バカと無情の試召戦争   作:Oclock

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小問11 二人のバカと広報部

雄二「おっしゃ!行くぞ!」

 

明久「おうっ!」

 

 拳をぶつけ合い、僕らは敵のいるステージへと歩みを進めた。

 

『皆さん!大変お待たせいたしましたぁ!これより準決勝第一試合を開始いたします!進行は私、3-Cの学級委員長(自称)、三沢がお届けいたします!』

 

 僕らが到着すると、審判を務める先生の隣にいる女子生徒が、アナウンスをしていた。時計を見ると、時間は準決勝の試合開始ぴったりだった。

 

『それでは選手入場です!ここまで来たのはまぐれか、必然か!?今大会のダークホース、2年Fクラスの二人組、吉井明久さん、坂本雄二さん!』

 

 まるで格闘技の入場みたいだと思いながら、フィールドに上がる。こうやって名前を呼ばれるのは、少し恥ずかしかったりもするけど、同時に気分も上がってきた。

 

『対するは、ここまで来たのは計算通り。優勝へのルートも構築済みか!?新聞…ではなかった、広報部の部長・副部長ペア、3年Cクラス青葉文さん、3年Aクラス木地標示さん!』

 

 同じ様に対戦相手の先輩の名前も呼ばれる。新聞部と言いかけた司会の先輩を睨みつけながら、二人はフィールドへ上がってきた。……って、よく見たら、僕のメイド姿を撮っていった先輩じゃないか!さっき見た時は霧島さんのことでそれどころじゃなかったけど……。

 

標示「どうも、坂本君に吉井君。先程ぶりですね。一応自己紹介をしましょう。去年新設された『広報部』。その副部長を務める3-Aの木地標示(きじしるし)です。そして隣がその『広報部』部長であり、3-Cの代表でもある……。」

 

文「青葉文(あおばあや)と申します。以後、お見知りおきを。」

 

 そう言えば僕の女装写真を撮っていた時も、やけに『新聞部』ではなく『広報部』であることにこだわってたような……。

 

雄二「ああ、先程ぶりだな。それにしても…緑川先輩しかり、常夏コンビしかり、アンタ達しかり……。先輩達はどうも後輩をイジメるのが、お好きなようで、困るな。」

 

 そう言えば、今日初めて顔を合わせた先輩は沢山いるけど、本当にロクな人がいない気がするなぁ…。観察処分者()が言えたことじゃないだろうけど。

 

標示「…………ああ、そう言えば、緑川『先輩』も姫路さんのことをボロクソに言ってましたね。……あまり気は進みませんが、あの人と同じ扱いは不服ですので、後日菓子折りでも持って、霧島さんに話でもつけに行きましょうか。」

 

文「あやや~……。緑川『先輩』相当嫌われてますね……。まあ、彼の言う『冤罪事件』の真偽がどうあれ、性格がアレですし、当然と言えば、当然な気がしますが……。」

 

 ……んん?『先輩』?緑川先輩も、目の前の先輩も同じ三年のはず……。もしかして、生まれが自分の方が早いから、そう呼ばせているとか?

 

標示「……さて、話はここまでにしましょう。円滑な大会進行のためにも、これ以上無駄話はできません。」

 

文「仮にあなた達にとっては必要な話だとしても、今ここでしなければならない話でもないでしょう?この大衆に共有したい情報でもあるのなら…別ですが。」

 

 ここにいる観客に知らせたいことか……。僕には特にないけど、雄二にはあるかな?

 そう思って雄二の方をチラッと見ると、既に戦闘態勢に入っていた。雄二も特に話すようなことはなかったみたいだ。

 

標示「では早速ですが、始めさせていただきましょうか。試獣召喚≪サモン≫。」

 

文「はいは~い。試獣召喚≪サモン≫っと!」

 

 こちらが召喚するより先に、先輩方が召喚獣を()び出してきた。

 青葉先輩は下駄の代わりに草履を履いた山伏……というか天狗?のような出で立ち。もう一人の木地先輩はモノクルをかけたスーツ姿に、身の丈程の大きな万年筆を手に持った召喚獣だ。

 どちらも先輩。加えてクラスも、当然自分達より上位のクラス。まともにやって勝ち目なんてない。でも、こっちには秘策がある!

 

雄二「よし行くぞ、明久!試獣召喚≪サモン≫!」

 

明久「了解!先輩方、この勝負の科目が保健体育だったことを恨むんですね!」

 

 グラウンドよりも高さのある特設フィールド。そのステージ端に目配せすると、既に伏兵は待機済み。これが本来なら霧島さん相手に使うはずだった、雄二の秘策だ!

