坂本君達に続く第二試合目。私達の相手は木下さんと霧島さんでした。2学年のAクラスに在籍していて、女子では近衛秋希さんに続くナンバー2とナンバー3…………でしたかね?
いくら先輩とはいえ、私はCクラスで周りはAクラス。αクラス入部試験のために睡魔と格闘しながら勉強したと言っても、そんな方法で得た知識が長く頭に残る訳ない。木地君だって、両手で数えられる範囲の順位をキープしているとはいえ、相手の二人には劣る。しかも、対戦科目は古典。私は得意だけど、木地君は私より高得点を取るとはいえ、それほど得意という訳じゃない。
ハッキリ言って、私達が真っ向から戦って勝ち目はないです。
翔子「……負けない……。私は…負けられない……!」
でも、相手が分かっていれば、対策は立てやすいですね。
文「……あのぉ、木地君。本当にこの作戦を実行するんですか?私、夜道で刺されたりしません?」
標示「問題ありません。部長の家の周辺は街灯が多いでしょう。そもそも、部長はいつも
あやや…そういう問題でしょうか……。
まあ、この作戦を実行しなければ勝ちの目が見えないほど、相手は強敵だということでしょう。
文「えー、霧島翔子さん、少し二人で話しません?」
翔子「…………何?」
手招きをして霧島さんを呼び出すと同時に私も歩み寄る。木下さんからも木地君からも十分な距離を取れたことを確認して、霧島さんに耳打ちする。
文「あなたからしてみれば、どうでもいい話だとは思いますが、一応耳に入れておきたい話がありまして……。これは、以前『サカモト君』と駅前のオシャレなカフェに行った時の出来事なのですが……。」
翔子「……優子、ここを任せていい?」
優子「ちょっと!翔子、どこ行くの!?」
あやぁ?木地君の作戦では、この話題で霧島さんの集中を乱すはずだったのですが……。何を思ったのか、話を途中で切り上げて木下さんの静止も聞かず、戦線離脱しちゃいましたよ!?
優子「……………………。」
文「……………………。」
標示「…………そんな目で私を見ないでください。私も予想してませんよ、こんな結末。」
……そうですよね。私も知ーらない☆
・・・
目を覚ますと、そこは知らない天井だった……って言おうと思ったけど、周りを見渡すと、見知った風景が広がっていた。
雄二「……ようやく起きたか。」
渚「よかった……。いきなり倒れられたから、びっくりしました…。」
足元の砂と、白いテントシートを透き通って照らす光から、今いる場所がどこか、確認できた。今日だけで3~4回は訪れた、召喚大会の控室。そこに急遽敷かれたであろう、ブルーシートの上に寝かされていたようだ。
雄二「それにしても、締まらない結果になっちまったな……。緑川先輩が俺ら二人をまとめて相手にしてる途中、いきなり明久の召喚獣に水をかけたかと思ったら、明久の様子がおかしくなっちまって……。それを見た潮村先輩は仲間割れを起こして、強引に試合を終わらせてくるとはな…………。」
渚「ご、ごめんなさい……。折角、一般に公開される初試合なのに、滅茶苦茶にしてしまって……。」
雄二「あ、いや…先輩を悪く言ったつもりはないんだが……。潮村先輩が間に入らなかったら、より酷い状況になってたかもしれないしな。…とはいえ、緑川先輩がまた俺達の所に襲撃に来るかもしれないし、警戒は怠れないがな……。」
…………あれ?あの試合って確か、僕が潮村先輩の召喚獣を倒して、雄二は緑川先輩やられて…。その後に僕は緑川先輩にボコボコにされたんじゃなかったっけ?
雄二「……どうした、明久。」
明久「……僕の記憶だと、雄二が先にやられて、その後僕が死にかけた気がしたんだけど……。」
雄二「何だ、その都合が良さそうに見えて、『現実』以上の大惨事になっている記憶は…。倒れた時に頭でも打って、変な夢でも見てただけじゃないか?」
そうなのかな?それにしては、その『夢』で傷つけられた場所が痛むんだけど……。
雄二「……まあ、いい。とにかく明久の目も覚めたことだし、教えてもらおうか潮村先輩。あの緑川って先輩のことを。」
渚「は、はい。……とは言っても、今回の件で話せそうなことは多くはないと思うんですけど……。」
ドドドドドドドドド
……うん?何だろう……この音。しかも…こっちに向かって来ている!?
