バカと無情の試召戦争   作:Oclock

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小問12−A 裏に潜む陰謀

 これは、四回戦を終えてFクラスの出し物の手伝いに回っている時のこと。私とほとんど変わらない背丈の男性が、坂本君くらいの背丈のスキンヘッドにサングラスをかけた男をSPのように引き連れて、中華喫茶へと入ってきた。

 私はその二人のことを知っている。『七天八刀』を創設した男、(もげき)一壱(ひといち)と、その右腕的存在である、(おう)十三代(とみよ)だ。

 その男は、席に着くなり私を呼び出して、話を始めた。内容は既に私が知っていること……。『七天八刀』の一部メンバーが吉井君と坂本君の襲撃を企てていること。それを、この学園の教師を名乗る人物から依頼されて行っていることだ。

 

一壱『まさかとは思うが……。実はお前も関わってた……、もっと言えば、お前がその教師の手先として動き回ってる……。なんて事はないよな?』

 

 当然関わってない、と答える。けど、私の返答が彼らに信用されるかと言ったら、それは否でしょうね。

 

 私と零次は、学園と七天八刀で真逆の評価がされている。

 

 『死神』の二つ名で知れ渡っている零次は、学園では忌避される存在だ。けど七天八刀では、彼に憧れているとか、強さの秘密を近くで学びたい、『組織』に入ってリベンジの機会を伺っている……等々の理由で『七天八刀』に入ってきた者が後を絶たない期間があった。要は、『七天八刀』のメンバーの多くにとって、零次は憧れであり、強さの象徴みたいなものだった。

 

 一方私は、学園では優等生扱いされている。けど七天八刀では、過去に零次絡みで起こした大事件によって、今まで『組織』で築き上げてきた信頼を、ゼロどころかマイナスまで堕とすことになった。

 この事件に関しては、本筋から反れるため、今は多く語らないでおく。ただ、当時の私は今以上に零次のことが憎らしかった、とだけは言っておきましょう。

 

一壱『……そうか。正直、お前のことは信用出来ねえ。……が、お前の言葉に嘘があったことが、一度もなかったのも事実だ。これくらいの問答なら、素直に受け取ることにしよう。』

 

 それからも、色んなことを言われたし、聞かれた。

 そういえば、リーダーは最後にこう言っていたっけ。

 

一壱『あの二人だけが標的になっているとは思えない。クラスの女子を人質にとることも……って、態々言わなくとも、お前なら十分予想しているだろ?お前に関しては何も心配していないが、他の女子が組織の毒牙にかからないよう、用心しておけ。』

 

 

・・・

 

 

秋希「……って、言われてたから、警戒はしていたよ?けどねぇ……。」

 

第七刀[七ツ星]所属 長岡■■(名称不明)

「お、おい……。」

 

第七刀[七ツ星]所属 内藤■■(記憶にない)

「嘘だろ……。ここで会うなんてよ……。」

 

第七刀[七ツ星]所属 荒巻■■(忘れた)

「…………!…………!!」(驚きすぎて、声が出ていない。)

 

第七刀[七ツ星]所属 宝根古木

「なんでお前がここに……。『男子トイレ』に来てんだよ……!」

 

秋希「こんなにいるのは予想外なんですけど……。」

 

 そう。私達がいるのは、新校舎3階の『男子』トイレ。『七ツ星』の面々が驚くのも、至極当然な話だけど……。

 

秋希「まあ、ここに来た理由は単純よ?『不審な人物が学園のトイレを占領してる』って苦情があってね……。皆忙しそうにしていたから、暇な私が来たってわけ。」

 

 うん。嘘は言ってない。『清涼祭運営委員会』は大会運営にも携わっているし、そうでない人達もパトロールや、クラスの出し物を手伝っているのがほとんどだ。唯一『嘘』と言えるのは、私がそこに所属していないことくらいだ。

 

秋希「それで?あなた達がここにいるのは、Aクラスの生徒を拉致するためかしら?」

 

「お、お、おい!根古木(コギィ)、話が違うじゃねぇか!」

 

「俺は『死神』や、その右腕である『近衛』に会うリスクを提唱した…。それを『学園の行事に参加しているから会うことなどない』と、一蹴したのはお前だぞ……。宝、お前は毎回毎回、見立てが甘過ぎる……!」

 

「…………。」(白目をむいて、倒れている。)

 