 

明久「行くよ!新巻鮭(サーモン)!」

??「……試獣召喚≪サモン≫。」

 

 ()び声に応えて、出現する召喚獣。それはたとえAクラスの霧島さんでも太刀打ちできない強さを持った……。

 

文「あややぁ…。その召喚獣は……。」

 

 ムッツリーニの召喚獣。これが雄二の秘策『代理召喚(バレない反則は高等技術)』だ!

 

??「……加速。」

標示「くっ……。この卑怯者が……!」

 

 初撃から腕輪の能力を使って、相手の召喚獣2体を一気に切り伏せる。Aクラスとの勝負では影山君にしてやられたけど、本来なら保健体育でムッツリーニに敵はいない!

 

明久「よしっ!僕と雄二の……。」

 

雄二「…待て、明久。」

 

 勝利だ、と物言いがつく前に勝鬨を上げる直前に雄二に止められた。

 

明久「ちょっと、雄二。なんで邪魔するのさ。」

 

雄二「……フィールドをよく見ろ、バカ。」

 

 フィールド……?そんなの、先輩の召喚獣がなくなって、ムッツリーニの召喚獣もフィールド外に出て消えている。残るは雄二の召喚獣だけじゃ……。

 

 

[フィールド:保健体育]

2-F 土屋康太・・・511点→戦死

 

2-F 坂本雄二・・・177点

 

VS

 

3-C 青葉文 ・・・153点

 

3-A 木地標示・・・403点→383点→306点

 

 

 ええ!?ほとんど無傷!?

 ……よく見るとノッポの先輩……、木地先輩の召喚獣の武器の先には、ムッツリーニの召喚獣が突き刺さっていた。まさか、読まれたというのか、雄二の作戦が?

 

標示「……会場の皆様。大変失礼いたしました。どうやら、我々の戦いに水を差す不届きな蝿が紛れ込んでいたようです。」

 

 そういうと、武器の一振りでムッツリーニの召喚獣を振り払い、フィールドに叩きつけた。

 いや……、ムッツリーニの召喚獣を蝿呼ばわりって……。

 

標示「……通ると思いましたか?『相手が2年Fクラス』、『対戦科目が保健体育』。この2つの要素で『土屋康太に代理で出てもらう可能性』が頭を過らない訳がないでしょう。」

 

文「加えて君達には、二回戦を収賄(交渉)による不戦勝で突破した前科があります。先生の目の前であんな事を堂々と行える貴方達が、観衆の目だけ気にして、グレーな手段を避ける理由は存在しない。故に『代理召喚』はほぼ確実に行うと、木地君は言ってましたが……。木地君の『予測』は本当に恐ろしいですね。」

 

標示「ついでに看破しておくと、仮にここに立っているのが霧島さん達の場合は、あらかじめ木下優子さんを襲撃して双子の木下秀吉さんにすり替えるつもりでしょう。…まあ、この戦いが始まる直前まで、霧島さんか双眼君のどちらかが常に張り付いていたようですので、この作戦は失敗に…。いや、『失敗する前提で』実行させるとするなら、秀吉さんの救出係として土屋君を自然に会場入りさせるための布石でしょうかね…。」

 

 なんてこった…。雄二の考えた作戦の内容がほぼ完璧に見透かされている……!まさか、先輩達に情報を流しているスパイがいるのか……?

 

明久「雄二!大丈夫なの!?」

 

 いや、そんな事よりも、まずはこの勝負に勝つことを考えよう。

 

雄二「……ああ。想定外の事態だが、問題ない。」

 

明久「良かった。じゃあ作戦があるんだね?」

 

雄二「ああ、作戦な。……………………残念なことに無ぇよ。」

 

 ……………………はぁ?

