一壱「よ、お疲れさん。」
Fクラスに急いで帰ってきた私を出迎えてくれたのは、吉井君でも坂本君でもなく、『七天八刀』のリーダーだった。
秋希「……まだ居たんですね。リーダー。」
一壱「俺、一応客なんだけどなあ……。仕方ないだろ?お前も坂本もここを離れている以上、ここを守れる奴がいないんだから。敵はお前達の安全なんざ、これっぽっちも考えてないぞ。」
秋希「……確かに。あそこの惨状を見たら、私も坂本君の留守を預かって、皆を守ってくれたというのも、嘘ではないようですね……。ありがとうございます。」
そう言って、私は教室に直接つながる階段に目を向けた。そこから見える踊り場には、ざっと見ただけでも十人近いチンピラ共が山のように積み上がっていた。顔が確認できた者の中には、私の見知った顔も含まれていた。
秋希「それにしても、今になって文月学園に乗り込んでくるとはねぇ……。零次への接触禁止の命令は、どこに行ったのやら……。」
一壱「…………一応言っておくが、文月学園の生徒との衝突そのものは、接触禁止令を出した後も度々報告されていたぞ?」
秋希「……え゛っ?」
なんだって?それじゃあ何のために接触禁止令を出したのよ?
一壱「何大袈裟に驚いてんだ?今お前が言ったように、俺達が禁止していたのは、『零次への接触』であって、『文月学園生徒への接触』は禁止していない。主な活動拠点が文月学園の学区内だから、物理的にそこまで範囲を広げられなかったし、零次との関係がないように見せかけられれば、それで良かったしな。」
流石に一時しのぎにしかならないと思うけど……。
『七天八刀』のメンバーは、この文月市に存在する六つの大きな不良達の集団を
その中で面倒なのは、やっぱり一番最後に挙げたグループに属する人達でしょうね。リーダーが纏めた不良達とは違い、このグループのチンピラ共は自分の価値を高める努力をしなかった。
リーダーが提案したボランティア活動に、零次は積極的に参加していたけど、アイツらが参加していた記憶はほとんどない。『死神の友人』の立場を騙って、他のメンバー達の目が届かない所でやりたい放題。酷い時は自分勝手な理論を振り回して、零次の勉強の邪魔をする不届き者もいる始末……。
極めつけは、この身の程知らずな連中のほとんどが、文月学園の入試を受けると言い出したことだ。当然、何の努力もせず、零次の権威にぶら下がってた阿呆共は全員不合格。今まで積もり積もった不満も相まって、流石の零次も彼ら彼女らを見捨てる決断をし、現在に至る、といったところかしら。
一壱「それでも『七天』の奴らは、意図を察して、文月学園の生徒達から距離を置くように立ち回ってくれてたけどな……。学園生徒との衝突というのも、根本の原因はそちら側にあるものが大半だったしな……。」
秋希「一体何があったのよ……。」
詳しく聞きたかったけど、リーダーはそう言ったきり、この件について話そうとはしてくれなかった。周囲に目線をやっていたから、ここから先の話をFクラスのみんなに聞かれたくなかったのかしら?それとも、客を警戒して?…………仕方ない、リーダーの口を割らせる術を私は持ち合わせちゃいないので、一度リーダーのもとを離れるとしよう……。
秀吉「おお近衛よ、帰ってきたのじゃな。結果は…………聞くまでもないかの?」
円「お帰り、近衛さん……。」
と、思ったらチャイナドレスに身を包んだ生徒二人がやって来た。
秋希「ただいま、『木下さん』、円ちゃん。予想通り、決勝進出したけど……。姫路さんや島田さんはどうしたの?妹さんを連れて休憩に行った?」
一壱「………………。」
分かってるだろと、言わんばかりに、リーダーがこちらを睨みつけている。まあ、予想はつくよ。吉井君達がここにいない、かつリーダーが教室全域を見渡せる席をずっと陣取っていた、ということは、やはり二人(+島田さんの妹)は拉致されたんだろう。吉井君達は救出のため、敵のアジトに乗り込んでる最中ってところかな?