翔子「……雄二!」
雄二「翔子!?もう試合が終わったのか!?ついさっき、召喚したばかりじゃなかったか!?」
激しく足音をさせてやってきたのは霧島さんだったのか……!僕が倒れてから思ったほど時間が経っていなかったことも驚いたけど、それ以上に霧島さんの様子がおかしい……!
ガシッ
翔子「……浮気は……許さない……!」
雄二「あだだだだだ!?いきなり何だぁ!?」
渚「お、落ち着いてください!な、何があったんですか〜。」
しかも、いきなり雄二の頭を鷲掴みしてきたし!潮村先輩も突然のことに慌てふためくばかりで、もう収拾つかなくなってきてない!?
零次「…これは一体、どういう状況だ?」
明久「零次!?それに近衛さんも……。どうしてここに……。」
秋希「どうしてって……、私達も四回戦まで勝ち残ったからね。ちょうど3年の先輩達は、別のテントを控え室に使っているから、作戦の打ち合わせも兼ねて早めに来たの。予め来ていれば、時間ギリギリまでそこに時間を使えるからね。」
そう照れたように微笑む近衛さんとは反対に、零次は険しい表情を霧島さんに向けていた。
零次「……とりあえず、霧島。一度坂本から手を放せ。」
翔子「……零次。いくらあなたでも、邪魔はさせない。」
零次「その『邪魔』というのは、今坂本にしている制裁に対してか?それなら答えは却下だ。今すぐ手を放せ。さもなくば、今お前がしていることを、そっくりそのまま返すことになるが……。それでも構わないのか?」
大変だ……!雄二が被害にあっているから、霧島さんのしていることに関してはどうでもいいけど、零次が暴力を振るうのは、色々とマズイ……。これは止めに入らないと……。
翔子「…………雄二が……青葉先輩と……カフェに行ってたから……。」
雄二「青葉先輩ィ?翔子達の対戦相手か……。ってか、そもそもその先輩と、カフェに行くほど仲良くもないんだが?」
零次「坂本みたいな帰宅部連中は他学年との交流は少ない傾向にあるからな……。」
確かに…。僕もαクラスに入って、木戸さんや潮村先輩が来るまでは、あまり先輩達と話したりもしなかったなぁ…。入学したての頃は、ただの少しお茶目な一生徒だったし、『観察処分者』になった後は、余計に距離を置かれるようになっていたからなぁ…。
零次「とはいえ、青葉先輩は息をするかのように噓を吐けるからな…。『坂本とよく似た人』と話した経験を、あたかも『坂本と話した』かのように言ったんじゃないか?……もしくは別の『サカモト』って名字の人と話したとかな……。」
雄二「……それはありうるな。確か、『進級すぐに起こした試召戦争の話を聞きたい』って、広報部……だったか?の一年から取材を申し込まれたっけな…。その一人が確か『サカモト』だったような…。」
霧島「……雄二……零次の話に合わせて適当なこと言ってない…………?」
雄二「なんで俺の話すこととなると、そこまで懐疑的になるんだ!?」
ウオオオオオォォォ……。
なんだろう?召喚大会の会場から歓声が上がってきたようだけど……。まさか…。
零次「……どうやら時間みたいだな。霧島、お前のその行動の結果を、自分の目で見てきたらどうだ?」
そう言った零次は、ほくそ笑んでいた。それはまるで彼の計画通りに事が進んでいるかのようだった……。
・・・
優子「先輩方…絶対許しませんからね…!」
標示「……それは私達より先に、あなたの相棒に言うべきセリフでは?」
[フィールド:古典]
2-A 霧島翔子・・・不参加
2-A 木下優子・・・330点→戦死
VS
3-C 青葉文 ・・・216点→177点
3-A 木地標示・・・281点→246点
翔子「……ゆ、優…子…。」
