勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある? 作:社畜のきなこ餅
みんな大好きパパスさん視点が後半にあります。
雨月 ×日
この世界がドラクエ5の世界だと理解した俺だが、特に日常に変化など訪れる事もなく2年が過ぎた。
いやだってねぇ、船もない未だ未成年のガキンチョが一人ここを出てどうするかという話である。
ましてや、母の墓を放置して旅立つわけにもいかない、せめて何かしらの墓荒し対策はしたいところである。
雨月 ●日
同居人?が新たに増えた。
経緯としては……今日も今日とて畑を耕し、害獣を始末しては食肉加工し。
空いた時間、母の墓標の前で鍛錬をしているときに遭遇したんだが……。
第一印象はそこらへんで襲ってくるへびておとことなんら変化はなかったのだが、どうも様子がおかしかった。
いつもならば理性もなんも見せる事なく襲いかかってくるのだが、そいつはまるで投降するかの様に両腕の蛇を高く掲げながら俺に近づいてきたのである。
正直怪しい事この上なかったが、俺もその時は変に退屈してたのもあって。大丈夫か?と尋ねたところ。
膝から崩れ落ちてガチ泣きされた。理解できるかこんな流れ。
とりあえず落ち着くまで待った後話を聞いてみたら、どうやら彼?はかつてはサラボナという街の大富豪のご息女を護衛していた衛兵だったらしい。
だが、富豪のご息女を狙う魔物との戦いにてご息女らを逃がす事には成功したものの、そこで力尽き……目覚めたらこんな姿になっていて。
洗脳される前にがむしゃらに逃げ出し、山を越え森を越え……時に人間らに追い立てられつつ根性で海すら越えてここに辿り着いたとの事だ。
正直うさんくせぇ。うさんくせぇが、母を亡くしパパスさんも顔を出さなくなって以来言葉が通じる相手に出会えたのもまた事実。
そんなワケで元衛兵のへびておとこは名前も喪失していたので、覆面姿からオルテガと名付け新たな家族として迎え入れる事となった。
そしたら、感極まったのかまた号泣された。こいつ感情の起伏激しいな。
多分だけど、母が雲の上から苦笑いして見ている気がする。
風月 ×日
オルテガを家族として迎え入れ結構な日数が経過したが。
こいつ、めちゃくちゃ有能である。料理は味覚の変化によるものかいまいちだが、掃除に洗濯……さらにはウィットに富んだジョークまで完璧にこなす。
なんでも聞いたところ、仕えていた家のご息女の内姉の方が、それはもう気性が激しい上に超絶我儘で。その娘さんの相手をしてる内に身に着いたらしい。
彼の半生の苦労が偲ばれる話であるが、まぁ有難い事この上ないのもまた事実なので。
遠慮なく頼らせてもらうことにする。 だからホークよ、オルテガの腕の蛇をむやみやたらと突っつくんじゃない。
風月 ▽日
パパスさんが顔を見せてくれた。
なんでも、それなりの情報は得られたらしくそれらの精査の為にも、娘と共にしばらくサンタローズでのんびりするつもりらしい。
そんな事を、オルテガが淹れてくれた薬草茶におっかなびっくりしながら口をつけて話をしてくれるパパスさん。 ちなみに相も変わらず片乳首は露出している、なお現在季節は春が近づいているとはいえ冬である。
正直突っ込みたいが、俺が母に頼まれた使命的なしきたりだとしたら互いに気まずいしなぁ。などと思いつつリュカちゃんへ視線を向けると。
彼女は彼女で、ホーク相手におままごとをしていた。待てホーク、意志疎通出来てるのかお前。
雛の頃から一緒にいるが、初めて見るホークの芸達者ぶりに思わず二度見しているとパパスさんに咳払いされつつ。
真面目な話がある、と俺の目を見て口を開く。
まぁ単刀直入に言えば、母から託された使命に殉ずる気持ちもわかるけど。俺をこのままこの地に放っておけないという話だ。
そんなに気にしてなかったつもりだが、割と顔に出ていた上にこの日パパスさんらを迎えた時も俺の顔は中々に追い詰められたかのような顔をしていたらしい。
なんとなくだが自覚はある、鍛錬もオルテガが来るまでは倒れる寸前までやってたし。オルテガが来てからはあいつに声をかけられないと止まらない。
