勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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少年時代と青年時代のつなぎな話(IN大神殿)はーじまーるよー。




 

大神殿 0年目 〇日

 

 

 まさか、ここは俺に任せて先に行けをやる日がくるとは思っていなかった。

 そんな冗談はさておいて、今俺はゲマに宛がわれた部屋に項垂れたままのヘンリエッタと一緒にいる。

 

 ち、沈黙が気まずい。この際ジャミでいいから助けてほしいと思うほどの時間が過ぎた頃、ヘンリエッタがぽつりと口を開いた。

 内容は俺への謝罪、そして一度口に出したら感情の歯止めが利かなくなったのかぽろぽろと涙を零しながら、何度もごめんなさいと繰り返す。

 

 うーむ、謝られてもその正直困る、俺がやりたいからやっただけでむしろ助けられなかったことを面罵された方が気が楽だった。

 だがこのまま泣いてる少女を放っておくのもアレなので、頑張って慰めながら頭をあやすように撫でる。

 語彙力に乏しい自らの惨状に嘆きながら、慰める事十数分。ようやくヘンリエッタが落ち着いてくれた、良かった良かった。

 

 そうやっていたら部屋を無造作に開けられ、魔物が俺たち二人を連れ出す。

 どうやら俺はゲマに呼ばれており、ヘンリエッタは奴隷……じゃなく傍仕えに相応しい服装に着替えさせられるらしい。

 おい魔物さんや、なんでゲマ様はこんな子供なぞにあんな素晴らしいモノをとか呟いてんの。正直ゲマが言うスバラシイモノって嫌な予感しかしねぇよ。

 

 だがしかし、悲しいかな俺に拒否権はないので乱暴に引っ立てられて連れ出されていくしかないのだ、あの時の不思議パワーも今やうんともすんとも感じない。火事場の何とやらだったのだろうか。

 俺の腰から下げた袋に入れたままの金の玉、ならぬひかるオーブも今や何も反応見せないしな。困ったものである。

 半ば現実逃避気味に考えながら歩を進めていたが、一際頑丈そうに作られた扉の前へ案内された俺は、見張りにそのまま部屋の中へ連れられて行き。

 そこで、一旦ヘンリエッタと別れる事となる。そう心配するなって……俺は大丈夫だ、まだ頑張れる。

 

 連れられて半ば放り込まれる形で入れられたその部屋は暗く、そして生臭く錆びた鉄のような不快な臭いが立ち込めていた。

 暗い中に目を凝らしてみれば、元が何だったのかすら判らない肉片が転がっており、壁には何かの標本らしきものがかけられている。

 近づいて調べてみれば何か理解できるかもしれないが、大体こういうモノは調べるとダメージを食らうんだ、だから俺は見て見ぬふりをして部屋の奥から聞こえる音の方へ歩を進める。

 

 そこにあったのは、赤黒い何かの液体で描かれたらしい魔法陣がある部屋で、どうやら部屋から生臭い臭いは発生していたらしく特別不快な臭いが濃い。クソが。

 そして部屋の中には一人待っていたらしいゲマ、先ほどの不思議パワーがあれば全力でここで仕留めにかかりたいところだが、今挑んでも勝ち目がない上にヘンリエッタに何をされるか分からないので我慢する。

 

 抵抗しない、否……出来ない事を理解している俺にゲマは胸糞悪い声で高笑いすると、懇切丁寧に今から俺にすることを説明してくれた。むしろしないでくれたほうが嬉しかった。

 

 遥か昔マスタードラゴンに封印され、そして昔には天空の勇者に打倒された魔王が使用した進化の秘法、それを俺に今から施すらしい。

 俺、まさかの改造人間にされるの巻。とかやってる場合じゃねぇ、黄金の腕輪がない状態の施術なんざ100%事故るわ!

 そして迂闊にも黄金の腕輪の名前を出した俺を、ゲマが口角を吊り上げて更に嗤い出す。やだこの魔族怖い。

 

 私の事も知っていたようですし、貴方はどうやらどこかの隠れ里でかつての天空の勇者の様に養育されていたのでしょうね。と勘違いされてくれた、大事なところで詰めの悪い君はそんなに嫌いじゃないよ。

 だがしかし、俺の危機なのは変わらない。腹にもう一つ顔をつけて腹話術とか、隠し芸出来てしまう体は御免である。

 

 え?大規模な施術でもないしちょっと施すだけ?足りない分も補う術は十分にある?あのその生臭い蠢いてる肉片は……?え?ブラックドラゴンの心臓?