荒巻(マッキー)!気絶してねぇで起きてくれ!」

 

 狼狽える長岡。冷ややかな視線を宝に浴びせる内藤。私に遭遇したショックからなのか、倒れる荒巻。なんて酷い絵面だ。

 私に会うのがそんなに怖いの?自分で蒔いた種とはいえ、ちょっとショックだ。

 

秋希「……で?私の質問に答えてくれる、宝さん?多分だけど、あなたが主犯でしょ。他の人達の反応を見るにさ。」

 

「……だったら、どうするよ。」

 

秋希「止める。それ以外の答えがあると思う?」

 

 私だって仮にも文月学園の生徒で、『七天八刀』のメンバーだ。学園で問題が起こることも、『七天八刀』が無関係の人間に迷惑をかけることも、両方阻止しなければならない。

 たとえ学園が嫌いであっても、組織に嫌われていても、ね。

 

「……ハハハ。随分くだらねぇ答えだなぁ……。そんな事したところで、お前が得することなどないだろ!」

 

 確かに。私は過去に起こした事件のせいで、『七天八刀』に尽力したところで、十リーダー達からは『再び組織を巻き込んで騒動を起こすのでは』と、警戒を強めるだけ。そんなこと、私が一番わかりきっている。

 

秋希「でも『七天八刀』にとっては、問題点の早期解決に繋がるからプラスになる。『組織』に属し、活動している以上は、考えるべきは『自分の利益』より『組織の利益』でしょ。目先の金に目が眩んで、組織のルールを無視する誰かさん達を見逃す理由にはならないから。」

 

「…………やっぱ、テメェはぶっ殺す!Fクラスの女を人質に、吉井と坂本って奴をブチのめす話だったし、お前もその一人として連れてく話だったけどよぉ……。ここまで俺達をコケにしといて無事でいられると思うなよ…!」

 

 うわー、沸点低いなー。まあ、煽ったのは私だけど、正論ぶちかましただけでここまでキレることないでしょ。

 しかし、目的はAクラスじゃなくてFクラス。私と零次じゃなくて吉井君と坂本君、か…。これは早急に坂本君に問いただす必要が出てきたかも。

 とはいえ、まず場所が問題だなあ。一歩でも私が外に出ちゃうと、廊下にいる一般客や生徒が巻き込まれる。かと言って、このまま留まっても、トイレに人が来たら結局同じだ。

 

 ま、一応くだらない会話をしている間に、既に手は打ってあるけどね。後は時間と運任せ。私が呼んだ援軍が来るか、関係ない人がそれより先にやって来るか。はたまたアイツらの仲間がここに来るのか……。

 何にせよ、この『賭け』に勝つことを考えないとね。

 

 

 

・・・

 

 

 

トン……トン……トン……

 

 俺の足音だけが辺りの廊下に響く。

 今いる廊下の先へ進めば、何かしらの催し物がされているであろう体育館へと続く。しかし、その動線となるこの廊下は、『学園関係者以外立入禁止』の貼り紙がされた数個の椅子によって封鎖され、かわりに普段は開かない体育館の扉が開放されている。

 祭りの喧騒から切り離され、いつもの学園と変わらない風景を映し出すこの空間の途中にある扉の先に、俺の用事がある。

 

 『学園長室』。その扉を数回叩き、返事を待った。

 

零次「…………失礼します、学園長。2−A代表の双眼零次です。」

 

藤堂「……入りな。」

 

 言葉に促されるままに部屋へと入ると、そこには頭を抱えながら、パソコンを睨みつけている学園長の姿があった。

 

零次「……随分、お疲れですね。」

 

藤堂「冷やかしに来たんだったら、帰ってくれないかい?こっちは色々と忙しいんだよ。」

 

零次「そうでしょうね。坂本と取引をしてから、ずっと今のような様子だと、小林先生や西村先生あたりから伺っておりますし……。何より、去年一昨年から教師陣が慎重にルールを整備し、一年ぶりに開催に踏みきった大会だ。『失敗』など許される訳がない。」

 

 俺が話す間も、部屋はキーボード音だけが鳴り響いている。学園長の視線も、時折こちらに向くものの、基本はパソコンに釘付けだ。

 

零次「そういう訳で、今更言うのもアレですけど……、本当に良かったのですか?俺達を参加させて。敢えて言いますが、俺達が優勝するのは、ほぼほぼ決定事項みたいなものなのですが……。」

