秋希「やれやれ……。中華喫茶って名目だから、着るのは道理だろうとは思っていたけど…………。本当に着ることになるとはね、チャイナ服。」
吉井君達が三回戦から戻ってきてすぐのこと。姫路さん達もAクラスでの休憩から戻り、今後の営業方針を話し合うことになった。
そこで坂本君から提案されたのが、
当然、私は二つ返事で承諾。姫路さん、島田さん、根民さんの三人も、吉井君がチャイナ服好きであることが坂本君から(というより本人の自爆により)発覚したことで、承諾に至った。…………秀吉君?万が一
秋希「それじゃ、私達はこれから三回戦に行ってくるから。その間店の方は任せたからね、お三方。」
瑞希「はい、いってらっしゃい!」
美波「ウチらの分も頑張ってきて!」
?「お姉ちゃん達、ファイトです!」
……ついでに、働き手が一人増えた。島田さんの妹、葉月ちゃんだ。小学生に、高校生の祭りの手伝いをさせるのはちょっと気が引けるけど、子供を一人でよく知りもしない場所をうろつかれでもして事件に巻き込まれるくらいなら、
そういう訳で、清涼祭1日目の午後は、客足回復のために私達2-F女性陣+秀吉君が出来ることは2つ。
1つは、各々休憩時間中にこのチャイナ服を着て学園内を巡って、中華喫茶の宣伝をすること。
もう1つは、召喚大会で中華喫茶をアピールすること。
やる内容に差は無いけど、後者に関しては、残りのメンツを見る限り、ほぼほぼ私一人に課せられた使命と言っても過言ではない。『決勝まで勝ち進める実力がある2-Fの女性』。これに当てはまるのは、もう私しかいない。姫路さんと島田さんのペアは二回戦で早々に敗退したし。まあ、私は水面下でもう一つ、2-Fへの集客のために動いている勢力があることは知っているけど……、坂本君達に教えることはしない。
秋希「それじゃ、行こうか、秀吉君。勝って、目的を遂行しようか。」
秀吉「う、うむ。じゃが、ワシにはあまり期待しないでくれると、嬉しいのう…。」
そんな訳で、しれっと三回戦まで進んでいた秀吉君と共に、召喚大会会場へと向かうのでした。
……ちなみに、零次から私のチャイナ服への言及はゼロ。中華喫茶に来て欲しいという要望も、『行く機会があれば』と、来る気がゼロの返答だった。後者の反応はともかく、前者のノーリアクションを見てしまうと、島田さんとどっこいどっこいの自分のスタイルがちょっとだけ悔しく思えてきちゃう…。
・・・
雄二「お、お疲れ、近衛……って、大丈夫か?」
秋希「…………ええ。本当に疲れたわ。ちょっと休憩貰っていい?気持ちを鎮めないと、まともに接客もできそうにないわ…。ゴメン……。」
私の三回戦が終わった。正直、今まで戦った中で最も酷い試合だった。……いや、アレを試合と言うべきなの?相手が只々こちらを不快な思いにさせた挙げ句、それに足りる実力を一切見せることもなく退場していったのだけど。
雄二「……一応聞くが、宣伝は出来たのか?その様子だと、それどころじゃなかったと、思ってるが……。」
私は深く俯き、首を振ることしか出来なかった。坂本君も、それ以上深入りすることもなかった。
秋希「……ところで、私が大会に行っている間に、何かトラブルとかは無かった?」
雄二「いや、そんなのは……。」
数秒の沈黙。追いつめられた精神状態の私に気を使っているのだろうか。だけど、話を聞くくらいの余裕はある。坂本君に軽く目を向けると、息を吐いて、真剣な顔つきで話し始めた。
雄二「…………強いて言うなら、明久が襲われかけた。」
……なんかあるだろうとは思ったけど、クラスメイトが襲撃されるなんてことは、流石の私も想定外だ。
雄二「どうやら、店で足りなくなった品物を補充しようと、空き教室に行った所を襲われたようだ。幸い、俺が追加で持って来て欲しい物品を伝えに来たから、何とか対処は出来たが……。」
秋希「犯人はどうしたの?」
雄二「その場で俺が対処したが、逃げられちまった。犯人は男三人。背格好からの推測だが、俺らと同年代。おそらくは、他校の生徒じゃないかと思ってる。明久もその点は同じ考えだ。」
私達と同年代……。だとすると、少々面倒臭い事になりそうね。私達が加入している『チーム』と関わりがありそうだというのは、ほぼ確定するから……。
秋希「……そもそも、なんで吉井君が襲われるのよ?私達の知らないところで、恨みでも買った?」
雄二「さあな……。売れ行きがよくなったFクラスの妨害でもしに来たんだろ。」
