勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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ゲマ登場回なのです。


29・下

 天井が消し飛び、外壁も所々が崩れ落ちたデモンズタワー最上階。

 つい先ほどまで、異形同士が殺しあっていたその場所は今、奇妙な静寂に包まれていた。

 

 ドレイクが天から降り注がせた赤黒い雷光の雨によって、ゴンズとジャミ、ラマダの3匹の魔物達は気を失っており。

 3匹が起き上がってこない事を確認した、二足歩行の成人男性ほどの体躯を持つ黒竜ことドレイクは振り向くと、涙を流しながらドレイクを見守っていたリュカへ歩み寄る。

 リュカの周囲には、ジャミの指示で配置された魔物達が居たが、ドレイクが近づくにつれて自発的に道をあけて、ドレイクとリュカの再会を邪魔する事はなかった。

 

 

 邪魔するものがなくなったリュカは、泣きながらドレイクへ駆け寄り、自らを浚った男に痛めつけられた自分の傷を治すよりも先に、ドレイクの全身を覆う傷を癒そうと回復呪文をかけていき……。

 滂沱の如く涙を流しながら、ごめんなさいごめんなさいと、何度も何度もドレイクへ攫われてしまった己の不手際を謝り続ける。

 その言葉に、ドレイクはグルルと喉を鳴らしながら、ドラゴンのモノと化した手で……リュカを傷付けないよう細心の注意を払いながら、まるで壊れ物を扱うかのようにリュカの頭を撫でる。

 

 もう変化の杖では取り繕えないレベルで、自らの変異が進んでしまったことをドレイクは自覚していた。

 そして其の事を、きっと目の前の愛しい妻は謝っているのだろう、とドレイクと呼ばれていた人型のドラゴンは理解こそしていたものの。

 最早、目の前で泣きじゃくる妻の名前も、大事な約束をしたはずの息子の名前もドラゴンは思い出せなくなってしまっていた。

 其の事が酷く、ドレイクは悲しく思うと同時に愛しく想っていた妻を救い出せた事を、ドラゴンはどこか満足に想っており。

 

 

「ヌグァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 故にこそ、突然天から降り注いできた巨大な火球から、愛しい妻を守る為に……苦痛に満ちた咆哮を上げながらも、その体を盾にすることをドラゴンは躊躇しなかった。

 突然飛び立った夫をリュカは目を見開いて見上げ、そして己の身を挺して自らを護るドラゴンの姿にリュカは、悲痛な悲鳴を上げる。

 火球を受け止めきった漆黒の人型ドラゴンは、右手に握ったままの天空の剣を離す事はなく、しかしそのまま成す術もなく床へと墜落し、よろめきながら立ち上がって火球を放ってきた相手を睨む。

 

 ドラゴンの視線の先には、ローブを身に纏ったミイラのような魔物が裾をはためかせながら空中に浮かんでいた。

 その魔物は醜悪な笑みを顔に張りつけながら、ドラゴンとリュカを見下ろして高笑いを上げる。

 

 

「ほーっほっほっほっ! 随分と魔物らしい姿になりましたねドレイク」

 

「グルルル……!」

 

「貴方が、ゲマ……戻してよ!ドレイクを返してよぉ!」

 

 

 記憶も朧気になっている中、それでも確実に殺さないといけないと心に決めていた仇敵の存在が記憶に残っていたドラゴンは、唸り声を上げながらローブの魔物……ゲマを見上げ。

 かつての記憶、そして父であるパパスから聞いた名前を思い出したリュカは、嗚咽の混じった声でゲマをなじり、愛する男を返してと叫ぶ。

 

 しかし、一匹と一人の敵意にゲマは応える様子は見せず、家族愛が齎す悲劇に満足そうに笑みを浮かべると。

 今にも激しい炎の吐息を放とうとしていたドラゴンへ向かって手をかざし、既に失われた呪文を唱えた次の瞬間、ドラゴンが左手で頭を押さえながら膝をつく。

 

 突然のドラゴンの変化にリュカは駆け寄ろうとするが、ドラゴンは轟くような咆哮を上げてリュカが近づこうとするのを止める。

 ゲマが放った呪文によって、ドラゴンの中の憎悪と殺意が膨れ上がっていき、今近寄られたら耐え切れずにリュカを傷付けそうになった、それ故にドラゴンはリュカを近づけたくなかった。

 

 だが、それでもリュカは立ち止まる事はなかった。

 苦しみ呻き声を上げるドラゴンへ縋りつき、リュカはドラゴンが失った名前。ドレイクの名前を必死に呼び、戻ってきてほしいと涙ながらに訴える。

 だが……ドラゴンは苦痛に呻く咆哮を上げて、リュカを突き飛ばすと。倒れ込んだリュカの前で右手に掴んだままの天空の剣を振り上げる。

 

 

