零次「……霧島、木下。今日は二人共お疲れ様。明日も忙しくなるだろうが、今日の調子でよろしく頼んだぞ。…………まあ、ロクに店番すらしていなかった俺が言えた口じゃあないんだがな……。」
場所は、Aクラスの教室。最低限店の片づけを手伝い、皆が帰った後のこと。今この場所は、俺と霧島と木下の3人だけの空間となっていた。
優子「確かに店番は大体久保君がやってたけど……。その間、代表は召喚大会で勝ち上がって来たでしょ?あまり仕事ができなかったのはアタシ達も同じだし。」
零次「木下……、俺とお前達とでは、立場が違うという話を今まで何度したと思ってる?俺を気に食わない大多数の奴らは、そんな些細なことだろうと、俺を糾弾するための材料にするんだ。」
この一ヶ月でAクラスの俺を見る目はそれなりにマシになったが、それでも一定数俺を極度に敵視している連中がいることを考えると、油断ならないんだよな……。
零次「…と、そんなことはいいんだ。それより話したいのは召喚大会についてだ。」
そう言って話を切り出そうとしたところ、霧島の肩が震えた。
優子「……ああ、それね。あの先輩達、一人一人の点数はそんなに高くなかったけど、息の合った連携で、点差をカバーしてきてたわね。」
零次「ああ。お前達に比べたら、あの二人は……正直言って大したことはない。『三年の方が試召戦争をやってる』、なんて皆口にするが、
試験召喚システムが導入されて、おおよそ四年。この短い歴史の中で行われた試召戦争の記録を見見ると、今年2―Fが進級早々に戦争を起こすまで、過去一度の例外もなく、期末テストの結果が出てから行われていた。
もちろん、先生側の都合であったり、学期末の腕試しをしたりと、理由は色々あるだろう。しかし、一番の理由はペナルティを無視できることにある。
『下位クラスが敗北した場合、設備のランクが一つ下がる』。このペナルティは、学期を跨げばリセットされる。今の第二学年の状況だと、
……少し話が逸れたな。つまりは、実際に先輩達が試召戦争を行なったのは、最大でも各学期末の3回。実際は、試召戦争自体に消極的な生徒が、クラス代表になることもあるため、試召戦争の経験が0のクラスも当然ある(正確には一年生の頃に『試験召喚実習』という科目があるから、召喚獣に触れる機会が全く無い生徒というのはまずいないが)。
さらに言えば、戦争をしたクラスでも、前線にいたか、代表の護衛をしていたか、最後まで生き残ったか、序盤で早々に戦死したか等、様々な要因で生徒間の戦闘経験に差が生まれる。クラス代表に至っては、召喚の機会もなく戦争が終わることもある。
結局のところ、たかが数回の経験しかないのに、
零次「…………だから、三年との戦いも、二年生同士の戦闘と大して変わらない。『普通に戦えば』お前達が負けることなどなかったはずだ。……どこぞの馬鹿が愚行に走らなければなぁ……!」
優子「ちょ、ちょっと?流石に馬鹿は言いすぎじゃない?」
零次「……普段なら、木下の意見が正しいし、俺も踏み止まって謝っただろうが、今回ばかりは無しだ。他にどんな表現がある?相手の口車に乗せられて。相方をほっぽり出して。彼氏の話も聞かずに、一方的に暴力を行使して。結果、木下を負けさせた。……ついでに言えば、木下には謝ってたようだが、坂本には『ごめんなさい』の『ご』の字も出さなかったよなぁ?」
一言言う度、指を霧島に突き付けていく。言葉は怒気を含み、目は鋭く睨みつけていく。霧島は気圧され、あっという間に、ガラス窓に背を付ける状態にまで追い詰められた。
零次「……なあ、霧島。俺はお前のことをどこまで信用すればいい?」
翔子「………………。」
一変して、呆れるような口調で霧島に問いかける。霧島は何も答えなかった。
零次「去年、お前の噂の真相について探るべく、直接お前に問い質した時は、坂本に対する並ではない想いを大層長い間語ってくれたな?今もお前は坂本のことが好きだと思って良いのか?」
