勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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偽太后と魔物大臣の遺した爪痕の後始末(ロスタイム)をしつつ、ヘンリエッタとマリアが選択をする話です。
彼女達は、彼女達なりに考え抜いて結論を出します。


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ラインハット ♪日

 

 

 デール王に贖罪として人を救うことを命じられた翌日、俺が何をやっていたかと言えば。

 謁見の間にて、ヘンリエッタへ王位を禅譲すると主張するデール王と、ソレを断固拒否する姉弟喧嘩じみた口論に巻き込まれていた。

 

 デール王の言い分は凱旋し竜の剣士と共に国を救った実績がある姉上が王座に相応しいというモノで。

 ヘンリエッタの主張はと言えば、どんな理由があろうとも長年国を空けていた王族が玉座に就くことは、混乱を招くからすべきではないというモノだ。

 

 まぁ両方の主張は両方とも正解だと思う、ただまぁうん、自分で言う事じゃないかもしれないが。

 ヘンリエッタの主張の裏側に、国に縛られず俺の傍に居たいという本音が透けて見えるのは俺の気のせいかと思い、傍に控えてた大臣へ視線を送れば気まずそうに愛想笑いされた。バレバレじゃねぇかヘンリエッタ。

 デール王の方にも、長年苦渋を強いられてきた姉に、これ以上危険な事をしてほしくないという気持ちが見えるだけに、俺が口を出すべきじゃないような気がしてしょうがない。

 

 そんな事考えつつ腕を組んで状況の推移を見守ってたら、デール王とヘンリエッタ両方から同時に自分の意見への同意を求められた。解せぬ。

 思わずヨシュアとマリアちゃんへ視線を向ければ、ヨシュアはお前が決めろと言わんばかりの表情で、マリアちゃんはどっちに同調すべきか決めあぐねてる様子である。

 

 腕を組んだまま、首を逸らし天井を見上げて考え、顔を前に戻して俺なりの意見を出す事にする。

 デール王は王位に就いたまま、しかしヘンリエッタを相談役として傍に置くというのは、折衷案としてどうだろう。

 

 などと言ったら一足飛びに距離を詰めてきたヘンリエッタが、私と一緒にいるのが嫌なのかと目に涙を浮かべながら脛を蹴ってきた。痛いが自業自得だから我慢する。

 

 

 そっと両手をヘンリエッタの肩の上に置き、ゆっくりと話すよう自分で気をつけつつ彼女の目を見て語り掛ける。

 現状はどっちの案だけでも、この国を取り巻く状況を考えれば見通しは立たないが、長く王座に就いていたデール王をお前が支えれば未来はあると。

 何も出来なかったかもしれないが、昨日俺に沙汰を下したデール王に俺は無意識に跪いていた、他者へ自発的にそうさせることが出来るというのは一種の才能なのだ。

 

 勿論コレは俺の意見であって、ヘンリエッタがどのような選択をしても、俺は尊重し応援する事も伝える。

 俺の言葉に、ヘンリエッタはぽつりと、一晩考えさせてほしいと喋って足早に謁見の間を立ち去っていくヘンリエッタ。

 

 そんなヘンリエッタをマリアちゃんは慌てて追いかけようとし、俺へジトっとした目付きで視線を送ると謁見の間を飛び出していった。

 正直ヘンリエッタの気持ちを踏み躙るような意見を口にしたわけだから、残念でもなく当然なのだが、溜息しか出ない。

 

 

 何も言わず、ポンポンと俺の肩を叩いてくれた大臣とヨシュアの優しさが身に染みた。

 しかし何のかんの言って、もはや原形を留めていない気もするが原作ドラクエ5の、あの展開と言うのは理に適っていたのだなぁ。

 

 

 

 ともあれ、部屋に引っ込むという気分でもないので、ヨシュアへ声をかけて大臣から情報を集めて少し国の為に働く事にする。

 ラインハットと言う国は元来豊かな国だ、それをここまでボロボロにしたほどの富の収奪はどこに行ったのかという話である。

 ヘンリエッタが太后を赦す場面を見ていた、偽太后に飴を与えられていた大臣が自発的に国庫へ納めた金額をさり気なく聞いてみたが、言うほど金額はでかくない。

 では、偽太后の部屋はどうだったのかと衛兵に協力してもらって調べてみると、金銀財宝でギンギラギンだったが国全体を困窮させたにしてはいまいちだ。

 

 そうなると、行先はまぁ凡その当たりはついてくるわけで、昨日俺が仕留めた魔物大臣の執務室を大臣と衛兵立会いの下ヨシュアと共にガサ入れしたところ……。

 出るわ出るわと言わんばかりの、光の教団への金品や生活必需品、嗜好品の上納記録を発見。中を見てみれば一時保管場所の記載まである始末である。

 

