バカと無情の試召戦争   作:Oclock

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小問3-F 渡る世間はバカばっか?

秋希「………………坂本君。」

 

雄二「………………なんだ?」

 

秋希「………先生、来ないね。」

 

 現在時刻は8:41。ほとんどの席、もとい座布団が埋まってきた時間帯。本来なら、この時間にはHRが行なわれており、8:45には、1時限目が始まるはずだ。まあ、振り分け試験の最後に配られたプリントでは、初日はその1時限目に、HR兼オリエンテーションが行なわれる、と書かれていたから、来ていなくてもさほど問題はない。けど、Aクラスはきっと、この時間にはもう、担任教師が来て、HRの準備とかしているんだろうな。そう考えると、ちょっと不快な気分になる。

 

秋希「………あ、そういや坂本君。黒板のところにチョークはある?」

 

 教室に入って来た時の記憶を思い出すと、確か無かったはずだけど………………。

 

雄二「んあ?待ってろ。………………………………あ、無いな。」

 

 …………やっぱりそうだったか。

 

秋希「じゃあ、これ置いとくね。先輩から聞いたときは、まさかと思ったんだけど、念のために持ってきて良かったよ。」

 

雄二「お、おお。分かった。」

 

 用意の良い私に対して驚く坂本君を尻目に、私はチョークを置いて、すぐに元の席に戻る。

 現在、時計は8:42………………いや、8:43を指している。そろそろ担任教師が来てもいいと思うんだけどな。

 

・・・

 

秋希「………………………来ない。」

 

 現在時刻は8:46。他のクラスは、もうHRを始めているであろう時刻になっても、教師が来る気配がない。ま、まあ、去年も教師が1~2分遅れることはあったし、私もそんなに時間にうるさい性格ではないからいいけど、さすがに暇になってきた。

 

ガラッ

 

 お、やっと来たか?

 

?「すいません、ちょっと遅れちゃいました♪」

 

雄二「早く座れ、このウジ虫野郎。」

 

 って、思ったら、アンタか、吉井明久!折角の期待を返せ!

 

明久「先生の代わりって、雄二が?なんで?」

 

雄二「一応このクラスの最高成績者だからな。」

 

 坂本君は、私が来た時と同じセリフを言った。………………あ、吉井君の顔が、にやけてる。きっと、坂本君を説得すれば、クラスを動かせる、とか思ってるな。その考えは間違っちゃいないけど、君が坂本君を動かせるとは到底思えないんだよな、去年の行動からして。

 

?「えーと、ちょっと通してもらえますかね?」

 

 坂本君と吉井君が話していると、担任教師らしき人が教室に入って来た。

 

?「それと席についてもらえますか?HRを始めますので。」

 

明久「はい、わかりました。」

 

雄二「うーっす。」

 

 ………………それにしても、この教師からは、暗いオーラが漂っている。なんか、見ているこっちが心配になりそうな感じだ。声に覇気はなく、シャツもピシッとしていない。言い方は悪いが、生徒になめられる教師の一例を見事なまでに体現している。

 そんなFクラスの担任は、吉井君達が席に着くのを見届けると、壇上に立ち、ゆっくりと口を開いた。

 

?「えー、おはようございます。二年F組担任の福原慎です。よろしくお願いします。」

 

 そう言って、福原先生は、私が置いていったチョークで、黒板に自分の名前を書いた。

 

福原「皆さん全員に卓袱台と座布団は支給されてますか?不備があれば申し出てください。」

 

 ………………正直言って、この教室には不備しかない気がするんですが。

 

「せんせー、俺の座布団に綿がほとんど入ってないですー。」

 

 とある男子生徒が(というか、現在私含めて3名以外は皆男子だけど)、自分の座っている座布団を掲げて申し出た。あー、なるほど。それは、れっきとした不備だ。そんな座布団じゃあ、床に座ってるのと大差ないしね。さて、それに対する、教師の回答は?