翔子「…………。(コクッ)」
この問いには霧島は軽く頷いた。肯定の意思を示していることは、容易に理解できる。だが…………。
零次「それを信じろと?俺の目の前で、坂本の顔を鷲掴みして問い詰めてたクセに?それだけで、お前が坂本に向けている『愛』がその程度だったと理解できるが?」
そう言いながら俺は、制服の内ポケットから何枚かの写真を取り出した。
寝間着の状態で住宅街を走る坂本と、めかしこんだ姿で追いかける霧島の写真。
手元は隠れているものの、手錠のようなもので繋がれた坂本と、先程の写真と同じ服装でロープらしきものを引っ張っている霧島の写真。
映画館の窓口で口論しているような二人の後ろ姿の写真。
霧島が坂本の手首の辺りに何かを押し当てているような写真。
チケットを片手に、もう片方の手で坂本を引きずる霧島の写真。
零次「この写真に写っているのはお前と坂本で間違いないよな?」
目の前に写真を見せつけては床に放り投げるを繰り返すこと、5回。霧島の顔は驚きの表情を浮かべていた。
優子「確かにアタシにもそう見えるけど…………、コレ盗撮じゃないの?」
零次「話題を逸らすなよ、木下。写真の出処がそんなに重要か?仮に盗撮だとしても、そこに事実が写っている以上、それが理由で証拠としての価値が無くなる訳じゃないだろ?」
床に散らばった写真を拾い集める木下に冷たい視線を向ける。本人としては単に気になったから聞いただけのことだろうが、俺からしてみれば、話題を変えて霧島のしたことを有耶無耶にしようとしたとしか思えない。ただまあ、『写真を捏造した』と言わなかっただけでも、良しとしよう。西京と梶以外の過激派の連中なら、間違いなくそう言っただろうし。
零次「そもそも、この写真が撮られた場所は文月駅前の映画館で、撮られた日は休日だ。写真の提供者以外にも多くの人の目があったことは容易に想像できる。お前の奇行を目の当たりにした証人も、探せばそれなりの数見つかるだろうな…。」
翔子「……その日は雄二とデートしてただけ。……貴方に何かを言われるようなことはしていない。」
優子「まあ……写真を見る限りは、そうよね。いくつか怪しい写真はあるけど……それでも坂本君と翔子の関係に口を出せるようなものじゃないと思うわ。」
……木下の意見もまあ、間違っちゃあ、いないな。だが、本当に何事もないデートであれば、こうして話し合いの場など設けはしないだろう。
零次「ほう…………?ならば、霧島があの日何の映画を観たのかを聞いても、同じ意見でいられるか?」
優子「いや、駅前の映画館でしょ?変な映画は無いでしょ……。それで?何を観てきたのよ?」
零次「当然、覚えているよなあ?お前がコレがいいと指を差し選んだ映画だ。それに、お前は『一度覚えたことは忘れない』んだろ?それとも、坂本と一緒に観た映画の内容はお前にとって『覚える必要のないこと』だったのか?」
霧島はなんとか誤魔化せないか、考えてたようだが、そんな退路などお前に用意されてる訳ないだろう。
その記憶力の高さが、たゆまぬ努力の末に得たものなのか、生まれながらに持っていたものなのか…。そこは大して重要なことじゃない。大事なのは、その才能が『確かなものかどうか』だ。
多くの生徒が、先生が、霧島をこれほど持て囃しているのは、その才能が確かなものだと信じているから。
お前は、こんな些細なことだろうと、安易に知らぬ存ぜぬとは口には出来ないのだよ。それをしたところで周りのお前を見る目が変わることはないだろうが、少なくとも俺の評価は下がるだろう。ただ人より覚えていられるだけで、その本質は『自分に都合の良いことしか覚えてない人』と何も違わないのだから。
翔子「……『Little Knight BUG 〜蜚蠊の皇帝〜』」
優子「…………タイトルで既にどんな映画か、なんとなく想像できるんだけど……。」
翔子「…………を2回観た。」
