勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある? 作:社畜のきなこ餅
ルラフェン ♪日
大釜からの爆発によって吹っ飛んだ俺とベネット爺さんは、二人仲良く気絶していたが……デボラから放たれた怒りの蹴りが鳩尾に突き刺さった衝撃で目覚めた。
ぼんやりした意識からの激痛にのたうち回る俺達を見下ろすデボラ、その瞳には怒りの炎がメラメラと燃えていた。
爆発するなら爆発すると予め言っておけと怒られる俺達二人、チロルとシャドウへ視線を向けたら目をぐるぐるさせてるシャドウを介抱してるチロルに、冷たい目を向けられた。ジーザス。
すぐにルーラを試したい所だったが、結局試験はデボラが宿で着替えてくるまでお預けになるのであった。
そんなわけで待つ事数時間、爆発で汚れた服を着替え、乱れたヘアスタイルを整えてデボラが戻ってきた事でようやくルーラを試せるようになった。
ちなみに、あの服お気に入りだったのにとブツブツと文句を言われた。怖い。
ともあれ、なんとなくだけど使えそうだという妙な確信ともいえるモノが俺の中にあり、真っ先に浮かぶはサンタローズ北の生家。
上手くいけば、例の付き人さんにも会えるかもしれないがどうだとデボラに話を向ければ、失敗したらただじゃおかないわよという返事と共に同行を決意した模様。
はてさて、では早速試してみるとしよう。
サンタローズ北の生家 ♪日
一塊になりルーラを唱えてみれば、一瞬の浮遊感と共に俺達ははるか上空へ飛び上がっており。
景色を楽しむ間もなく、鬱蒼とした森の中にある生家の前へと俺達は降り立った。
こんなところに住んでるのね、とデボラは興味深そうに視線を巡らせており、中々にタフな姿を見せつけてくる。
まぁ色々と訳アリでな、と話していれば生家の扉が音を立てて開き、中からオルテガが出てきた。
まさか俺が帰ってくるとは思っていなかったらしく、オルテガは嬉しそうにおかえりなさいと告げ、丁度良いお茶になりそうな薬草が見つかったと教えてくれる。
一方デボラはと言えば、家から出てきた魔物……へびておとこが襲い掛かる事なく、嬉しそうに家事を報告してる姿に彼女らしからぬ呆けた表情を見せていた。
その後、我に返ったデボラに詳しい説明を求められ、オルテガからも記憶の中の令嬢の面影があるのだろうデボラについて、説明を求めるような視線を送ってくる。
なので、とりあえず家の中へ入りオルテガ特製の薬草茶を啜りながら、俺がまだ子供だった頃にオルテガと出会いなんやかんやの末に家族になったことを話す。
デボラは俺の言葉に最初は胡散臭そうにしているも、当の本人であるオルテガがその言葉を肯定し。
オルテガは……もはや自分のかつての名前も、貴方の名前も思い出せない身でありますが。貴方が無事で、今も元気そうであることを嬉しく思う。と心から嬉しそうな声でデボラへ告げた。
オルテガの言葉にデボラは誰かの名前を口にしようとして首を横に振り、色々あったようだけども貴方が生きていて良かったわ。といつもの表情からは想像つかない穏やかな笑顔で微笑む。
そんな二人の心温まる光景を見ながら、ひとりお茶を啜り満足に頷く俺である。良かった良かった。
さて、まだ二人には積もる話もあるだろうしシャドウにブラッシングでもしてやろうかな、と俺が席を外そうとした瞬間オルテガやらかしやがった。
主人も隅におけませんなー、ヘンリエッタ様やマリア様に続いてデボラ様もですか、と。ちょっと待て違うぞオルテガよ、何故そうなる。
え?放っておいたら勝手に何か追い詰められて、一人で魔王相手に喧嘩売る為に失踪しそうだから心配でしょうがない?ソレとコレとは話が違うだろう!
