勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある? 作:社畜のきなこ餅
そして。
修羅場「来ちゃった♪」
滝の洞窟 〇日
えー、現在我々水のリング回収部隊は滝の洞窟の入口に立っております。
メンバーは、俺ことドレイクにリュカちゃんに彼女の配下である精鋭モンスター達、そしてチロルとシャドウ。
そこに、久しぶりの冒険ねとウキウキ笑顔で背嚢を背負ってついてきたビアンカちゃんでお送り致します。
危ないから待っててって言ったけど、ビアンカちゃんはお兄さんをほったらかしにする方が危ないと笑顔で返答してきたのであった。解せぬ。
昨日は黒いオーラを滲ませてたリュカちゃんも、笑顔でよろしくね!って言ってるからまぁ問題ないのだろう、多分。
そんなわけで進もうとしたところ、リュカちゃんとビアンカちゃんから、半竜形態を見せてほしいと頼まれる。
あんまり見て楽しいモノじゃないと断ろうとするも、二人の真剣な顔に俺は断れず変化の杖の効果を解除し。二人に角と翼、そして尻尾が生えた俺の姿を晒す。
驚きに固まる二人、まぁそりゃそうだよなと思っていたら、リュカちゃんが目を輝かせてカッコイイ!と叫びながら抱き着いてきた、お兄さんリュカちゃんの美的センスが少々わからない。
ビアンカちゃんの方を見てみたら、にこりと微笑まれお兄さんは化け物でも魔物でもないわ、と心が温かくなる言葉。二人に嫌われなくてホッとしている自分に気付くも、顔に出さないよう堪える。
ところでリュカちゃん配下のモンスター達や、やっぱり同類じゃないかと目で語るのはやめたまえ。
まぁ、一度半竜形態になった以上戻る必要も薄いので、このまま進む事にする。
リュカちゃん配下のモンスター達は特に指示を出す必要もなさそうなので、俺とチロルが前衛。シャドウを遊撃要員として配置したのだが……。
襲い掛かってくる大半の魔物が、リュカちゃん配下の精鋭達に蹴散らされていった事で、あまりやる事がない状況であった。
更に、ぶちのめされた魔物達の中に時折起き上がり、リュカちゃんとの同行を望むモンスターまで出てくるのだから驚きだ。
リュカちゃんに聞いてみれば、何となくだけど仲良くなれそうな魔物相手には手加減をするよう、彼女の配下たちへ合図で伝達してるらしい。
ヤダこの子ほんわかしてるけど、大人数指揮運用のプロフェッショナルになってるのだわ。
ビアンカちゃんの方を見てみれば、自分から同行を申し出るだけあってただ守られてるばかりではない、魔物の動きや嫌がる呪文を冷静に判断してムチによる一撃と呪文による攻撃で、確実に対処している。
あの頃の、レヌール城の時みたいにおっかなびっくり俺の後ろをついてきた頃とは、違うんだなぁと思わず呟く俺。
そんな俺へ、リュカちゃんとビアンカちゃんは顔を見合わせて嬉しそうに微笑むと、異口同音に勿論!と返してくる。可愛い。
二人があの頃みたいに仲良くしているのを見てほっこりしつつ、洞窟の中へ視線を巡らせる。
アレから結構行程は進んでおり、今は大きな吹き抜けになっていて幾つもの滝が眼下の湖へ落ちているフロアに出たのだが……。
天井部分に空いた穴から何本も洞窟内へ差し込んでいる光の筋が、滝や湖へ反射し煌めく事で幻想的な風景を醸し出している。
隙ありとばかりに飛びかかって来たオクトリーチを裏拳一発で爆裂四散させつつ、好戦的な魔物がいなければちょっとしたデートスポットになりそうだなと思っていたら。
拳を布で拭っていた俺の左腕をリュカちゃんが抱え、そのまま俺に抱き着いてきた。