 

明久「雄二…聞き間違いじゃなければ、今、作戦が無いって……。」

 

雄二「ああ…。そう言ったさ。そもそも、翔子たちが負けること自体が想定外の状況だ。加えて、相手は3年。情報は、ほとんど集められなかった……。」

 

明久「そんな……。」

 

雄二「さらに絶望的なのは、おそらく向こうはこっちの対策を万全にしている点だ。あれだけ、最初の不意打ちを警戒していた根拠を並べ立ててきたのを考えると……。仮に作戦があって、実行に移すことが出来たとしても、すぐに対処されちまう。……ハハハ。言葉にすると、あまりにも絶望的過ぎて、逆に笑えてくるな。」

 

標示「私達と戦うことを想定していないとは……。それだけ霧島さんを信用していたようですが、かつて『神童』と言われた貴方は、最早忌まわしき過去の遺物とでも言うつもりなのでしょうか?…………まあ、それは今、どうでもいいことです。」

 

 そう言うと、先輩はこちらに視線を向けてきた。

 

標示「さて、吉井君。早く貴方の召喚獣を出してください。今なら先程までの不正行為について目を瞑ります。……賢明な判断を。」

 

明久「……試獣召喚≪サモン≫。」

 

 

[フィールド:保健体育]

2-F 吉井明久・・・104点

 

2-F 坂本雄二・・・177点

 

VS

 

3-C 青葉文 ・・・153点

 

3-A 木地標示・・・306点

 

 

『え、えーと……。な、何やらハプニングがあったようですが……。両ペアの召喚獣が揃いましたので、試合を始めたいと思います!』

 

 雄二の策は見破られ、それ以上の作戦もない。さっきよりも絶望的な状況だ。それでも、負けるわけにはいかないんだ。雄二を頼れないなら、僕が頑張るしかない。……全力で抗うとしよう。




~後書きRADIO~
零次「さて、前回に引き続き後書きRADIOの時間だ。」

秋希「第24回目ね。そして、今回のゲストは……。」

茜「東堂茜だぁ。今回はよろしく頼むぜぇ…。」

零次「ということで、前回の予告通りだ。今回は東堂先輩の使用した腕輪能力の解説だ。」

名称:入替
消費点数:20点(総合科目では100点で使用可能)
詳細:
召喚獣を1体選び、自分の召喚獣と場所を入れ換える能力

茜「読んで字の如くの能力だなぁ。アタシは味方を囮に、戦線離脱できる能力だと『葵』から聞かされて、それを盲目的に信じ込んじまってたけどよぉ……。実際は、かく乱に使うものだったんだな…。」

秋希「一応、先輩の言い分も間違いじゃないですけどね……。代表とか、戦死してほしくない味方の身代わりができるので。」

零次「ちなみにだが、東堂先輩のモデルとなった別作品のキャラを意識して設定されたこの能力だが……、モデル元と比べると大分劣化した能力になっている。」

秋希「ああー……。確かにアッチは入れ替える対象を自在に選べたけど、こっちは『自分の召喚獣』と『相手の召喚獣』しか入れ替えの対象にならないからね。」

零次「ついでに言えば、この入れ替えも無条件で出来るわけじゃない。入れ替えたい二体の召喚獣の間に、他の召喚獣や教室の壁など、障害物があると入れ替えが失敗になる。イメージとしてはチェスのキャスリングに近いな。まあ、失敗した場合は点数は消費されないから、そこは安心してくださいね、先輩。」

茜「なるほどなぁ……。戸祭が思っている以上に扱いが難しい能力だったのかぁ……。」

秋希「……これ、元の能力より強いのって、『手を叩く必要がない』ってところだけなんじゃあ……。」

零次「確かにモデル元の能力と比べると悲惨に聞こえてしまうが、そもそも腕輪能力を使えるのは、エリート中のエリートというか、バカみたいな高得点を取れる連中だけだということを忘れてないか?」

茜「そうだなぁ。他の奴らが武器での殴り合いしかできない中で、レーザーぶっ放したり、目で追えない程のスピードで動いたり……。それらに比べちゃぁ、地味な能力かもしれねぇがよぉ、立ち位置を変えるのも、十分脅威だと思うけどなぁ。」

零次「登場するかは未定だが、点数消費が10点と軽めな分、これ以上に地味な能力も存在するしな……。」

秋希「……さて、そろそろお開きにしましょうか。次回は今回の続きかな?」

零次「いや、その前に書きたいことがあるのと、構成が纏まってないのとで、明久達が戦っている時の俺達の話になる予定だ。」

茜「……なあ、アタシが言う立場じゃないと思うんだがよぉ……。話の進みに悩むんだったら、青葉と木地が勝たない方が良かったんじゃなかったか?」

零次「……作者の構想ではそうすることも出来たそうだ。だが今後のことを考えると、青葉先輩達を明久達にぶつける方が都合が良かったそうだ。」

秋希「……今度こそいいかな?それじゃあ……。」

「「「次回もよろしくお願いします!」」」
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