優子「そのタイトルで2周する要素、どこにあんのよ!?」
当然の反応だな。少なくともカップルで見る映画として選択するにはあまりにも酷すぎる。友達と観に行くしたって、この映画はまず選ばない。
零次「俺は事前に聞かされていたから軽く調べてみたんだが……、平均的な評価は☆2。☆5を付けてるヤツは大体サクラだな。」
あの映画館は駅前の目立つ場所に構えているのに、時折トンチキなサービスやマイナーな作品を取り扱うことで、ある意味有名なところだからな……。件の作品もその内の一つだろう。
優子「翔子…………、どうしてそんな映画を坂本君と観ようと思ったのよ……。」
零次「人の趣味嗜好なんて、それぞれだろ?……という冗談は置いといて、一つ予想していることがある。……お前、上映時間だけ見て、鑑賞する映画を決めただろ?お前が、もしくは坂本が実は蟲好きだった、という訳でもなければ、観る候補にまず挙がらないことは数字が示している。」
そう言いながら、木下に向けてスマートフォンの画面を見せた。霧島が行った映画館のサイトが写ったそれには、上映中の映画の上映時間が一覧で並んでいる。
そこに書かれた例の映画の上映時間は、なんと5時間13分。他の映画が3時間程であることからも、霧島が坂本を長時間拘束するために、他の有名な映画をそっちのけで選択したと考えても不自然じゃないだろう。
……5時間も大量の蟲を見続けさせられるのも、低評価の山の原因なんだろうな。
零次「……霧島、この前の試召戦争で俺が出した指示は覚えているな?」
思い返したのは、Fクラスとの最終戦、テスト勝負前に霧島と交わした会話だった。
~零次の回想~
零次『簡単なことだ。これからテストが行なわれるだが、そこでお前は満点を取れ。そして、坂本に勝て。今俺から言えるのはそれだけだ。』
翔子『…………?』
零次『言われるまでもない、って顔してるな。なら大化の改新が何年に起きた出来事か、答えられるよな?』
翔子『……………………625年。』
時間にして30秒近い熟考の末、結局霧島は間違った解答をしたな。
零次『やっぱり間違うんだな。お前がこの問題だけは何度も間違うと聞かされた時は、何かの冗談だと思ったよ。…………坂本との大事な思い出か?』
翔子『…………。(コクッ)』
零次『そうか……。だが、相手はお前が大切にしているその思い出を利用して、お前に勝とうとしているんだぞ?アイツにとっても、お前と過ごしたかけがえのない思い出の一つのはずなのに、それを踏みにじるような行為をしようとしている。そんな奴に情けをかけるようなことはする必要ないだろ?』
翔子『…………零次……。』
零次『霧島……。本当は分かっていると思うが、大化の改新が起きたのは645年だ。例の問題が出たら、素直にそう書けばいい。それだけで相手の計画は崩れ、最終的にはお前が勝つんだ。……クラスのためにも、最善を尽くしてくれ。』
~回想終了~
零次「結局、お前は100点を取らなかった。そのことについて謝ってきたが、俺としては『その結果』が欲しかったんだ。俺の指示よりも、アイツとの思い出が大切であることを示す結果をな…。答案を直接見たわけじゃないが、例の問題を『わざと』間違えでもしない限り、あの結果は出てこないと、そう信じることにしよう。」
優子「アタシも翔子なら満点を取ると思って疑わなかったわ。でも、翔子だって間違うこともあるんだって、どこか安心した気持ちになったのも、よく覚えてるわ。」
零次「木下もそう思ったなら、尚の事今回の件とこの写真の件は見逃していいものじゃない。アイツとの思い出を大事に思っているくせに、どうして当の本人のことに対して平気で手をあげられるんだか……。」
霧島は俯いたまま、何かを話すような気配を見せなかった。
だが、俺には一つ思い当たる理由がある。それは抑圧から解放された反動だ。