円「さあ……。妹を連れてどこかへ行ったきり、まだ戻ってきてないけれど…………。代表の話だと、馬車馬の如く働かないと、転校を回避できる最低ラインの環境づくりもままならないらしいのに……、当の本人はいいご身分じゃない?」
秋希「あはは……、あまり本人達にはキツく当たらないでよ?それと、働くのも大事だけど、ちゃんと休憩もとって…………ね?」
円「まあ…………、秋希ちゃんがそう言うなら……。」
どうやら、姫路さんが転校するかもしれないという話を『たまたま』耳にしたらしく、彼女なりに頑張ろうとしたようだ。その結果、召喚大会一回戦で早々に敗北した後は、ずっとこの教室に張り付いて、接客をしていたそうな。
秋希「………………それで、『木下さん』の方は?午前中あれだけの事があって、午後には何も無かった、ってこともないでしょ?」
もし、『ウエイトレスを拉致しろ』なんて命令を貰って姫路さん達を連れ去ったとしたら、秀吉君だけがここにいるのは不自然だ。
当事者達のために直接は言わないけど、ただでさえ女の子っぽい見た目をしてるのに、
秀吉「う、うむ……。それがの……、実はワシが教室へ戻ろうと所に、強面の集団がやって来たのじゃが……。」
〜木下秀吉の回想~
『…ま、待て!もしかしたら、姉の方かもしれんぞ!』
『姉!?だとしたら、マズくねぇか!?』
『何言ってんだ?コイツが着てるの、チャイナだぞ?姉だったら、Aクラス?だから、メイドじゃねぇの?』
『……俺達が襲撃する予定のFクラスは、女子の人数が圧倒的に少ないらしい。……送られてきた写真が5枚しか無かったし……。だから、
『チッ!フラタが熱弁してたのを思い出すと、反論しにくいな……。』
『別にどっちでもいいじゃないッスか?サッサと連れていきましょうよ。』
『バカか!?茂みだか突っついて、ヘビィなモン出してぇのか!?『死神』の教室の奴らに手ぇ出して、アイツだけじゃなく、『裏警察』、『右腕』、『血の女王』に睨まれたら、俺ら生きていけなくなるんだぞ!』
『ええっと……、もしかして『藪を突いて蛇を出す』って言いたいんスか?確かにリーダー達に目をつけられたら、殺されてもおかしくはないッスね……。サーセン、軽率な発言して……。』
『…………で、目の前のコイツは結局どっちなんだよ!姉妹の顔写真があんだろ!何か特徴があるはずだ!』
『うーん…………、写真を見た限りだと、特徴というとヘアピンの着け方が違うくらい……?』
『んなの、簡単に変えられるだろうが!もっと分かりやすい特徴はねぇのか!?』
『よく似た姉妹の見分け方……?…………おっとりした口調の駅員が姉。軽快な笑い声が特徴的な駅員が妹。』
『それ、お前がやってるゲームの推しの話じゃねぇか!』
『陽気でピンクが似合う、シナリオライターが姉。落ち着いていて緑の似合う、イラストレーターが妹。』
『それも、お前がやってるゲームの推しの話じゃねぇか!』
『黒い服を着た駅員の見た目をしたクールなイケメンが、おそらく兄。白い服を着た駅員の見た目をした爽やかなイケメンが…………おそらく弟。』
『………………天丼ネタやるなら、ゲームと性別は統一しろおおおおお!!』
〜回想終了~
秀吉「……とまあ、そんな言い争いをしている隙に逃げてきたのじゃ……。」
秋希「あー…、なーるほど。」
木下優子に関わるということは、間接的に零次にも関わることになる。接触禁止令が機能してようがいまいが、彼らとて下手に零次に関わりたくないのだろう。
一壱「……ん?
零次「お久しぶりです、
一壱「こちらこそ、すまないな……。お前たちの問題に『七天八刀』が巻き込まれちまったみたいでな……。」
ふとリーダーが入口の方に顔を向けると、バツが悪そうにリーダーへ目線を合わせられない零次と一緒に、黒のスーツにサングラスを掛けた、スキンヘッドの男が巨漢がリーダーの方へ歩いてきた。七天八刀の副リーダーの一人、
一壱「それでだ、十三代。Aクラスの様子はどうだった?」
十三代「……………………(ボソボソッ)。」
一壱「…………そうか、Aクラスは問題なかったか。見張り、ご苦労だったな。」
リーダーの近くに寄り、こちらに聞こえないくらいの小声で、副リーダーは話を始めた。リーダーの応対と、ここに零次が来たことを考えると………副リーダーは私達が準決勝で戦ってる間、新校舎の方の見回りでもしてたのかしら?
秋希「Aクラスにも見張りを出してたんですね………。」
一壱「狙いはお前らFクラスだけだとは思うが一応、な?それとは別件で暴れる奴がいないとは言い切れないからな…………。」
確かに、零次があの日見限った奴らは、そんな連中が多かったっけ。
一壱「じゃ、お前も戻ってきたことだし、俺達はそろそろ帰るから。……ここの胡麻団子、プロには劣るけど、学生が作ったものとしては期待以上だわ。これの発案者、今度紹介してくれないか?」
秋希「そう言っていただけて、嬉しいです。本人にも話してみますね?」
…………今日のところは、これで『七天八刀』は全員学園を出て行ってくれたかしら?
秋希「……さて、零次君。私とちょっとお話しない?」
零次「……そうだな。俺もお前に話したいことがあったんだ。」
・・・
理慈恵「……そこまでだ、坂本。これ以上手を加えれば、情報を聞き出せなくなる。」
明久達を追い返してから十分くらい経ったか?今この場に立っているのは、俺とアイツらの隊長を名乗る覇路、それから事情を知っている『オルベ』と『フラタ』と呼ばれていた人物だ。
「クッソ……。やっぱ強ぇわ……。」
「やっぱり『愛』なのカネ……?彼女が出来たことで、その子を守るために陰で努力を積んでいタとはね……。」
それにしても一体、どこから翔子と付き合ってる話が出てきたんだ?