そもそもだな、見てみろこのデボラの表情を。そんな対象として見られるのは迷惑って顔をデボラがして
なんかその後の意識が空白になってる、妙に脳天が痛いのだが何故だろう。オルテガ何か知ってる?え、知らない?視線を合わせてくれないのが気になるけど、お前が言うならそうなんだろうなー。
ラインハット ♪日
なんか妙に機嫌の悪いデボラに促され、続いてラインハットへ行くことになった俺達である。
デボラが何でそんな事言い出したかは知らないが、ヘンリエッタとマリアの様子も気になるので特に断ることなくルーラでラインハットへ飛ぶのであった。
そしてあっという間にラインハット前へ到着、驚くほど便利だなルーラ。
この世界、キメラの翼もあるにはあるんだけど……入手がえらく困難らしく、それこそ使い捨ての秘宝的扱いになっているから道具屋では手に入らないのである。
……マジでベネット爺さんに足向けて寝れないなぁ、コレ。
まぁそんな与太話はさておいて、いきなり現れた俺達に門番が驚くも俺の顔に気付くと、喜色満面で通してくれた。顔パス状態である。
すぐにヘンリエッタ王姉様とマリア様にも伝えます!とか叫んで下っ端っぽい兵士が走っていった。なんか大事になりそう(震え声)
そしてデボラとチロル、シャドウを伴って入ってみればそこは完全復興には至っていないものの、希望と活気に満ち溢れた光景が見れるようになっており。
俺の顔に気付いた人たちが、勇者様だ!とか叫んで集まってくる。正直君たちの純粋な視線が心に痛い。
そもそも俺は自分のエゴでこの人達が困窮する原因を招いており、もっと上手くやれていたらこんな事態にはなっていなかったのだ。
とか、そんな事考えてたら集まった人達に気付かれないサイレント肘打ちがデボラから俺に放たれた。痛い。
どうであれアンタはこの人たちの勇者でしょ、そんな顔してどうするのとまで言われる始末だ。不甲斐ないにもほどがある。
いまだ心の中に棘が刺さったかのような心持ちだが、集まった人達と言葉を交わしつつラインハット城へ向かい。
丁度、城へ続く跳ね橋の手前にある広場。かつて偽太后を討ちとった場所でヘンリエッタ達と再会し、走り寄ってきた二人に抱き着かれる。ついでに野次馬的民衆からは歓声が上がる。
何かを明らかに期待した顔で俺を見上げる二人だが、覚えたとある呪文の実験で立ち寄りがてら顔を見に来たと告げ、二人に明らかにしょんぼりされる。本当に申し訳ない。
デボラの不機嫌な気配が非常におっかないが、同時にまるでだめな男と言わんばかりの視線を向けられている気がする。
しかしまぁともかく、ここで屯していても落ち着かないのでアレからのラインハットの状況も聞きたいので、城へ案内してもらう事にし。
案内された先で、ヘンリエッタとマリアにデボラについての説明を求められた、二人とも笑顔だけど何故だろう。怖い。
とりあえず謎のプレッシャーに耐えつつ、二人にデボラについて説明しつつ、お前たちが心配するようなことは何もないと話す俺。
そしたら何故かデボラに脛を蹴られる、ついでに二人が何かに気付いた顔でデボラを見る。とりあえず脛を抱えてぴょんぴょんしてる俺にも説明してくれると嬉しい。
その後、女同士の話し合いがあるって事で3人は席を外し、彼女達が戻ってくるまでの間何かの任務から戻ってきたらしいヨシュアが部屋へ入ってきた。
そして開口一番。頼むから女に刺されて死んだりしないでくれよ、俺そんな死因の葬式に出たくないから。って言われた。解せぬ。
サラボナ 〇日
話し合いから戻ってきたデボラと合流し、ルーラでルラフェンへ戻った俺はベネット爺さんへルーラの結果を報告。
古代に失伝した呪文の復活に成功した爺さんは飛び上がって喜び、さらなる研究に励むぞいなどとハッスルしっぱなしであった。
そして、あの場に居合わせたデボラにルーラを使えそうか聞いてみたのだが、使えないっぽいとの返事に首を傾げる俺。
そこでベネット爺さんに聞いてみたところ、恐らく呪文の適正によるものじゃろうとのお返事。メラゾーマやイオナズンと言った強力な呪文を使えるようになる人間と、そうでない人間の差みたいなものだとか。
その言葉にがっくり項垂れるデボラ、どうやら使ってみたかったらしい。気の毒な。
そんなこんなで、アンタは便利な呪文覚えれていいわよねー。なんてジト目を向けられつつ、結局徒歩でサラボナへ向かう事となり……。
途中の休憩所的な場所で一泊し、そこでデボラの妹の結婚相手を募集してるとかいう情報を聞きつつ、山をくり抜いたかのような大きな洞窟を突き進み。
割と厄介な数の魔物の群れを、2人と2匹でカバーし合いつつ薙ぎ倒して突破し、ようやくサラボナへ俺達は到着したのである。
というわけで到着したサラボナであるが、さすがというかの結構な都会。
城下町であるラインハットや港町のポートセルミとはまた違う、どこか洗練された装いを感じさせるお洒落な雰囲気を感じる。
思わずお上りさん丸出しで見回してしまう俺にデボラは当然よ、と言わんばかりにドヤ顔し。
駆け出しそうになってたシャドウは、チロルに首根っこを噛まれてぷらーんとぶら下がっていた。またかお前。
とりあえず気を取り直し、デボラへじゃあここで解散だなと告げようとしたら、その前に腕を掴まれてズンズンと連れていかれる俺である。
なんでも、パパへ挨拶がてら護衛の礼をするわ、との事。何のかんの言って退屈しなかったから気にしないでいいのに。
ちなみに犬が駆け寄ったりはしてきませんでした、まぁゲームと違うし早々あるわけないわな。
しかし、デボラが俺の手を掴んでずんずん歩いてる姿を町の人らは、信じられないモノを見たかのような顔してる理由がなんとなく想像つくのが……いてぇ、脛を蹴るな!
