勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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リュカちゃんとのほのぼの、ほのぼの道中&ビアンカとの再会です。
なお、ダンカン夫妻は山奥の村でも元気に過ごしている模様。


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サラボナ→山奥の村 〇日

 

 

 リュカちゃんと再会し、全力でローキックを叩き込まれた俺は今。

 ルドマンさんが所有する船にて、水のリングを回収するために滝の洞窟へ向かうための、水門の鍵を回収しに向かっていた。

 

 あの、リュカちゃんや。さっきから左腕に引っ付いたままですが、そろそろ離れて……ああいや泣きそうな顔しないで、やっぱいいです。

 互いにベンチに隣り合わせで座っているのだが、リュカちゃんが無防備に体重を俺に預けた上に左腕に抱き着いて、時折マーキングするようにぐりぐりと体を擦り付けてきてます。

 正直、中々に大きくて柔らかいリュカちゃんの胸のスライムの感触が色々と危険なのだが、大事な妹分をそんな目で見てしまいそうな俺に自己嫌悪である。

 

 なお近くに船員の人の姿は見えない、どうやら気を利かせたらしいが微妙に有難くないな!

 

 ともあれ、今はその目をキラキラさせて、離れていた間の思い出話や友達になった魔物の話を矢継ぎ早に語り掛けてくれているリュカちゃんだが……。

 再会して俺を見上げた瞬間のあの目は、鏡を見る度に俺の目に燻るどす黒い何かが渦巻いていた。

 

 リュカちゃんが時折思い出話の中で寂しかった、心配だったと言葉にしている事から、どうやら俺はパパスさんとリュカちゃんの命こそ守れたが、心に大きな傷跡を残してしまったらしい。

 俺は一体何をやっていたのだと、思い上がりも甚だしかったと慙愧の念に絶えない有様だが、俺が湿気たツラをしていてはリュカちゃんに無用な心配をかけてしまうので不器用に笑い。

 

 

 リュカちゃんに一瞬で看破された。解せぬ。

 しかし、其の事について彼女は問い詰めてきたりはせず、今度は俺がリュカちゃん達と別れてからどんな道筋を歩いてきたかを、上目遣いで聞かれる。可愛い。

 

 話すべきかと一瞬考えるも、俺の左腕に抱き着いたまま見上げてくるリュカちゃんの視線に負け、聞いても楽しいもんじゃないと前置きした上で語る事にする。

 あの後、体に宿っていたクソ親父の力を発動して戦うも、結局どうしようもなくゲマ達に降り……その先でゲマに進化の秘法を体に埋め込まれ、人間と魔物と中間とも言える存在へされた事。

 そして、ゲマの命令に逆らえずサンタローズを滅ぼそうとするラインハットの軍隊を皆殺しにした事や、大神殿建設で出た奴隷の死体を使って脱出のための実験をした事などを語った。

 そこから脱出して、その後はラインハットで戦い、なんやかんやの末に今の有様さと苦笑いを浮かべていたら。

 

 リュカちゃんは、座ったまま背伸びをすると、俺の頭をその手で優しく撫でてくれた。

 お兄ちゃんは頑張ったんだよ、と。確かに酷い事をしたかもしれないけど、それでもお兄ちゃんにボクもお父さんも、色んな人が助けてもらえたんだよと。

 

 最近どうも、涙もろくなっていけない。咄嗟に顔を右手で覆って、リュカちゃんに涙を見せないようにするのが精いっぱいだった。

 情けない姿を晒す俺をリュカちゃんは笑うことなく、ただ優しく頭を撫で続けてくれた。

 

 

 

 

山奥の村 〇日

 

 

 みっともない姿を晒した翌日、リュカちゃんが引きつれている魔物達から、何故か仲間扱いされた。

 待て俺はリュカちゃんの配下になった新たな魔物じゃないと魔物達へ主張するも、魔物達の目は一様にえーほんとでござるかー。と言わんばかりの目をしてきた。解せぬ。

 その中で騎士然とした態度のスライムナイトが、リュカ様をお願いしますとスライムから下りて俺に膝をついて騎士の礼を取って来た。何故だろう外堀が急速に埋められてる気がする。

 

 そんなやり取りをしていたら、リュカちゃんは俺の左腕に嬉しそうに抱き着いてえへへーと微笑んできた。クソ可愛いな。

 だが何故だ船員の人、まるでコイツまた女引っかけてやがるって目をしているのは。違うぞこの子は妹同然の……痛い!脛を蹴らないでリュカちゃん!

