勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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サラボナ決戦の上、お送りいたします。
少し短いかもですが、キリの良いところで次回へ引かせて頂きました。


24・上

 かつて世界を荒らしまわった、山にも匹敵する巨体を持つブオーンという名の魔物が居た。

 ブオーンは戯れに町や国を襲い、幾人もの人間を飲み込んでは残された人々の怨嗟の声と涙で心を潤し、退屈をしては同じことを繰り返したそうだ。

 何人もの勇者や戦士がブオーンを止めようと決死の覚悟で挑んでは、無為にその命を散らしていく中。

 ある日、一人の男……名をルドルフという男が一瞬のスキを突いたことで、暴虐の限りを尽くしていたブオーンを封印の壺へ封じ込める事に成功した。

 

 しかし、封印の壺の効力は永遠に続くモノではなく、不幸にもルドルフの子孫であるルドマンが健在の頃にその封印の効力が尽きる事が、家に代々伝わる書物へ記されていた。

 故にこそ彼は、財を蓄えてブオーンへ対抗する為の兵を、迎え撃つために塔や街への防備を、万が一に備えて娘達を逃がす為の嫁ぎ先まで必死に揃えようと足掻いた、しかし。

 予定に比べ、余りにも早いその復活はルドマンの予定を大幅に狂わせてしまう。

 

 優秀な兵を満足に揃える事も出来ておらず、塔こそあるものの塔へ設置するための魔物を迎撃するための防備は整っておらず。

 まさに娘を送り出す為の催しをしてる中の、この運命の仕打ちにルドマンはただ膝をつき地面に両手を付く事しか出来なかった。

 

 

 もう終わりだと、サラボナは滅ぶと打ちひしがれた声で呟くルドマン。

 いつも自信満々だった父親の初めて見る姿にデボラとフローラは目を見開き、ブオーンの伝承を知っているルドマンの妻は沈痛そうに顔を俯かせる。

 

 ルドマンの屋敷へ逗留する形となっていた、リュカやヘンリエッタは立ち向かえば良いとルドマンを励ますも、ルドマンは立ち上がれず。

 マリアとビアンカはと言えば、ルドマンの妻へ少しでも闘い勝利しうる可能性を高める為に情報を求めるが、与えられた情報に一様に暗い顔を浮かべる。

 ドレイクを取り合い、牽制し合っていた時とは違う種類の重苦しい空気が、広間を包む中。

 

 何かを考え込み、腕を組んで瞑目していたドレイクが目を開いてルドマンの傍で膝立ちになり問いかける。

 

 

「ルドマンさん、ブオーンを相手にする為の塔の構造は頑丈か?」

 

「……ああ、しかし。山のような魔物相手には、剣も呪文もまともに通じはしないだろう。何人もの勇者が昔挑んでは悉く返り討ちにあったそうだ」

 

「やりようはあるし、分の悪い賭けだが勝算はあるつもりだ」

 

 

 ドレイクが決意を固めた表情でルドマンへ語り掛け、藁にもすがりたいルドマンはドレイクの手を取ると縋りつくように頼む、頼むと言葉を繰り返す。

 しかし、リュカはドレイクの言葉に言いようのない不安を感じていた。

 まるで、自分と父を逃がす為に一人残った時のような顔を、大好きな兄が浮かべていたのだから。

 

 

「っ!お兄ちゃん、ダメ!」

 

「安心しろリュカ、お兄ちゃんは強いんだぞ? そんな魔物なんか簡単に蹴散らしてやるさ」

 

 

 ルドマンと共に立ち上がり、見晴らしの塔へ向かおうとするドレイクの腕を掴み、必死に止めるリュカ。

 妹分の行動にドレイクは困ったように笑うと、リュカの頭を優しく撫でて。

 

 チロルとシャドウを頼む、と告げると広間から出ていってしまう。

 また、自分の腕から兄がすり抜けていったような感覚にリュカは茫然と膝から崩れ落ち、慌てて駆け寄ってきたサンチョにその体を支えられ。

 なんで、どうして、と呟いてポロポロと涙を流す。

 

 沈痛な空気が広間を支配する中、先ほどから不機嫌な様子を隠そうとしていなかったデボラはツカツカとリュカへ歩み寄り、その胸倉を掴む。

 

 

「アンタ、このままアイツ行かせて。一人めそめそと泣いてるだけなわけ?」

 