だけどまぁ……俺は大丈夫だ、まだ頑張れる。
そう返したら、パパスさんに沈痛そうな顔をされた。解せぬ。
=============================================
私がその少年……ドレイクに出会ったのは何時だっただろう。そう、リュカがまだ2歳になったばかりぐらいの頃だ。
あの日、サンタローズの長老ともいえる老人が掘り出してきた古い書物に載っていた、サンタローズの北。
天気の良い日は海を挟んだ向こうに見える大地の中に、封印の洞窟と呼ばれるものがあると言う事を私は知った。
妻、マーサを救う手立てに繋がるかもしれないという希望に私は居てもたっても居られず。
グランバニアを出立した頃から従ってくれている、従者のサンチョへリュカを託すとその大地へ向かったのだが。
その大地は、今まで旅をしてきた中でも過酷な部類に入る場所であった。
森林の中を縦横無尽に飛び回りながら、氷の吐息や即死の呪文であるザラキをかけてくるホークブリザード。
そしてソレを補佐するかのように、自在に動く蛇の両腕を巧みに使いこなし襲い掛かってくるへびておとこ。
襲い来るそれらを薙ぎ払い、時にやり過ごして森林を進む私であったが……それでも消耗は避けきれず、準備を入念にした上で出直す事も視野に入れ始めていた。
だが、その時。
私の目の前で、ぼさぼさに伸ばし放題の髪の毛をした目付きの悪い少年が、へびておとこと戦っている光景が飛び込んできた。
少年は見たところ7歳かそこらぐらい、明らかに彼には荷が勝ちすぎている相手で、その予想は正しく思いきり振り払われたへびておとこの蛇によって少年はまるでボールのように吹き飛ばされていく。
「っ、いかん!!」
縁もゆかりもない少年だったが、見捨てる理由もなく、私はわき目も振らず飛び出し大樹へ叩きつけられそうになっていた少年を抱きとめる事に成功する。
少年はと言えば、その目付きの悪い目を見開き茫然と抱き留めた私を見上げている。どうやら助けが入るとは予想していなかったらしい
そうなると、この少年はラインハット辺りの貴族の庶子だろうか?野生児というには身なりが綺麗だし、浮浪児というには持っている剣が上等すぎる。
そこまで考えて私は頭を振ると、私に対して両腕の蛇を構えて威嚇しているへびておとこと対峙すべく、少年を地面におろして愛剣を構える。
「おっさん、手伝ってくれんの?」
「おっさ……?! 危ないから下がっていろ!」
「俺は大丈夫!頑張れるさ! あんなのしょっちゅう相手してるんだよね、畑荒らすし」
中々に腕白な少年だったらしく、軽く気合を入れて勢いよく飛び上がると両手で鋼の剣らしき彼の体躯に比べ大きいソレを構える。
思わず、その構えに私は感心させられた。 まだまだ粗削りではあるが、その構えは堂に入っており冒険ごっこに明け暮れる彼の同年代ぐらいの少年らとは、年季の違いを感じさせたのだから。
「ふっ、そうか。 ならば頼りにしているぞ、少年!」
「こっちこそ、頼りにしてるぜ髭のおっさん!」
言葉をたどたどしく話すリュカに比べたら雲泥の差ぐらい口の汚い少年だが、その腕は確かだった。
私の剣術が剛の剣とするならば、少年の剣はまさしく柔の剣。
手に持った剣を時に盾のように扱って敵の攻撃を受け流し、時には敵が晒した隙を見逃す事なく一撃を与えていく。
……まぁ、まだまだ成長途上が故に膂力不足なところも見受けられるが、非常に将来有望ともいえる少年だと思った。
「すげーな髭のおっさん! あ、俺はドレイクって言うんだけどさ。何しに来たの?」
「ああ、私の名はパパス。探し物があり、この付近にあるらしい封印の洞窟を探しているのだが……何か知らないか?」
少年、ドレイクがへびておとこの晒した隙を見逃すことなく、その両腕の蛇を切り落とし。その次の瞬間私がへびておとこを真っ二つにすることで戦いは終了。
互いに得物を拭いつつ自己紹介をし、私の目的を話したところ……なんと彼の母堂が封印の洞窟を守っているらしい。