 

 

 まぁ、何はともあれ目指すは山奥の村。船から下りて北上すればそれほど時間を要することなく到着である。

 ちなみに、チロルとシャドウはともかく、リュカちゃん配下の魔物達は外で待機らしい。一杯で押し寄せたら村の人も困るからねー、とはリュカちゃんの言葉である。

 

 村へ足を踏み入れる前から硫黄の匂いが漂ってきた様子から気になっていたが、どうやら湯治場所として結構な賑わいを見せているらしい。

 ……あれー?俺の中の頼りになるか怪しい知識だと、こんなに栄えてた記憶ないのだが。湯治客向けの露店やら商店がちらほら見える程度に繁盛してるぞ。

 

 お兄ちゃん、一緒に温泉入ろう!などとナチュラルに危険な発言をしてくるリュカちゃんに、そう言う事を嫁入り前の娘さんが言うんじゃありませんと返しつつ歩を進めていたら。

 もしかして、お兄さん?と聞き覚えのある声で呼び止められたので、左腕にリュカちゃんをへばりつけたまま振り向くと。

 

 

 そこには、鮮やかな金髪を三つ編みにした美しい女性が、買い物かごを手に下げて立っていた。

 人違いだといけないので、もしかしてビアンカちゃんかと問いかけてみれば、嬉しそうに目尻に輝かせた涙を指で拭いながら頷くビアンカちゃん。左腕の方からどす黒い気配を感じるが気のせいだ。

 ビアンカちゃんはそのまま俺達へ駆け寄り、リュカちゃんにも久しぶりと元気に声をかけ、どす黒い気配を霧散させたリュカちゃんも朗らかに返事を返し……。

 また勝手に走り出しそうになってたシャドウを口に咥えたままのチロルの前へしゃがみ込むと、嬉しそうにチロルの頭と背を撫で始め、シャドウはもしかして子供?とチロルへ問いかけている。

 

 満足いくまでチロルとシャドウを撫でまわしたビアンカちゃんは立ち上がると……。

 ここで立ち止まっていてもアレだし、家へ行きましょうと俺の右腕を自然な仕草でとると、ぐいぐいと歩き始めるビアンカちゃん。昔からの押しの強さは健在らしい。

 両手に花と言わんばかりに美少女を侍らせる形になった俺に、道行く男達の視線が突き刺さる。だが場と状況に流されるままになっている今の俺にはどうしようもないのであった。

 

 

 そして案内された先は、ログハウス風のお洒落なこじんまりとした宿屋であった。

 なんでも、隠居したダンカンさんと奥さんが、結局客商売を忘れられなくてアルカパの頃より規模を縮小しつつ、宿屋を始めたらしい。

 奥さんの体調はどうかと、ビアンカちゃんへ聞いてみると、一時期危ない時があったが今は元気にお父さんを尻に敷いてると、微笑みながら教えてくれた。

 パパスさんがダンカンさんへ、奥さんの体調をよく見ておくよう言い聞かせてくれたおかげらしい。

 

 俺がパパスさんに託した知識は、無駄じゃなかったんだな。

 少しだけ、心の奥が暖かくなったのを感じつつ、ビアンカちゃんに右腕を抱えられたまま宿へ入る形となり。

 カウンターに座っていたダンカンさんと奥さんが、俺とリュカちゃんの顔を見てびっくり仰天、元気だったかと嬉しそうに声をかけてくれた。

 

 

 どうやら今日はお客さんも来ずのんびりと過ごしていたらしく、店じまいだと嬉しそうにダンカンさんは笑うと、奥さんもまた腕によりを掛けないとねぇと豪快に笑ってくれた。

 泣きそうになるのを堪えられた自分を誉めてやりたい、どれだけしんどくてももう涙なんて出ないが、嬉しい時の涙を堪える事に慣れていないから。

 

 

 

 

 なお、不憫な事にチロルとシャドウは、奥さんの猫アレルギーの関係で宿には入れず、中庭でごちそうを食べる事になった。スマン。

 

