勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある? 作:社畜のきなこ餅
この辺りの事情については、活動報告について詳細を書いております。
3/13 修正加筆しました
漆黒の巨竜と化したドレイクがデモンズタワーの頂上で長き眠りに就いてから、早4年ほどが過ぎたグランバニア王国の中庭。
グランバニア王であるパパスが良く鍛錬をしているその場所には、灰色の長い髪の毛を背中の方で一本に縛った少年が剣の素振りをしていた。
少年が両手で振り回している剣は、少年の背丈を超えるほどに大きく武骨で、しかしそれでもなお少年の体幹は一切乱れてはおらず。
其の事が、少年がこれまでにどれだけの鍛錬を積み、そして今も積み上げているのかを如実に語っていた。
少年は無心のままに剣を振るい、そして母や義母、そして祖父から伝え聞いた内容から開眼した父の得意技を発動しながら鍛錬を続けようとした時、不意に鍛錬に没頭していた少年へ向かって声がかけられる。
「んだよレックス、今日は一日体を休めておけって。パパスおじい様から言われてたじゃねぇか」
「コリンズか……そういう君も、ウォーハンマーと盾持ってきてるじゃん」
「俺はいーんだよ、親分だからな」
汗だくになってる兄弟へ、母譲りの緑色の髪を肩口で切り揃えた少年。コリンズがタオルをレックスへ向かって放り投げ、タオルを受け取ったレックスはコリンズの言い分に苦笑いを浮かべる。
そしてコリンズは、レックスは少し離れたところに座り込みながら、一心不乱にウォーハンマーを振り始める兄弟を眺める。
「ねぇコリンズ」
「なんだよ?」
「お父さんに会えたら、なんて言うつもり?」
言いたい事がぐるぐると頭を回り、鍛錬に没頭していた少年レックスはぽそり、と呟く。
小さな呟きであったが、その呟きは轟音を鳴らしながらウォーハンマーを振り回していたコリンズの耳にも届き、コリンズの手を止めさせる。
「そうだなー……とりあえず、一発殴る」
「殴るの!?」
「何言ってんだよ当たり前だろ? 後、母上に教えてもらった父上の弱点である脛に全力でウォーハンマー叩きつける」
「叩きつけるの?!」
すました顔で物騒な事を言い放った兄弟の言葉に、思わずレックスは飛び上がりながら詰め寄り。
詰め寄られたコリンズはどこ吹く風とばかりに、胸を張って追撃を叩き込む意思を表明する。
「父上がああするしか無かったってのは解るさ、だけど。母上は泣いてるし、ポピーはたまにしかマリア義母さんに会えないんだ。だから、俺は殴らなきゃいけない」
「……コリンズもしっかり、考えてるんだね」
「何だか遠回しに俺が考えなしって言ってないかー?レックスー?」
半目でレックスを睨む、兄弟姉妹の中で最も父親によく似た目付きと評判の、コリンズの眼光に思わず両手を振ってレックスは否定する。
地味に、考えなしにむかつくから殴るってわけじゃないんだ、などと考えていたことを話せば……親分パンチと言う名の拳骨を叩き込まれる気がしたからだ。
そんな兄弟の仕草に、とりあえず追及を止めたコリンズはウォーハンマーをフルスイングでぶつける為の素振りを再開し始め、そうしたところで新たな声が二人にかけられる。
「あー居た居た。やっぱりここに居たんだね、二人ともー」
「なんだ、テンか」
「どうしたの?」
「どうしたも何もないよー。 タバサ達と母さん達が心配してたよー」
レックスとコリンズが振り返れば、そこにはシャドウパンサーのシャドウに跨った、蒼い髪を持つぽややんとした雰囲気の少年……彼らの兄弟であるテンがそこに居た。
ついでに、彼ら兄弟姉妹の兄貴分を勝手に自称しているシャドウは、お前達何やってんの。と言わんばかりの目付きで兄貴風を吹かせている。
「じっとしてられねーんだよ、レックスなんて汗だくになるまで素振りしてたぜ?」
「そういうコリンズも、体力配分考えないで全力でフルスイングの素振りしてるじゃん」
「よーするに、どっちもどっちなんだねー」
ズドン、と大きな音を立てながらウォーハンマを地面へ突き立てたコリンズが、柄に手を当てながら憮然とした様子で言い放ち。
自分だけじゃないと言わんばかりに、レックスは鍛錬を始めた頃から握り続けてきた、かつて父親が使っていた呪いがとっくの昔に漂白され失われた剣を手で擦る。
そんな二人を見たテンの行動は、やれやれと肩を竦めてわざとらしく溜息を吐くというものであった。
「明日は大事な本番だよー?ここで力を消耗するのはどうかと僕は思うけどなぁ」
「だけどよー……」
「ソレに、ヘンリエッタ義母さんにデボラ義母さんが割とピリピリしてたよ。二人が抜け出して勝手に鍛錬してるって知ったら後が怖いよー?」
「よし戻ろう。急ぐぞレックス!」
母親たちの中でも、大好きだけど一番怖い実母と遠慮なくビシバシ厳しい言葉で叱ってくる義母のツートップの様子を聞いたコリンズは、前言を翻すとウォーハンマーと盾を担いでそそくさと城内へ戻り始める。
しかし、城内へ入った瞬間実母のヘンリエッタに見つかり、耳を引っ張られながらどこかへ連れていかれていくのであった。
「あーあ、かわいそうに」
「ねぇテン、テンはお父さんに会えたら言いたい事ってある?」
「レックスも早く戻らないと……って、うーん。僕はお礼を言いたいかなぁ」
