勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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チキチキ炎のリング争奪RTAはっじまーるよー。



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サラボナ 〇日

 

 

 自分の甘ったれた考えに蓋を締め、改めて状況を整理する。

 既にアンディと思しき男性含む、求婚者の集団は広間を出ておりこの場には俺とデボラ、ルドマンさんとその奥さんにフローラ、後は控えているメイドさんだけである。

 

 ルドマンさんは、俺がラインハットの英雄だと知っていたようで、俺の手を取り会えて光栄だとまで言ってくれる。

 違うんだ、俺は原作知識の先回りというズルをした上に、結局犠牲者を出しているロクデナシなんだ。という言葉が出かけるも、固く気を引き締めてこらえ、そんな大層なもんじゃないと苦笑いを浮かべて堪える。

 

 君ならばデボラを任せられるというか任せたい、むしろこのままだと貰い手がないから貰ってやってくれとまでのたまうルドマンさん。それでいいのか。

 とりあえず、またまた御冗談をなどと片手を軽く上げて猫みたいに笑って応えれば、ルドマンさん大笑いの俺も大笑い。そして振り下ろされるデボラの拳骨、痛い。

 

 デボラの細腕からの攻撃力とは思えない威力に頭を押さえて呻いていれば、クスクスと上品な笑い声が聞こえたのでそちらへ視線を向けると、フローラが鈴を転がすような声で上品に笑っていた。

 なんでも、姉さん……デボラがここまであけすけに容赦なく対応する事など初めて見たらしく、俺達のやり取り含め笑いのツボに入ってしまったらしい。

 

 先ほどの婿取りの話をしていた頃から場に留まっていたらしい、重苦しい空気は結果的に今の流れで霧散し、ルドマンさんがデボラの鉄拳によるダメージから復帰するのを見計らってデボラが口を開く。

 オルテガの素となった付き人の恩人であり、ポートセルミからここまであたしを護衛してきたドレイクにお礼をしたいんだけど。とはぶっきらぼうなデボラの言葉である。

 

 

 デボラの言葉に頭に手を当てたまま、驚きに目を見開くルドマンさんと。奥さんにフローラ。デボラ……お前どんだけ傍若無人だと思われてたんだよ。

 しかし、普通にさらっと流してたが俺の原作知識にはフローラの姉なんて居なかったのだが、どういう事だろう。

 

 

 俺のそんな疑問を他所に、話はトントンと進んでいき、結果サラボナへ逗留する間は宿を貸してくれる事となった上に、更に礼金として結構な数のゴールドまでもらえた。やったぜ。

 しかし、新たな頼みを神妙な顔をしたルドマンさんから頼まれる事になった。爽やかにフェードアウト作戦失敗である。

 

 フローラを託すに足る男が、集まった中で居なかった事をとつとつと語られ、フローラを嫁に取る為の催しに参加してもらえないか。という内容だ。

 無礼を承知で、娘さんを大事にしているようだが、そんなやり方で娘の夫を決めてよいのか?と聞いてみると、ルドマンさんは悩んだ素振りを見せつつも……。

 昔、デボラが魔物に襲われかけた事や、ラインハットの政変を踏まえて実力を持った男性を一族に迎え入れたいらしい。そういう男ならフローラも守り切れるだろう、とも。

 

 ルドマンさんの言葉にフローラは俯いたままなのが気の毒に思い、何とかしてやれないかとは思うがと腕を組んで俺が考え込んでいると。

 フローラはぽつりと、ドレイクさんなら私は嬉しいとか言われた。待って、ねぇ待って。

 

 その言葉にルドマンさんが輝かんばかりの笑顔を浮かべ、デボラの機嫌が急降下するのを感じながら俺は慌ててフローラへ語りかける。

 俺のあの姿を知っている上に、俺は修道院に居た頃の君に無理を幾度も頼んだ男だぞ、と。

 

 無理を頼んだって何を頼んだと言わんばかりのルドマンさんと奥さん、デボラの視線を俺が受ける中フローラは俯いた顔を上げて俺へ歩み寄ると。

 そっと、その白魚のような手を俺の両頬に当てて俺と目を合わせ、苦しんで泣きそうで自分も辛いのに……奴隷の人の死体を弔おうとしていた貴方ならば、私は信じられると俺へ告げた。

 

 

 その言葉に俺は目を見開き、違うそんな立派な男じゃない、自分のエゴで彼らを利用しただけだと返そうとするが、嘘や誤魔化しは許さないと言わんばかりのフローラの視線に俺は何も言えず。