 

 

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 もう結構夜も遅いのに、お父さんもお母さんもお兄さん相手にどんどんお酒勧めちゃって困っちゃうわ。

 だけど、お父さんもお母さんも……お兄さんもとっても嬉しそうで楽しそう。お兄さんもどこか無理をしてたような笑顔じゃない、不器用だけど心から嬉しそうな笑顔をしてるから。

 

 お兄さんがどれだけ辛くて苦しかったのか、リュカからある程度は教えてもらったんだけど、その壮絶さに一瞬気が遠くなったんだけど……。

 その中でもリュカが言葉を濁していた所もあったから、本当はもっとお兄さんは苦しかったはず。

 

 リュカはぽつりと、お兄さんをグランバニアへ連れていって、もう戦わなくてもよいようにしてあげたいと呟いた。

 だけど、それでお兄さんは幸せになれるのかと、私は思ってしまう。お兄さんは例え闘いから遠ざけられようと、お兄さんが大事だと思った人の為なら平気でその身を投げ出すところがあるから。

 

 お兄さんが今も、お酒を飲んでいる最中でも背中に担いだままの、ホークの魂が宿っているらしい剣へ自然と目がいってしまう。

 あの時、リュカと私とお兄さんとホークで、レヌール城のお化け退治に行った時を思い返しながら。

 今も脳裏へ簡単に思い出せる、お化けの親分を追い詰めた瞬間に私達を庇って暗い穴へ落ちていったお兄さんの姿と、今のお兄さんの姿を重ねる。

 

 身を伏せたまま、大きな骨にじゃれつきながら齧っているシャドウを愛しそうに見つめているチロルを撫でながら、お兄さんは今も無茶をしているの?と問えば。

 肯定するかのように、小さくチロルは鳴き声を上げ、当たってほしくなかったその返答に私の想いは沈む。

 

 あの時、グランバニアへ帰る前に立ち寄ったパパスさんがお父さんと話していた、お兄さんが魔物相手に一人残って行方不明になったと聞いた時を思い出す。

 私はその言葉を信じられなくて、お母さんへ抱き着いて、ただ泣き喚くしかなかった。だけど、今の私は……。

 

 私はただ、お兄さんの傍に居たい。

 そして、叶うならば……お兄さんが、日常の幸せを噛み締められるようにしたい。と呟くと、チロルが身を起こし私の頬を舐めてくれた。

 その目には、貴方なら出来るという意思の光が宿っていて、その光に勇気づけられた私はチロルの首に抱き着く。

 

 

 

 ごめんねリュカ、本当は貴方がお兄さんが好きなのは知っていたし、幸せそうに寄り添っていた貴方を見て最初は身を引こうと思っていた。

 だけど、私も諦めたくないから、だから、ごめんね。

 

 

 

 




ビアンカちゃんは病まず、しかし大事に持っていた初恋を成就するために動き始めるのだ。
スタンスとポジションとしては、当たり前の日常の象徴です。ビアンカちゃんは。

一方リュカちゃんは、実績と名声あるからグランバニアへ一緒に帰り、引き籠ってでもドレイクがこれ以上傷付かないようにしたいと思ってました。


【その頃のサンチョさん】
町を往く人々、そして商人や傭兵らが吹聴するドレイクへの根も葉もない悪評。
それらをサンチョは、不快に思うと共に一人ではソレを払拭できない己に忸怩たる思いを抱いていた。
故にサンチョは、ドレイクを気に入っているルドマンと話し合いをした上で、一つの決意をする。
「旦那様……いえ、パパス様からお預かりしたキメラの翼。ここで使うべきでしょうね」
ドレイクを見つけたら、グランバニアへ飛ぶために託されたキメラの翼。
ソレを手に取って空へ向かって放り投げ、向かうはラインハット王国。

だが人の良い彼はこの時気付いていなかった。
己の選択が、ある意味ドレイクを幸福な地獄へ叩き込む為のダメ押しとなる事に。



そんなわけで22話でした。
リュカちゃんは、お兄ちゃんはボクの!とオーラを滲ませつつも、一緒に冒険をしたビアンカには警戒が弱めでしたという。
なお、そのビアンカは一人決意を固めた模様。本当に酷いヤツだなドレイクってヤツは。

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