勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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ゲマ戦以来のフル三人称回です。

なお今回の作戦、提案された時ドレイクは3回くらい「え?これほんとにやんの?考え直そ?」って言ったらしい。


14・上

 

 

 誰かが昨日嘆いた。

 こんな、どうしようもない日が何時まで続くのかと。

 

 別の誰かが今日呟いた。

 明日もどうせ、クソッタレな日なのは変わらないと。

 

 誰かが昔期待して、そして当たり前のように裏切られ続けた夢も希望も見れず、諦観に包まれ緩やかに壊死させられていくが如き日常。

 だが、その閉塞した空気に包まれたラインハットに、その日一筋の光が差し込んでくるかのような罅が入る。

 

 

 艶やかな、ラインハット王族特有とも言える緑色の肩まで届く髪を持つ、男物の戦装束に包まれた美少女がラインハットの大通りを堂々と城へ向かって歩みを進める。

 その少女の傍らには、白を基調とした中に灰色の紋様が幾つも刻まれた上物の甲冑を着込み、背中には素人目でも極上の業物とわかる漆黒の宝玉が鍔にはめ込まれた長剣を背負った、灰色の長髪を持つ偉丈夫が共に歩みを進めており。

 彼ら二人に遅れる事なく、見るものを浄化させるかのような清らかさを持つ小柄なシスターと、全身鎧に身を包み長槍を携えた青年が続き……。

 

 

 誰もが項垂れ、その目に絶望を塗りこめて生きてきたラインハットの住民とは明らかに違う顔付きと、その空気を持つ集団はラインハットの民に大きくどよめかせ。

 彼ら4人の後を、おとなしくついて歩く2匹の魔物の様子にどよめきは更に大きくなる。

 

 

 地獄の殺し屋と恐れられ、残忍に獲物を甚振って殺し食らうと言われているキラーパンサーと、灰色の毛並みのベビーパンサーが暴れる事なく4人の後をついていく姿が彼らの視線の先にあった。

 城の魔物が遊び半分で城下町の人間を甚振る姿を良く知っている彼らは、4人に付き従う魔物2匹を信じられないような目で見送り、その時集まっていた群衆の中で誰かがぽつりと呟く。

 

 あの先頭を歩いていた少女は、10年以上前に魔物に攫われたヘンリエッタ王女ではないのか?と。

 その疑問は群衆の中で波紋のように広がっていき、また誰かが叫ぶ。

 ヘンリエッタ王女が帰ってきた!この国を救いに!と。

 

 その叫びは群衆の中に熱気を産み、項垂れ下を向いたままだった人々の目と胸に僅かであるがしっかりとした希望を灯す。

 小さな種火の希望の灯火は、優しい明日を願う炎となって群衆の心を包み、誰ともなしに城へ向かってゆっくりと歩みを進める4人と2匹の後を追いかけ始めた。

 

 

 そして、4人と2匹……ヘンリエッタとドレイク、マリアとヨシュア、チロルとシャドウがラインハット城の城門前広場へ辿り着いた頃には。

 話が話を呼び、城下町中の五体満足な人間が彼らの背後に付き従っていた。

 中には満足に歩けない者も居たが、顔も名前も知らないその誰かを別の人間が肩を貸し、時に負ぶってまでついてきていた。

 誰もが、僅かな希望であろうとも縋りたがっていだのだ。

 

 

「なんだ怪しい連中め、ゾロゾロと人間を引き連れてラインハット城に何の用だ?」

 

 

 顔も見えない青い全身鎧に包まれた門番が、面倒臭さを隠そうともせず広場で立ち止まったヘンリエッタらへ誰何の声を上げる。

 そんな門番の様子に、ヘンリエッタは鼻で笑って腰に手を当て、付き従ってきた住民らにも聞こえるほどの大声で応える。

 

 

「怪しいとは何事か!私こそはこのラインハット城の第一王女であるヘンリエッタであるぞ!」

 

 

 普段、ドレイクの世話を甲斐甲斐しく焼いている姿からは想像できぬほどに、覇気に満ちた堂々とした態度の言葉。

 そんな少女をドレイクは頼もしく思うと同時に、少女へ大きな負担をかけるこの策で良かったのかと自問自答しつつも、自分が忍び込み暴れに暴れるという策が満場一致で否決された以上はしょうがないと内心で溜息を吐く。