 ホークの剣から伝わる、お前はそんな卑下するようなもんじゃない、という意思に勇気づけられつつも一歩を踏み出せなかった俺は。

 

 とりあえず、結婚相手として名乗り出るかは一旦横に置いて、フローラが本当に結婚したいと思える相手が出るまでの時間稼ぎとして、催しへ参加する旨を口にした。

 ルドマンさんとデボラから、お前そうじゃないだろと言わんばかりの視線を感じるが黙殺した。

 

 

 

 

 

サラボナ→死の火山 〇日

 

 

 昨日はあの後、死の火山について情報収集を行い、一つの結論を得た。

 コレ、原作ゲームみたいに対策せずに突っ込んだら、普通の人間や魔物は熱でヤラれてくたばる場所だわ。と。

 

 その為、心配そうに鳴くチロルやシャドウをルドマンさんの邸宅へ預け、俺は単騎にてサラボナから南下していたのだが。

 途中でダークマンモスの群れに追い掛け回されてる荒くれやら、空から飛来するキメラの群れに裕福そうな商人と彼が雇った傭兵達が襲われている光景を目撃する事になった。

 

 正直見捨てても俺には支障はないのだが、この件で死人が出る事であの良い子なフローラが気に病むのも許容できなかったので。

 ホークの剣を片手に飛び込んで救援を繰り返し、なんだか結果的に立ち塞がる魔物全てを斬り捨てながら突き進む形になった俺なのであった。

 途中人間形態では限界があったので、半竜半人になって戦ったのだが、キメラに襲われていた商人や傭兵に化け物呼ばわりされて呪文を撃たれたのは、少々心がしんどかった。

 

 

 まぁ、ある意味において正常な反応とも言える、ラインハットの話を聞いたとしてもあの状況では魔物としか思えないだろうしな。

 

 

 そのまま開き直って、半竜半人状態で歩みを進め……日が傾いてきたころに山岳地帯へ差し掛かったのだが。

 魔物から身を隠すようにして、傷だらけの体で地面へ伏せていた吟遊詩人風の優男を発見、近寄ってホイミをかけて介抱をしたところ意識を取り戻した。

 

 最初は俺の姿に驚いていたが、自分へ施された治療に気付いたのか非礼を詫びた上でお礼を言ってきた。

 そんなこんなで自己紹介、やっぱりアンディだった彼は俺の名前を聞いて驚き、貴方があのラインハットの英雄……とか言われた。やめてくれ、後恥ずかしい英雄譚とか嬉々として話さないでくれ、死ぬぞ!(俺が)

 

 

 ともあれ、このままの進軍はリスクが大きいので人間形態に戻りつつ、目立たぬよう細工した上で野営の準備に取り掛かる。

 折角の縁だしお前も休んでいけ、とアンディへ手招き。アンディはここでゆっくりしていてはなどと逡巡しているが、他のライバルと言えそうなのは軒並み魔物の群れで足止め食らってたことを伝えると。

 どこか安心したかのような表情で、焚火の前に腰を下ろした。

 

 そして、どちらともなく他愛もない雑談をしていたのだが、その中でぽつりとアンディが呟いた。

 修道院から帰ってきたフローラは、まるで恋する少女と言わんばかりに貴方との出会いや会話を楽しそうに話してくれたと。凄く居た堪れない。

 フローラの気持ちが僕には向いてない事は知っていて、それでも諦めきれなくて今回の催しに名乗りを上げたとも話してくれた。

 

 フローラからあの話を聞いていなければ、何も考えずにアンディが指輪を取れるように俺は動いていただろう。

 だが、どちらを選ぶにせよどちらかの気持ちを踏み躙るという事実に、俺はアンディへ気の利いた言葉をかけてやることができなかった。

 

 

 

 ホーク、背中でカタカタ言わせながら雌の奪い合いなんて当たり前で普通だろとか、魔物的考えで嗾けてくるのはやめたまえ。

 

 

 

 

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 チロルとシャドウくんを私たちに預け、サラボナを出立したドレイクさんを見送る私の胸に去来するのは、あの人と初めて修道院で出会った日の事でした。

 

 

 あの日の、雲一つない月明かりが穏やかに辺りを照らしていた夜、修道院の扉を叩く音がしました。

 旅人が一夜の宿を借りに来ることもある事を年配のシスターから聞いていた私は、万が一に備えて他のシスターらと共に扉を開いたのですが……。

 そこに立っていたのは、ドラゴンのような角と翼、そして尻尾を生やした魔物と人を混ぜ合わせたかのような少年でした。

 

