勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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少しだけ冒頭に、ジャミる(意味浅)的シーンありますが、取り返しのつかないところはないのでご安心下さい。
しかし書いてて筆がノった結果、誰だお前状態にゴンズとジャミとラマダがなった。不思議だ。


29・中

 

 

 グランバニアの城内に、黒竜の咆哮が轟き一つの異形の影が城を飛び出した頃。

 我が子を庇って気絶し、攫われたグランバニアの王女リュカは今、不快な感触に抱き留められたまま運ばれていた。

 運ぶ男は醜く太っており、魔物と化した影響か飛び出た腹や醜く膨らんだ皮膚が破けており、中からは不快な悪臭を放つガスが漏れ出ていて、ソレは男がリュカの体を抱き抱えてその体をまさぐりながら歩く刺激で一際強く周囲の空気を穢す。

 男はかつて、グランバニアで大臣を務める父の一人息子として、栄達を謳歌していた。

 王であるパパスが攫われた妻を救うべく城を飛び出し、王の席にとりあえず就かされた気弱なパパスの弟……オジロンに代わり、国の細かな所を差配し国を切り盛りしている大臣の息子と言う身分は、一人の男を歪めるには十分な毒薬だったのだ。

 

 男は自らが望むモノは、何でもその手中に収める事が出来た、一度は手に入れようとしたオジロンの娘ドリスこそ手に入れる事は叶わなかったが、それでも大体の欲望は満たす事が出来た。

 無理矢理に事に及んでも、父の権力を振りかざせば誰もが異論を引っ込め、男子に恵まれず彼を嫡子にせざるを得なかった彼の父は、いずれは貴族として相応しい意識を持ってくれることを願い、歪んだ息子を放置するのみで。

 本来の歴史に於いては、矯正は不可能と判断した彼の父の手で毒殺され、その歪な欲望に終止符を打たれた筈の男であったが……彼の運命はパパスが娘を伴ってグランバニアへ帰還したことで大きく変わる。

 

 

 優柔不断なオジロンに代わり、王位に戻ったパパスが厳しく悪徳を取り締まる姿を見て、男は自らの悪行を隠蔽する事を覚えたのだ。

 そして男は欲望のまま、自らの自尊心の赴くまま、可憐で美しいリュカを手に収めんと動き、尽くが失敗した挙句彼女の逆鱗に触れて無様な姿を晒す事となる。

 男は激怒した、何故自分の手に収まらないのだと。

 鬱屈と溜まり続ける悪意、そこに忍び寄る悪魔の囁きが、男の運命を決定づけたのだ。

 

 男は機会を待ち続け、目障りな勇者を名乗る男の子供らへの殺意を押し隠し続けた。男の父が、とうとう息子は改心してくれたと錯覚する程に。

 そして、男は最悪のタイミングで悪意を勇者の子供へぶつけて殺そうとしたタイミングで、リュカが我が子を庇おうと身を挺して男の攻撃で気絶する。

 男は一瞬焦るも、すぐに歓喜した。ここでこの女を自分のモノにしてしまえば、あの目障りな勇者はきっと苦しむだろうと。

 歪んだ悪意に火をつけた男は、立ちはだかろうとした実の父だった男へ躊躇う事無く力を振るうと、男へ力を授けた魔物から受け取った道具ですぐにグランバニアを脱出してデモンズタワーへ飛び、今に至るのだ。

 

 

 高い塔を登る途中で、男の腕の中のリュカは意識を取り戻し、状況に気付いて逃れようともがくが男はリュカの頬を張っておとなしくするよう脅す。

 慌てなくても、すぐに可愛がってやるとその顔を醜悪に歪めて嗤いながら、子を産んでなお美しい体を持つリュカの豊満な乳房へその手を沈め、苦しむリュカの姿に股をいきりたたせたところで、男とリュカはようやくデモンズタワー最上階へと到達する。

 デモンズタワーの最上階に立っていたのは、3匹の魔物であった。

 

 僧正が着るようなローブに身を包んだ、一つ目の魔物、ラマダ。

 紫色の鬣を生やし、白い毛皮を内側からはち切れんばかりの筋肉で隆起させた馬の魔物、ジャミ。

 そして、全身に甲冑を着込み巨大な蛮剣と盾を携えた魔物、ゴンズ。

 

 男は、3匹の魔物にリュカを浚ってきた事を高らかに、誇るように告げると戦利品としてリュカをもらい受ける事を宣言する。

 歪な自尊心を、体ごと肥大化させた男は気づかない。目の前の3匹の魔物が、塵芥を見るかのような目で己を見ている事に。

 だが、男は気付くことなく己の功績を誇示し続けた末に、これからはお前達と同じ魔物の幹部だと叫んだ所で。

 