 

藤堂「随分、傲慢な言い方だねえ……。アンタらの準決勝の相手は、三年だろう?油断していると、足を掬われるんじゃないかい?」

 

零次「…………ありえませんね。相手が保健体育を得意としている話は耳にしていませんし、だからと言って、召喚獣の操作に秀でている噂もない。去年の試召戦争だって、今年のFクラスみたいに頻繁にしていたわけでもない。『正攻法で』俺達に勝てる要素は……ゼロですよ。」

 

 近衛に去年の試召戦争の履歴を調べさせた訳だが、今回相手となる先輩達が所属していたクラスの戦争経験は、たった二回しかなかった。

 あの二人は去年もAクラスの生徒だった。その中でも、粗暴な見た目に反して、5本指に入る成績の持ち主であることも把握している。戦争の詳しい記録までは聞かされなかったし、聞きもしなかったが、それを考えると、切り込み隊長を任されるか、余程接戦にでもならなければ、召喚獣を出したことも無いのではなかろうか。

 

 何はどうあれ、俺達があの先輩方に負ける要因は無い。仮に負けたとしても、決勝の科目は日本史。明久の得意科目な訳で、操作経験に圧倒的アドバンテージのあるうえに点数も俺達との勉強で、既にBクラス代表と同等の点数を獲得している。

 3-Aの生徒は頭こそ良いのだが、木地先輩や東堂先輩のような人格者は実は少数派で、大体は自己中心的な人物しかいない、なんて話をいつだったか聞き覚えがある。嬉々として下級生の出し物の店で営業妨害まがいのことを働いている時点で、あの二人もマジョリティ側だろう。そんななめ腐ったコンビ相手に明久達が今更不覚を取ることもないだろう。その裏についている人物も、明久達のことなど、学園を代表する問題児としてしか見ていないだろうしな…。

 

零次「まあ、それ以前に明久達が決勝に行けるかも怪しいですがね……。」

 

藤堂「何故だい?確かに霧島と木下の2年優等生ペアは、優勝候補に挙がっているようだけど……。坂本は何かしら策を練っているんだろ?なら、今はそれを信じるしかないさ…。」

 

零次「…………そもそも、相手が霧島達でないことはご存知ですか?」

 

 そう言って、トーナメント表をパソコンや書類で散らかった机の空いたスペースへと叩きつけた。

 

藤堂「……なんだって!?坂本達の相手は霧島じゃないのかい!?」

 

 案の定というか、やっぱり知らなかったみたいだな。

 それもそうだ。他の教師に心配されるほど追い詰められた状態なんだ。そんな状況で大会の行く末など気にしていられないだろうな……。

 

零次「坂本は確かに頭は切れるが、どこか詰めの甘い部分があります。もし、坂本の策が霧島の事しか意識していないようであれば……、奇跡でも起きない限り負けるでしょうね。」

 

藤堂「…………それでも、今のアタシに出来ることなどありはしないさね。答えは変わらない。あの二人を信じるしかないさ。」

 

零次「そうですか……。であれば、これ以上は何も言っても意味はありませんね。」

 

 極論を言ってしまえば、今からでもシステムに介入して木地先輩達の召喚獣のステータスを無理矢理下げるなどは出来そうだが……。バレれば、学園長の教師生命は絶たれるし、それ以前にそれが許されるなら、坂本達の点数の水増しを一蹴する理由も無い訳だしな……。

 

零次「……ただ、最後に一つだけ。あなたの目的が『如月ハイランドのペアチケット』ではないことに、坂本は気づいていると思いますよ?恐らくですが、あなたと話をした、あの時点で既に…。本当に二人を信じているのであれば、その『真実』を話すべきだと思います。……それでは失礼いたしました。」

 

 そう言って、俺は部屋を出ていった。

 時間を見れば、大会会場に向かうにはちょうどいい時間を示していた。

 ……ならば、このまま会場に向かうのが吉だな。次こそ先について、近衛をからかってやるとしよう。

 

 

 

・・・

 

 

 

?「アレ~?宝達はどしたの?まさか逃げられた?」

 

 宝達の発見から十分くらい後のこと。私の所に、一組の男女のペアがやってきた。

 

第七刀[七ツ星]リーダー 五条勝悟(ごじょうしょうご)

 

第七刀[七ツ星]副リーダー 二位類子(にいるいこ)