霧島と共に会場の選手入場口付近へ向かうと、そこには俺が予想していた惨状が、その目に映っていた。いくらAクラス上位の木下とはいえ、戦闘経験が少ないのだから、先輩2人を捌ける訳がないのは、火を見るよりも明らかだった。
優子「……翔子!もう、そっちの用事は終わったの?」
翔子「………!……優子…………ごめ……なさい……。」
あの場に霧島しかいなかったことからなんとなく察しがついていたが、どうやら霧島は試合を途中で放棄して坂本の所へやってきたみたいだ。そのことに少しは罪悪感でもあったようだ。
しかし、そこに木地先輩の冷酷な言葉が容赦なく降りかかる。
標示「はあ……。大戦犯がノコノコとやって来ましたか……。」
優子「それは……!先輩達が翔子に……変な噓を吹き込んだからでしょう……!」
文「あやや……。噓なんかではありませんよ?『サカモト君』と駅前のオシャレなカフェで話したのも、そこで『色々とデカい女が好きだ』と話していたのも、すべて本当の事ですよ?ねぇ『サカモト君』?」
……?どこに目を向けているんだ?『坂本雄二』は今、俺達側の控え室にいる。青葉先輩の視線は真逆の方向だ。だがその答えは豪快な笑い声と共に、現れるのだった。
「ぐわはっはぁ!そうじゃあ、そうじゃあ。部長の言うてることは、紛れもない事実じゃあ。考えても見い。自然界で生きる動物は、身体を大きく見せることによって強さを誇示し、相手を威嚇するし、異性に向けて求愛行動をとる……。ならデカいのが好き、というのは生き物としての本能じゃし、体躯の小ささを惨めに思うのも仕方のないことじゃろうて……。」
…………俺と坂本が思った通りだ。霧島は自身に向けて言われたから、青葉先輩の言う『サカモト君』なる人物が『坂本雄二』だと勘違いした。だが実際は最初から先輩は、霧島と全く関係のない人物を話題に挙げていた、という訳か。
優子「いや……誰よ、アンタ……。」
標示「広報部に所属する、『
翔子「……………………え…………?」
俺の目には霧島の姿は背中しか見えないが、彼女の顔が青ざめていくのが分かる。そりゃそうだろうな。勘違いで坂本に危害を加えたうえに、坂本は本当のことを話していたのに、それを全く信じなかった訳なのだから。
標示「どうしました、霧島さん。まるで人の話を途中で遮った挙句、勘違いで彼氏に暴力をふるってしまったような顔をしていますが。」
優子「そうなるように、翔子を誘導したくせに、白々しい…………!」
標示「本格的に試合が始まる前に、『こんなことになるとは予想していなかった』と言ったはずですが……。そもそも、仮に『坂本雄二』と『阪本大河』を勘違いしたとしても、『自分が好きな坂本雄二は、
木地先輩の冷ややかな目と抑揚のほとんどない口調から放たれる正論で、霧島は手を握りしめたまま震えるしかなかった。もはや霧島のメンタルはズタボロだろう。
標示「……まあ、悪意を持って霧島さんを騙したのは認めましょう。ですがね、私達はまだまだ甘い部類ですよ。今回貴方達は準決勝へ進む権利を失っただけで済みましたが、これが極悪非道な輩であれば、似たような手口で金品を搾取することもできますし、最悪、あなたの人生すらも壊しかねないのですよ。…………反省してるというなら、今あなたに出来ることと言ったら、『きっと坂本雄二が優勝してくれる』と信じることだけです。」
文「まあ、どのみち優勝は無理ですけどね。余程のことが無ければ、私達が勝つでしょうし、仮に決勝に進めても、そこの相手に勝つのが無理なんです。『不可能』なら『不』を消せば『可能』にできても、『無理』は『無』を消しても残るのは『
静かな怒りと呆れを抱えて、ドンドンと重い足音を響かせて退場する木地先輩。
ケラケラと笑いながら、トントンと軽快に足を鳴らしながら退場する青葉先輩。
俺は残されたクラスメイトの心境を案じながら、二人の先輩の去りゆく姿を見るのだった。