坂本は小学生だった頃には『神童』と呼ばれ、大人からは期待の眼差しを、自分と近しい年代の子どもからは嫉妬を帯びた目を向けられていた。それが引き金となって『とある事件』が起こり、霧島はそれに巻き込まれてしまった。
事件はなんとか解決したものの、坂本は霧島を巻き込んでしまったことに責任を感じてか、彼女から距離を置き始めた。机に向かって勉強することをやめ、中学に入ってからは喧嘩に明け暮れる日々。あの日の彼からこれだけ変わってしまえば、自然と彼女も離れていくだろうと、アイツは思ったのだろうな。
だが、霧島はずっと坂本の隣に再び立てるように寄り添い続けていた。どれだけ無視されようと、突き放すような言葉を浴びせられても……。
零次「……坂本はお前から『付き合って』と命令を受けた時、『告白は何度も断った』と言っていたな。幾度と好意を伝えても受け止めてもらえず、それでも食い下がり続けて、ようやく恋仲に至れた…………俺はそう信じていた。」
その時の俺は、命令で強引に付き合ったとはいえ、それでも霧島の望む形を手に入れたのだと、心から安堵していた。仮にも去年の学年主席だ。それに、あれだけ坂本との思い出を熱心に語れるくらい、アイツを好いているんだ。余程のことがなければ、別れるなんてこともないだろう。
…………そう思っていた。
零次「…………だが!いざ蓋を開ければこのザマだ!今日、俺の目の前で繰り広げられた光景!試召戦争後すぐの休日に行われたであろう暴挙の実録写真!アレを見せられた後で『坂本が好き』だとか言われても、何の信憑性もねぇんだよ!」
初めて二人が出会ったのは小学五年生ごろ。そこから今日に至るまで概ね五、六年か…。その間坂本は霧島に対して、『好き』とも『嫌い』とも言わなかった。告白に差し出された手を取りはしなかったが、払いのけることもしなかった。
その曖昧さも拍車をかけたんだろうな……。形式上だがカップルになったことで、今まで抑え込んでいた諸々の感情が爆発…………いや、どちらかと言えば暴発か。とにかく、今まで坂本とできなかったことを一つでも埋め合わせるかの如く焦り、空回りし、結果悪い形で出力されたのが、俺が問題視した二件という事だろう。
零次「だが、良かったなぁ!そんなお前でも肯定してくれる人間が三種類いる!
優子「ちょっと!ここでアタシに流れ弾が来るの!?」
零次「そりゃあ、よくよく考えりゃ休日デートの話をした時にお前がデートの内容を知らなかったってのも不自然だと思ってな…。それともアレか?俺と同じで週明けにニコニコしながら登校して来たアイツを見て、坂本とのデートが成功したのか推測しただけで満足したのか?」
優子「…………そう、ね。……そうかもしれないわ。」
たどたどしくも返ってくる肯定の返事。それが俺に気圧されて出てきた言葉か、自分の言動を省みて絞り出したものなのか……。今はどうでもいいことだ。
零次「……まあ、いい。話の本題はお前じゃないから、これ以上追求するのはやめておく。……霧島翔子。これは警告だ。お前がこれ以上、坂本をぞんざいに扱うなら、俺とお前の関係も今一度見直す必要がある。」
優子「……それってどういう意味よ?」
零次「本格的に霧島翔子を『敵』として見る。今まではクラスを纏めるための中心的支柱としてお前を擁立していたが、その役割を取り上げることになる。」
翔子「…………それだけ?」
零次「んな訳ねぇだろ。
去年霧島は、数多の男子生徒の告白を切り捨てた結果、『同性愛者説』が噂として囁かれた。その時に俺は霧島から話を聞き出し、その噂がデマであること、そして霧島が坂本に並々ならぬ好意を抱いていることが判明した。
そんな熱意を語られたのだ。感情が表に出辛い俺でも、心を動かされないわけではない。だからこそ霧島を応援してやりたいと思ったし、それ故に最近の霧島の言動は、その心を裏切られた気分なのだ。
零次「まずは、お前が坂本にしたことをそのままやり返す。自分のしたことがどれほどの事か理解すれば、少なくとも暴力は無くなるだろ?」