 

 先程私が見つけた連中のグループのリーダー格。それがこの二人の正体だ。

 

秋希「……五条さん、遅かったですね。宝さん達なら、先程西村先生に連行されましたよ。」

 

勝悟「ええ~…。マジィ~……?コレ先公の所に行かなきゃダメな案件?」

 

類子「ダメな案件ですね。……『七ツ星』の皆が大切じゃないと、言うのであれば、話は別ですけれど。」

 

 そうそう、あの『七ツ星』の連中とのケンカに発展する時心の中で唱えた『賭け』のことだけど……。結果的には私の勝ちで終わったわ。

 そう、『結果的に』は。あの時、私がコッソリ呼んだ援軍というのが、この二人……正確には迷惑をかけまくっている『七ツ星』のリーダーだ。だけど、それよりも先に西村教諭が巡回にやって来て、『七ツ星』の皆をまとめて鉄拳制裁を下したのよね……。だから『結果的』には私の勝利。だけど、後々の処理がちょっと面倒なことになっちゃった、ということだ。

 

勝悟「………………ハァ。大切に思わない訳ないじゃんか…。あんなゴミクズみたいな奴らでも、俺にとっちゃ大事な仲間で、他愛もない話ができる友だからな……。しゃあねぇ、行ってくるかぁ~。」

 

秋希「いってらっしゃ~い……と、言いたいところですけれど、西村先生のいる場所分からないですよね?」

 

勝悟「大丈夫大丈夫。適当にブラブラ周っていりゃ、いつか分かるっしょ。それに、宝達をまとめて連れてった、ってことはそれくらい強いってことだろ、その先公は。俺、そういう奴の居所が感覚で分かんのよ。っつー訳で行くぞ、類子。」

 

 大きく伸びをしてダルそうにしながら、男はその場を後にした。けれど……女の方、二位さんはその場に留まり、五条さんを見送っていた。

 

秋希「…………あの……類子さん?五条さんと一緒に行かないのですか?」

 

類子「………………今度は何を企んでいるのですか。」

 

秋希「……何のことでしょう?」

 

類子「惚けないでください。ここは男子トイレですよ?女性である私達が本来立ち入れる場所ではないはずです。それなのに、あなたがここにいるのは、ここに確固たる目的があるから。違いますか?」

 

 ああ、もうこれで宝達と西村先生に続き、3回目の説明だ。説明したところで、それで納得して引き下がってくれる相手ではないけれど、何も言わずに誤魔化すのは、より不審がられるだけだ。本当に面倒臭いけれど、類子さんにも説明した。

 

秋希「……という訳なのですけれども。ご理解いただけました?」

 

類子「……ええ、なるほど理解しました。ですが、それで私が納得すると思ってるのですか?」

 

 デスヨネー。

 

類子「…………ですが、今回のあなたの行動が『七天八刀』に害する行為にはならないと判断しました。この場所に立ち寄っていた事に関しては不問としましょう。」

 

秋希「え?あ……ありがとうございま……す?」

 

類子「何故疑問形なのですか……。」

 

 だって類子さんの性格上、納得するまで質問責めにあわされると思ったので……、とは流石に口が裂けても言えない。

 

類子「では、私は五条リーダーを探します。あの人がまっすぐ『七ツ星』の皆のもとへ向かえるとは思えないので。」

 

 そう言って、類子さんも五条さん同様新校舎の階段を降りていった。

 

秋希「…………………………ハァ、危なかった~……。」

 

 類子さんや西村先生には疑われたけれど、何とか目的自体は達成できた。

 私がここに来た目的。当然『七天八刀』という不審者集団の対応な訳がない。それだったら、わざわざ私が行くよりも、十リーダー達にその情報を流せばいい。

 

 本来の目的は西村先生が宝達を連れて行ってから五条さんが到着するまでの間に達成されている。私は隣の『女子トイレ』へすぐさま移動し、個室へと籠った。

 そして、スカートから男子トイレで回収した小型カメラを取り出す。

 

秋希「…………よし、無事撮れたようね。」

 

 そこに映され出されてた映像は、後に私達の学年を混乱に陥れる前触れとなるでしょう。でも、それは私達にとって必要なもの。

 

 私達の『計画』の第一段階は無事に終わった。第二段階では『試験』を開始する。

 さて、『受験者』達は無事合格できるのかしらね…。

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