「ほっほっほっ、さぁ殺してしまいなさいドレイク。愛したモノと決別し、己の憎悪の赴くまま全てを壊すのです」

 

 

 愛する者が、愛した者に殺されるという光景を見れそうな愉悦に、ゲマは哄笑しながらドラゴンの悪意の背中を押す。

 ここでドラゴンが愛した者を殺し、そして其の事を改めて自覚させることでその精神を壊しきり、その後は施しておいた呪術でドラゴンを自由に使える手駒にしてしまう。

 ソレが、ゲマがドレイクと呼ばれていたドラゴンに進化の秘法と合わせて施していた、悪意が結実したかのような呪術に正体であった。

 

 しかし、いくらゲマが待っても、ドラゴンがその手に握った剣を振り下ろす様子は見えなかった。

 ドラゴンの頭の中に残った家族への愛と、天空の剣に宿っている兄弟として育ってきたモンスターの魂が、ドラゴンの中で荒れ狂う悪意に必死で抗い続けていた。

 そして、ドラゴン……否。ドレイクが抗い続けている事を察したリュカはよろめきながら立ち上がると、ドレイクの瞳を真正面から見据えて訴える。

 

 

「一緒に帰ろ?ドレイク……レックス達が待っているから、あの子の誕生日会の続きを……しよ?」

 

 

 ドレイクが元の姿に戻れるかもしれない、今引き戻せればまたあの家族に戻れるかもしれない。

 そんな希望に縋り、リュカは慈愛に満ちた朗らかな微笑みを浮かべてドレイクの前で両手を広げる。

 

 

 

 その姿を目の当たりにしたドレイクの瞳に、僅かな理性の光が戻り。振り上げていた天空の剣を……。

 リュカの目の前の床に深々と突き立て、ドレイクが何か祈りを捧げて力を込めた瞬間。天空の剣を中心に結界が産まれ、結界がリュカを護るように包み込む。

 

 

「どれ、いく……?」

 

「リュカ、ゴメンナ。ソシテ、アリガトウ」

 

 

 何とか思い出す事が出来た、茫然とした声で呟く妻へ異形となった顔でドレイクは微笑み。

 声帯も変化した事で満足に喋る事すら難しくなった口で、たどたどしく妻へ謝り……万感の想いを込めて感謝を告げた。

 そして、心の中でだけ、先ほどまで握っていた剣に宿る魂。ホークへ願う。

 妻達と、子達のことを頼む。と。

 

 

「ほっほっほっ、まさか踏み止まるとは。よいでしょう……勿体ないですが、ここで始末するとしましょう。ジャミ、ゴンズ、ラマダ。いつまで寝ているのですか?」

 

 

 家族の情と愛で踏み止まったドレイクを見て、つまらないものを見たとばかりにゲマは吐き捨てると、倒れ伏したままの3匹の魔物に立ち上がるよう呼びかけ。

 今ここで、ドレイクを確実に殺す為に動き始める。

 

 

 体を護る防具はなく、戦う為の武器は変異したことで手に入れた爪や吐息、そのような状態で勝てる相手ではない。

 先ほどの3匹との戦いで既に満身創痍となっていたドレイクは、朧げな意識の中で彼我戦力さを冷徹なまでに分析をしていた。

 

 故にこそ、最後の頼みの綱とも言える剣を手放し、妻を護るための要としたのだ。

 自らがこれから成す事で、妻を殺してしまわない為に。

 

 

「だめ……ドレイク、いっちゃだめ……いかないで……!」

 

 

 縋るように、願うように呟いてくるリュカへ背を向けたドレイクは翼を広げて空へと飛びあがり。

 体に渦巻く力を解放するかのように、天めがけて高らかに咆哮を上げ。自身の体から漏れ出た黒い靄のような魔力がドレイクの体を覆い隠し、ソレはやがて巨大な漆黒の球体となる。

 ドレイクがこれからしようとする事を察したゲマは、配下に命じた上で自らも呪文を漆黒の球体へぶつけるが、放たれた呪文は球体を破壊することなく散らされるのみ。

 

 そうしている間に、球体はまるで膨張するかのように空へと浮かび上がり続けながら巨大し、ある程度の大きさへと膨らんだところで膨張が止まり。

 内側から、白銀色の閃光を漏らしながら球体に亀裂が入った次の瞬間、漆黒の球体が砕け散りその中から漆黒の巨体を持つ存在が、空間へと顕現するとゆっくりと風通しの良くなったデモンズタワーの最上階へと降り立った。

 

 

 その全身は、漆黒に光り輝くかのような鱗に覆われ、まるで磨きぬいた黒曜石のような輝きを放っていた。

 今も、強敵の出現に目をぎらつかせて斬りかかったゴンズの蛮剣にも、その鱗は傷一つ事がなく。

 長く太い、筋肉を織り上げた上に鱗を纏った、巨大な尻尾でゴンズは弾き飛ばされ。僅かに残っていた壁面を砕きながらゴンズはデモンズタワーの最上階から叩き落とされる。

 