まさしく、『我が身を抓って人の痛さを知れ』ということだ。本当なら、今こうしているように直接口で言うだけで反省してくれりゃあいいんだが、霧島がそれでちゃんと反省するような奴だと、到底思えなくなっている。
零次「それでダメなら、然るべき機関に相談する。正直これが一番手っ取り早いんだが……、あまり事を大きくしたくないのが本音だ。出来ればこの手段は取りたくない……。」
優子「然るべきって……、先生とか?」
零次「警察とか、弁護士とかだ阿呆が。俺はちゃんと『機関』と言ったはずだが?そもそもここの教師がこの問題にまともに向き合ってくれる訳が無いだろう?」
言ったところで、逆に俺の方がクドクドと説教されるか、学生時代を思い出して昔語りを長々としだす教師の姿が想像できる。まともに取り合ってくれる教師の姿よりソッチのイメージが先に来るくらい、俺は文月学園の教師を信頼していない。
零次「…………そして、それでも貴様の蛮行が止まらぬ場合についても話ておこうか……。その際に起こりうる、口にするのもおぞましい最悪の結末……。霧島翔子。……貴様の目の前で坂本雄二を…………殺す。」
翔子「…………!!」
唇を震わせつつ、最後の三音を絞り出し霧島に突きつける。俺ほどではないが、表情が顔に現れにくい彼女でもここまでのことを言われりゃ、絶望と憤怒の混ざった顔もするわな。
優子「そ、そこまでやるの!?最早やることが翔子への制裁の域を越えているわ!!」
零次「周りの奴らが言って聞かない、法的措置すら無視する。なら過激だろうが、そうなることも想定して欲しいものだな。俺は『元』とはいえ文月市の不良集団『七天八刀』の一グループ、『蒼魔王』のリーダーを務めていたのだからな。」
と言っても、実際は俺がリーダーの時代から、現在『蒼魔王』のリーダーである白崎達が雑務を積極的に片付けまくったせいで、あまり自分が『リーダー』だと自覚した感覚が無いんだが……、まあ、ビビらせるには十分だな。
零次「だが少しは安心しろよ。そもそも、二番目の手段もできれば取りたくないと言っただろ?そこで踏みとどまって自省すれば、物理的に坂本と永遠に会えなくなる事態は避けられる。…………それとも、何だ?ここまで精神的に追い詰めなけりゃ、坂本に対する態度を改められない程愚かな人間か、貴様は?」
翔子「……………………そんな、こと…………ない。」
零次「そうか。なら、今回の件について、キッチリ反省することだな。お前の親友もしっかり聞いてるし、録音もさせてもらった。一ヶ月も経たんうちに、アイツの友人の声真似に騙されて釘バットで襲いかかったり、ロクに調べもせずに周りの空気に同調して女子風呂覗きの冤罪を着せたりなど…………。ゼッタイニスンナヨ?」
二人共俺の圧に負けて、首を縦に振ることしかできなかった。
本当なら、木下には『まさか』とか言って笑って流して欲しいものだが、今日の霧島の奇行を見せられた身としては、『有り得そう』と思われても仕方ないだろうな。
零次「……霧島。俺は別にアイツの言うことに従順であれとは言ってない。お前の受けた精神的苦痛を、水に流して忘れろとも言った覚えはない。ただ一つ、言わせてもらうならば…………。坂本を信じろ。アイツの心境など全く分からないが、決してお前を雑に切り捨てるような男じゃないことは…………坂本と喧嘩したことのある俺には分かる。必ず、お前も自分自身も納得できる結末を用意するだろう。」
…………だからこそ、霧島は結論を急ぎすぎてはいけない。『それが原因で別れた未来』を見たことはないが、あり得ない話だと嘲笑するには……、コイツの行動はあまりにも自分勝手過ぎるのだ。
零次「それともう一つ。今は俺が学年主席だが、周りに与える影響はお前の方がはるかに大きい。例えば俺とお前が同じことを思ったとして、俺が言うのとお前が言うのとで従ってくれる人間の数がどれだけ違うか……、それでお前の人望ってモンが分かるだろうよ。」