 そんなワケで、怒りに燃え上がる大臣と衛兵を引き連れる形で、一時保管場所こと東の遺跡へ殴り込みをかけて中のごろつきを殲滅した後、結構な富の奪還に成功するのであった。

 10年近く収奪された中からすると微々たるモノかもしれないが、ラインハットを建て直す為のとっかかりになってくれる事を祈るばかりである。

 しかし、かつてヘンリエッタを拉致して監禁してた場所を保管場所に選ぶとは、見つからないとでも思っていたのだろうか?まぁ今まで見つかって無かったのだから、結果的に正解だったかもしれんが。

 

 

 だけど大臣さんよぅ、コレはあくまで貴方方の功績って話で落ち着いた筈なんですが、なんで俺の功績になってるんですかね?(震え声)

 

 

 

 

 

ラインハット ■日

 

 

 頑固な油汚れじみたごろつき達をラインハット兵らと共に掃除した翌日。

 最近呼び出され慣れてきた気がする謁見の間……ではなく。

 

 宛がわれた部屋にて、シャドウをひっくり返して腹をモフモフと撫でていたところ、ヨシュアが俺を呼びに来た。

 何でも、部屋でヘンリエッタとマリアが待っているから呼びに来たらしい。

 

 そうかと答え、名残惜しそうににゃーにゃー鳴くシャドウを寛いでいたチロルへ載せつつ、ヨシュアに先導されて部屋を出る。

 また過激なアプローチされるとか思わないのか?とヨシュアに聞かれたが、二人の気持ちを押さえつけてる俺が言えた義理じゃないが、彼女達は俺が結論を出すまで待ってくれる筈さと応える。

 そこまで思いきりが良いなら、とっとと二人と懇ろになっちまえば良いのにとヨシュアが嘆息するが、聞こえないふりをして歩みを進める。

 

 部屋へ到着し、部屋の前の衛兵に軽く手を上げて挨拶をしているとヨシュアが扉をノック、程なくして返事があったので部屋へ入る。

 中では、真剣な顔をしたヘンリエッタとマリアちゃんが待っており、先導していたヨシュアもヘンリエッタ達の方へ移動する。

 

 そして、ヘンリエッタがぽつりぽつりと呟くように言葉を紡ぎ始める。

 この国では沢山の嫌な思いをしてきた事、しかし楽しい思い出もたくさんあった事。

 敬愛していた兄の代わりになろうとして、やっぱりなれなかった事を唇を震わせながらヘンリエッタが喋る。

 俺と傍に居たい、添い遂げたいと伝えたところで言葉を震わせ……そっとマリアちゃんがヘンリエッタの手を優しく握り、決意に満ちた声で俺の目を真正面から見据えて彼女は言葉を紡ぐ。

 この国を放っておけない、兄上と父上、死んだ母上が愛していた国を建て直したいと。

 

 俺はヘンリエッタの選択を肯定するかのように頷き、そっとヘンリエッタへ近寄って頑張った彼女の頭を優しく撫でてやる。

 お前とマリアちゃん、ヨシュアが居てくれたおかげで俺は心まで魔物にならなかったと、考えてみればはっきりと話してなかった感謝の念を伝えたところで。

 感極まったらしいヘンリエッタが俺の胸元に飛び込み、縋りつきながら大声で泣き始めた。

 俺に出来る事は、そっとヘンリエッタの背中を撫でてやろうとして……思い直し、そっとヘンリエッタを抱き締める。

 

 

 どのぐらい時間が経ったかは俺自身わからないが、泣き止んだヘンリエッタは俺の背中に手を回して親愛を示すかのように、胸元へ顔を擦り付けるとそっと離れる。

 私を選びに来てくれるのを待っていると言われて、問題を先送りにした罪悪感が胸をよぎるが、俺が選択したこと故に自業自得でしかない。

 

 そして、ヘンリエッタが落ち着いたタイミングでマリアちゃんが口を開く。

 兄さんと私もこの国に残り、ヘンリエッタさんのお手伝いをするつもりです、と。

 優しい故に、困窮したままのこの国の人間も、視線で火花を散らす事もあるとはいえ親友であるヘンリエッタを置いていけなかったのだろう。

 

 わかった、無理も無茶もするなよと言えば、ドレイクさんだけには言われたくないですと膨れっ面で言われる始末。解せぬ。

 そして、マリアちゃんが何かを期待するかのような顔で両手を広げた。

 

 思わずヨシュアを見る、表情から複雑な感情が垣間見えるが、察しろと目を背けられる。

 ヘンリエッタへ目を向ける、むしろ抱き締めないと許さないという視線を感じる。解せぬ。

 

 