秋希「そんな理由で絡んでくるのは、他校じゃなくて3-Aの人達でしょうが。……もしくは、その人達と何かしら繋がりのある人。」
実際、あのクラスの先輩が私達2-Fを下に見ているのは、これまで会った人達の言動を見れば明らかだ。
私達の店の悪評を大声で吹聴するだけに飽き足らず、他の店まで行って同じことを喚き散らかす
碌に相手のことも知らないくせして、所属クラスや他人の情報ばかりを鵜呑みにして、それだけで全てを知ったかのように振る舞う
己の正義のためなら、言動の矛盾も自分の都合のいいように変える
他にも学園の生徒や先生の情報は、私のもとに嫌でも入ってくる。それらを加えたら、3-Aの評価なんて、地に落ちたなんてレベルじゃない。
とにかく、下手人が内部だろうが外部だろうが、どちらにしても警戒のレベルを上げないといけないのは、変わりなさそうね……。
円「代表……近衛さん……。あなた達にお客さん。」
雄二「俺達に?誰かは知らないが……。根民、通してくれるか?」
……客?わざわざ私達を指名してくるってことは、普通の客ではないことは簡単に予想がつく。一体誰なのか……。
文「あややややややや。もしかして休憩中でした?だとしたら、ある意味ちょうど良かったかもしれません。木地君が君達を連れてきて欲しいそうなので、ちょっと、来てくれません?」
……なんだろう。さっき危惧した『面倒臭いこと』に首を突っ込まざるを得ない……。そんな予感がする。
・・・
ガラララ……
秋希「……え?零次?」
雄二「どうして、お前がここにいるんだ?」
青葉先輩に連れられて来たのは、私達が使用している所とは別の空き教室。そこには、零次と木地先輩が机を挟んで向かい合わせに座っていた。……まるで取り調べでも行なうかのような布陣だ。
零次「おそらくはお前たちと同じ理由だ。木地先輩に話があると言われ、用意された席でお前達を待っていた所だ。……もっとも、坂本には関係ないことだとは思うが。」
未だに何が理由で呼ばれたかは分からない。ただ、私と零次と坂本君に共通しそうなものを考えると、なんとなく嫌な想像が出来る。
とにかく、話を聞くためにも、空いた席に座ることにしよう。零次の左隣に私、右隣には坂本君だ。
標示「……さて、まずはそちらにも清涼祭の出し物や、召喚大会などの用事があるにも関わらず、来てくれて感謝致しますよ。幸いなのは……、四回戦からは一般への公開があり、その準備のために、しばらく間が空くことですね。」
現在時刻は 13:05。木地先輩の言う通り、四回戦が始まるのは今から一時間くらい後だ。
ここから先は、生徒やスポンサー等の来賓だけではなく、祭りにやって来た一般の人にも試合が公開される。加えて試合を盛り上げるためだけに、わざわざ外部からアナウンサーを招集しているなんて話も聞いている。木地先輩の言う『準備』とは、会場の清掃だったり、一般客の整理だったり、そういった諸々の事を指している。
標示「……とはいえ、お互い持ち場を長時間離れるのは避けたいところ。ですので、正直に、かつ簡潔にお答えください。」
そう言って、放り投げ気味に机に置かれたのは、三枚の長方形の板状の……分かりやすく言うなら、クレジットカードに非常によく似た物体。そこには西洋の両刃剣と数字の『7』を組み合わせたようなマークと、持ち主と思われる人物の名前や顔写真がプリントされていた。
『第七刀[七ツ星]所属
『第七刀[七ツ星]所属
『第七刀[七ツ星]所属
名前に覚えはないけど、机に放られたカードには覚えがある。吉井君達が襲われたって聞いた時から危惧した通り、面倒な事になることが確定した。
雄二「…………ん?こいつら、先程俺達を襲撃してきた連中じゃないか。」
零次「何!?それは本当か、坂本!」
秋希「……君から先に聞いた時から嫌な予感はしてたけど……、当たって欲しくなかったわよ、本当に。」
零次がここまで動揺するのも珍しい。まあ、普段から感情の起伏が少ないけど、それ以上に零次はトラブルを人一倍嫌う性格だ。そうでなくとも、中学時代から訳の分からない因縁をつけられたり、覚えのない罪で教師に呼び出されたりと、トラブルが多かったからね……。
雄二「……で、結局これは何なんだ?」
零次「『七天八刀』のメンバーカードだ。先輩、それをどこで手に入れたのですか。」
標示「……同じクラスの東堂が襲われた時に、落としていったものですよ。」
秋希「………………はい!?」
東堂先輩が襲われた!?坂本君が追い返したって聞いた時はホッとしたけど、実害出ちゃってるじゃない!