 それほど階梯の高いドラゴンではないが、今の貴方ならちょうどいい?え?

 あと、オーブは預かりますねだって?え?

 

 

 や、やめろー!離せー!ぶっとばすぞぉぉぉぉぉぉ!?

 

 

 

 

大神殿 1年目 ×日

 

 

 俺は人間でも魔物でもない何かになったらしい。

 だけど、俺は大丈夫、まだ頑張れる。

 

 

 

 

大神殿 1年目 ■日

 

 

 ドレイクは改造人間である。

 俺を改造した光の教団は、魔界の魔王を呼び出すなんやかんやをする事を企む悪の組織である。

 

 別に俺は顔も知らない名前も知らない人間の自由の為に戦う気はないがな!だが光の教団は滅ぼす、絶対に滅ぼしてやる。

 

 

 

 

大神殿 2年目 〇日

 

 

 気が付けば囚われて2年目、メイド服を着たヘンリエッタにも見慣れた頃。

 ゲマに施された改造でしばらく情緒不安定だったが、ようやく落ち着いてきた気がする今日この頃だ。

 ヘンリエッタにも心配かけたな、と言えば気にしないでほしいと返された。この子も不安だというのに良い子である。

 

 朝の身支度がてら、部屋に据え付けられた姿見で自らの体を見る。

 相変わらず目付きの悪い瞳に、伸ばしっぱなしの長い灰色の髪の毛。

 そして前髪の生え際辺りから斜め後ろに向かって伸びている一対の黒い角に、背中には黒いドラゴンの翼とケツからは尻尾も生えている。

 

 こんな姿で、リュカちゃんとパパスさんの前に帰るのはちょっと、躊躇うなぁ。

 

 ところでヘンリエッタさんや、そんなに気合入れて尻尾の鱗の手入れしなくていいですよ……?

 え?この姿もかっこいい? 照れる。

 

 

 

 

大神殿 2年目 ×日

 

 

 俺は見た目も相まって運用しづらいのか、幸い今のところ人間社会への裏工作には駆り出されていない。

 だが、光の教団は無駄飯食らいを遊ばせる余裕はないし、そうするぐらいなら殺す程度に容赦がない連中だ。

 そんな俺の仕事はと言えば。

 

 大神殿建築の為に酷使されている奴隷、それを監督する鞭男達の統括である。

 奴隷の人達を平社員、鞭男を課長、と考えると部長かその辺りだろうか。

 当然、奴隷の人達からは嫌われている。しょうがないね。

 

 慰めてくれるヘンリエッタが癒しである。

 

 

 

 

大神殿 2年目 □日

 

 

 奴隷を解放なんてできないし甘やかすなんて、その手の提案は鼻で笑われた上に俺だけじゃなくヘンリエッタにまで何か問題が及ぶだろう。

 何とかしてやりたいが、俺はまぁともかくとしてもヘンリエッタに何かあるのは非常に良くない。俺の行動制御の為にヘンリエッタは連れて来られたのだろうか……?

 

 だがしかしただ手をこまねいている俺ではない。

 優雅にお茶を啜っていたゲマに、作業工数の効率化と飴と鞭について提案する。うろ覚えで残ってた前世の知識を俺なりにかみ砕いたプランニングだ。

 最初はつまらなさそうに俺を見ていたゲマであったが、最終的には大喜びだった。

 

 なんでも、ここまで人間の心を無視して効率的に運用する事を考えられるなんて、貴方は見込みがありますよ。との事である。

 ドラクエシリーズの中でも生粋の大悪党が褒めるレベルで、人間扱いされていなかった……?いやこれについて深く考えるのは止そう。

 

 そんなわけで責任者のゲマから許可が下りたので早速プランに移る。そんなに心配そうにするなヘンリエッタ。

 俺は大丈夫だ、まだ頑張れる。

 

 そして鞭男共、そんな事よりひたすら鞭で叩けば言う事聞くとか舐めてんのか、働かせすぎは効率落ちるって言ってるだろうがコラ。

 

 

 

 

大神殿 2年目 ♪日

 

 

 結局、拳で全ての鞭男を叩きのめして服従させた。

 奴隷からの心の距離感が大きく広がった。少し涙が出た、ヘンリエッタが慰めてくれた。

 

 

 

 

大神殿 3年目 〇日

 

 

