零次「……Fクラスが進級早々に試召戦争を仕掛けたのは、『学力だけがすべてではない』という理論の証明にある。」
試合開始から、もう5分は経っただろうか。会場というよりかは、この試合そのものが異様な雰囲気に包まれている。
零次「証明の方法としては色々穴はあったが、俺自身はこの理論を気に入っている。ここじゃあ、学力至上主義が幅を利かせているが、世の中はそんなものより、人柄や能力が見られる機会が圧倒的に多い。」
[フィールド:保健体育]
2-F 近衛秋希・・・399点
2-A 双眼零次・・・416点
VS
3-A 常村勇作・・・211点
3-A 夏川俊平・・・208点
零次は先輩に一切攻撃することなく、相手の攻撃を躱し続けていた。しかも、いちゃもんをつけられないようにと、本当なら紙一重で避けれる攻撃を大袈裟に避けている。
……私?もちろん、後ろで見学中。先輩達二人とも、零次を倒すことしか頭に無いようで、一人蚊帳の外なんだよね~。だから今、私が『腕輪』を使えば間違いなく二人に勝てる。実行するかは零次次第だけれど。
零次「そもそも、勉強出来るから何なんだって、俺は常々思ってるよ。アンタら、普段本を読む時、文節がどうだとか品詞の種類だとか気にしながら読んでるか?」
そう言いながら零次は攻撃を躱す。
零次「微分積分や三角関数、虚数だの対数だのを日常生活で使ったことあるか?」
避ける。
零次「百何個もある元素の名前を覚えたところで、日常生活でそれを意識したことがあるのか?」
また避ける。
零次「歴史の授業で偉人の素晴らしい功績を学んだところで、教科書用に切り取られた歴史の断片だけで、その人の何が分かる?それに歴史なんて、
またまた避けていく。
零次「英語だって、単語を知らなかろうが、文章が多少メチャクチャだろうが、ホディランゲージでリカバリーが効くことは、バラエティ番組で芸能人が証明している。……別に学ぶことに意味がないなんて言うつもりは、全くもって無い。だが、この学園で学んだことが、どのくらい今後の人生に活かせる内容なのか……、今後の人生にどう活かしていくべきかは、考える必要があるんじゃないか?」
先輩達は必死で攻撃を当てようとするけど、当たらない。当たるわけない。私から見たら、ただ武器を振り回しているだけなんだから。そんな単調な攻撃、『七天八刀』にいた頃に零次は呆れるほど見ている。
勇作「クソッ!さっきから攻撃してんのに、なんで全然当たんねぇんだよ!」
零次「なんだ、またくだらない言いがかりをつけるフェイズか?そんなの、アンタ達の動かし方が悪いだけ、俺の操作技術が高いだけの話だ。だがまあ、気持ちは分らなくもないさ。俺が中学の頃、ケンカを吹っ掛けてきた奴の8割は、今のアンタ達と同じ顔をしていたからな…。」
そうして再び一方的な試合が展開される。相変わらず先輩達の攻撃は、ことごとく零次に躱され、受け切られ、決定打にはなり得ない。
さらに、それだけではない。先ほどまで大袈裟に動いていた召喚獣が、今度は相手の攻撃を紙一重で避けていく。さっきまでの隙があった避け方で、まともにダメージを与えられてないのだから、こんなギリギリの避け方をすれば、先輩達がどう反応するかも予想できる。
俊平「……おい!今の確実に当たってたろうが!なんで点数が減ってねぇんだ!」
『むむ……。こちら側から確認したところ……。当たっていません!目算で3mmくらい!まさに神回避といえるでしょう!』
俊平「はぁ!?」
零次「観察処分者であれば、攻撃が当たったかどうかなんて、フィードバックで分かるんだがな……。それがないと、こういう誤認が起こりうる。……今までこんなことが出来る相手がいなかったから、想定していなかったか?」
……うん、予想通りの反応だ。実際の喧嘩と違って、召喚獣の勝負は召喚者が俯瞰で勝負を見ている。それはつまり、自分が見ている範囲から得られる情報と、召喚システムが