 その背中には、天すらも覆い隠せんばかりに巨大な翼が生えており、広げられた被膜には赤く輝く脈動と。白銀に輝く脈動が交互に、まるで血液のように被膜の上で幾何学模様を描いており。

 やがてその広げられた翼の前に、数えるのも馬鹿馬鹿しく感じる数の光球が作り出されると、散開しようと動いていたジャミとラマダの全身を打ちのめすべく、光球の群れが二匹の群れを追尾しながら殺到していく。

 呪文や凍える吐息等で光球を迎撃する二匹であったが、余りの数の多さに迎撃が間に合わず、やがては全身を打ちのめされて先に吹き飛ばされたゴンズのように、デモンズタワーの最上階から叩き落とされていった。

 

 

「ほっほっほっ、どうやら想定以上に。そして想定外に育ったようですねぇ。まるで黒く染まったマスタードラゴンのようです」

 

 

 3匹の魔物を、子供をあしらうかのように叩き潰したドレイクだった巨竜を見下ろし、ゲマは計画の破綻を確信しながら、この場を離脱せんと呪文を唱え始める。

 出直し、準備を整えて今度こそ無残にひねりつぶして差し上げましょう、ゲマはそう考えていた。しかし。

 

 

 ゲマが呪文を唱えるよりも早く、巨竜と化していたドレイクは。意識を加速させ、半ば強引にゲマの傍を飛翔先として指定してルーラを発動。

 そのまま、ゲマが飛び去るよりも早くそのミイラのような体を、巨大な手で握り潰す。

 

 

「ぐっ、はなせ、離しなさい!」

 

 

 もがき、ドレイクの手から逃れようと至近距離からドラゴンそのものと化したドレイクの顔面めがけてゲマは呪文を放つが、ドレイクは意に介する事なくゲマを掴んだまま上空へと飛び上がると。

 上空で身を翻し、ゲマを掴んだまま。デモンズタワーの壁面へ叩きつける。

 

 

「ぐはぁっ?!」

 

 

 ドレイクの規格外じみた膂力で、壁面へ叩きつけられたゲマは甲高い苦痛の呻き声を漏らすが、ドレイクの攻勢が終わる事はなく。

 ゲマを掴み、壁面へ押し付けたまま翼をはためかせると…………。

 

 

 ゲマのそのミイラのような体を、デモンズタワーの壁面ですり下ろし潰すかのように、最上階から全速力でデモンズタワーの1階まで羽ばたいて急降下を始めた。

 今まで愉悦と暗い快楽に満ちた生の中でも、受けた事のない苦痛にゲマは叫び声を上げ、言葉にならない絶叫を上げ続ける。

 その絶叫はやがて、すりおろす途中で聞こえなくなるがドレイクはそれでも止まる事はなく、ゲマを掴んだまま地面へ叩きつけた。

 

 

 黒き巨竜の急降下が終わった頃には、ゲマはもはや原形を留めない肉塊と化していた、しかしドレイクだった巨竜は躊躇う事無く肉塊を握り潰しながら上空めがけて放り投げると。

 大きく息を吸い込みながら翼を広げ、ジャミとラマダを叩き落とした光球を幾つも展開した上で、その光球をゲマへぶつけるのではなく自ら吸収。

 自らの体を巨大な炉にするかのように、体内で魔力と父親譲りの聖なるドラゴンの力、進化の秘法が齎す邪悪な力を織り上げ練り上げ……。

 

 

 

 ドレイクは巨大な口を空へ放り投げたゲマだったものへ向かって開くと同時に、赤黒い雷光と白銀の雷光を纏った極光の吐息をゲマだった残骸へと解き放つ。

 巨大な光の柱と見紛うかのようなソレは、ゲマの残骸を容易く飲み込んだ上で消滅させ、それでもなお天へ向かって伸び続け。気が付けば月が上がっていた夜空を、真昼のような明るさで包み込むのであった。

 

 

 




Q.最上階から叩き落とされた魔物3人衆はどうなったの?
A.墜落死したかもしれないし、ドラクエ物理学の名の下高所から落ちても無傷だったかもしれない。



ドレイクが最後に放った極光のブレスは、ドルオーラかもしれないし。ハイパードライブを発動したギガ波動砲かもしれない。
もしかすると、大いなる破局だったかもしれない。
だが一つ言える事は、作者がこの話を書き始めてから一番書きたかった場面がようやくかけたのだ。


ちなみに、ドレイクのカルマ値が一定以上だと、リュカを斬り殺してしまい完全に狂うエンドです。
更に、ホークの魂を大神殿脱出後回収してなければ、やっぱりリュカを斬り殺してしまうエンドでした。
ある意味で、薄氷の上で掴んだ展開かもしれない(世迷言)

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