 まぁ結果論で言えば去年、鞭男達を拳で叩きのめしたのは正解だった。

 あいつら見た目人間っぽくても魔物だから、原則強いのに従うわけで。言葉だけで働きかけようとする半端モノの俺の言葉なんざ聞いてられなかったらしい。

 ソースは、鞭男チーフとの雑談である。

 

 そして指揮の効率化と、まぁ結果的に奴隷まとめ役みたいなポジに収まった俺はと言うと。

 奴隷達用の食料供給の為に、日差しが差し込むところに畑を作っている。

 非常に高い場所にあるこの場所だが、かつてあったらしい神殿の名残によるものか比較的人間が薄着で居ても生きてられる程度の環境になっている。

 

 ならば、人間以上にタフな野菜共ならここでも育つはずだ。

 ちなみに名目は、ノルマを最も多く達成したものへの褒美用と言う事にしてる。

 まるで、財布のひもが固い相手からあの手この手で予算を毟り取ってる気分である。

 

 余談だが、奴隷用の食料は当初はまぁ食えたもんじゃない有様だった。

 ここにいる魔物用の食料の余り物や、腐って食べれないモノとかを与えられていたのだ、そりゃパタパタ死ぬわ。

 

 勿体ないから大事に酷使しようという名目で食料手配を増やそうと提案した時は、ジャミとゴンズにすらドン引きされたのは内緒である。

 それからか、ジャミとゴンズが少しだけ俺に仲間意識を持ったらしい。待てや。

 

 

 

 

大神殿 4年目 〇日

 

 

 アレから4年、気が付けば俺は15ぐらいになり。リュカちゃんと同年齢だったらしいヘンリエッタは10歳だ。

 最初の頃は男の子とそう変わらない印象だったが、まぁ女の子というのは早熟なのかめっきり女らしい顔付きになってきている。

 コレが、父親の気分か……。 

 

 そうやって訳知り顔で頷いてたら、何故かヘンリエッタに脛を蹴られた。痛いからやめたまえ。

 

 何はともあれ、今日はなんと……ジャミとゴンズが聖なる結界に守られていたらしい祠から天空の鎧を奪ってきたらしい。

 ちなみにジャミとゴンズはこんがりと焼けていたとの事だ。ざまぁ。

 

 そんでもって、鞭男チーフと奴隷シフトについて話し合っていたら呼び出される俺である。

 なんじゃらほいと呼び出されて伺ってみれば、そこに鎮座するのは若干パーツ過多じゃないかなと思う、白を基調としたパーツに緑色のパーツや羽のようなパーツがくっついた鎧。

 どうやらコレが天空の鎧らしい、使い辛そう。

 

 お披露目会でしたか、じゃあ奴隷シフトの相談あるので失礼します。などとそっと下がろうとしたらゲマに留められた、畜生。

 とりあえず身に着けてみろとの事だ、正直俺が着用できる気全くしないのだが渋々と手を天空の鎧へ触れさせる。

 

 最初に俺の手を伝わってくるのは、鎧にあるらしい意志の困惑したかのような感情。

 こう……勇者っぽいけど勇者じゃない、だけども限りなく勇者に近いような気がする勇者。そんな感情を感じる。

 結論から言うと、天空の鎧を身に着ける事は出来たし鎧としても運用は出来そうだった。だが身が軽くなるとかそんな事はなかった、天空の鎧なりの妥協の結果だろうか。

 

 しかし、ゲマのあの愉快そうな笑顔が気になる。アレ絶対何かを確信したか、なんかだと思う。

 

 その後は気持ち悪さを感じつつ、羽根つきの魔物がセントベレス山のふもとに停泊した船から受け取ってきた食料の中身を確認して仕事を終え。

 部屋に戻ればヘンリエッタが汲んできていた水を、最近出るようになった火の息で沸かして身を清めて眠りに就く。

 

 

 

 そして、ヘンリエッタが寝入ったのを確認したら、そっと音を立てずにベッドから下り外へ出るのだ。

 目的地は、死んだ奴隷を樽に詰めて外へ流し捨てるためのフロア、そこで警備をしているヨシュアに声をかける。

 

 ヨシュアがここに来たのは3年ほど前、大量に光の教団へ寄進していた両親が死に際に光の教団へ預けたらしい。ひでぇ両親だなオイ。

 まぁなんであれ年が近い俺とヨシュアは比較的早く打ち解け、今では互いに愚痴を言い合ったりする仲だ。マリアちゃんとヘンリエッタも仲良しだしな。

 

