勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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れっつごープリズンブレイク。
ついでに影が薄かったイブールが唐突に存在感を出してきます(そしてまたしばらく出番はない模様)


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大神殿 5年目 〇日

 

 

 アレからも奴隷の死体を使っては脱出テストを実施しつつ、海辺の修道院に僅かなりとも寄進をしつつ埋葬を頼む日々である。

 あの青い髪をしたなんかお淑やかな雰囲気のシスターさんには、もはや頭が上がらない。

 

 そんなこんなで、何を思ったか休めー休めーとか叫びながら鞭を振るっていた鞭男に踵落としを叩き込んで事情聴取をしつつ、奴隷のまとめ役という地味に安穏としたポジションを確保していた俺だった。

 だがしかし、そうは問屋が卸す事はなく、ゲマに呼び出されると剣と鎧を支給された。

 

 剣の方は、柄になんか見おぼえあるけど若干色褪せたひかるオーブが嵌められている。

 何でも皆殺しの剣の柄部分を改良してオーブをはめ込んだ剣らしく、俺が殺した相手の魂を取り込んで強くなるらしい。副作用ありそう。

 地味に抵抗が激しかったそうだが、苦労した甲斐はありましたよとはゲマの言葉である。ひかるオーブは犠牲になったのだ。

 

 そして鎧はと言えば、一年前に妥協の末に俺に装備されてくれた天空の鎧である。

 俺に使わせて良いのか?と思わず聞いたところ、着用し血を浴びる内に貴方に馴染むでしょうとの事だ。俺に何させる気なんですかね。

 

 思わず身構える俺であったが、今日は装備に体を慣らしておけと言われた。嫌な予感しかしない。

 

 

 

 

大神殿 5年目 ×日

 

 

 ゲマから指令が下った。

 内容は、サンタローズを滅ぼすラインハットの軍を殺戮しろという内容だった。

 

 后……ではなく太后となったアレの命令ではなく、太后の歓心を買うべく大臣が発案し人間だけの軍隊らしい。

 過剰なまでにどす黒い感情が全身を駆け抜けたが、無理やり抑え込む。

 

 

 俺は受領し、そして指令を達成した。

 俺は大丈夫だ、まだ頑張れる。

 

 だけども、パパスさんとラインハットへ訪れた時に……朗らかに接してくれた兵士達から憎悪の目を向けられ、そしてソレを殺戮した事実に少し疲れた。

 

 

 

 

大神殿 5年目 □日

 

 

 ヘンリエッタにゲマが、俺がラインハットの兵を殺戮したことを愉悦交じりに告げたらしい。クソが。

 だけどもヘンリエッタは俺を責めず、逆に泣きながら謝ってきた。罵ってくれた方が楽だった。

 

 俺の日課に、マリアちゃんと一緒に祈る事が追加された。

 誰に祈るというモノでもなかったが、せめてそうすべきだと思ったからだ。

 

 思うところがあり、奴隷への接触を必要最低限に留め、鞭男達にすべて一任する。

 奴隷が頼りやすい優しい鞭男と、奴隷に過剰に嫌われ怖がられる鞭男を意図的に用意すれば、多少はなんとかなるだろう。

 ……しかし普通はやりたがらない汚れ役的嫌われモノポジションをやりたがる鞭男の多さには驚きだ、さすが魔物と言うべきか。

 

 

 

大神殿 6年目 〇日

 

 

 樽が一つならば、中身を凡そ8割ほどの確率で損壊させる事なく修道院まで運び出せるようになってきた。

 修道院の青い髪のシスターに心配されたが、俺は大丈夫だと返しておく。

 

 

 

 

大神殿 6年目 ×日

 

 

 最近マリアちゃんが、仕事がない日は俺の部屋に入り浸る事が多くなってきた。

 ヘンリエッタと仲良しだし、年の近い少女は少ないから当然かとも思う。

 

 しかしたまに君ら、互いに火花散らしてる事あるように見えるの俺の気のせいかね?

 

 後ついでにイブール、滅多に絡もうとしないお前が……世話係の少女が俺のところによく来るからって、一々嫌味を言ってきても鬱陶しいだけだ帰れ!

 てめぇが人目気にする事なく、あちこちで女抱いた後の後始末を鞭男達が凄い微妙な顔して掃除してんだぞ!

 

 

 

 

大神殿 7年目 〇日

 

 

 気が付けば7年も過ぎており、13歳になっていたヘンリエッタは体つきも女性らしくなってきた。

 だが相変わらず俺のベッドに潜り込もうとするので、女の子だから自分の体を大事にしなさいと説教した。

 

 なぜか顔を真っ赤にしたヘンリエッタに渾身のローキックを脛に叩き込まれた。痛い。

 

 ついでに、イブールが下衆なニヤケ顔しながらヘンリエッタを寄越せと言ってきたので……。

 その顔面に全力で拳を叩き込んだら回転しながら飛んで行った。ざまぁ。

 

 

 

 

大神殿 8年目 〇日

 

 

 数年ぶりに顔を出してきたゴンズが、ムシャクシャしながら俺に模擬戦を申し込んできた。

 なんでもゲマの指令で僻地へ飛ばされる事となったらしい。ざまぁ。

 

 正直受ける理由が無かったが、コイツがラインハットの近衛兵長に化けた方法が気になったのでソレを教える事を対価に受ける。

 

 結果は、互いに死ぬ一歩手前のところまでやり合ったところで、ゲマからの強制中止であった。

 決着がつかなかったことに腹立たしそうにしつつも、ゴンズは約束だと俺にねじくれた短杖を投げて寄越してきた。

 なんでも、ゲマ特製の変化の杖らしい。アイツ戦闘謀略製造なんでも可能な万能選手かよ。

 