零次の言うように、『観察処分者』の場合は、今回のように『攻撃が当たる』『攻撃を受ける』といった感覚は、フィードバックを介して判断できる。だけど、そうでない一般生徒たちの判断材料は『点数の減少』のみ。これが対戦ゲームであれば、分かりやすく
零次「……先輩方、まだ続けます?」
勇作「はあ……はあ……、当たり前…………だろ……。」
俊平「ふざ……けんなよ……。こん…な……姑息な……手段で勝って……嬉しいかよ……!」
試合が始まってから10分は経ったかしら?未だに一撃も与えれることなく、先輩達は召喚獣の操作で頭の回しすぎで、疲労困憊だ。今まで戦ってきた不良達も、零次の並外れた回避力になす術なく潰れていったっけ……。
だけどソイツらは
零次「…………姑息も何も……これが普段の俺の戦い方だが?」
勇作「はあ?何……言ってんだよ……。」
俊平「見え透いた……嘘をつくなよ……。他人を寄せ付けない圧倒的なまでの暴力で、多くの屍を積み上げてきた……。それが『死神』の由来だろうが……。」
零次「それは一体、どこから聞いた情報だ?何か動画でも見せられたのか?情報元が不確かであれば、それをさも事実であるかのように言って回ることの危険性は………理解しているよな、『エリート』様?」
挑発するような言葉使いだけど、その顔には何の表情も浮かんでない。
本気で戦っている時、零次は一切の感情を押し殺して、ただただ相手の攻撃をどう捌くかを考えることに特化する。相手に向けているのが怒りなのか、哀れみなのか、はたまた別の感情か……。傍観者の私から見ても、気味が悪い。
だけど、こうして饒舌に喋っている分にはまだ良い方だ。本当に機嫌が悪くなると、一言も発さなくなるからね。
勇作「そもそもテメェが……、ここまで勝ち上がってる事自体……、おかしいことだろうが……。近衛のことを脅してる癖に……!」
えー……、今更それを言うの?こんなお遊びの大会で、そこまで勝ちにこだわる?エリート故のプライドとも考えられるけど……、アレコレ言って、相手を貶めて……、あまりにも節操がなさすぎない?
でも残念でした。それの対策は既にある!ポケットにずっと忍ばせていた録音機。召喚大会について、私と零次が交わしたあの日の会話を、三沢先輩が持つマイクに向けて再生する!
・・・
『…………という訳で、零次。あなたは私とペアを組んでもらうわ。それに、あなたには他に組む相手もいないでしょ?』
『そうだな。ただ大会に出るだけなら、互いに邪魔にならなければ誰だっていい。……だが、優勝を目指すとなれば、お前以上に優れたパートナーはいないな。』
『へへ……そう素直に褒められると照れるな~。』
『それに、お前の人柱になるのは俺一人でいい。この学園のことは嫌いだが、だからと言ってお前に人生を狂わされる人間が増えるのは、俺としても困るんだよ。』
『ねえ、上げて落とすのはやめてよ?』
『お前がやったことに比べりゃ大分マシだろ。』
『……ねえ、零次。』
『何だ?』
『……もし、この大会に優勝したらさ……、二人で行く?如月ハイランドパーク。そこで、さ……。』
『近衛、お前と一緒に行ってもいいが……、お前の思い通りに事が運ぶと思うなよ?…………そもそも最初から、そんな気も無いんだろうがな。』
『えへへ。流石、私の事をよ~く解ってらっしゃるね。』
・・・
音声はここで途切れた。登録申請に私一人で行った時も、この音声を証拠にして零次の出場を認めさせたっけ。
零次「……さて、三沢先輩。今の音声を聞いて、彼女が脅されていると思いました?」
『いいえ、全く思いませんでした!そもそも、終始会話の主導権は握っていたのは近衛選手でしょう?この内容で双眼選手がどうこう言うのは…………、その……無理があると思います。』
俊平「だ、騙されるかよ!その音声だって、どうせ合成だろ!それも近衛に再生させるなんて、どこまで最低な野郎なんだ!」
「……いや、流石に無理があるじゃろ、坊主。」
俊平「あん?」
「合成だって言う割には、あまりにも喋り方とか、抑揚に不自然なところが見当たらないけど?」