そんな事思いながらデボラに引っ張られていった先は、どこの大臣のお屋敷だと思わんばかりの大豪邸。これには俺も思わずあんぐり。
馬鹿みたいに口開けてんじゃないわよ、なんてデボラに言われつつお屋敷へ案内される俺。なすがままである。
しかし、なんだか妙に人が多いというか男ばかりが居ないかと、大体予想はついてるがデボラへ聞いてみれば、どうせフローラとの結婚を希望してる連中でしょ。というつっけんどんなお言葉。
ところでデボラさんや、いつまで手を繋いだままなのかね?メイドさんや集まってる男達が信じられないモノ見る目で見て……とか思ってたら、気付いたらしいデボラが顔を真っ赤にして手を乱暴に離した。
難儀な性質をしてるなお前、なんて思わずつぶやいたら。アンタにだけは言われたくないというご返事。解せぬ。
あの、ところでデボラさんや、なんか君のパパさん大事なお話中らしいしそこへ乱入するのはいかがかと……え?配慮なんかいらない?俺が気にするんですがソレは。
そんな事言ってたら、有無を言わせる事無くデボラのパパさんこと、ルドマンさんが人を集めているお屋敷の広間へデボラと一緒に入る事となった俺であった。
入口から奥の方を見てみると、ルドマンさんと思しき恰幅のよい男性と、青くて長い髪をもった清楚そうな女性が……アレ、もしかして修道院に居たシスターじゃね?
俺達の姿に気付いたルドマンさんの視線はデボラから俺へと移動しており、遠目から見ても中々に驚愕している。どうやらデボラが男を連れてきたのが信じられない様子。
更にシスターさんを見てみれば、俺の姿から何かに気付き両手を口に当てて上品に驚いていた。いやー、まさかそんなあの時の半竜人が俺って気付いてる事はないだろう、きっと。多分。
あのメイドさん、背中をぐいぐい押して席の方へ移動するよう促さないで下さい。俺は結婚相手として名乗り出てきたんじゃなくて、デボラに引っ張られてきただけの通りすがりの剣士なんです(震え声)
……そうやって、道化じみた事考えていなければ、すぐにでもなりふり構わず逃げ出したくてしょうがなかったのは内緒だ。
俺が今まで動いて、色々と展開を変えてきたけども凡その流れ、運命の流れというものは辻褄を合わせるが如く今まで押し寄せてきている。
遡ればリュカちゃんやビアンカちゃんと一緒に冒険をしたレヌール城、その後の妖精の国の春風のフルート奪還、そしてラインハットにおいてのゲマとの邂逅。
一度は大きく流れを変えたはずだし変えられた自負もあった、だけど。カボチ村はチロルが居ないにも関わらず窮地に陥っていた。
この流れで行くと、俺はここで結婚をしないといけなくなるのではないかと、そう思うと……俺は情けないがとても恐ろしくなった。
俺の体は、ゲマに施された進化の秘法が未だに根付いたままなのだ。
仮に誰かと結ばれた時、子供はどうなる?
俺は、俺のような自分の血筋に振り回される子供を、作らないといけないのだろうか?
おや……?ドレイクの様子が……?
ラインハット辺り、そしてポートセルミ到着時はまともだったドレイクの精神状態。
しかし、カボチ村の危機という状況を目の当たりにした事で、ドレイクの心に迷いと揺らぎが出てきました。
前回のデボラさん視点で如実に露見していた、極端な二面性とも言える歪みは不安に耐え切れず、追い詰められ始めたドレイクの心理的不安の発露でもあります。
彼の内心の詳細は、次回あとがきにて。
【今日のリュカちゃん】
「あの、お嬢様。本当に行かれるのです?」
「うん、お兄ちゃんならなんとなくだけど。サラボナとか目指してそうだし」
「そうですか……ではお供しますよ、お嬢様」
「ありがとうサンチョ。その……ごめんね?」
「お嬢様の為なら、火の中水の中ですとも」
無邪気に近い再会を喜ぶ、大人になったばかりの少女。
自分が歪めてしまったとも言える、少女のその姿を見た時ドレイクの心はどうなるだろうか。
少しだけ、修羅場以外の雲行きの怪しさを出していきます。