 だがまぁ有難く受け取っておくことにする。

 

 てめぇは俺が殺すんだからそれまで死ぬなよとか、お前お手本みたいなツンデレしてんじゃねぇよゴンズ。

 だけど性根ねじ曲がってるけど分りやすい脳筋なお前は、それなりに嫌いじゃなかったよ。リュカちゃん痛めつけた事は絶許だけど。

 

 ところでマリアちゃんとヘンリエッタ、どっちでも良いから牽制し合ってないで早くホイミくれませんかね。俺もう自前ホイミできないぐらいすっからかんなんです。

 

 

 

 

大神殿 9年目 〇日

 

 

 ゴンズから寄越された変化の杖を大体使えるようになってきた、とは言っても人間の姿に偽装する程度のレベルな上に……。

 翼や尻尾がある状態のピオリムに慣れすぎたせいで、人間状態では使えなくなってしまった。弱体化状態にも程がある。

 

 樽脱出の成功率は凡そ9割、完璧とは言えないが安定してきた。

 だが俺の顔は結構追い詰められていたらしく、修道院の青い髪のシスターに慰められた。俺いつも慰められてんな。

 

 俺は大丈夫だ、まだ頑張れる。

 

 

 後ヘンリエッタ、俺は自分で体を清められるから頑張らなくていい。

 体で洗うとかどこで覚えたか知らないし聞かないが、自分の体を大事にしなさい。

 

 

 

 

大神殿 10年目 〇日

 

 

 ゲマが何処かへ出かけている隙に、プリズンブレイク発動。

 

 切っ掛けは、まぁ下衆い話だが、16歳となり美しく育った世話係のマリアちゃんにイブールが手を出そうとしたところ必死に抵抗して、イブールへ手を出した事である。

 皿を割ったワケじゃなかったんだな、と思いつつもマリアちゃんを保護。ジャミやゴンズと比べて接点が極端に薄いイブールは俺に明確な敵意を向けてきた。そりゃそうか。

 だが良い切っ掛けとも言えるので、ヨシュアに準備をするよう伝えておく。

 

 奴隷は置いていく、5年目辺りから奴隷との接触を最低限にしたのはこれが理由だ。

 何をどう言い繕おうが、俺は奴隷の死体を使って実験した上に彼らを見捨てていくことは事実だ、その罪悪感に耐えられなかっただけである。我ながらメンタル弱いな。

 

 天空の鎧や軍資金、ついでに呪われてるけどそれなりに便利で使い慣れてきた皆殺しの剣改、それとヨシュア達やヘンリエッタの身の回りの品を樽へぶち込み。

 気休めにもならないかもしれないが、こっそり用意しておいた内側へ毛皮を張り付けた大きな樽に、ヨシュアとマリアちゃん、ヘンリエッタを放り込む。

 放り込まれる寸前、俺が残ると思ったのかヘンリエッタが抵抗するが、心を鬼にして放り込む。ヨシュア、樽の中で説明任せた。

 

 そうしたところで、息を切らせて駆け込んでくる鞭男チーフ。必死に俺へ思い直すよう話しかけてきた上に、自分達からもゲマ様へ訴えるからと言ってくる。辛い。

 

 

 俺は、ロープで連結した樽二つを水路へ放り込むと、鞭男達に一言詫びを入れてレバーを下ろし。いつものように水路へ飛び込んだ。

 

 本音を言えばイブールの部屋にテロを仕掛けてから脱出したかったが、出来そうな材料も手持ち品も呪文もなかったので断念せざるを得なかったのが悔やまれる。

 

 

 

 

 

 

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 どうやら、彼はやはり脱走したようですねぇ。

 バレていないと思っていたのか、バレていても関係なかったかそこまでは私にも図りかねますけども。

 

 しかしイブールには困ったモノです、欲しかった女が手に入らなかったからと言って少々姦淫への耽り様が目に余ってきましたね。

 まだ完全な魔物にしていなかったのですが、問題を引き起こす前にとっとと魔物へと仕上げてしまうべきでしょうか。

 

 

「ゲマ様、ドレイクの奴が数人を連れて脱走しました」

 

「ほっほっほっほっ、ええ知ってますとも」

 

 

 使い勝手が良い部下のジャミが傅きながら報告をしてくれますが、特に問題はありません。

 

 

「あの男も愚かな、折角ゲマ様に目をかけられていたと言うのに……」

 

「ほっほっほっほっ、むしろ願ったり叶ったりですとも。既に種は芽吹いてますから」

 

 

 彼に施した進化の秘法はこの10年でもはや引き剥がせないほどに馴染んでいます。

 後は、彼がこれから抱く負の感情を糧に成長を続けてくれる事でしょう。

 

 私達への憎悪を忘れてはいないようでしたが、ラインハットの大臣は何もしていないのに良い仕事をしてくれました。

 彼に大きなきっかけをくれたのですからね、いっそこちらに迎え入れても良かったかもしれません。

 

 まぁ、それでもドレイクには及ばない木端者ですし、糧となってくれただけ恩の字と思いましょうか。

 

 

 

 

「ほーっほっほっほっ、ドレイク。私は待っていますよ?神竜マスタードラゴンの血を持つ貴方が絶望して憎悪に狂い、我らに心の底から忠誠を誓ってくれる日を」 

 




いつもより短くなってしまいましたが、ダイジェストじみたプリズンブレイク(大神殿)は以上となります。
次回からは本格的に青年編前半がスタートする感じです。
ちなみに年齢は……。

ドレイク:21歳
ヘンリエッタ&マリア:16歳
ヨシュア:18~19歳

こんなイメージです。これ青年っていうより大人だなドレイク。



ひかるオーブ「ゲマには勝てなかったよ……」

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