 

 ゴンズが無造作に投げ放った蛮剣が、男が抱き抱えたままのリュカを掠る事なく魔物と化した男の体に突き刺さった。

 突然の激痛に絶叫を上げる男、しかしゴンズとジャミは男の叫びを煩わしそうに見たまま大股に近づき、床へ落とされたリュカをジャミが拾い。

 ゴンズは痛みで転げ回ろうにも、突き刺さった蛮剣の重量でもがく事すら叶わない男の体を無造作に踏み潰す。

 

 

「てめぇが喋る度に臭くてかなわねぇんだよ、豚は豚らしくとっとと死ねや」

 

「は、はなじが、はなじがちがう……」

 

「知るか、ゴミくずめ」

 

 

 ゴンズは男の体に突き刺さったままの愛剣を引っこ抜き、血塗れのまま這いつくばって逃げようとする男の前で蛮剣を振り上げる。

 男は必死に懇願する、助けてほしいと。大臣の父に頼めばゴールドなら幾らでも出るからと。

 だが、ゴンズは構う事無くその剣を振り下ろして男を容易く絶命させると、興味を失くしたかのように鼻を鳴らし……次の瞬間、壁を爆砕して現れた男の姿を見てその瞳を悦びにギラつかせる。

 

 殺す事すら煩わしいゴミだったが、ゴンズは男に一つだけ感謝してやっても良いと思えた。

 何故ならば、壁を破砕して現れた二足歩行の竜人と言える姿になっている男ことドレイクは、ゴンズが何時か殺すと誓った好敵手とも言える存在であり。

 その男を、ここまで殺意に満ちた状態にまでお膳立てを整えてくれたのだから。

 

 

 だが、男はつれない様子で骸と化した男と、意気揚々と勝負しようと迫るゴンズを一瞥すると、ジャミが確保しているリュカを救うべく咆哮と共にジャミへ飛びかかる。

 大型の魔物の重量にすら耐えるデモンズタワーの床を砕くほどの踏み込みでジャミへ迫るドレイク、しかしその進撃はゴンズが先ほど殺した男の死骸を投げつける事で阻害され。

 ドレイクは直角で進路を修正しつつ、身を翻して拳で男の死骸を粉微塵に爆砕、その隙を縫って斬りかかってきたゴンズと鍔迫り合いに持ち込まれる。

 

 

「ガァァァァァッ!!」

 

 

 邪魔だという意思を込めてドレイクは咆哮し、ドラゴンそのものと化した顔から至近距離でゴンズめがけて激しい炎を放ち、しかしその熱量にゴンズは怯むことなくその顔に狂喜を滲ませながら膂力に任せて蛮剣を押し込んでいく。

 だがドレイクも負けてはおらず押し込まれる蛮剣を押し返し始め、互いに塔の床を砕きながら力比べへと入り……その隙を見逃さなかったジャミとラマダが、バギクロスとベギラゴンを切り結んでいる二匹へと放つ。

 突然の横槍にゴンズは不快そうに顔を歪めながら、とっさに距離を取ろうとするドレイクの肩を掴むと仲間が放ってきた呪文の前に掴んだままのドレイクを晒し、二つの極大呪文をその身に受けたドレイクの体を覆う竜鱗が砕け、焼かれていく。

 しかし、ゴンズは手を緩めることなく掴んだままのドレイクを床へ何度も何度も叩き付けていく。

 

 普通の人間ならば、とうに死んでいる所業、鍛えている人間でも無残に殺されるしかない猛攻。だがドレイクは右手に掴んだままの天空の剣を離す事なく、自らの体を掴むゴンズの腕を異形となった手で握り潰すかのような力で掴むと。

 お返しだと言わんばかりに翼をはためかせて浮かび上がり、ゴンズを掴んだまま空中で一回転して勢いよくゴンズを床へと叩きつけた。

 

 必殺と思っていた攻撃を凌がれて驚愕するラマダ、しかし同様に殺せていなかったジャミはその顔に笑みすら浮かべていた。

 ジャミは自らが残忍で悪辣だと自覚しており人間などゴミでしかないと心から信じている。

 だがしかし、しかしだ。同時に彼はごく一部の人間の勇士が魁せる事のある輝きに魅入られた魔物であった。

 そして同時に思うのだ。だからこそ、その輝きに満ちた勇士を討ち取る事こそが最も尊いと。

 

 

