勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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ヨシュア視点とマリア視点の16話、すっとこドラゴン剣士ドレイクを見送った残された人たちのお話です。
当初はマリア視点だけだったのですが、ドロドロ具合が加速したので度数を減らしたら文字数が減って難儀するという本末転倒をしました。

なので、ヨシュア視点を追加したところ。意外としっくりきましたというのが今回のお話です。


16

 

 大きな波をかき分ける音と共にドレイクとチロルにシャドウを乗せた、ポートセルミ行きの船がゆっくりとビスタ港を出港していく。

 救国の勇者殿の出立にしては、少々しまらない旅立ちだったが集まった見物客はむしろ、良いモノを見たとばかりに口々にドレイクについて話しては盛り上がっている。

 

 

「しかし良かったのか行かせて?アイツの事だから、二人が泣いて縋ったらラインハットに残ったと思うぜ?」

 

 

 二人で何やら決意して頷き合っていたヘンリエッタと、マリアへ声をかけてみる。

 だが、俺の言葉に二人はドレイクが選んだことだから、と泣き笑いのような表情で返事をする。

 

 

(本当に罪作りな男だよアイツは……)

 

 

 そう言えば、グランバニアにいる筈のリュカという妹のような少女にまずは無事を伝えに行かないといけないって話だったが……。

 

 

(あいつソレだったら、もう少し待ってグランバニア行きの船が出るまで待てば良かったのに……もしかしてこの二人から逃げる為?いやソレはないな、いつもみたいに深く考えてないだけだろきっと)

 

 

 今頃は船の上で、はしゃいでるであろうシャドウに難儀してそうな友人を想い、重い溜息が出る。

 考えてみれば、あいつと大神殿で出会ってから変なところで気苦労させられてばかりな気がする。

 

 俺とマリアの親は、光の教団に心酔して財産の大半を寄付し、家族全体に清貧を強いる……心の弱い親だった。

 光の教団に入れば魔物から守られ光に満ちた未来に至れる、だからこそ教団の為に捧げるというのが死んだ父親の口癖だったが……。

 嘘偽りない本音を言うなれば、自分勝手に死んだ挙句に魔物の巣窟に俺とマリアをぶちこんだ、ロクデナシとしか言いようがないというのが本音だ。

 

 ドラゴンの剣士を支えた聖女という大層な肩書がついてしまい、今も集まった見物客に何やら拝まれてオロオロしているマリアだって、今でこそ表情豊かになってくれたが。

 大神殿へ俺達が送られた頃は、いつも暗い顔をしており、大丈夫かと俺が聞いても心配しないでと泣きそうな顔で応えるだけだったものだ。

 何とかしてやりたいと思わないワケじゃなかったが、あの時俺は幹部の魔物の気まぐれで兵士になった貧弱なガキ以外の何物でもなくそんな俺に出来る事など碌になかった。

 

 そうやって、兄妹して思考の袋小路に追いやられた所に、俺へ声をかけるようになったのがドレイクだ。

 最初は気味悪いヤツだと思ったさ、俺を見下したり居ないものとして扱う魔物が多い中で、あいつだけが俺を気遣うように接してきては変な頼みごとをしてきたからな。

 

 まぁ、後から聞いたところドレイクの傍仕えをしていたヘンリエッタが、仲の良いマリアから兄を心配しているような事をアイツは聞いた故らしい。

 まさかその後、大神殿の滝から飛び降りては戻ってくるという自殺行為の手引きさせられるなんて思っていなかったが……。

 それでも、あいつの存在は俺達兄妹にとっての救世主だと胸を張って言える、本人の前じゃ恥ずかしくて言えたものじゃないが。

 

 

「そんなに拝むと聖女様も困るだろ、また何か催事の時にでも何かやるだろうから今は引き下がってくれ」

 

「む、むぅ。失礼しました、聖女様」

 

 

 熱心に拝んでいた、なんでもラインハットの川の流れを眺めていて未来を憂いていたらしい老人が、熱心に拝み始めてマリアが本格的に困り始めたので助け船を出しておく。

 ヘンリエッタの方を見てみれば、彼女は彼女で人波に囲まれて難儀をしていたのでマリアと同じように救出しておく。

 良くも悪くもドレイクが居た時は近寄り難かったが、あいつが旅立ったのを良い事に我先にとあいさつしたり拝んだりし始めているようだ。

 

 

「すまない、ヘンリエッタ王姉とマリアを休ませてやってもらえるか?」

 

「ああ、了解したぜ」

 

 

 俺の頼みに、ドレイクに同行して偽太后達が貯めこんでいた財貨を奪還した、今後の同僚にもなる兵は快く引き受けると二人を連れ出して、ビスタ港の休憩所へ連れていく。

 そんな二人を見物客たちは名残惜しそうに見つめ、思い思いに散っていった。

 

 残るはドレイクが養父達と過ごした、俺達も立ち寄ったサンタローズの村からドレイクの見送りに来た村人達と、アルカパの町のドレイクの顔なじみぐらいだ。

 一応俺もラインハットでの戦いで頑張った筈なのだが、あまり注目されなかったことに思わないところがないワケじゃないが、まぁ変に目立ってもやり辛いから有難いと思う事にする。

 

 

(しかし、個人的にはマリアをアイツとくっつけたかった所だな。事あるごとにアイツへのアプローチの為に妹から赤裸々な相談を受ける羽目になった俺の苦労を少しは味わいやがれってんだ)

 

 

 既に水平線の彼方へ消えていった船の方角を見て、そんな八つ当たりにも近い事を俺が考えていると。

 

 

「しかし、アヤツが伝説の勇者の再来じゃとはな……」

 