 この策は、今も門番を相手に堂々とした啖呵を切っている少女が、ドレイクだけに負担をかけたくないと懇願して実行しているものなのだ。

 コレに、色々と口を挟むのはヘンリエッタの覚悟に水を差すモノだと思い、業を煮やしヘンリエッタへ襲い掛かってきた門番二人の剣を一太刀で弾き飛ばす。

 

 

「私が居ない間に随分とお行儀が悪くなったものだな?これもデールの……いや、太后殿の教育か?」

 

「くっ、おい!城中の兵士を呼んで来い!こんな連中に虚仮にされて黙っていられるか!」

 

 

 ドレイクが守ってくれると信じていたヘンリエッタは、門番二人の様子を嘲笑するかのように見下して告げ、そのヘンリエッタの様子に集まった群衆はさすが姫様だと口々に喝さいを送る。

 黙っていられないのは門番達だ、折角気持ちよく人間を甚振り好き放題腹を満たせる環境で楽しんでいたというのに、それに水を差す連中の登場に加え……項垂れ絶望していた人間達に希望が戻り始めているのだから。

 

 にわかに騒がしくなり始めるラインハット城、そして程なくして城門からはとても人間に見えない兵士達や鎧に顔が隠れた兵士達が現れ、更に城壁を越えて飛来したドラゴンキッズ達がヘンリエッタ達を取り囲む。

 余りにも圧倒的な多勢に群衆は怖気づくが、彼らは逃げ出す事はなく、希望の象徴となったヘンリエッタ達に逃げてと叫びかける。

 

 しかし、住民らの声が聞こえている筈のヘンリエッタ達に逃げ出す様子はなく、先ほど門番の剣を弾き飛ばしたドレイク以外もそれぞれの武器を構え始め……。

 右手で鋼の剣を高く掲げたヘンリエッタは、自分らを害そうとする兵たちに、そして背後で見守る民衆へ宣言する。

 

 

「先王の崩御と共に、新王を傀儡とし私の故郷を食い物にする太后を赦すワケにはいかない!私の名において太后を討つことをここに宣言する!」

 

 

 一触即発の空気に満ちていた空間に、一瞬の静寂が落ち。その後民衆達から爆弾岩が爆発したかと錯覚させるほどの歓声が響く。

 民衆の誰もがその目から涙を流していた、ようやく絶望が終わると。今日よりも良い明日が来ると。

 

 その芝居じみた情景に、人間の兵隊に偽装した兵隊は思わず呆け、怒りの形相を浮かべると偽装をかなぐり捨て雄叫びをあげてヘンリエッタ達へ一斉に襲い掛かる。

 いくら腕が立とうと手弱女では蹂躙されるしかないであろうその光景、しかしヘンリエッタは仲間達へ視線を送ると互いに無言で頷き。

 武器を構えて魔物の群れへと突撃する。

 

 集まった民衆は、その時信じられない光景をその目にする事となる。

 灰色の長髪を持つ偉丈夫が、その手に握る剣を振るうたびに何匹もの魔物が切り裂かれていく上、背後から斬りかかった筈の魔物の姿すら見えているかのように華麗にかわしてはその首を斬り飛ばし。

 ヘンリエッタは右手に持った剣と、左手に握ったチェーンクロスを器用に振るいながら魔物を相手にし、確実にダメージを与えた上で屠っていく。

 そんなヘンリエッタを、ヨシュアはその重装備を生かして庇いながら反撃とばかりに突き出した槍で魔物の心臓を刺し貫き、仲間が傷付くたびにマリアが傷を癒しては戦線を維持していく。

 

 余りにも強すぎる4人に魔物は、民衆を人質に取ろうと4人を飛び越えて襲い掛かろうとするが、チロルとシャドウが親子ならではの呼吸を合わせた連携を取る事でその企みを封殺した上に。

 時に空を舞う魔物を、シャドウがチロルの背中を踏み台にして飛び上がり、魔物の首に噛みついたまま体勢を入れ替えて魔物を地面に叩きつけてその首をへし折っていく。

 

 

 こんな筈ではない、人間など俺達の玩具の筈だという意識が魔物達に芽生え始め、そのタイミングで魔物にとっては最悪の事件が起きる。

 もう、魔物の手先になるなどゴメンだと、遠巻きにこの戦いを見ているだけだった城の数少ない人間兵士もヘンリエッタ達に加勢し始めたのだ。

 