「まあ、約束は約束だ。今回の件で知ってることは出来る限り答えてやるよ。」
雄二「…………分かった。じゃ、まず最初に教頭が一連の黒幕ってことは間違いねえんだな?」
「『竹原』ってのが、あの女の言う通りテメェの学校の教頭だ、って言うんならその通りだ。学園に送り込んだ面々を仕切っている指示役がしきりにその名を呼んでんのを聞いた覚えがある。」
理慈恵「……その指示役というのは誰だ?」
「鳴川って奴だ。どこの所属かまでは……悪いが覚えてねぇ。」
理慈恵「……やり取りの記録はソイツが持っているのか?」
「まあな……。けど、今回の女子高生を拉致する件は、俺に直接話がやって来たから、そのログはここにあるぜ。」
「それを受けて僕が皆に指示を出シタ時の音声も、提出するヨ。証拠の補強にはなると思うネ。」
そうして、二台の携帯から流された音声からは、『オルベ』が『ナルカワ』から受けた指示の詳細と、それを受けて『フラタ』が手当たり次第に電話をかけて人を動かしていたことが判明した。
「無意味な弁明だが、一応言わせてもらうぜ。あの女共を連れてきたのは、あそこでぶっ倒れてる高岡達の所業だ。一緒にいたあのチビッ子を人質にして連れてきやがった……。」
「アイツらには『愛』が欠片も感じられなかったネ。……それに付け込んでここまで連れて来た時点で、言い返す資格もないけどネ………。」
その言葉には怒りや呆れがこもっていたが……、まあ自分達で言ったように、コイツら自身、自分達のしたことの善悪の区別くらいはあるのだろう。だからこそ、ずっと引っかかるところもあるんだが。
雄二「…………最後に一つ聞かせてくれ。結局お前達は何のためにこんなことをしたんだ?カネ目的でないのは、俺達が殴りこんだ時に聞いたが……。」
「……本人に言わないでくれ、と念押しして言うが、『初代死神』……双眼零次を助けたかったからだよ。」
……助ける?双眼を?Fクラスと何の関係も無くないか?
「これがどう『初代死神』を助けることに繋がる、って思ってるよな。けど、アンタだって知らない訳じゃねぇだろ。あの人が学園で受けた屈辱をよ……。」
「だから、文月学園絡みで大きな問題を起こせバ、学園の実態にメスを入れられルと思ったンダヨ。」
……確かに、アイツが『死神』と呼ばれてた頃も、喧嘩に対して消極的だって噂は耳にしてたな。暴れ回ってた頻度で考えれば、俺の方が明らかに危険なのに、何故かヘイトは双眼の方に向きまくっていたな。
「とは言っても、ただ問題を起こすだけじゃあ、僕達ばかりが悪者にされるだけで、君タチの非が表に出てくルことはナイ。……人の出入りが多くなるうえ、学園関係者以外も立ち入れる文化祭は、報復に利用するには絶好のチャンスだったと言えるネ。」
「ちょうどいいタイミングで、文月学園で問題を起こしてくるよう依頼されたってのも、俺達にとっちゃ、渡りに船だったな。依頼主が教頭だったてのも、うれしい誤算だったが。」
理慈恵「…………そんなことをしたところで、双眼零次が『七天八刀』に帰ってくるとは思わないのだが?」
……むしろ、自分たちの首を絞めているだけに思えるのだが……。
「……だとしても、お前らの学園に対する恨みが無くなる訳じゃねぇからな……。例え零次に嫌われたとしても、本人が望んでないと分かっても……。俺自身が文月学園の連中を許せない。それが今の俺の全部だ。」
「理慈恵隊長達グループリーダーはともかく、今『陸奥守』『七ツ星』『八塚剣』に所属してる奴らは、大半がそんな人たちだヨ。」
……俺が思った以上に、零次は多くの奴らに慕われてたんだな……。それがどうして、この学園では、ああなっちまってんだか。
そんなことを考えつつ、俺は外につながるドアに手をかけた。
理慈恵「…………もういいのか?」
雄二「ああ。聞きたいことは十分聞けたしな。……案外悪い奴でもないんだな。」
「ハッ、世辞はいらねぇよ。本当に強ぇ奴なら、こんなことしねぇんだからよ……。」
最初の威勢のいい様子はすっかりなくなり、意気消沈した様子でか細い声が聞こえてくる。
理慈恵「分かった。後の処理はこちらで行う。……お前は、さっさと学園へ帰ることだ。」
俺は覇路に軽く頷いて、その場を後にした。
…………俺が次にやるべきことは決まったな。まずは、全ての始まりである、『あの人』を問い質すとするか。