脱ぎながら、鈴木先輩がそう答え、上野先輩はやや戸惑いながらも頷いた。つまるところ上野先輩達は、私が、零次の陰謀の片棒を担がされていると、本気で思っている訳だ。

 

秋希「へえ……、そうですか……。その割には、助けてもらった記憶が一切ないのですが……?」

 

糸広「それは……、正義のヒーローの主な仕事は、悪人を退治することだからね。善良な民間人の助けとなるのもヒーローの責務だけど、『悪』をこの世から消し去ることの方が大切なのさ。」

 

 うーん……。上野先輩のヒーローのイメージが大分偏っている気がする。なんというか……、本当に『正義』とか『平和』を目指しているというより、『正義のヒーロー』を自称して、善い行いをしている自分に心酔しているだけにも思えるのよね……。

 

達男「……話が逸れたな。とにかく、双眼零次!お前にはこれまで何度も近衛秋希を解放するよう言ってきた。だが、その度にお前はその要求を突っぱねてきた。『そもそも近衛秋希を縛り付けてなどいない』とか、くだらない噓を並べてな……!」

 

 ああ……、やっぱり『黒』だ。この人達も完全に、人の言うことを聞き入れちゃいないわ。こういう、自分の行いが全て正しいものだと信じ込んでいる人を相手にする時ほど、面倒くさいと思うことはないわね。

 

達男「だが、その押し問答もそろそろ終止符を打たせてもらう!双眼零次、これ以上近衛秋希と関わるな。さもなくば、こちらも手段は選ばんぞ。」

 

零次「そうか…………。ならここは、おとなしく先輩の意向に従うとしようか。そういうことだから近衛、お前はもう自由に行動していいぞ。」

 

秋希「へーい。ま、言われずとも、そうさせてもらうけどね。」

 

 鈴木先輩の態度に、そろそろ零次もウンザリしているみたい。なら、私がとる行動は決まっている。その独善的な勘違いから生まれた隙、しっかり突かせてもらいましょうか。

 

達男「……なんだと?」

 

秋希「あれ?どうして不審がるのです?助けてくれると言うのは…………やっぱり嘘なんですか……。」

 

達男「そうではない……。双眼零次、何を考えている?何の見返りもなく、お前が近衛秋希を開放するとは思えん……。何か罠でも仕掛けているのか?」

 

零次「随分疑り深いようですね……。ですが、安心してください。『俺は』何も企んでもいなければ、罠の類を仕掛けてもいませんよ。そもそも、そういう手法を取らなければ勝てないほど、俺は弱い人間じゃあないのでね……。」

 

 先輩二人の味方につくことを印象付けるように、さらに先輩のそばへと歩み寄っていく。ついでにさり気なく、二人の後ろに召喚獣が現れるように、立ち位置を調整しましょうか……。

 

「えー……それでは皆さん、召喚してください。」

 

「「「試獣召喚≪サモン≫!!」」」

 

 偶然か見計らってか、私が良いポジションにつくと同じタイミングで先生から指示が飛んだ。そして、いつものごとく掛け声に合わせ、召喚獣が姿を現す。

 

糸広「さあ覚悟しろ、双眼零次!君がこの大会での企みはここで終わらせる!今こそ、正義のヒーロー『ラベンジャーズ』の鉄槌を……!」

 

パァン、パァン

 

 

 

[フィールド:英語]

2-A 双眼零次・・・NONE

 

2-F 近衛秋希・・・502点

 

VS

 

3-C 上野糸広・・・117点→戦死

 

3-C 鈴木達男・・・188点→戦死

 

 

 

 いやー、後ろがガラ空きで楽に勝てましたねー。

 

秋希「はい、私達の勝利ってことで。零次、さっさと教室に戻るよ。」

 

零次「お前…………本当に性格悪いな。」

 

 何を今更。私が『そういう』性格をしてることは、零次本人が一番よく分かっているでしょうに。

 

糸広「な…なぜ……だ……。双眼零次の支配を抜けて、僕達の味方についたはずじゃ……。」

 

秋希「何言っているんですか、先輩。私が零次を本気で裏切るわけないじゃないですか。」

 

 『今のところは』…………って但し書きがつくけどね。

 

零次「そもそも、近衛のことなど、こっちは全く縛りつけていないしな。それとも、誰かから聞いたのでしょうか?『俺が近衛秋希を脅して無理矢理大会に出場する権利を得た』と。」

 

糸広「え…………や……それは…………。」

 

零次「……証拠もないのに、俺を勝手に悪者扱いして、近衛を勝手に被害者に仕立て上げて、挙句は俺達を勝手にあなた達の演目に巻き込んだのか……。先輩方の普段の行動がどんなものかは、俺は全く知らないし、知りたいとも思わない。だから、あなた達の言動を否定も肯定もする気はない。だがもし、先輩方がこういう活動を普段からしているなら…………、あえて言わせてもらいますが、それは『正義のヒーロー』じゃなくて、ただの『ヒーロー気取りの迷惑野郎』だ。」

 

 うわあ…………、ぶっちゃけ、性格の悪さは零次の人のこと言えないわ。相手のメンタルの傷口に塩を塗り込むようなこと言うんだもの……。まあ、同情はできないけど。

 