 彼らはドレイクらに比べ、動きに精彩こそ欠いていたが、そこに自分の周囲の魔物を殲滅したドレイクが飛び込むように加勢。

 片手間とばかりに重傷を負った兵に呪文で治療を施しつつ、剣や蹴り。時に魔物が落とした剣の投擲を行う事で、彼が動くたびに何匹もの魔物がその命を散らしていく。

 

 

「この化け物めぇ!」

 

「魔物に言われたくねぇよ!」

 

 

 恐慌をきたし、破れかぶれの突撃をしてきた魔物兵を胴から一太刀で真っ二つにしつつ、自分へ飛びかかってきたシャドウへ左腕を差し出し。

 そのままくるりと勢いをつけて体を反転、自らの腕をカタパルト代わりにシャドウが望む方向へドレイクは射出しつつ、戦況を軽く分析する。

 

 状況としては理想的な状況、魔物兵は最初こそ全力で襲い掛かってきたが、及び腰になり始めた事で戦力の逐次投入をし始めている。

 とすれば、そろそろ出てくるはずだと内心で考えつつ、叫びながら襲い掛かってきた魔物の顔面に飛び膝蹴りを叩き込んでその頭を爆裂四散させつつ、油断なく城門へドレイクは視線を送る。

 

 

 そして、ドレイクのその予想はピタリとはまり、聞くものを不快にさせる金切り声を挙げながら、目的の人物が姿を現す。

 その人物は、最上級の布地を惜しみなく使ったドレスに身を包んでおり、下品なまでに宝飾品でその全身を着飾っていた。

 

 

「狼藉者風情が騒々しい!ここをどこと心得ておるか!」

 

 

 不機嫌さを隠そうともせずに、ヘンリエッタ達を睥睨する初老の女性。その姿を見て群衆の中の一人が太后様、とぽつりとつぶやく。

 そして太后は、狼藉者の中にヘンリエッタが居る事に気付くと、口に手を当て高笑いをあげて嘲笑する。

 

 

「随分と変わったようですが……十年以上も行方知らずだった第一王女が今更戻ってきて何をしようと言うのです?今なら、先王の娘と言う事で見逃して差し上げましょうとも」

 

「アンタも変わったじゃないか、私……いや。俺に対しては厳しかったけど、デールや父、それにこの国をアンタは愛していた筈だったんだけどな?」

 

 

 互いに距離がある中でも、互いに目を合わせて視線で火花を散らす太后とヘンリエッタ。

 太后はヘンリエッタの言葉に口角を吊り上げて醜悪な笑みを浮かべ。

 

 

「随分と青臭い事」

 

「そういうアンタは魔物臭いがな、やってくれ。マリア!」

 

「はい!」

 

 

 不快そうに顔をしかめる太后を見つつ、さり気なくドレイクが傷付いた兵士を担いで鏡が映る範囲から離れたことをヘンリエッタは見届けると。

 膠着状態の間にヨシュアに守られながら準備を終えていたマリアへ合図を送り、すかさずマリアはラーの鏡を掲げて太后の姿を映す。

 

 

「な、その鏡はぁぁぁ……やめろぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 小柄なシスターが掲げた神聖な力を放つ鏡の存在に気付いた太后が、魔物を嗾けて掲げる事を阻止せんとするが、すでに遅く。

 真実の姿を映すラーの鏡に映された太后はもがきながらその姿を膨らませ、ドレスを内側から弾け飛ばさせながら真の姿を現した。

 

 

「ぐ、ぐぅぅぅ……よくも、よくも、よくも私の野望を邪魔したなぁぁぁぁ!」

 

 

 ブクブクと肥え太った巨躯の青い肌、露出したその肌には幾つもの節くれだったイボが浮かんでおり。

 大きく裂けたその口からはだらだらと異臭を放つ涎が垂らされ、聞くものの生理的悪寒を誘う声を放っていた。

 

 噂はあったが、太后は魔物だったという真実に群衆は混乱し、そして恐怖する。

 そしてその恐怖はあと一歩、何かが後押しすればあっけなく集まった群衆を恐慌状態へ陥らせるモノであった、しかし。

 

 

 その、恐れを誘う真の姿を現した太后の前に、一人の男が立ち塞がる。

 男の鋭い目付きには憤怒の炎が燃えており、その足取り。そして背中には一歩たりとも引く意思がない事は誰から見ても明らかであった。

 

 

「きさまぁ、もしかして。あの時のガキかぁぁぁぁ!」

 

「ああそうだよ、てめぇらに嵌められて魔物扱いされた怪しいガキさ。元がつくけどな」

 

 

