バカと無情の試召戦争   作:Oclock

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小問5 戦いの幕開けとαクラス

福原「さて、それでは自己紹介の続きからお願いします。」

 

 教卓を持って戻ってきた福原教諭は、HRを再開させた。でも、持ってきた教卓は壊れたものより少しマシな程度で、きっと1週間くらいすれば、また壊れるのだろうなと、私は思った。

 

?「えー、須川亮です。趣味は………………。」

 

 須川君か。確か、彼も去年同じクラスだったような………………。というか、このクラスの多くの生徒が去年もFクラスのクラスメイトだったような気がするんだけど………………。気のせいか?きっと、気のせいだ。そう思うことにしよう。

 

福原「近衛さん?あなたの番ですよ?」

 

秋希「え?………………あ、ああ。すみません!」

 

 気がついたら、私まで順番が回ってきていたようだ。

 

秋希「え、えーと…………、皆、名前だけは知っていると思うけど、近衛秋希といいます。ゲームとか、漫画とか、アニメが大好きです。」

 

 このクラスの生徒の多くは帰宅部で、帰り際にゲーセンとかに寄り道している人もいれば、勉強をサボってゲームをしている人もいる。このことは、去年の時点で既に調査済みだ。きっと、これで何人かと繋がりができるだろう。

 

秋希「あと、『なんで学年次席がここに?』なんて、聞かれると思うので先に言っておくと、えーと………………まあ………………、ちょっと調子が悪かったんだと思う。」

 

 そう言うと、また教室のあちらこちらから姫路さんの時と同じような言い訳をする声が聞こえてきた。本当、何度聞いても見苦しい。

 

秋希「そういう訳なんで、これからよろしくお願いします!」

 

 その後は、特になんて事のない自己紹介の時間が流れた。

 

福原「坂本君、君が自己紹介最後の一人ですよ。」

 

雄二「了解。」

 

 そして、坂本君の番がやって来た。教卓の方へ歩く姿からクラスの代表という感じが滲み出ているが、普段のバカ騒ぎしている印象が強すぎて、私から見たら、どうも取って付けた感じがしてしまう。

 

福原「坂本君はFクラスの代表でしたよね?」

 

 坂本君は、福原教諭の問いかけに、鷹揚に頷いて応える。

 クラス代表。この言葉だけ聞くと、なんともすごい感じがするが、思い出してほしい。彼が所属しているのはFクラス。学力別に振り分けられた私達にとって、ここは劣等生(私と姫路さんは除く)の集団が通う教室。そこの代表だなんて、Aクラスの代表と比べたら、その価値は天と地ほどの違いがある。

 

雄二「Fクラス代表の坂本雄二だ。俺のことは代表でも坂本でも、好きなように呼んでくれ。」

 

 この瞬間、私の脳裏にいくつもの坂本君の呼び方の候補が思いついた。

 

第1候補:坂本君

 要は、今まで通りの呼び名。シンプルイズベストである。

 

第2候補:雄二君

 名前呼び。折角だし、距離を縮めておこうかな、なんて思ってる。

 

第3候補:ダーリン

 吉井君がやったボケを坂本君に返してみる。もしかしたら、『彼女』が反応するかもしれないし。

 

第4候補:チョッコラム・ピョピョピョ・ピュエーカー

 ………………………………はい。ふざけただけです。

 

 これらを含めて、108くらいあった候補を吟味した結果、結局『坂本君』と呼ぶことにした。うん、やっぱり、普通に呼ぶのが一番だ。

 

雄二「さて、皆に一つ聞きたい。」

 

 そう言って、坂本君は教室のあちこちを眺め、皆の視線を誘導する。

 

 かび臭い教室。

 

 古く汚れた座布団。

 

 薄汚れた卓袱台。

 

 ………………改めて見ると、本当にひどい設備だ。やっぱり、Eクラスに入るべきだったかな?