ソレを聞いたとき、思わず捨て子じゃなかったのか。と呟いたら烈火のごとく叱られた、正直とんでもない失言だったと反省しきりだ。
しかし素直に謝罪するとドレイクはあっさりと私を許し、その瞳に好奇心を宿して色々な話を強請ってくる。
その様子に、小生意気な息子が出来たらこんな風なのだろうか、と考えつつも私はサンタローズの村での暮らしや……私の旅の目的などを彼に話しながら歩みを進め。
娘の年齢を聞かれた際に答えたら、そんな小さい子連れまわして何やってんだよオッサン!って全力で怒鳴られた、どうやら母堂の教育はしっかりしているらしい。
ともあれ、そんなことを話してる間に彼と彼の母堂が住んでるという、小屋へとたどり着いたのだが。
結果的に、得られた情報は私の求めるものではなく……空振りではあった。
だが、空手で帰るのもサンチョらに申し訳が立たないのも事実であるため、見回してみれば窓からきちんと整備され幾つもの実をつけている畑を見つけ。
害獣が多いであろうこの地域でどのように作物を育てているかの情報を、母堂の顔色が悪そうなところから薬を対価に幾つかの種と育て方について教えてもらう。
我ながら、みっともない有様で。ドレイクが母堂の体の為に薬を譲ってくれた、とお礼を無邪気に言ってくるのが、酷く辛かった。
母堂の顔には、すでに死相が見えていて。私が譲った薬はもはや時間稼ぎにしかならない程度のモノなのだから。
その後、私は気まずさから逃げるように立ち去り……。
それでも心のしこりから、幾つかの月を跨いだある日に再度ドレイクらの下へ向かう。
そこにあったのは、今にも燃え尽きそうな母堂の命の灯火を、涙をこらえながら必死に繋ごうとするドレイクの姿だった。
コレが見知らぬ親子ならば、まだ私は気の毒に思いながらもそこまで気にしなかっただろう。
だが、見知った親子であるドレイクと母堂のその有様は、私の心に深く突き刺さった。
もしかするとソレは、死相が見えていながらも。見捨てたという事実を突きつけられたからかもしれない。
「母堂をすぐに、大きな町にいる医者、もしくは神父へ見せるぞ。 伝手ならばある」
「! 本当か、パパスさん!?」
良心の呵責から口を突いて出た言葉、実際に診せても気休めにもならないだろう言葉。
私のその言葉にも、項垂れていた顔をパッと上げて縋ってくるドレイクに心を痛め……。
「こほ、こほ……気にしないで、下さい。ワタシはもう、長く、ないですから……」
「何言ってんだよ母さん!?」
「それ、に。ここを、封印の洞窟を守る事が……ワタシの、大事なお役目、ですから……」
「っ!! なんだよソレ! そんなのいいじゃん!もう母さんだけなんだろ!? 誰も怒らないし文句言わないんだろ!?」
咳き込みながら私の言葉を断り、前にも聞いた使命を口にする母堂。
その言葉に、ドレイクは目に涙を浮かべ……否、もはや涙声になりながら母堂へ詰め寄り、死なないでほしい。生きてほしいと声にならない声で母堂に縋りついて泣き喚く。
その後、私は母堂に弱々しい声で親子だけで話したいから、少し中座してほしいと頼まれ。
私は成す術もなく、部屋から退室せざるを得なかった。
あの時親子でどのような会話があったのかはわからない。
だけれども、ハッキリと言える事がある。
ドレイクが心から笑わなくなったのは、あの日からだ。と。
そして、だからこそ。
リュカを連れた旅から戻り、サンチョからも了承が下りたので一緒に住もうと彼に声をかけた時。
「俺は大丈夫だよパパスさん、一人でも頑張れるさ」
あの時、共に肩を並べて戦った時には生意気な笑みを浮かべて言い放ったあの言葉を。
空虚な笑みを浮かべて言う、ドレイクの姿に。
私は、無力さを感じる事しか出来ずに居た。
【悲報】主人公、心にどでかい傷を負う
パパスさんは、妻を救うという目的が最優先目標として存在するけども。
その上で友人の子や、虐げられる誰か、泣いている誰かにも手を差し伸べられる大人というのが作者の感じてるパパスさんです。
なので、読者の皆さんの思うパパス像と食い違ってるかもしれない(震え声)