バカと無情の試召戦争   作:Oclock

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小問14−A 『八』つの瞳の準決勝

『さぁ~!本日の試合も残り一つとなりましたぁ!これより準決勝第二試合を始めます!先程の試合に続きまして、この試合の進行も3-Cの学級委員長(自称)、三沢がお届けいたします!』

 

 明久達の試合が終わって数分後。三沢先輩の声が、マイクを通して会場内に響き渡る。

 ……結局、近衛は待機所には来なかった。だが、俺には焦りはない。俺には何の連絡も来ていないが、相手が近衛だからわかることだ。奴はきっと今頃、この会場のどこかに潜伏しているはずだ、と。

 

『それでは、選手の入場です!ここまで勝ち上がった実力は紛れもない本物!3年Aクラス同士のコンビ、夏川俊平さん、常村勇作さん!』

 

 会場の歓声を背に、先輩方が先に入場する。前の試合は同級の広報部部長を差し置いて、明久達を先に入れていたが……。単純に三沢先輩の気まぐれだろうか。

 

『それに相対するは、文月学園最高レベルの頭脳と、文月学園最凶レベルの暴……ゲフンゲフン、戦闘力を持つ2年生コンビ!2年Aクラス、双眼零次さん。2年Fクラス、近衛秋希さん。』

 

 先輩、一瞬『暴力』と言いかけて、取り下げたな。その上、特徴を述べた順と逆順で名前を呼んでるところから、間違いなく、今回の紹介文にはあの広報部の部長が関わっているだろうな。大方、ここまで勝ち上がることメンバーを副部長の木地先輩が推測して、青葉先輩が指定されたメンバー分書き起こした、と言ったところだろう。

 

 …………さて、結局近衛は来ていない訳だが、名前を呼ばれたからには仕方がない。俺も大衆の前に顔を出すとしよう。

 

『…………やや?双眼零次さん、パートナーの近衛秋希さんはどうしましたか?』

 

零次「……さあな。さっきまで連絡を取ろうと試みてはいたんだが……。残念ながら応答なしだ。このままだと……。」

 

『ええ。大会の規定では、会場に2名が揃っていなければ、試合を始められません。5分経っても姿が見えなければ、双眼零次さん、近衛秋希さん両名は敗退となりますね。』

 

 先生から借りたものなのか、マニュアルらしきものをパラパラと捲りながら三沢先輩が答える。

 

零次「……5分か。随分と猶予があるんだな。それくらいなら、近衛も来るだろう。そう思って待つことにしようか。先輩方も構いませんよねえ?」

 

 この先輩達は先程の言動から考えて、近衛と戦うことを放棄しようとしているとしか思えない。そのうえで自分達は優勝を手にしようとしているのだろう。そんな先輩方からしてみれば、近衛が合流する可能性があるなら排除したい訳で……。

 

勇作「何言ってやがんだ。時間通りに来れてない時点でテメェらの負けでいいだろうが。」

 

俊平「全くだ。お前みたいなカスと違って、こっちは将来勝ち組を約束されたエリートだぞ?無駄な時間を取らせてんじゃねえよ!」

 

 ……まあ、当然反発してくるわな。けどなあ…、言っていることと、やっていることが矛盾してないか?

 

零次「そのエリート様が貴重な時間を割いて、午前中やってたことが、他所のクラスへ理不尽なクレームをつけることと、悪評をバラ撒きまくることですか?端から見たら、店番している自分よりも随分暇を持て余しているように見えますが?」

 

勇作「ハッ。テメェ、やっぱ勘違いしてるんだな。あんなボロい出し物よりも人気のある所を知ってるから、そこへの移動を促してたんだよ。運営委員会は忙しくて手が回らなくなってたから、俺達が自主的に行なってやったんだ。」

 

零次「それなら、『そこがオススメだ』と言う方が適切でしょう?『この出し物が悪い』とか言ってケチをつけるのは、ただの営業妨害じゃありません?それに『自主的に行なっている』というのも引っかかる。そんなことするくらいなら、東堂先輩に話をつけて、運営委員会に入った方が、就活の時の面接とかで話せるネタになったのではないのか?」

 

俊平「そ、それは東堂が突っぱねたからだよ!『お前達に任せられる仕事はない』みたいなことを言われてな!」

 

零次「だろうな。そもそも、運営委員会は出し物が運営規定に則っているかを精査することが主な仕事だ。特定の店を贔屓することは当然だが、特定の店を侮辱するなどという、不公平極まりない行為……。東堂先輩が許すはずがない。大方、運営委員会を志願したが、そういう魂胆を見抜かれて、門前払いをくらった、ってところじゃないか?」

 

 その言葉に先輩達は言葉を詰まらせた。どうやら、図星みたいだが……。今までの言動から、そう言われても仕方がないだろう?自分達がどう見られているか気にならないのか?

 

零次「……もっとも、今日一日の言動が、祭りの高揚感から来るもので、普段は優等生として振る舞っていたとしても、俺はあなた達をそうだと思うことはないがな……。」

 

勇作「は、はあああああ!?どういうことだよ!?」

 

零次「だって……先輩方だけだからだよ。近衛から逃げているのはな。」

 

俊平「に、逃げてる、だあ!?逃げてんのはそっちだろうが!?」

 

零次「なら、何故近衛が来ないことを願う?何故不戦勝で勝ち進もうとする?そして何故……そんなにも判定を急ぐ必要がある?」

 

 近衛が来ないと、本気で信じているなら、大人しく待てばいいものを……。そうすれば、先輩方の望む結果が得られた可能性が万が一……いや、億が一くらいはあっただろうに。

 