 ともに扉を開けたシスター達が悲鳴を上げる中、その少年は私達へ襲い掛かる事はなく、地面に膝と手、そして頭すらも地面へつけて頼み込んできたのです。

 碌な対価も支払えないけど、どうか死者の埋葬と祈りを捧げてあげてほしいと。

 

 突然のその少年の行動に悲鳴を上げていたシスター、悲鳴を聞きつけて駆け付けてきた人たち、そして私も言葉を発せられずに居たのですが。

 まだ小さかった私は、少年にその死体はどうしてできたモノかと問いかけました、そして帰ってきた言葉は……修道院からも天気が良いと見えるセントベレス山の山頂にある大神殿で、重労働させられた末に死んだ人の死体だと答えました。

 

 とても信じられないような内容、しかしよく見ると少年の体はあちこちに強く何かへぶつけたような傷に塗れており、よほどの無茶をしてきた事は明白で。

 修道院の責任者である老シスターが、さ迷える魂へ安らぎを与えるのは私たちの仕事です。と少年へ告げた事で少年は震える声で何度もお礼を言うと、教会の扉の前へ置かれていた樽を抱えてシスターに案内されて墓地へと向かい始めました。

 

 

 そして、シスター達や墓守が止める中……満身創痍とも言える体で、少年は棺を納めるための穴を掘る事を手伝い、そして棺へ納めようと樽を開いた瞬間膝から崩れ落ち、樽へ縋りついて。

 涙声で何度も樽の中にあるのであろう死体へ、謝っていました。何度も、何度も、何度も。

 

 私にはその時は見せて頂けなかったのですが、樽の中に収められた死体は無残な状態だったそうです。

 だけど、私には樽へ縋りついて泣いて謝る少年、ドレイクさんの姿からとても優しくて弱い人なんだって、思いました。

 

 その後も埋葬は続き、ドレイクさんは腰に下げていた袋から幾らかのゴールドを無理やり老シスターへ押し付けるように渡すと。

 これからも、時々お願いさせてほしいと深く頭を下げ、浜辺から海へ飛び込んでセントベレス山の方角へ向けて泳ぎ去っていったのです。

 

 

 そして、時折ではありますがドレイクさんは樽に詰められた死体を修道院へ運び、埋葬し、そしてゴールドを渡しては帰っていくようになりました。

 来るたびに体の傷は少なくなってはいるのですが、ソレと反比例するかのように、ドレイクさんの心が軋み悲鳴を上げてその目からは光が消えていっているのが私には見えて。

 シスターへお願いし、ドレイクさんの窓口を引き受けたいと願い出て了承を受けると、ドレイクさんが来るたびに時折言葉を交わすようにしました。

 

 そこで、私はドレイクさんは必死に人間でいようとしている事に気付いて、もっとあの人の事を知りたいと思うようになりました。

 けど、詳しく聞こうとしても困ったように笑ってはぐらかし、死者を埋葬しては泳いで帰っていく。そんな人でした。

 

 今度こそ、と思っても結局変わらず、そうしている間に父からサラボナへ戻ってくるようにという手紙が届き、私は迎えに来た護衛と共に家が所有する船で帰る事になったのですが。

 あの人へ別れを告げられなかったことが唯一の心残りでした。 

 

 

 だからこそ、姉さんがあの人を連れて家へ来たときは運命とも言える胸の高鳴りを感じると共に。

 殿方には、鋭い氷の刃とも言える対応しかしてこなかった姉さんが、まるで心を赦しているかのような姿にどこか胸がざわめいて。

 

 ソレと同時に、今も心を軋ませ声にならない悲鳴を上げているドレイクさんの姿が、とても悲しかった。

 

 

 




Q.デボラさんの叱咤では足りなかったの?
A.いいえ、ドレイクが必死に隠して取り繕っていた病みの衣をはがす大金星を叩き出してます。
 気づきたくない、けど向き合わないといけない問題にドレイク自身向き合い始めてる感じです。



【今日のリュカちゃん】
「ここがサラボナですか、どうやらここに坊ちゃまが立ち寄ってるらしいですね」
「そうみたいだねー、うふふー。女の子引っかけちゃうお兄ちゃんったらもー……あれ?もしかして?」
「困ったものですねぇ坊ちゃまも……どうされましたお嬢様!?」
「チロル、チロルだよね!?良かった、本当に元気だったんだ……」
フローラさんがリリアンと一緒に散歩してたチロルとシャドウにリュカちゃん遭遇。
なおこの時点でドレイクは、死の火山にて熱湯コマーシャルな勢いで溶岩をかき分けて突き進んでる模様。


次回、もしくは次々回。再会。

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