 闘いの狂喜に目覚めたゴンズ、そして勇士の輝きを手折る事に魅入られたジャミ。

 彼らもまた、本来の世界とは違う形へと運命を転がした存在であった。

 そんな二匹の変貌をラマダは気味悪そうに見ながらも、しかし同時に一つの事を想う。

 自分達の上司にあたるゲマは、勇者として覚醒したドレイクの殺害を命じてきた、しかし果たしてこの男をここで殺すのが本当に正しいのかと。

 ここまで魔物に寄ったのならば、自分達の側へ引き込む事の可能なのでは?と思ったのだ。

 

 

 故に、傍仕えとして連れてきていた気の利く鞭男達に、ドレイクが奪還しにきたリュカを預けながらラマダはドレイクへ提案する。

 ここで投降するのならば、自分からゲマへとりなしたうえで、お前も妻も、子供達の命も何とかしよう。と。

 

 

 ドレイクの返事は、無言で放たれた赤黒い雷光であった。

 

 

 その返答に、ラマダは惜しいと思いながら溜息を吐き。ジャミとゴンズは狂喜に満ちた笑みをその顔に浮かべる。

 異形と化した存在とはいえ天空の勇者と、それと相対する魔王軍の配下である魔物達。決して交わらず互いに容赦など考える事すらバカバカしい関係。

 しかし、魔物達には今この時も何とか夫であるドレイクを助けようとし、鞭男達に阻まれているリュカを人質にしようと言う考えは微塵も存在しなかった。

 

 

 こんな、魔物冥利に尽きる殺し合いを、そんな不作法で汚すのは余りにも勿体ないと思ったのだ。

 

 

 故に、両者は激しく激突する。

 呪文で意識と速度を加速させたドレイクが、何本にも見える剣閃を放ってゴンズを切り刻み、しかしお返しとばかりにゴンズは手に持ったドレイクの攻撃で欠けた盾を全力でドレイクの体へ叩き付け。

 よろめいたその一瞬の隙を逃さないと、ジャミが凍える吹雪を口から放てば、ドレイクは激しい炎を口から放って打ち消し。更に雷光を纏った剣閃をジャミめがけて放って反撃を放つ。

 当たればジャミですら無事で済まない一撃、しかしその一撃はラマダがその巨体で受け止め、血を吐きながらラマダはベギラゴンをドレイクへ放つ事でドレイクを痛めつけていく。

 

 圧倒的な力を持つ3体の魔物の攻勢、しかしドレイクは倒れそうになる度に……。

 

 

「マダ、ダ……グガァァァァァァァァァァァァ!」

 

 

 妻を救う、家族を護る、ただその意識だけを残していくかのように、人としての自分の体を黒竜の体へ置き換えていき、ボロボロになりながら立ち上がる。

 既に片手では足りないほどの致命傷を受けながらも、そのたびに立ち上がり、人としてのドレイクが摩耗していく度にドレイクの動きは速くなり、力強くなっていき、吐き出される吐息の破壊力が増大していく。

 

 

 そして、既に人としての限界が超えていたドレイクの意識は、ついに超えてはならない一線を越える。

 ドレイクの体は、もはや二足歩行の黒竜と言えるほどに変異が進んでおり、発せられる声は殆どがドラゴンの咆哮と変わらない状態となっていた。

 しかし、ドレイクの意識は先ほどまでの業火のような激しいモノとは打って変わって、凪いだ湖面かのように穏やかな状態だった。

 

 

 突如動きを止めたドレイク、しかし全身傷塗れの魔物達は躊躇う事なく、ドレイクめがけて己が放てる最大限の攻撃を放つ、だが……。

 ドレイクはその巨大な翼で自らの体を守るかのように覆い隠し、その攻勢を凌ぎ切ると……漆黒の体に幾重にも深紅に輝く脈動を走らせ、翼を広げると共に一際大きく空へ向かって咆哮。

 その瞬間、ドレイクを中心にデモンズタワー最上階の天井が跡形もなく吹き飛ばされ、雲一つない空を急遽現れた暗雲が覆い隠すと共に。

 暗雲から赤黒い光線と化した雷光が、まるで土砂降りの雨と錯覚するかのような密度でジャミ達へと降り注いだ。

 

 

 

 

 

 予想だにしない攻撃に対処が遅れたゴンズとジャミ、そしてラマダは成す術もなく降り注ぐ雷光の雨にその体を打ち据えられていく。

 まず、真っ先に床へと倒れ伏したのは巨体であるが故に、一際多く雷光を受ける事となったラマダであった。

 その次はジャミ、そしてゴンズと倒れていくも、その無差別にも見える雷光の雨はリュカの周辺には一切降り注ぐことはなかった。




Q.最終的にドレイクの姿はどんな感じですか?
A.成人男性サイズの二足歩行黒竜(赤黒いラインが時折全身に走る)です。なお、まだ変身を残しております。


次回、ゲマ登場。

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