 

福原「あー、はい。我慢してください。」

 

 不備があれば申し出てください(必ず改善するとは言っていない)。

 

 こ れ は ひ ど い。

 

 というか、それが正式回答なの?なんか、聞いた感じだと、ただ面倒臭がっているだけに聞こえるのは、気のせいだろうか。

 

「先生、俺の卓袱台の脚が折れてます。」

 

 また別の生徒が不備を申し出る。確かに、これもれっきとした不備だ。これじゃあ、ノートが取りづらいだろうね。流石にこれは『我慢してください』とは言わないだろう。

 

福原「木工ボンドが支給されていますので、後で自分で直してください。」

 

 せめて瞬間接着剤が欲しいです、先生!

 

「センセ、窓が割れていて風が寒いんですけど。」

 

 先生。今度はまともな対応期待してますよ?

 

福原「わかりました。ビニール袋とセロハンテープの支給を申請しておきましょう。」

 

 ………………………なんとなく予想してたけど、期待した私がバカだった。

 

福原「必要なものがあれば、極力自分で調達するようにしてください。」

 

 とりあえず、帰りに100均に寄って、綿を買い占めよう。そして、明日は早めに来て、教室の座布団という座布団をパンパンに膨らませてやる。

 

福原「では、自己紹介でも始めましょうか。そうですね。………廊下側の人からお願いします。」

 

 そんな小さな野望を抱き、福原教諭の話を聞いていると、どうやら、自己紹介でもするようだ。廊下側と言っていたから、窓際で、かつどちらかと言えば後ろの方に座っている私の出番は、しばらく後だ。ちなみに代表の坂本君は、一番窓に近い列の、一番後ろ側にいた。その位置だと坂本君は、一番最後に自己紹介することになるけど………………。まさか、それも計算していた?

 

?「木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる。」

 

 そう言って自己紹介したのは、ぱっと見女子っぽい顔立ちをした男子生徒だ。いや、もしかしたら何らかの事情で、男子生徒の制服を着ている女子生徒かも、という可能性も去年考えたが、『生物学的にも、戸籍上でも、男じゃ!』って、本人が言っていたから多分そうだろう。というか、そんなことで嘘つく奴がいてたまるか。

 

秀吉「………………と、いう訳じゃ。今年一年よろしく頼むぞ。」

 

 ………………しまった。去年の思い出にふけっていたら、木下君の自己紹介を聞き逃がしていた。………………まあ、いいか。去年と同じクラスだったし。

 

?「…………土屋康太。」

 

 次に、木下君の後ろの席にいる小柄な男子生徒が自己紹介をしていた。………………って、あれ?またしても知り合いだ。 というか、この生徒とは、ロクな思い出がない。

 たしかそれは、去年の夏頃の話だ。体育の授業の準備で着替えをしていた時のこと。ふと、窓の外の方から人の気配がして見てみると、一瞬だけ、彼の姿を発見した気がした。ほんの一瞬の出来事だったから、幻覚かと思ったが、数日後、零次からの報告で、彼のもとを訪れてみると、彼がその時盗撮したであろう写真を売っているところを目撃した。当然、私は彼を現行犯で捕まえたが、こういう問題を明るみにできない文月学園のことを考えて、とりあえずは、注意するだけにとどめておくことにした。

 

?「…………です。海外育ちで、日本語は会話はできるけど、読み書きが苦手です。」

 

 ………………おおっと。また、去年の思い出に浸っていたら、いつの間にか次の人に………………、訂正、席の位置を見るに、4名ほど聞き逃していた。仕方ない。後で機会があれば聞いておこう。

 

?「あ、でも英語も苦手です。育ちはドイツだったので。趣味は………………。」

 

 そういえば、やけに聞き覚えがある声だと思っていたら、島田美波さんか。去年、入学したての頃は、言葉関係でいろいろ苦戦していたみたいだけど、今ではそんな様子は全く見られない。友達もまあまあ出来たみたいだけど、一つだけ問題がある。

 

美波「趣味は吉井明久を殴ることです☆」

 

 この暴力性。これさえ何とかすれば、彼との距離が縮められるのに。………………私個人としては、縮まってほしくないけど。

 

?「あなたでしたか………………、吉井君を傷つけるクソ女は………………。(ボソッ)」

 