標示「あ、心配いりません。この三人のうち、この宝根古木という男は東堂の一撃で沈んで、現在取り調べを受けていることでしょう。……残り二人は現在もおそらく逃走中。とっくに学園の外に出ているかもしれませんが。」
秋希「そ、そうですか。それは良かった……。いや、私と零次にとっては、全く良くないことだけど。」
……つまり、この三人は、吉井君を襲撃しようとして、偶然やって来た坂本君に返り討ちにあって、逃げた先で東堂先輩にケンカを売って、またボコボコにされた…………ってことなのかな?同情することはできないけど、あまりにも不運が過ぎるでしょ。
標示「私が聞きたいのは、その『七天八刀』についてです。……あなた方の誰が、彼らをここに呼んだのか……。そして、その目的……。正直に答えてもらいましょうか。」
正直に……と言ってもねえ…………。
秋希「この人達を呼んだ覚えは無いですね。」
零次「近衛に同じく、だ。」
雄二「俺に至っては、その『七天八刀』……だったか?そのメンバーでもないしな。」
三者三様、否定の言葉を返すだけ。残念ながら情報が増えることはない。
標示「……………………そうですか。『悪鬼羅刹』と呼ばれていた坂本君や、処暑中学出身の双眼君と近衛さんなら、何かしら繋がりがあると踏んでいたのですが……。」
そう言われると、何も繋がりがないわけじゃないけどね。中学の時ほど大きく行動することは無くなったけど、今でも私達は『七天八刀』のメンバーだから。
秋希「でも、坂本君に追い返された後で、あまり時間が経たずに東堂先輩に返り討ちにされたことを考えると、彼女が襲われかけたのは、ただの八つ当たりでしょう。」
とはいえ、坂本はともかくとして、東堂先輩まで暴力に巻き込まれたとなれば、どのみち『報告』は必要なんだけどね……。
『七天八刀』は元々複数の不良グループを吸収・合併を繰り返して出来たもの。そのためか、組織内の抗争には寛容だけど、その分部外者へ危害を加えることに関しては厳しい。相手から攻撃した場合には、ある程度の反撃は認められる。けれど今回みたいに、何の関係もない民間人相手にいきなり暴力をふるえば、当然悪いのはこちら側。警察から目を付けられるだけでなく、『七天八刀』にも迷惑がかかる。……それでも、組織を追放されることがないのは、リーダーなりの温情なのか、逆恨みを危惧した恐怖からなのか……。それは私も知らないけど。
標示「そうですかね?まあ、あなた達が何も情報を持ってないのなら、いま東堂の監視下にいる人物から情報を引き出すまでです。出来ればそこから『七天八刀』という巨悪を排除する一手が打てればよいのですが…………。」
なかなかに物騒なことを言うなあ、この先輩は。私達が『七天八刀』の一員だと知って言っているなら
結局のところ話の進展は見込めず、その場はお開きとなった。
さて、これから大会までは十分な時間がある。それまでは、しっかり働いて稼ぎを出さないとね!