突然のリュカちゃんの行動に、ビアンカちゃんは声を上げて自分もとばかりに右腕に抱き着いてきた。どうしてこうなった。
結局、リュカちゃん配下のモンスター達とチロル・シャドウの親子コンビに周辺警戒を頼んで、少しだけ衣服が濡れないところで休憩する事となるのであった。
どうやらビアンカちゃんは結構な量のお弁当を拵えてきたらしい、背負っていた背嚢の中身の大半はコレか。
モンスター達の分もあるらしく、ワイワイガヤガヤと少しばかりの時間であるが休息を取り、小休止を終えて立ち上がるとビアンカちゃんが俺の袖を掴んできた。
何かあるのかなと振り向いてみれば、何か決意をした顔で俺の旅路についていきたいと、真正面から俺の目を見て告げてきた。
固まる時間、場に響くのは滝の音と満腹になって眠たくなったシャドウの欠伸の声ぐらい。
俺は、少し考えさせてほしいと告げる事しか出来なかった。
その後、気まずい空気のまま水のリングを回収し、来た道を戻って船へと戻って。
リュカちゃんに頼み、少しだけ一人にしてほしいと船の中の部屋に籠った。
何もかも中途半端で、返答すら中途半端にしてきた自分という存在にほとほと嫌気を感じつつ、ベッドに身を預けて天井を見上げながら考える。
俺が結婚する権利があるのかどうとか、その手の事は一旦横に置く。考えだしたらキリがないしそこで思考が止まる。
じゃあ、俺はリュカちゃんにビアンカちゃん、ヘンリエッタにマリアちゃん、そしてデボラにフローラの6人をどう思っているのか自問自答して。
6人ともが、大事で守りたい存在であるとハッキリと言える事を自覚し、添い遂げたいかどうかまで考える、答えは是だ。
じゃあ誰を選ぶというところで、俺は自分のどうしようもない優柔不断さと醜悪さを自覚した。
これじゃあ、母さんを孕ませて行方を晦ませたクソ親父をどうこう言う資格なんてねぇな。
サラボナ ♪日
結局船に乗っている間、考えに考えて碌に眠る事すらできなかった。幸い頑丈な体になっている今多少の寝不足は影響こそないものの、リュカちゃんとビアンカちゃんに心配される大失態である。
なお、誰と添い遂げたいかという問題には結局結論は出ておらず、まぁ6人の中から誰を選ぶかなんていう男に対して都合がよすぎる展開なんてあるわけがないと、問題を棚上げした。
そんなわけで、サラボナの町へ戻って来たわけだが少々様子がおかしい。
水のリング回収の為にサラボナを出た時は、敵意と恐怖の視線が町の人から絶え間なく降り注いでいたものだが、今ではその視線を送っている人間が少なかったのだ。
一体何があったのやら、と首を傾げつつ。リュカちゃんと……ビアンカちゃんを連れてルドマンさんの屋敷へ向かったところ。
ヘンリエッタとマリアちゃんが俺へ駆け寄り、抱き着いてきた。何故ここにいるのでしょうか。
え?サンチョさんから教えてもらって、大急ぎで駆け付けた?ドレイクの活躍と功績はきちんと説明済み? お、おう。
改めて視線を周囲へ向けてみれば、ラインハットの城下町やポートセルミの酒場で受けていた視線に近いモノを町の人達から感じる。
救国の竜騎士の詩は、サラボナの人にも大好評でしたよとにっこり笑顔のマリアちゃん。君の無邪気な善意が心に痛い。
そうしていると、ビアンカちゃんが二人は誰かと聞いてきたので、往来のど真ん中にてヘンリエッタとマリアちゃんについて軽く紹介したところ。
ニコニコ笑顔で、しかし気のせいか視線で火花を散らせながらビアンカちゃんはヘンリエッタとマリアちゃんへ握手をする。負けないからね、というのは一体どのことに対してでしょうか?
後リュカちゃん、ニコニコ笑顔で黒いオーラを滲ませてるように見えるのは俺の気のせい?