「だって、お兄ちゃんは決めちゃったら、意地でも変えないから……」

 

「だったら無理やりでも変えさせてやればいいでしょ!?」

 

 

 幼いころのトラウマが蘇り、兄がまたどこかへ行ってしまう恐怖と喪失感に包まれていた少女を、デボラは厳しい声音で一喝。

 リュカの胸倉から手を離し腕を組むと、広間に集まっているライバル達を睥睨して宣言する。

 

 

「私は私が出来る事探して、意地でもアイツを引っ捕まえるつもりだけど。アンタらはどーすんの?」

 

 

 不敵に笑い、宣言する戦乙女じみた様子のデボラの言葉に。

 無力感に包まれていた乙女達の瞳に今、炎が灯った。

 

 

 

 

 

 

 一方、暗がりが広がる空の真下、篝火が幾つも焚かれた見晴らしの塔の頂上に、ドレイクは一人立っていた。

 その姿は、すでに半竜半人と言える姿へ変貌しており、両手をホークの剣の柄へ当てて地面へ突き立て、瞑目したまま来るべき時を待つ。

 

 異形と化した青年の脳裏に映るのは、長い年月の果てに再会した少女達や、新たに出会った女性達。

 父と慕っている義父に、こんな自分の世話を焼いてくれた人達や、無事だったことを祝ってくれた人達。

 彼女達、彼らの事を思い出している間は青年の心は、まるで凪いだ海面のように静かで穏やかであった。

 

 次に思い浮かべるのは、旅路の中で出会った、世間一般的価値観で悪党と呼ばれる人間達。

 どれもこれもがロクデナシで、今も生きる価値はないと思える連中であったが、罪の大小問わず彼らを根絶すべきと考えている自分の思考を青年は静かに思い。

 

 

「おかしいとは思っていたんだ、小悪党程度にまであそこまで殺意を抱いてしまうなんざな」

 

 

 遥か彼方から聞こえてきた地響きと共に目を開き、日が傾き地平線の果てに消えていく空の中。

 遠目にもその姿がくっきりと見える魔物、ブオーンを見据えつつ呟く。

 

 ドレイクは、今もサラボナを害そうと近付いてくるブオーンへの憎悪と殺意を心で燃やし、自らの翼へ視線を向けてみれば。

 自らの憎悪や殺意に呼応するかのように、漆黒の翼に赤く輝く脈動が走る事を目撃し、己の体にゲマが施した進化の秘法について凡その当たりをつけ。

 あの性悪の事だから、俺の心にも何かしらの偏向をかけているんだろうな、とどこか他人事の様に考え一歩ごとにその姿を近づけてくるブオーンを見詰める。

 

 

 青年は自問する、己は英雄であるか? と。 答えは否である。

 重ねて自問する、己は顔も名前も知らない誰かの為に命を捨てられるか? と。 答えは否である。

 

 最後に自問する、己は大事な人達が踏み躙られてしまうのも見過ごせるか? と。 答えは、否である。

 

 

 故に、青年……ドレイクは視線に決意を込め、見晴らしの塔まで辿り着いた魔物、ブオーンを正面から見上げてホークの剣を右手に構え……左手の赤黒い雷光を纏わせ始める。

 

 

「ブゥゥーーイ! 全く、良く寝たわい。さて……ルドルフはどこだ?隠すと為にならんぞ」

 

 

 剣を突きつけられているのに、意に介することなく小さき者でしかないドレイクへ問いかけるブオーン。

 ドレイクの返答は、ただ一つ。 ブオーンの瞳めがけて、左腕に纏わせていた赤黒い雷光を解き放つ事だった。

 

 小さき者の思わぬ不意打ちに片目を雷光に焼かれ、地響きを立てながら後ずさるブオーン。

 潰される事こそなかったが、今も雷光でまともに見えない片目と焼け付く痛みに、己が何をされたかブオーンは理解し、激怒の咆哮と共に巨大な蹄が付いた腕を塔の最上階へ叩きつける。

 圧倒的質量と、それが齎す暴力的な速度はまともな腕自慢ならば、成す術もなく圧し潰されるほどの暴力であった。

 

 しかし、雷光を放った瞬間には既に踏み込んでいたドレイクはブオーンの腕を、一度空へ飛んでかわし。すかさず腕の上に着地。

 そのまま、ピオリムを使用して全速力でブオーンの腕を伝い、急所である魔物の頸部を狙うべく走り始める。

 