「司会の人も言うように、これで相手の男が悪いっつーのは、無茶苦茶すぎんだろ!」
「ってか、さっきから黙って聞いてたけど、アンタ達ってそんな偉いの?ウチ、バカだけど、数の大きい小さいくらい分かるよ?」
「双眼って子にずっと遊ばれてるくらい、実力も大したこと無いくせに、年下にからかわれるのが屈辱でしかないのねぇ……。」
「それな!後輩サゲに必死すぎて、逆に引くわー。」
会場に響き渡る先輩達へのブーイング。散々零次を罵倒していたようだけど、実際、零次が『死神』の通り名で有名なのは零次と同じ時間、同じ世界を過ごしてきた中高生の間だけ。それ未満の子供とはあまり関わっていなかったし、大人に関しては、零次の実情を知りえるのは子供からの伝聞が主なもの。それを考えたら、一般の人の目には先輩達の行動は、『成績でも召喚獣の技術でも負けている後輩を、根も葉もないことでこき下ろす嫌味な先輩』にしか見えないでしょうね。
零次「……これが、世間の評価という訳か。学園での評価と真逆なことは近衛から聞かされたことが数度あったが、思った以上に嫌われてなかったようだ……。」
先輩達はまた何かを叫ぼうとしているようだけど、これだけの観衆の不満を買って、彼らの声を聞き入れる人がどれだけいるのだろう……?
だけど、散々大衆の前で零次の悪評をばらまいてきたんだ。失敗すれば自分達が標的になることくらい、覚悟していたでしょう?失敗したときのリスクを考えられない、成功することしか頭にない人の、一体どこが『エリート』なのやら……。
零次「さて、自分らの認識と世間一般の見解の乖離に絶望しているところで悪いが、最後の仕上げだ……。」
そう言うと、零次は先輩達に背を向けて、フィールドを降りようとした。
『あ、あの!双眼選手、一体どこへ……。』
零次「決まっている。教室に帰るんだよ。この俺、双眼零次は、この試合を棄権させてもらう。これ以上、試合を続ける意味がないからな……。」
瞬間、会場はざわめき始めた。そりゃあ、そうでしょう。終始、試合の展開は零次に向き続けていた、有利な状況にあったのに、その試合を放棄したのだから。実況していた三沢先輩も、審判の教師も困惑するしかなかった。
勇作「……はっ。何だよ、結局俺達に勝ちを譲ってくれるのかよ。」
俊平「最後は俺達に花を持たせてくれるなんて、意外と先輩思いなんだな。」
…………よし、ここだ。
バンッ バンッ!
[フィールド:保健体育]
2-F 近衛秋希・・・399点
2-A 双眼零次・・・416点(リタイア)
VS
3-A 常村勇作・・・211点→戦死
3-A 夏川俊平・・・208点→戦死
「「……………………はっ?」」
二人そろって素っ頓狂な声をあげる先輩方。いや~、残念だったね。折角勝ったと思ったところで水を差すようなことをしちゃって……。
零次「……確かに『俺』は、勝負を降りたさ。だが、『近衛』は俺と同じ意思を同時に示さなかった……。そもそもこれで先輩達の『勝ち』だと言うなら、近衛は召喚獣を出さないし、それ以前に会場に来ることもなかったろう?……異議があるなら好きなだけ喚けばいい。だが、どれだけ足掻いたって、先輩達の召喚獣が消えた事実がある以上、勝敗が変わることはないし、そんな先輩を観客がどう見るかは……。わざわざ言う必要もないだろう。」
『そ、それでは、準決勝第二試合の勝者は、双眼零次選手と近衛秋希選手のペア!そして、本試合をもちまして、本日の大会プログラムは終了となります!決勝戦は明日の午後一時から!皆様、明日も文月学園文化祭、清涼祭をお楽しみください!』
未だに鳴り止まない歓声、怒号、宣伝……。そして、言葉にならないうめき声をあげ続ける対戦相手。それらを背に私達は会場を後にする。
ところで、今Fクラスはどうなっているのかしら?坂本君がいるし、今ならリーダー達も『七天八刀』の残党を探し回っているはずとはいえ、流石に心配になる。
……一秒でも早く戻らないと。