更に言えば、ヘンリエッタとマリアちゃんもまた、ニコニコ笑顔だけど妙に怖い。あれれー、おかしいなー。
思わずたじろぐ俺に、しゃっきりしろと言わんばかりの意思がホークの剣から俺へ発せられ、チロルが先へ急ぐことを提案するかのようにぶにゃーと鳴いてくれた。
とりあえず一旦休戦だよー、とリュカちゃんが笑顔のまま言葉を発し、ヘンリエッタとマリアちゃんにビアンカちゃんがこくりと頷いて、緊張した空気は一旦霧散した。良かった良かった。
気のせいか問題を先送りにした気もするが、気のせいだ。きっと気のせいだ、そうに違いない。
俺なんぞを取り合っても、何も良い事などないのだから。
何故か、そそくさと道を空けてくれた町の人達のおかげでルドマンさんの屋敷へ、道を阻まれることなく到着した俺達一行。
水のリングの回収に成功したことをメイドさんへ伝えれば、ルドマンさんが広間でお待ちです。と案内してくれる。
あの、ヘンリエッタさんや。メイドさんの衣装を見て、またメイド服を着て俺の世話をしたいとか呟かないで下さい。色んな意味で緊張が走る空気が辛いです。
そうこうしてる間に広間へ案内され、俺達の姿を見たルドマンさんと隣に座ってたサンチョさんは何かを察した顔をしつつも、水のリングを回収してきた俺達を労ってくれた。
そして、二つの指輪を獲得してきた俺ならば、娘を託せるとにこやかな笑顔でハッキリと告げてきた。隣にいるサンチョさんが無言のまま状況の推移を見守っているのが、怖い。
ルドマンさんの言葉に、広間の空気は重く……重く沈み。
その中でリュカちゃんが、先手を切るかのように口を開いた。
今回の催しは、お兄ちゃんは明確に花嫁を娶りたいって言ってたんじゃないよね?と念押しした上で、ソレとコレとは話が別と宣言。
だからお兄ちゃんはボクがグランバニアへ連れ帰って、もう戦わなくても良いように穏やかに一緒に暮らすねと大きなお胸を揺らしつつ胸を張って宣言。
そこへ物言いをつけたのはヘンリエッタとマリアちゃんである。
俺はラインハット救国の英雄であり、自分達にとっても支えであり救いだった愛しい人だと前置きし。
リュカちゃんらへ視線を向けつつ、貴方達にとってドレイクが大事なのは重々承知しているが、ドレイクの苦しみを間近で見てきたからこそ私達はドレイクを支えたいとハッキリ言葉にする。
リュカちゃんとヘンリエッタ達の間に、視線によって激しい火花が散らされているのが見えたのは気のせいじゃないよな、コレ。
俺の気のせいか……リュカちゃんの背後に、両手を広げてフシャーと鳴きながら後ろ脚で立ち上がるベビーパンサーが見え、ヘンリエッタ達の背後にはブニャーと鳴いて両手を広げて威嚇するプリズニャン達が見えた気がする。
膠着する空気、底を知らないかのように重くなっていく空気。
そこで、バァン!と勢いよく扉を開けて入って来たのは、憤怒の炎を目に宿したデボラだった。お前もしかして隣の部屋で出待ち……あ、いえなんでもないです。
そして開幕一言、デボラがバッカじゃないのアンタら!?と憚ることなく罵声を吐き出した。
思わずたじろぐリュカちゃんにヘンリエッタとマリアちゃん、そんな3人を見た上でデボラは腕を組んで不機嫌そうに言い放つ。
揃いも揃ってアンタら何言ってんのよ、この死んだ小魚のような目をした男をアンタらが御しきれるワケないでしょ!とのお言葉である、死んだ小魚の目ってそれもうダメなヤツじゃないだろうか。
コイツはね、闘いから離れられないし英雄なんて柄じゃないのよと。こんなのの面倒を見れるのは私くらいよ、と鼻息荒く宣言するデボラである。
そんなデボラの言葉に、物理的な熱量を持っているんじゃなかろうかと錯覚するほどに視線で火花を散らす4人。
あ、デボラの背後に臨戦態勢のダークマンモスが見える、強そうだなぁ。
重く沈んだ空気から一転、戦場かと錯覚するほどに緊迫した空気に包まれる広間、思わずルドマンさん達へ視線で助けを求めたら目を背けられた。解せぬ。
そうしていると、デボラが出待ちしていたっぽい部屋から、しずしずと言った様子でフローラが広間へ入って来た。
俯いていたフローラは小さく息を吸うと顔を上げ、キリッとした目付きで彼女の姉を含めた4人を見据えると。
苦しんできたドレイクさんを見てきたのは私も一緒です、と静かに宣言した上で。無理をし続けてきたドレイクさんと共に歩んで、少しでも癒してあげたいとフローラは強い意志をその優し気な風貌に込めて宣言。
デボラはそんな妹の様子に、へぇ、と愉快そうに目を細めて好戦的な笑みを浮かべ、宣言したフローラを見詰める。
何故だろう俺は疲れているのだろうか、フローラの背後に不退転の決意をしているかのようなベホマスライムが見えた。
何故彼女達は、こんな俺を取り合うかのような宣言をしているのだろう、と現実逃避気味に俺が考える中。
今まで沈黙を保っていたビアンカちゃんが口を開いた。
私はお兄さんがどんな道筋を辿って来たのか、どんな苦しみを背負ってきたのか全部理解できるなんて言えないと。
だけれども、だからこそ、お兄さんが幸せに日々を過ごして帰ってくる場所になりたいと、決意を込めた言葉を放つ。
優し気な口調ながらも、決して引かないという強い意志を感じるビアンカちゃんの背後に、悠然と佇むキラーパンサーが見えた気がした。
そして、言葉少なく強い意志を込めた視線をぶつけ合う6人の視線が、俺へ向かおうとした瞬間。
ルドマンさんは、6人ともドレイク殿を深く愛しているようだが、ここでドレイク殿へ詰め寄っては彼もすぐには結論を出せまいと助け船を出してくれた。
しかしルドマンさんや、気のせいかもしれないがタイミング見計らってたように見えたの、俺の気のせいじゃないよね?
