冒険者ギルド受付嬢の一日 ~今日も幸あれ、受付嬢~ 作:我武者羅
「依頼を受けたいんですが」
「はい、火の魔石の収集ですね。受理します。魔石のお取り扱いには気をつけて」
「わかっていますとも。火事は決して起こさないさ」
拳士の男は親指を立て、笑顔で出ていきました。
「お願いします」
「はい、タカイナ山中腹まで、往復の護衛。受理します。今度こそ護衛対象に手は出さないように」
「……な、何をいってるんだい、当然のことじゃないか!」
剣を携えた青年は、目をそらしながら答えました。
「これ、いける?」
「えーと……下着泥棒など窃盗犯『メガ・デバ』の調査。受理します。……三番街の酒屋のおかみさんを中心に聞いてみるのをおすすめしますよ」
「───! ありがとう、ありがとう……!」
盗賊風の少女は涙を顔ににじませながら、走っていきます。
また、依頼の紙を手にした人がやってきます。
彼らは”冒険者”。
依頼を受け、隣近所から地の果てまで、どこまでも”冒険”して人々の悩みを解決していくのです。
冒険者。
それは歴史の長い職業です。
かつての冒険者はその言葉の通り、未踏の地まで行く無頼漢ともいうべき旅人だったそうです。浮浪者のようでもありましたが、彼らの活躍によって新たな道が切り拓かれ、町がつながれて人々が行き交うようになっていったのです。
しかし自身で実を採り、狩りをする当てもない生活。その日暮らしゆえ行き倒れることもおおく、見つかった末に弔われれば良い方、というほどには過酷でした。
そんななか、行く先々で困りごとを解決して報酬を得ることでその日を過ごす、ということも多かったそうです。
頼れるものは己の腕のみ、という過酷な旅ゆえ冒険者は強者も多く、蓄積された力と知恵を人々は頼っていったのです。
彼ら冒険者への依頼斡旋の場として作られた集会場が、冒険者ギルドの前身と言われています。
やがて冒険者によって果てまで町どうしに交流が生まれていく中、町ごとに作られていた集会場を連携させ、困り果てた人々と生活が不安定な冒険者をしっかり繋ぎ支える場となったのが、冒険者ギルドです。
質素な大広間の片隅を湿るのは、大きな掲示板。朝早くからやってきた冒険者たちがそこに貼られた紙に目を通しています。
その紙に記されているのは依頼です。近場のお使いのようなものから、はるばる遠くのモンスター退治まで。ギルドに届けられた依頼がその大きな掲示板に貼られているのです。
その数たるや、壁一面の掲示板を埋め尽くすほど。まともに掲示板の木目を見れるのは、年に一度の大掃除くらいでしょうか。
受ける依頼を決めた冒険者は、依頼の紙を手にとり、受付へ受注に向かうのです。
大切なのは、自分の力量に見合った依頼を見繕うことです。
「お姉さん。これお願いします」
「はい。カタイヤ高原の大エミューの羽毛取りですね」
大エミューは非常に大きな鳥です。飛ばないかわりに、片足だけで大の男ほどもある長く太い脚で力強く草原を走り回るのです。
その羽毛は非常に柔らかく保温効果も抜群と、人気が高いのですが供給が追いつかないのが実状、それゆえギルドにも依頼が舞い込んでくるのです。
「ギルドカードの提示をお願いします──星は五つ。依頼条件は満たしていますね」
ギルドに冒険者として登録すると、一人一枚発行される身分証、ギルドカード。
そこに記された星の数だけ、実力があることを示しています。星があるほどに受けることの出来る依頼が増えていくのです。
魔法使いの少女の星は五つ。いっぱしの冒険者を越え、実力者の呼び声も近くなってきた所です。
「今回の依頼、星は五つです。あなたは三人でのチームを組まれているようですが、二人は星四つとなっております。この依頼では危険なため、今回の依頼希望は受理できません」
「え、うそぉ!?」
カードの星があるほど、受けられる依頼も過激になっていきます。すなわち、命を落とす可能性が増えていくということ。
モンスターや地域、依頼内容などによって依頼の難易度にギルドは評価を下します。
今回魔法使いの少女が希望した依頼に、ギルドは星五つの評価を下しました。 魔法使いは星五つ、チームメイトは星四つ。星が足りません。
「大エミュー、それもカタイヤのって星は三つじゃなかったっけ!?」
「今の季節、大エミューは産卵期を迎えているのです。そのため保温効果も高まった非常良い羽毛となっているのですが、そのぶん気性が非常に荒くなっているので危険なのです」
そう、モンスターの習性によって季節などの要因によって危険度が変化してしまいます。
カタイヤ高原の大エミューは、ほかの地域の同種が星四つのところ、比べて温厚のために星三つの判定がなされています。
「で、でも私は星五つ、だよ! それなら四つが居ても行けるはず──」
「ですが、やはりおすすめはできません」
この産卵期の大エミューでは、星の足りない冒険者の方をお連れすることはオススメできないのです。普段は単体、もしくはつがいでのみ行動しています。
しかしこの産卵期になると、外敵を確実に排除するためか何十匹も集まった集団をとって大所帯となるのです。
さらには気性も荒くなって攻撃的になり、冒険者にはさらに輪をかけて危険なことになっています。
もし星三つの感覚で挑めば、あっと言う間に大群に踏みつぶされてしまうでしょう。
彼女の説明に耳を傾けていた魔法使いは、納得がいったのかため息をはき、頭を抱えました。
「うちに万が一に大集団への対処をする力はないなぁ……罠作れるのもいないし。じゃあ、今回はあきらめます……」
「申し訳ありません」
「いえ、気づかなかった私たちの未熟です……」
肩をおとして、魔法使いの少女は去っていきます。酒場のほうで彼女に話しかける、二人の少女がいました。彼女たちがチームメイトのようです。
えーっ、と叫ぶも魔法使いが二、三話せば納得したのか、三人で再び掲示板へと走りだしていきました。
冒険者に必要なことの一つは、自分たちの力量を見極めることです。
けして能力に調子に乗らずに、自身を一歩引いて見るのが、大成する冒険者には欠かせない条件なのです。
「次、この星四つお願いします!」
再びやってきた魔法使いが出したのは、カタイヤ高原の雨傘草の採集です。雨傘のような形の薬草ですがまとまった個体は少なく、危険な場所に生えること、やはり大エミューの産卵期もあって星四つの評定です。
「はい、カタイヤ高原の雨傘草の採集ですね。受理します。一カ所での数は少ないですので偏った場所での採集には注意を。あと、大エミューの群れにはお気をつけてください」
「はい! では、いってきます!」
笑顔で答えると、魔法使いたちのチームは飛び出していきました。
魔法使いたちはカタイヤ高原になにか目的があるのでしょうか。彼女も気にはなりますが、肝心の魔法使いは聞く間もなく飛び出していってしまいました。
帰ってきたら聞いてみよう。そうして再会を心の中で祈った彼女は、声を出しました。
「次の方、どうぞ!」
また、冒険者がやってきました。