優子「それはそうね……。アタシだって代表から言われたことには首をかしげるけど、翔子からも同じことを言われたら首を縦にふるもの。」
零次「……だからこそ、お前はもっと自分の影響力を考えて行動するべきなんだ。お前が彼氏を己の傀儡の如く扱い続けられると、今後この学園で生まれるであろうカップルも同じ路を辿っていく可能性が高くなる。『成績上位者が自分の都合だけで下位の相手を振り回す』もしくは、『女性の言うこと為すことに男性は全て服従すること』が文月学園流の男女の健全な付き合い方だと勘違いする馬鹿が出てきてからでは遅いんだよ。」
木下は『そんなことあるわけないでしょ』とでも言いたげな目でこちらを見ている。だが、俺の文月学園生徒の認識はそんなもんだ。
彼女の見た目と頭の良さ。文月学園で振り撒いている『表』の顔にここの連中は魅了されている。そんな奴らが仮に霧島の『裏』の顔……坂本が絡んだ事象で霧島が見せる顔……を見たとしても、批判の矛先が向かうのは『彼女』ではなく『彼』の方。
なぜなら、奴らには
……霧島の変わりぶりを『抑圧からの解放された反動』だと考えたが、もしこの状況を想定して、去年一年静かに学園生活を送っていたというのが真実だとしたら、コイツのやっていることは相当悪どいものだな。
零次「…………と、もうこんな時間か。全く……ガラにもなく長々と説教かましちまったな。」
教室の壁に掛けられた時計は17:00を示そうとしていた。
今は学祭期間中で部活動もないし、もう学園に残っている生徒は俺達以外いないだろう。
翔子「……あ、あの、零次。」
零次「なんだ霧島。さっきも言ったが、今のお前の言葉には信用を担保できるものが何もない。これから坂本とどういう関係を築いていくか、お前が坂本をどうしたいかの答えは……、今後のお前の行動で判断するとしよう。」
そう言って俺は二人を置いて教室を出ていった。
あの二人はまだ教室に残って何かを話しているようだが……。まあ、俺に関係があるようなら、また明日話してくるだろう。
…………話しかけられる気力があればの話にはなるがな。
~後書きRADIO~
零次「……さて、後書きRADIOの時間だな。」
秋希「今回で第28回ね。……そして、久しぶりにゲストも呼んできたわ。」
秀吉「木下秀吉じゃ。近衛に言われてここに来たのじゃが……ワシで大丈夫なのかのお?」
秋希「大丈夫、大丈夫。秀吉君に求めるのは、私達の会話に適度に相槌を打ってくれることと、話を振ったらたどたどしくてもいいから、自分の考えを述べてくれることくらいだから。」
秀吉「う、うむ……。それくらいなら、ワシでもできそうじゃの。」
零次「じゃ、特に前置きをグダグダ話すことも無いし、早速本題に入ろうか。」
・・・
零次「さて、早速今回の話についてまとめるわけだが……。なんてことない。グダグダ、ダラダラと話を進めてきたが、これまでの霧島の言動を問い詰める話だ。」
秋希「まあ、着地点は私が姫路さん達に言ったことと同じね。違うところと言ったら、態度が変わらなかった時の対応を具体的に明示したところかな。」
零次「そうだな。姫路や島田は近衛がFクラスになってから積極的に関わるようになったこと、それから相手への好意を直接伝えている場面が無かったことが、霧島との応対への違いに繋がっているな。」
秀吉「あの二人は、肝心なところで奥手になるからのぉ……。」
零次「奥手、か……。お前は随分と優しい言い方をするな。俺から見たらアイツらの態度は、『自分が好きな相手は、相手も自分のことを好きである』という前提で動いているようにしか見えないんだが。」
秋希「私も同意見よ。あの二人は霧島さんと違って、別に吉井君の彼女ってわけでもないのに、まるで既に付き合っているかのような態度でいるのが腹が立つわね。」
秀吉「ふ、二人とも辛辣じゃな……。」