サラボナ ×日
あの後は、旅の疲れもあるだろうと言う事で解散となり、町の中が俺と6人の美女美少女達との結婚の話題が持ち切りになっている中。
ルドマンさんに俺は、二つ頼みごとをされる。
一つは山奥の村、ダンカンさん夫妻が宿を営んでいるあの村の職人へ、花嫁のブーケを頼みに行ってもらいたいというものと。
もう一つは、サラボナ北の祠にある壺の色を見てもらいたいというものだった。
花嫁候補が6人もいるのだから、君にも考える時間が必要だろうというルドマンさんの言葉が非常に有難かった、しかし。
俺がこのまま、雲隠れするとは思わないのだろうかと思わず聞いてみたら、朗らかに笑いながら言われた。
この局面で逃げを打てる男なら、こうなる前にもっと要領良くやっているだろう。と。
畜生、強気で否定できねぇ。
山奥の村 ♪日
ぼんやりと考え、海風に吹かれたりしつつ山奥の村へ到着。
ルーラを使うべきだったかもしれないが、少しでも考える時間を稼ぎたかった俺のみみっちい考えである。
職人のおっさん、気のせいかサンタローズの万事屋の親方に似た雰囲気を持つおっさんへブーケを頼みつつ。
なんか辛気臭い顔してるが、お前さんの思うように選べばいいさと。腰をポンポンと叩いて慰めてくれた、人の情けが身に染みる。
サラボナ北の祠 〇日
ルドマンさんの話では、施錠されている筈の祠の扉が開いたままになっていた。
嫌な予感を感じ、ホークの剣を抜いて階段を駆け下り、壺が収められている部屋へ飛び込んだところ。
そこには、二度と会いたくないと思っていた、ゲマが立っていた。
ゲマは、俺の姿に気付くと癇に障るあの嘲笑を上げ、思ったよりも堕ちてないようで残念だと肩を竦めた上で。
久しぶりに俺の様子を探ってみたら、とても楽しい事になっていたので、私からのサプライズプレゼントですよ、と壺を指差す。
指差した先にある……まだこの時期は青い筈のツボが、真っ赤に光り脈動していた。
ゲマの名を叫びながら、半竜形態となり斬りかかろうとするも、まるで煙を斬ったかのように回避され……ゲマはそのままふわりと浮き上がると。
人間への憎悪が花開かなかったのが聊か残念でしたが、面白い出し物を見せてくれたお礼をしましょうとほざいた上に。
逃げても構いませんよ、貴方の大事な人達がどうなっても良いなら。と言い残してその姿を消した。
ゲマさん、最近まではドレイクの動向を追っていませんでしたが、久しぶりに見てみたら大いに期待外れの状態となってました。
なので、ドレイクの近くで見つけた……昔世界を荒らしまわっていた魔物の封印に細工をし、いじめて遊ぶ方向へシフトしました。
ドレイクが逃げて折れたら、勇者の名誉を極限まで下げる噂を吹聴して光の教団勢力拡大が可能だし、仮に戦うことを選んでもドレイクではほぼ確実に死ぬ。
そして……進化の秘法の力を限界まで引き出す事を選んだら、ドレイクの魔物堕ちが進むと。どこに転んでもゲマさんの趣味と実益が満たされる状態です。
次回から、サラボナ決戦を上中下の三部構成でお送りいたします。