 

雄二「Aクラスは冷暖房完備の上、座席はリクライニングシートらしいが………………。」

 

 坂本君は、ここで一呼吸いれて、そして、静かにこう告げた。

 

雄二「………………………不満はないか?」

 

「「「大ありじゃぁっ!!」」」

 

 ふーむ、この心の叫びはどう解釈するか。自分たちのいる設備の酷さに不満があるのか、Aクラスの設備の豪華さに不満があるのか、または両方か。まあ、私も不満はあるけどね。勉強を怠ると、こういう結末になると知っておきながら、ほとんど勉強せず、何とか進級したくせに、底辺に落とされると、上にいる奴を逆恨みするような生徒にだけど。

 

雄二「だろう?俺だってこの現状は大いに不満だ。代表として問題意識を抱いている。」

 

「そうだそうだ!」

 

「いくら学費が安いからと言って、この設備はあんまりだ!改善を要求する!」

 

「そもそもAクラスだって同じ学費だろ?あまりに差が大きすぎる!」

 

 坂本君の言葉に続き、どんどんクラスメイトから不満の声が上がる。もはや、福原教諭では抑えられないくらいに。

 

雄二「皆の意見はもっともだ。そこで、これは代表としての提案だが………………。」

 

 そして坂本君は、こう宣言した。

 

雄二「………………FクラスはAクラスに『試験召喚戦争』を仕掛けようと思う。」

 

 

・・・

 

 

 所変わりAクラス。時は進み、10:00。2時限目が始まり、10分が過ぎている。だが、教師の姿はない。何故なら、今は自習の時間だからだ。日本史担当の飯田先生が授業の始めにプリントを置いて、出て行ったのだ。なんでも、『FクラスとDクラスが試召戦争をするから、その準備をするため』らしい。

 

 さて、俺から、その『試召戦争』とは何かを説明させてもらおう。『戦争』という響きから、何か物騒な出来事を連想しているなら、それは違うと言っておこう。ハッキリ言って、この試召戦争というのは、『ゲーム』だ。

 この文月学園では、4年ほど前から、1時間の試験時間に対して問題数が無限にあるという、独特のテスト方式を採用している。つまりどういうことかと言えば、テストの点数に上限がなく、能力次第でいくらでも成績を伸ばせるということだ。

 さらに、文月学園では、科学とオカルトと奇跡ともいえる偶然により、とある研究所で生み出された『試験召喚システム』を使用している。これは、自分が取得した点数に応じた強さをもつ『召喚獣』を使役することができるものだ。まあ、『召喚獣』なんて言ったが、イフリートとか、リヴァイアサンとか、バハムートとか、そういう類のものではなく、一言で表すと、もう一人の自分、要は『アバター』のような感じだし、我々生徒(システム的に言えば『召喚者(サモナー)』)が召喚獣を出すには、教師(システム的に言えば『形成者(メイカー)』)の立ち会いが無ければいけないのだが。

 このシステムと振り分け試験、設備に格差のある教室により生み出されるのが、この学園を語るうえで最も外せない要素。生徒の勉強へのモチベーション向上のために提案されたという、召喚獣を用いたクラス単位の設備入れ替え戦(シャッフルマッチ)、それが試験召喚戦争、略して試召戦争である。

 

 俺は今、1時限目の自己紹介の時に、俺のグループに加入すると言ってくれた生徒と共に、教室の後ろ側(階段に近い方)にあるソファで顔合わせをするところだ。と言ったって、プリントをやりつつ、だが。

 

零次「さて………………、Aクラスの連中に後ろ指をさされつつ、それでも意見を曲げずに俺についてくることを決めてくれて、本当に感謝する。」

 

利光「礼を言われる理由は無いよ。僕は零次の友人として、君についてきただけだからね。」

 

?「久保君の言う通りです。双眼君は、Aクラスの代表なんですから、もっとしっかりしてください。」

 

 そう言ったのは、佐藤美穂という女子生徒だ。確か、物理が得意だったはず。他の2名もそれに続き頷く。

 

零次「そうか、ありがとう。それじゃ、Aクラス零次グループ、改め、αクラスのメンバー確認をする。呼ばれたら返事をしてくれ。………………αクラス生徒番号3番、久保利光。」

 

利光「はい。………………ってあれ?零次、今3番ってきこえたけど。」

 

零次「ああ、そうだ。1番は近衛秋希、2番は真倉(まくら)ねるのって奴だ。残念ながら、どちらもAクラスに来なかったが……………。ちなみに俺は0番だ。」

 

利光「そうか。分かったよ。」

 

零次「続けるぞ。αクラス生徒番号4番、工藤愛子。」

 

愛子「はいはーい。」

 

 工藤愛子。Aクラスの中では、かなり異質な存在だ。クソが付くほど真面目な連中ぞろいの中で、自分のスリーサイズを公表したり、特技がパンチラと堂々と宣言したりと、かなりヤベー奴な感じだ。そういうわけで、現在のαクラスのメンバーでは、近衛に次いで警戒している生徒だ。