 漆黒の宝玉がはめ込まれた剣を強く握り直し、自分達が苦難を強いられ……ホークが死ぬ原因となる事件を起こした自分を睨んでくる怨敵を、ドレイクは殺意を込めて睨み返す。

 そして、内心で本当にやらなければいけないのか、と覚悟を決めたつもりだったがもう後に引けない以上、ドレイクは腹を括り。

 

 両手でホークの魂が宿った長剣を高々と掲げる、そして。

 

 

「我が身に宿りし呪われた竜の力よ、今悪を滅ぼす力を示せ!」

 

 

 その場に強く響き渡る声で叫ぶと共に、掲げた長剣に嵌められた漆黒の宝玉が輝きを放ち、収まったその場所には……。

 半竜半人とも言える姿となったドレイクが立っていた、身に纏っていた鎧もまた体の変化に伴い形状が変化している。

 

 その一部始終を見届けた群衆は混乱の極致に居た。

 太后が真の姿を現して魔物になったと思ったら、ヘンリエッタや仲間、そして兵士をも守っていた凄腕の剣士が魔物じみた姿へと変貌したのだから。

 しかし、群衆の中の誰かが頑張れドラゴンの剣士!と叫んだのを皮切りに、群衆は次々とドレイクへ声援を送り始める。

 

 種明かしをすれば、剣に宿ったホークの魂に頼んで光を放ってもらい、その間に変化の杖を解除しただけなのだがその演出とも言えるやり方によって。

 群衆は、ドレイクの事を好意的に勘違いしたのだ。

 ドレイクが戦闘能力を十全に発揮するための演出としてこの作戦を提案した時のマリアは、人間とは信じたいモノを信じたがるモノですよと若干濁った眼で語っていたらしい。

 ヨシュアとドレイクが思わずドン引きした内容だったが、確かにその効果はあったのだ。ドレイクは内心羞恥心で悶えているが。

 

 

「姿形が変わった、程度でぇぇぇぇ!」

 

「はっ、おせぇんだよ!」

 

 

 自分よりも小さいドレイクへその腕を伸ばす偽太后、しかしその腕がドレイクを捉える事はなくお返しとばかりに剣で大きくその腕を切り裂かれ。

 苦痛に叫び声をあげる偽太后に構う事なく、もはやドレイクにしか扱えない程に改良されたピオリムを唱えると、その姿が残像を残して掻き消え。

 

 群衆らが、剣を振りぬいたドレイクを見た次の瞬間には、偽太后の全身から夥しい血が噴水の様に噴き出した。

 

 

「がっ、ぎっ、ぐぇ……し、死にたく、ないぃぃぃ」」

 

「そうか、だが関係ないな。 俺の安眠の為に死ね」

 

 

 苦痛と傷に立てなくなり崩れ落ちる偽太后、這いつくばったままドレイクから逃げようと必死に地面を引っかくが肥大化したその体は殆ど進むことはなく。

 ドレイクは死刑宣告とも言える言葉を無感情に告げると、掲げた剣に赤黒い稲妻を纏わせ。裂帛の気合と共に偽太后へ振り下ろした。

 

 

 剣撃が引き起こしたとは到底想像もつかない轟音と衝撃によって大地が揺れる、そしてその余波が収まったその場所には。

 偽太后だったと思われる、原形を留めて居ない無残な屍が転がっていた。

 

 

 その圧倒的な勝利に歓声を上げる群衆に、ドレイクへ駆け寄り抱き着くヘンリエッタとマリア。

 失われたと思われていた第一王女の凱旋と、勇者とも言える存在に群衆は絶望的な日々が終わりを告げたことを、涙を流しながら互いに抱き合って喜びに打ち震えた。

 

 

 

 長く、永く続いたラインハットの夜は、ようやく明けたのだ。

 




マリアちゃんは、ドレイクのカッコいい姿を皆に見せびらかしたかったのだ。
そしてドレイクは善意とか親愛しかない提案に、断り切れなかった。ヘタレだね。



【今日のリュカちゃん】
「ねぇリュカ、ちょっとスラリン貸してくれない?」
「え?いいけどどうしたのドリス」
「んー、ちょっとね。ムシャクシャしてるから、プニプニした子抱っこして不貞寝したい」
「そっかー……あ、オークスとサーラとかどう?」
「なんでそのチョイスなのよ……え?可愛いじゃない?そこはまぁ個人差あるからノーコメだけどさ、踏まれて鼻息荒くするのはちょっと……」
今日のグランバニアは平和でした。

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