「……どういう事だ?爺さん」

 

 

 ドレイクの鎧を見てから、何やら考え込んでいたサンタローズから来た老人の呟きに、思わず問いかけてしまう。

 確かにアイツは勇者とラインハット国から公認されているようなものだが、お伽話の勇者様とは似ても似つかないから猶更だ。

 

 

「アヤツ、ドレイクが着用しておったのは紛れもなく天空の鎧、古に魔王を討ち滅ぼした天空の勇者が纏っていたとされるモノじゃ」

 

 

 ドレイクが聞いたら、俺が勇者?ないわー。って腹が立つ顔で手を左右にヒラヒラ振ってそうな事を言い始める老人。

 金策で家を空けがちだった親に代わって、妹へ絵本やら物語を幾つも読み聞かせてきた俺だが、ドレイクはその絵本や物語に出てきたような完全無欠の英雄とは程遠い存在だ。

 変なところ責任感拗らせてるけど、基本的に世の為人の為って人間じゃ……。

 

 

(あれ?そう言えばアイツの鎧、デール王からの沙汰を受けて何か決意してから変わってたよな?)

 

 

 ふと、大神殿を出てオラクルベリーやアイツの生家へ向かってた時の鎧と、さっきまでここにいたアイツが着ていた鎧の違いを頭の中で比較する。

 てっきり、ラインハットから渡されたものだと思ってたが、よくよく考えると意匠が殆ど似通っていた気がする。

 

 

「何か気付いたようじゃのう。しかし、アヤツも不憫なヤツじゃ……もしかすると、アヤツが10年も囚われる切っ掛けになった闘いの時に、あの剣があれば……」

 

 

 俺の顔を見て、目を細めてほっほっほと笑う老人が何やら気になる事を呟いているが、俺の考えは別の方向に飛んでいた。

 マリアが居る時はそんな素振りを欠片も見せる事はなかったが、マリアが居ないところでは結構……神に対する悪態を吐いていた。

 そんなアイツが、神に選ばれた天空の勇者なのだとしたら、運命は随分と皮肉が効いているらしい。

 

 

 

 せめて、あいつの往く道に幸多からんことを。そして、身動き取れなくなるくらい女引っかけんなよと、祈っておく事にする。

 

 

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 兵士の方に、ヘンリエッタさんと一緒に休憩所へ案内された私達はようやく一息つくことが出来ました。

 純粋に祈ったり拝んだりしてくれた方々も居たのですが、不躾で下品な視線を送ってくる方もいた事ですし。

 

 

「ようやく一息つけたな」

 

「そうですね」

 

 

 休憩所で旅人の世話をしてくれている女将さんが淹れてくれたお茶を啜り、一息吐いたヘンリエッタさんの言葉に頷く。

 彼女も同じような視線を受けてましたが、私と違って堪えている様子は見受けられません。

 

 

「ドレイクさんは、大丈夫でしょうか……?」

 

「あの剣があるし、チロルにシャドウも居るから、きっと大丈夫さ」

 

「いえ、その、そっちは心配は余りしてないのですが……その、女性関係が……」

 

「……信じよう」

 

 

 私の呟きに、悩みながらも応えてくれるヘンリエッタさん。

 でもごめんなさい、そっちじゃないんです。私が心配している懸念を伝えてみれば、ヘンリエッタさんは大きなため息とともに言葉を吐き出した。

 

 

(ああ、やっぱり私と同じ気持ちなんですね……)

 

 

「……マリアは、どれぐらい増えると思う?」

 

「そうですね……ドレイクさんが気にされていた、リュカという方はほぼ確定でしょう。それと海辺の修道院に居たらしいフローラさんという方に……」

 

「アルカパの町で聞いた、幼いころのドレイクと共に冒険をしたという話の、ビアンカという娘も危険だな」

 

 

 私達二人でドレイクさんを独占したかった、浅ましいのかもしれないのですけどもソレが私とヘンリエッタさんの共通認識です。

 だけど、あの時二人で勇気を出して迫った時の様子から、あの人は自分で納得が出来ない限りは想いに応えてくれないという確信もあるのです。

 

 

「……私とマリアを含めて5人、か……どうだろう?」

 

「ちょっとした顔馴染みくらいなら、安心できるのですが……誰かの為に頑張ってるドレイクさんって、その、かっこいいじゃないですか?」

 

「……そうだな。そして今挙げた女性は軒並みその時のドレイクを見ていそうだな」

 

 

 ヘンリエッタさんと共に、また重い重い溜息を吐く私達。

 根拠はないのですけども、なんだか確信めいた予感が……この時の私とヘンリエッタさんの間にはありました。

 

 

 間違いなく、増えると。

 正直、ドレイクさんに嫌われるような事をしたくないのですが、この予感が的中しちゃった時どうなるか、考えたくもありません。

 

 

 きっとその時の私とヘンリエッタさん、あの勇敢なドレイクさんでも怖がる顔しちゃうかもしれませんから。

 

 

 

 




ヘンリエッタの台詞は大半がドレイク視点からだったので、結構長い間ボカされてましたが。
基本的には、若干ぶっきらぼうな口調です。なおドレイク相手には柔らかくなります。露骨だね!


【今日のリュカちゃん】
「……貴方が、マリアさん?」
「……ええ、そういう貴方がリュカさんですね?」
「……うん、そうだよー。よろしくねー」
「……うふふ、こちらこそよろしくお願いします」
笑顔で互いに火花を散らしながら握手してたそうです。
その場に居合わせたヨシュアは、ドレイクに責任とれバカヤローって心の中で叫んだとか叫んでないとか。


着々と修羅場は構築されていくのだ。

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