零次「全く……アニメが好きでも、漫画が好きでも、ゲームが好きでも、その他何が好きだろうと、そんなものは個人の勝手、他人が騒ぐことじゃあないが……。自分の価値観こそが絶対だと考えるような、そんなエゴに取り憑かれた正義のヒーローだけは、この世にいて欲しくはないな……。」

 

 何も言えず放心している先輩達に冷たい視線を送り、零次はさっさとステージを去っていった。

 …………私も教室がまた危機に晒されていないか心配なので、早めに教室へ戻るとしますか。

 

 

 

・・・

 

 

 

零次「さてと、久保。普段のお前と比べると、大分派手に暴れたな。」

 

 二回戦を終えてAクラス教室前へと戻った。そこで、ずっと店番を務めていた久保に先程クレーマーの一人をぶん殴ったことについて、問い質していた。

 

利光「ごめん、吉井君のことだから黙っていられなくてね……。たとえ、噓でも冤罪でも……。」

 

零次「まあ、仲間が酷い目にあっている所に、後先考えず飛び込んでいく勇敢さは称賛したくはあるが……。」

 

 噓や冤罪だと分かっていて、それでも明久の味方をすると宣言するのは、少々危なっかしくも思えるのだがな…。とはいえ、まだ様子見でも問題ないか?

 

 そんなことを思案していると、何やら旧校舎の方が騒がしくなってきた。また坂本あたりが何かトラブルを起こしたのか……?と思ったが、その原因は6つの人影。それがどんどんこちらへ近づき…………、床に頭をぶつける勢いで土下座を行なってきた。

 

糸広「…………本ッ当に…………すいませんでしたぁぁぁぁぁぁ!」

 

 人影の正体は、先程の対戦相手である上野先輩達だった。

 

零次「誰かと思ったら、上野先輩と鈴木先輩ですか。ついさっきぶりですが、どうしたんです?」

 

糸広「……重ねて、本当にすまなかった……。君を悪者だと決めつけて……、酷い暴言を吐いてしまった……。ヒーローにあるまじき行為だったと思うよ…。」

 

達男「近衛秋希から二人がコンビを組むまでの経緯を、ついさっき聞いてきたんだ。結果、双眼零次…………お前の言った通りだった。俺達は噂に踊らされ続けた道化だったってわけだ。」

 

 なるほど。旧校舎の方からすっ飛んできたのは、近衛に話を聞きに行っていたからか。……もっとも、今は昼時を少々過ぎたあたりだ。遅めの昼食をとりに行ったか、小腹を満たしに行ったか……そのついでだろうな。

 

達男「それで、だ。双眼零次、きっとお前のことだ。ヒロの謝罪程度で俺達のことを許してくれるわけじゃないだろ?」

 

零次「そりゃそうだ。」

 

 というか、それが普通だろうよ。謝るだけで全て水に流して円満解決。それが罷り通るなら、この国に警察はおろか、法もきっと存在しないだろう。

 

達男「だから、俺達で何か償い……ってほど大層なものでもないが、何か手伝えないかと思ってな。本当なら、俺達二人が起こした問題だから、俺達で責任をとるべきなんだろうが……。他のメンバーも多かれ少なかれ、双眼零次、お前に悪印象を抱いていたことが判明してな。」

 

 それでこんな大所帯で謝りに来た、って訳か。

 

糸広「そういうわけで、償いも兼ねて君の出し物に貢献しようと思ったのさ!まずはこの店のメニューを全部頼んで……。」

 

達男「反省のベクトルがおもいっきり明後日の方向に行ってるんだが?」

 

「一体何品あると思ってんのよ!」

 

「食べきれなければ、フードロスが発生して、なおのこと迷惑をかける事態に陥ると、想定。」

 

「それに、そんな一気に頼んだら、料理を作る後輩が過労死……まではいかずとも、疲労困憊で文化祭どころじゃなくなりそうだ……。」

 

「あなたぁ、本当に反省してますぅ?」

 

 鈴木先輩含め、一緒にいた他4名の味方から、容赦ないツッコミを入れられまくられる上野先輩。どうやら、この6人グループで一番扱いがぞんざいな存在のようだ。

 

零次「そういうことだ。こちらとしても、そんな有難迷惑な手法を取られても困るだけで、大した得もない。むしろ俺の名を出される分、俺へのヘイトが溜まるだけで、俺には害しかなさそうだから…。そんなことは絶対にやめてもらおうか。」

 

 ぶっちゃけ、元が最底辺の地を這うような好感度だから、他人の印象などどうでもいいんだが……。俺への印象が最悪、他のαクラスメンバー(特に明久)に飛び火するのだけは避けたいところだ。

 

零次「だから、今回の件は貸し一つ…ってことにしておいてくれません?今々思いつく訳でもないですからね……。」

 

達男「…………ま、普通にそうなるか……。分かった。それで手を打とう。」

 

糸広「それじゃ、ちょっと遅めの腹ごしらえと行きますか!ヒーローショーだったり、クラスの出し物だったり、召喚大会だったり……色々忙しかったしねー。」

 

 反省しているのか、若干の怪しさを覚えつつも、6人の先輩達の背中を見送るのだった。

 正直、近衛の話を聞いただけで、こうも手の平を返されても、反省の意思が見えない訳だが……。まあ、何もしない奴や 奴よりかはマシだがな。

 

 文月学園文化祭、『清涼祭』。1日目も午後に差し掛かり、祭りの熱はさらに高まりつつあるのだった。


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