 

「ちょこ、ざいなぁぁぁぁ!!」

 

 

 だが、ブオーンは鬱陶しいとばかりにドレイクが走る腕を横薙ぎに振るい、その上を走るドレイクを払い落とすと。

 翼をはためかせて体勢を立て直そうとするドレイクを焼き殺すべく、その巨大な口から鋼鉄すらも一瞬で飴細工が如く溶かすほどに激しい炎を吐きかける。

 

 

「が、ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 だが、ドレイクもまたただ焼き殺されるのを待つのではなく、その口から凍りつくブレスを吐き出し、ほんの僅かであるが激しい炎を相殺すると。

 未だまともに小回りを利かせる事に慣れていない翼を大きく羽ばたかせて空へ退避し、空に浮かぶドレイクを追撃しようと吐いたままの激しい炎で、ドレイクを追いかけるブオーンの顔面へ左腕を伸ばして狙いを定める。

 

 

「くたばり、やがれぇぇぇぇ!!」

 

 

 ドレイクの怒りと殺意の叫びと共に、彼の左腕に赤黒い雷光が迸り。まるで光線のようにブオーンの顔面目掛けて伸びると、轟音と共に炸裂する。

 

 現状はドレイクに目立った損傷はなく、一方のブオーンはドレイクの放つ呪文によってダメージが蓄積し始めていた、しかし。

 その巨体から繰り出される一撃が、一度でもドレイクへ入れば、強化されているとはいえ人間サイズでしかないドレイクにとっては、すべてが致命傷なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 半竜半人形態と化したドレイクと、巨大すぎる魔物のブオーンが激闘を続ける中。

 サラボナの街はパニック一歩手前になりながらも、それでも一定の秩序を保った状態で避難活動を続けていた。

 

 デボラの号令で、ルドマンの商会の人間が動く事で町民の避難への理解を求め、立場柄民を率いる事になれたヘンリエッタが声を張り上げて町民らを避難させていく。

 そして、聖女の肩書を持つマリアと修道院で修業を積んできたフローラが、避難の際に負傷した人々を癒し、声をかけて勇気づけて回り……。

 

 リュカとビアンカは、今も闘いを続けているドレイクを悪しざまに罵り、人々を扇動しようとする人物らをマリアから託されたラーの鏡で照らし出し。

 魔物の正体を現したその人物らを遊撃隊として駆逐する事で、混乱の発生を避ける事に従事していた。

 

 

「アイツ、魔物だったんだ……」

 

「俺、アイツにそそのかされて今も戦ってる竜の剣士を魔物扱いしちまってたよ……」

 

 

 正体を現した末に、リュカ達に殲滅された魔物を見て茫然とする男達にビアンカは嘆息し、リュカは溜息を吐いて走り出し。

 今も商会の人間へ矢継ぎ早に指示を飛ばしているデボラへ、ドレイクを助けに行きたいと懇願する。

 

 リュカの言葉に、忙しいのにバカ言ってんじゃないわよ。とデボラは一蹴するかのように一瞥することなく言い放ち。

 大体落ち着いてきたし、後はアンタの望むようにやりなさい。私もすぐに追いかけるから、とリュカの顔を見る事なく告げるとそのまま次の指示へ移っていく。

 

 解りやすいのか解りにくいのかよくわからないライバルの言葉に、リュカは一瞬あっけにとられると、笑みを浮かべながら強く頷き。

 町人の避難を助けているモンスター達の中でも、特に頼りになる精鋭の魔物を指笛で呼び寄せつつ駆け出そうとしたリュカの目の前で。

 

 

 

 

 一瞬のスキを突かれたドレイクが、ブオーンが降り下ろした腕を叩きつけられ。まるで流星のようにサラボナの街へ叩きつけられた。

 




ゲーム的に言うと、現時点でドレイクはレベル35~40。
一方ヒロインズは18~22と言った感じです。
守る余裕がない故に、ドレイクは一人で戦うことを選び。ヒロイン達は一旦は自分達が出来る事を、と動きました。
しかし、やっぱり我慢できないと駆け付けようとした矢先に、ドレイクの危機と言った感じです。


さり気なくサクラを忍ばせて、ドレイクが大事にしてる人達を人間に襲わせようとしてたゲマさんでしたが、先手を打たれて策は不発した模様。

やられてばかりでは、ないのだ。

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