 

零次「次。αクラス生徒番号5番、佐藤美穂。」

 

美穂「はい。」

 

零次「αクラス生徒番号6番、影山幽也(かげやまゆうや)。」

 

幽也「………………………………………うん。」

 

「「「うわ!」」」

 

 俺以外の3人は驚いた。それもそのはず、影山は、身長が199.8cmもあるのに、細身で内気で声が小さいからか、存在感が希薄なのだ。まともに話せるのが家族と俺と近衛だけというのが、現状である。

 そんな彼だが、一応演劇部に所属している。と言っても、秀吉と違い、舞台に上がることはなく、道具制作や雑用をやっているが。

 

零次「さて、これで全員だな?………………では、改めて聞く。俺達は、これからきっと、辛い道を歩むことになる。いざという時、誰も頼れず、誰にも縋れず、周りは敵だらけ。そんな状況に陥る、あるいは向かっていくかもしれない。」

 

 全員がプリントを進める手を完全に止めて、俺の方を見る。

 

零次「………………………それでも、この俺についてくるのか?」

 

 少しの間、沈黙がその場を支配した。

 

利光「………………当然さ。零次の実力は、僕がよく知っている。だから、僕は君を支えるんだ。」

 

美穂「私達の代表は、霧島さんからあなたに変わったんです。代表についていくのは、当然ですよ。」

 

幽也「………………僕も………………久保君………………と同じ。それに………………、佐藤さん………………の言うことも………………間違って………………ない。………………零次が…………代表で………………、僕の友達………………だから、………ついていく。」

 

愛子「ボクは一年の終わりにこの学園に転入してきたから、君のことはよくわからないけど、皆が言うような悪い人には見えないんだよね。それに、一緒にいると、何か面白そうだし。」

 

零次「そうか………………。分かった。なら、明日からαクラス、本格的に始動する。各々、準備と覚悟をしておくように。それでは、解散!」

 

 さあ、覚悟するがいいAクラス。否、第二学年全生徒。これが俺、双眼零次だ。

 




~後書きRADIO~

零次「それでは………………。」

ゲスト「後書き………………RADIOの………………始まり………………。」

零次「………今回で、第4回を迎えるな。」

秋希「………………今回、なんか暗いね。」

零次「今までちょっと、はしゃぎすぎてた感じがあるからな。近衛もそれを感じ取っているんじゃないのか?いつも大声でツッコミを入れてるからな。」

秋希「ま、まあ、そうだけど。」

零次「それに今回にゲストは影山幽也だ。より落ち着いた雰囲気になるんじゃないか?」

秋希「いや、落ち着いてるというよりは、お通夜みたいな雰囲気に近いけど。」

幽也「………………………………ごめん。」

零次「お前が謝る必要はない。さて、本編の解説だ。今回は、テンポよくいくぞ。影山、ついて来いよ。」

幽也「………………分かった。」

秋希「まず、召喚システムについてだね。『召喚者』と『形成者』っていうのは、本作オリジナルの設定、ってことでいいのかな?」

零次「ああ。詳しくは言えないが、実はこのシステム、文月学園以外の所でも使われているからな。その時、原作の説明のままだと、その場所では使えなくなるからな。」

幽也「…………つまり、………………その場所は………………学校じゃない………………と。」

零次「ま、そんなとこだ。」

秋希「じゃ、次。零次が立ち上げたαクラスについて。というより、そのメンバー構成だね。」

零次「原作のAクラスで、そこそこ出番のあったキャラクターを選んだだけだ。特に深い意味はない。基本、本作のAクラスは俺に敵対しているわけだし。不安な点を挙げるなら、………………作者が原作のキャラの特徴をうまく表現できているかどうかだな。」

秋希「なるほど。それじゃ、次回予告をどうぞ。」

零次「次回は、やっと影山が登場したから、俺達の設定を出す。」

秋希「ようやくね。………………作者の世界じゃ、3ヶ月経ってるよね?」

幽也「………………時間の………………流れって………………早いね。」

秋希「いや、グダグダしているk………………作者が悪いんだから。」

零次「文句は後にしろ。それでは。」

「「次回もよろしくお願いします!」」

幽也「………………次回も………………よろしく。」

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