 ともあれ、決意が居るであろう選択をした小柄なシスターを俺は身を屈めるようにしながら、そっと抱きしめた。

 

 

 ところでヨシュア君や、お前は何時か複数人に刺されるか、種だけ撒いて行方を晦ます気がするとか不吉な事をいうのはやめたまえ。

 

 

 

 

ラインハット △日

 

 

 ヘンリエッタが決意し、デール王を支える事を宣言した翌日。

 俺は部屋で旅支度を終え、部屋を出たのだが。

 

 なーんで旅支度完了状態でそこにいるのかね、ヘンリエッタにマリアちゃんにヨシュアや。

 え?ビスタ港まで見送りに行くだけ? 気のせいかラストの攻勢に出ようとする肉食獣の気配をそこの乙女二人から感じるんだが、俺の気のせいかねヨシュア君や。こら目を背けるな。

 ついでに剣に宿ってるホークよ、惚れてきた女は全部囲うのが雄の甲斐性とかやかましいわ。

 

 

 

 まぁしかし、短い間かもしれないが気心知れた仲間達と旅をする最後の機会だし、行くとするか。

 ……大丈夫だよ、お前達を泣かせるような事はしないし、放ったままどこかへ消えちまったりしないさ。

 

 

 

 て、ちょっと待てマリアちゃんや。勇者の出立とかなんか変な単語が聞こえたんだが、演出とかしてないよな?

 シテナイデスヨーって、目を逸らして棒読みしても説得力ないぞ。ちょっと俺の目を見てしっかり話してみようか。

 

 

 

 

 

ビスタ港 ●日

 

 

 まぁ特に問題もなく到着したわけであるが、なんだか見物客多くなーい?

 ラインハット出立の時どうだったか?黙秘する、黙秘すると言ったら黙秘する。

 

 ……え?ラインハット救国の英雄の旅立ちを見物しに、近隣の町や村から人が集まってきてる?

 そういわれてる間に大声で呼ばれたので振り返れば、そこにはサンタローズの村の人たちが俺へ向かって駆け寄ってきていた。

 

 まさかラインハットを救う英雄になっちまうとはな、大したものだぜ。なんて武器屋のオッサンに背中をバシバシ叩かれたり、旅立っても達者でやれよ、たまには帰って来いよと言ってくれる人までいる。

 思わず涙腺が潤む俺だが、ぐっと食い縛る。旅立ちに涙は不要なのだ。

 そうしてる間に、アルカパの町の顔なじみの門番や、元悪ガキコンビまでもが俺に旅の無事を祈る言葉と、旅先でビアンカちゃんに会った時用に言い訳を考えておけと言われた。解せぬ。

 

 なんだか、サンタローズの洞窟守の爺様が、俺が着用してる天空の鎧を見て難しい顔をしているが、聞こうにも人ごみにもみくちゃにされて聞けない俺である。

 そう言えば爺様に会った時は、この鎧には灰色の文様が多い上にパーツが少なかったけど、今は白さが増した上に籠手と膝当てが追加された状態だから、不思議に思ってるだけなのかもしれない。

 

 

 そんな事やっていると、乗らないなら出航するぞーと船乗りのおっさんが叫んできたので、急いで乗船すべく桟橋へ向かったのだが。

 直前でヘンリエッタとマリアちゃんに手を引かれて強引に振り向かされると。

 

 ヘンリエッタに濃厚な口づけをされた後、呆けてる隙を突かれて俺の首筋に飛びついてきたマリアちゃんに抱き着かれながら同様の口づけをされた。

 

 へ?待っている?信じて待ってるから迎えに来て?

 思わず呆けた声を出す俺に業を煮やしたのか、ガチムチな船乗りのおっさんに襟首を掴まれて船へ放り込まれる俺であった。

 

 

 

 気のせいかもしれないが、おっさんの行動に憎しみが籠っていた気がする。

 




ヘンリエッタ、マリア、ヨシュアはパーティから離脱しました。
次回はドレイクを送り出したヘンリエッタとマリア……を眺めるヨシュア視点の話になります。


【今日のリュカちゃん】
「ようやく着きましたな、お嬢様」
「そうだねサンチョ、じゃあすぐにお兄ちゃんを探そう!」
「ええ、坊ちゃまも美しくなったお嬢様を見たら、きっと驚くでしょう」
「もう、サンチョったら~。うふふ、お兄ちゃんに早く会いたいなぁ」
なおこの時点でドレイクは船の上であった。
その後ヘンリエッタと再会したリュカちゃんは、火花を散らして牽制し合いつつ。
マリアも交えて、一時休戦と言う名の握手を交わしたのであった。



問題が爆発する事なく沈静化した?いや違う、これは不発弾を大量に埋め立てただけだ。

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