 俺に声をかけられたヨシュアは、またお前は無理をして……などと言うが未来の為だから適当に笑ってはぐらかす。

 遠くないかもしれない未来、お前も脱出させてやるから勘弁してほしい。

 そんな俺に溜息を吐きつつヨシュアは鍵を開けると道を開けてくれる。

 

 中に入れば、濃厚な死臭が鼻を突くが気にすることなく支給された鎧と服を脱いで短パン一丁になり……腰にゴールドを詰めた袋をしっかりと固定する。

 その中身は、奴隷業務に関わるようになって金額のやり取りを出来るよう担った事で、少しずつ溜めてる差額によるお金だ。平たく言うと横領である。

 

 ソレがしっかり固定出来たのを確認すると、死体が詰められたロープで連結された樽を水路へ運び入れ……。

 外へ放出する為のレバーを下ろすと同時に、水路へ飛び込む。

 

 濁流が如き水流が俺の体を押し流し、俺の体のあちこちを壁面にぶつけつつ。

 押し流されていく樽が、滝からそれて山肌へ叩きつけられたりしないよう、流れに身を任せたり時に逆らったりして樽を誘導。

 そしてそろそろ海面へ叩きつけられそうだと、何回も何十回も繰り返してきた経験からピオリムを発動し変異した体の膂力を用いて、滝の外へ飛び出しつつロープを上に引っ張り上げる。

 当然俺の腕はもげそうなほどに負荷がかかり、未だ慣れない翼による飛行も上手くいくわけがなく。

 連結された樽達は、多少減速されただけで俺事海面に叩きつけられる。

 

 一瞬だけ遠くなる意識だが、すぐに浮上して自分へホイミをかけて傷を癒し……ロープの端を握りながらピオリムをかけて加速した意識と体で東へ泳ぎ始める。

 

 最初に2~3年はパパスさんからの救助を待っていたが、そのような兆候も見られないので自分達で脱出を決意したわけだが……。

 ふと思ったのだ、コレ普通に死なね?って。

 試しにとばかりにヨシュアを無理やり土下座までして説得し、樽を一つ流しつつ一緒に流されてみたわけだが……。

 

 修道院に辿りついた頃には、樽の中身はミンチよりひどい状態でした。

 まぁそりゃそうだよねと、マスタードラゴンの助力借りないと飛んでいけない場所にあるところから樽が海面に叩きつけられて無事なわけがない。

 正直なんで樽は壊れていないのだろうと疑問に思う事もあるが、そこまで考えて俺は気づいたのだ。

 

 コレ良い鍛錬にならね?って。

 

 というワケで、樽の中身を5体満足で送り出せるようにしつつ……俺はこうやって泳いで樽を牽引して修道院へ運んでいるのである。

 

 あ、シスターさん夜分遅く申し訳ありません、はい、いつものです。こちら少ないのですが寄付です。

 では、朝までに戻らないといけないのでコレで失礼します。

 

 そんな会話を終え、俺は再度海へ飛び込んでセントベレス山めがけ泳ぎ始めるのだ。ちなみにシスターさんは半竜ともいえる俺を見慣れてしまったのか、もう怯えたりすることはない。

 潮流に逆らう形になるが、行きと違って荷物がないので慣れたものである。

 水中ならいくらピオリムを使って加速しても、水がクッションになるから体への負担少ないしな!

 ちなみに今回3つの樽を運んだのですが、五体満足だったのは全体の4割でした。ちょっとまだ成功率に難がある。

 

 

 

 

 後日、また同じように修道院へ行ったところ、近海を回る船や漁師が謎の高速で泳ぎ去る魔物を見た、という目撃情報が出たと言っていたらしい。

 目撃地点とかを総合するにどう聞いても俺の事であった、いっそドラクエ世界の河童とでも名乗ってみるべきだろうか。




最初は、
「おれ、デーモンになっちまったよ……」
「ほっほっほっほっ、いえいえ。人と魔物が混ざった存在、デビルマンですよ」
とかいうネタが頭をよぎっていたが自重した、ほめてほめて。

主人公は現在半竜半人な外見状態です、全裸になると鱗もあります。
ヘンリエッタちゃん曰く、翼の付け根のチョイ下あたりと脇腹とかにあるらしいです。
何で知ってるんだろうね(すっとぼけ)

それと、主人公は脱出までには人間姿にカモフラージュする技術を身に着ける予定です。

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