零次「そうか?まあ、お前がそう思うのは、お前が『傍観者』の立場で二人のやり取りを見ているからだろう。アイツらの追跡劇を見て、『あの二人はいつも通りじゃの〜』なんて目で見ていないとは、俺は思ってないんだが?」
秀吉「そんなにほのぼのとした目では見ておらぬ。じゃが……、二人の間に入っても、ワシには何もできぬ。下手にケガでもして、演劇部の活動に支障が出るのもイヤじゃしの。」
秋希「結局見て見ぬふりしてる点には変わりないじゃないの。」
零次「事実、霧島を肯定する人の例示に挙げた最初の二つは、Fクラスの面々を思い浮かべてアイツに語ったからな。一つ目の方は
秋希「秀吉君の場合は、今の言葉からすると男女半々の立場って感じね。二人の関係を微笑ましく見ていないけど、積極的に首を突っ込む程でもない。行き過ぎた行動は止めたいけど、自分が傷つくリスクを負ってまですることじゃない。……そんな感じかしら?」
秀吉「う、うむ…………。間違ってはおらぬな。」
・・・
零次「さて、話題は変わるが、AクラスとFクラスの最終戦での霧島と俺の会話が公開されたな。」
秋希「感のいい人なら、あの時点でどういう命令をされるか、簡単に想像できてたでしょうね。」
零次「ああいう山場のシーンをどう改変するかで、二次創作者の好みとか思想が出てくるよな。『坂本が勝って大団円』とするか、『坂本も召喚獣を使って霧島に挑む』展開にするか……。仮にAクラスに勝利したとしても、結局設備を取らずに二学期にリベンジするとかな。」
秀吉「どういうことなのじゃ?素直に設備を交換するよりも良い条件をAクラスと結べたのかのう?」
秋希「……単純に三日天下にしかならないからでしょ?さっきの話では坂本君にのみ焦点を当てたけど、他の勝負の内容だって作者によって変わることもあるわ。仮に『姫路さんが負けるイベント』も入ってたら、坂本君が策を弄したところで厳しいでしょ。」
零次「加えて、Fクラス生徒が戦争に意欲を示すのは、ほとんどが『クラス設備への不満』だ。Aクラスの設備を手に入れた場合の話は俺も本文で言ったな?」
秀吉「確か、設備を手に入れただけで満足して堕落していく、だったかの?」
零次「その通りだ。原作だとCクラスの設備は手に入れたけど、すぐ放棄したから、上位設備を入手した後のクラスメイトの変化がどんなもんかは想像の域を出ないが……。坂本が初戦から設備交換をしたらモチベーションが下がることを危惧していたくらいには、アイツらが真面目に勉強することはないと思われてたのだけは事実だろうな。」
秋希「そこがメインを張るキャラとモブキャラの違いでもあるのかしら?現実問題、吉井君が原作で描写されない裏側でどんなことを言われてるかは誰も知らないけども。『分からない問題でも自分なりに必死に答えようとする姿勢』や『普段は不真面目だけど、キッカケがあれば我武者羅に頑張れる心』は私にもズキンと来るものがあるわね。」
秀吉「それにはワシも同感じゃな。」
・・・
零次「……さて、今回はこんなところか?」
秋希「そうね。一応予定通り投稿できたけど、本当ならあと1、2話くらい話が進んでる想定なのよね。」
零次「何度も言うが、結局……作者のモチベーション次第だからな。本来なら『感想をよろしくお願いします』とか、言うべきなんだが………。」
秋希「……作者自身が面白い作品を見つけても、そこに感想を書きたがらないからね。自分がやらないことを他人に押し付ける訳にもいかないしね。」
零次「あくまでも『もらえれば嬉しい』レベルでしかないからな。このスタンスをどう思うかは各々の胸の内に秘めといてくれると助かる。」
秀吉「……ところで、次回はどうなるんじゃ?」
零次「次回はようやく、学園祭2日目……といきたいが、まだFクラス側の話が終わってないんでな。それを描ききることになるな。」
秋希「そんなに間隔を空ける気はないけど、少なくとも9月19日には投稿されるわ。」
零次「それでは……。」
「「「次回もよろしくお願いします(のじゃ)!!」」」