 ………………ん?どこからか声が聞こえたような………………。まわりの反応を見ると、どうやら私だけが、その微かな声の内容を聞き取ったようだ。

 

 

 

・・・

 

 

「…………です。これから、よろしくお願いします。」

 

 それから、十数名ほど淡々とした自己紹介が続いた。それにしても、つまらないなー。もう誰か、鼻から牛乳でも飲んで、笑いを取ってくれないかなー。当然、私はそんなことやらないけど。牛乳もないし。

 

?「根民円≪ねたみまどか≫です………………。趣味は………人形作り。………よろしく。」

 

 と、そんなことを思っていたら、私の後ろの方で、別の女子生徒が自己紹介していた。その声は今にも消えそうな程か細かったが、先ほど島田さんを『クソ女』と言っていた声だ。

 一応、知り合いではあるが、私や吉井君達と違って、彼女の去年のクラスはFではなくB。それだけが理由ってわけではないけど、とにかく、彼女との交流はそんなになかった。

 

明久「………コホン。えーっと、吉井明久です。気軽に『ダーリン』って呼んでくださいね♪」

 

「「「ダァァーーリィーーン」」」

 

 ………………吹いた。確かに、誰かに笑いを取ってくれとは思ったよ?でも、君が実行するのはズルいよ!ちくしょう!私の腹筋を返せ!

 

円「………………ダーリン。(ボソッ)」

 

 根民さんがこっそり言っていたけど、そんなのに構っている余裕もない。

 

明久「……失礼。忘れてください。とにかくよろしくお願い致します。」

 

 吉井君もなんか気分が悪そうな顔をしている。冗談のつもりが、本気で返されるとは思っていなかったんだろう。

 

ガラッ

 

?「あの、遅れて、すいま、せん……。」

 

「「「え?」」」

 

 私が呼吸を整えていると、教室のドアが開いて、一人の女子生徒が入ってきた。………………今思い返してみれば、ここにいるはずの『彼女』がこの教室にいないことに、疑問を持つべきだった。

 

福原「丁度よかったです。今自己紹介をしているところなので、姫路さんもお願いします。」

 

?「は、はい!あの、姫路瑞希といいます。よろしくお願いします……。」

 

 姫路瑞希さん。振り分け試験を途中退席してしまった唯一の生徒。去年の成績で言えば、3位と4位を行ったり来たりしている。そんな優秀な生徒がこの教室に来るなんて、まずありえない。

 

「はいっ!質問です!」

 

瑞希「あ、は、はいっ。なんですか?」

 

「なんでここにいるんですか?」

 

 ………………………だから、彼女がここにいることに、疑問がある生徒がいるのは仕方ないことだけど、その質問の仕方はどうなの?せめて、『どうして、あなたみたいな優秀な生徒がFクラスに入ってしまったんですか?』とかじゃないかな?

 

瑞希「そ、その……、振り分け試験の最中、高熱をだしてしまいまして……。」

 

 まだ緊張しているせいか、体のあちこちを震わせつつ、姫路さんは丁寧に答えた。その回答にあちこちから言い訳がましい話が聞こえた。例えば『俺も熱(の問題)が出たせいでFクラスになった』とか、『弟が事故に遭ったせいで実力が出せなかった』とか、『前の晩に彼女が寝かせてくれなかった』とか。醜い。なんて醜い言い訳だ。

 それを見かねたのか、福原教諭が動いた。

 

福原「はいはい。皆さん、静かにしてください。」

 

 そう言って、教卓を叩いた。次の瞬間。

 

バキッ パラパラパラ………………

 

 教卓が崩れた。………………………そこだけはFクラスのマシな部分だと思ってたのに。

 

福原「えー……替えを用意してきます。少し待っていてください。」

 

瑞希「あ、あはは……。」

 

 これには姫路さんも苦笑い。お願いします、福原先生。一番いい教卓を頼みます。

 

明久「……雄二、ちょっといい?」

 

雄二「ん?なんだ?」

 

 ふと視線を坂本君に向けると、吉井君と何か話していた。と思ったら、教室を出ていった。

 

 ………………どうやら、進級早々、動く羽目になりそうだ。

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