零次「エリートだ何だとほざいているようだが……。結局は『それ』がアンタらの本質なんだろ。近衛とまともに戦っても勝ち目が無いから、営業妨害なんざ小癪な真似をした。失敗したから悪評広めて試合に集中させないようにした。それでも何故か勝ち進んできやがったから、今度は直接試合に出れないようにした……。勘違いしてるようだが、『失敗しない』、『負けない』、『間違えない』のがエリートじゃないからな?『失敗やミスを積み重ねて、その一つ一つを振り返り、未来の自分への糧とする。』それが俺の思う優等生の在り方だが……。反論があるなら、もしくはあなた方の目指すエリートの在り方があるなら、是非とも聞かせてくれないか、先輩方?」

 

俊平「………あああああ!うるせえ、うるせえ、うるせえ!さっきから言わせておけば、正論っぽい事言って、俺達を黙らせた気になりやがって!いいか!テメェがどれだけ正しそうなことをほざいたって、テメェの言う事を真に受ける奴などいねぇんだよ!」

 

勇作「そうだ!ズルばっかやって勝ち上がってきたクズの分際で……!テメェのような生きる価値もないクズはなぁ、おとなしく年上を、先輩を敬いやがれ!」

 

 ……ついには逆ギレか。三回戦の時も随分不快な思いにさせられたが、まだ一般公開されなかった分、奴らの醜態にも目を瞑ることができた。だが、目の前の不快極まりない先輩のせいで、小林先生の苦労も全部台無しだな……。担任教師を、加えて学年主任の教師でもある人を怒らせるような真似をして、コイツらに明日が来るのだろうか?

 

零次「はあ………、もう十分だ。……さて、先輩方?くだらない茶番もここまでだ。」

 

俊平「ちゃ、茶番、だと?」

 

零次「三沢先輩、試合開始まであと何分ありますか?」

 

 これ以上いちいち反応するのも面倒なので、三沢先輩に時間を訊ねる。

 

『は、はい。えーっと…………。あと1分です。あと1分経っても、会場に近衛さんが現れなければ、双眼零次さん、近衛秋希さんペアは不戦敗で敗退となります!』

 

 1分か……。どうやら、うまい具合に時間がつぶれてくれたようだ。

 

俊平「な、まさかテメェ……。」

 

勇作「今までの会話は全部時間稼ぎのつもりで……!」

 

零次「アンタ方がどう思おうが、最早こっちは知ったこっちゃないんだがな……。だが、5分もの間、黙って待つのも、観客が白けるだろう?観衆にとっても、いい暇つぶしになったんじゃないか?」

 

 近衛が時間通りに来なかったおかげで、追加の追求タイムを設けることができた。

 ただ、これもおそらくは近衛の計算通り、掌の上の出来事なんだろうな……。

 

勇作「だ、だが、ここまで一切姿を見てねえんだ!たかが1分程度でここに来れるわけがねぇ!俺達の不戦勝は決まりだ!」

 

零次「……先輩方は近衛が好きなものを知っていますか?」

 

勇作「……は?いきなり何の話だ?知る訳ないだろ、そんなこと。」

 

 だろうな。近衛の名前は有名だから、学園で知らない奴はいないだろうが、近衛のプライベートに踏み込むようなこと、俺以外が知る由もない。

 

零次「……なら、近衛の嫌いなものは何だと思います?まあ、好きなものを知らないんだ。嫌いなものなど分かるはずもないが…。」

 

勇作「いや、ソッチならわかるぜ。ズバリお前だ。」

 

俊平「そうだな。お前のようなクズな人間、好きな奴など、どこにもいるわけないだろ?」

 

『そうかなあ……?零次を好きな人は、ここにいるよ~?』

 

 突然、三沢先輩とは異なる声が、音響機器を通して会場内に轟いた。その声の主を俺はよく知っている。なんなら、今日に至ってはしょっちゅう隣で聞いているしな。

 

俊平「な、なんだ!?どこにいやがる!?」

 

『はあ~…。先輩、目ん玉ちゃんと顔についてます?ここにいますよ?ここ……。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋希「あなた達の…………、目の前に………ねえええええ!!」

 

「「う、うわああああああああ!」」

 

 さっきの質問の答えは、先程の近衛の登場にすべて含まれている。

 

 近衛秋希の嫌いなもの。それは、他人の成功。

 他人が成功する瞬間、他人の策略がうまくはまった瞬間を見ることが、近衛は何よりも嫌いなのだ。それが近衛が学園で包み隠している本性とも言える。

 

零次「何を驚いているんです?近衛なら、ずっとアンタらの後ろで待機していたさ。」

 

勇作「はあ……?なら、なんで今まで姿を見せなかった!?素直に姿を見せてたら、俺達に迷惑が掛からなかっただろ!?」

 

秋希「いや~、なんか私がいないことをいいことに、先輩方が随分と盛り上がっていたじゃないですか~。そんな先輩の後姿を見ていたら、出ていくに出ていけなくなっちゃって………。まあ、おかげで先輩達の罵詈雑言集が作れたので、この試合が終わったら、小林先生に持っていこ~っと。」

 

 その言葉を聞いた瞬間、先輩達の顔から、一気に血の気が引いていった。さらには汗だくになりながら、音声の差し止めを求めているが、近衛は二人を意に介すことなく、俺の隣へと歩を進めるのだった。

 そもそも、これだけの観衆がいる中であれだけのこと言ったのだから、学園にクレームが入るのも時間の問題だろう。

 

 そう、近衛の好きなもの。それは、他人の不幸と絶望。

 他人が最も幸福を感じている瞬間を狙って、急転直下の絶望へ叩き落とすこと。ひいては、その時相手が絶望する顔こそが、近衛が人生で最も悦に浸れる最高の瞬間なのだ。

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