情けない声を上げながらヘンリエッタに連行されていく兄弟の姿に、テンはシャドウと共に敬礼をしながら見送ってからレックスへ声をかけ……。
俯いたまま問いかけてきたレックスの言葉に、跨っているシャドウの首毛をわしゃわしゃと撫でまわしながら考え、そして素直に想っていた言葉を口に出す。
「お礼?」
「うんお礼。パパのおかげで母さんと僕にルドマンお爺ちゃんにお婆ちゃん、それとサラボナの人達は助かったからね。だからありがとうパパって言いたい」
「そっか……」
のほほんと笑みを浮かべて応える兄弟の言葉に、レックスは考え込みながら答え。
そんなレックスを、テンはシャドウに跨るよう促すと共に城内へと戻っていく。
幸いなことに、レックスの抜け出し鍛錬はコリンズが告げ口しなかった事もあり、バレることはなかった。
そして、日は傾き始め。それぞれの人物が思い思いの夜の時間を過ごしている頃。
レックスは何となく眠る事が出来ず、同じ部屋で寝ている実母のリュカへ夜空を見てくる、と話すと城のバルコニーへ寝巻のまま出る。
「今日は天気も良いからか、お父さんがいる塔もよく見えるなぁ」
適当な木箱に腰かけ、足をぶらつかせながらレックスは呟く。
4歳の誕生日に、約束を破って帰ってこれなかった父親。
しかし、約束を破られたこと以上に、レックスの心には実母であるリュカが憔悴している事が辛く、そして悲しかった。
だから、自分が父親を迎えに行くためにレックスは剣を必死に学び、父親が使っていたらしい鍔の部分に宝玉がはまっていたらしい剣も自在に扱えるよう頑張った。
今では、祖父であり剣の師匠であるパパスを相手にも長時間切り結べるほどとなっている、無論戦闘技巧に関してはまだまだ少年であるが故に拙い部分もあるにはあるが。
少年は夜空を見上げ、サラボナ近くの森から妖精に案内されて辿り着いた、妖精の里の長であるポワンから言われた言葉を思い出す。
少年から見ても、6人の母親たちに美貌で負けていなかったポワンは、彼女達の夫である少年たちの父であるドレイクの顛末に嘆き悲しみ、そしてお付きの妖精が止めるのも聞かず深々と頭を下げて謝って来た。
そして、ドレイクを取り戻す為の手段を、天空城を浮上させるための重要な手掛かりをくれただけではなく。 来るべき時に、妖精の掟を破る事になってでも貴方達を助ける事を誓うとまで言ってくれた。
少年は怒りを抱いていた、母達を、自分を、祖父達を置いていき……色んな人に迷惑をかけている父親に。
少年は悲しみも抱いていた、父が何を想い、そして何を決意して巨竜へと変異したかを知ってしまった故に。
少年は、それでも父親に会いたかった。会って言葉を交わし、そして抱き締めてほしかった。
そうして、もやもやした気持ちを抱えたまま木箱から下りようとしたところで、3人の小さな人影が歩いてくる事にレックスは気付く。
「タバサにポピー、それにソラまで。どうしたの?」
「どうしたって言いたいの私の方よお兄ちゃん」
金色の髪をおかっぱ状に整え、普段はチャームポイントとして身に着けているリボンも、寝間着姿なのか付けていない妹にレックスは声をかけ。
即座に返ってきた言葉に、それもそうか。と思い直す。
「お父さんのいる塔を見に来たのよ、私達」
「そっかー、じゃあちょっと待ってて」
妹たちの言葉にレックスは木箱から飛び降りると、見張りの衛兵が腰掛け用として放置していたらしい木箱を三つほど、集め重ねた状態で手に持ち戻ると。
誰に言われるでもなく、綺麗に三つ並べ始める。
「ありがとうございます、お兄様」
「……ありがとう、おにいちゃん」
そんなレックスの行動に彼の妹たちはお礼を言いながら、よいしょと可愛らしい掛け声をあげながら木箱へ上って座り始める。
「……おにいちゃん、悩んでるの?」
「え? ……うん、そうだよ。ソラ」
デボラ譲りの黒髪を夜空になびかせながら、木箱に座ったまま目を合わせて問いかけてくるソラの言葉に。
兄弟姉妹の中で、特にどこか他人の機微に敏い妹の言葉に、レックスは躊躇いがちに応える。
「その、さ。お父さんと会えたら、何を言えばいいのかな。って」
「お兄ちゃん、結構そういうの悩むよね」
「……ママも、パパが良くそうやって悩んでたって、言ってた」
タバサに苦笑いされた上に、ソラからはある意味で父親そっくりだという言葉に思わずレックスは愕然とする。
そんな兄を尻目に、少女達は父親に会えたら何が言いたいか、という話題で盛り上がり始める。
「でもそうね、私は……お父さんが、ダンカンお爺ちゃん達が凄い悲しんで泣いたことを言いたいかな。そして、お爺ちゃん達の宿を一緒に手伝ってもらうの!」
最近ルーラを使えるようになり、護衛にとチロルをつけられたのを良い事に飛び回っては、頻繁に顔を出している山奥の村の祖父母を想いつつタバサは言葉を紡ぐ。
姉の言葉にソラも同意するように頷き、タバサよりも早くルーラを使えていた事で、兄のテンを伴っては頻繁にサラボナへ顔を出していたソラは頷く。
「……わたしは、パパに大好きって言いたい。それと……わたしが設計した道具を、ほめてもらいたい」
他者の機微に敏く、害意に敏感であるが故に閉じこもり書物と技術、そして呪文に傾倒した少女は遠慮がちに、しかしハッキリとした言葉を紡ぐ。
普段はあまり、自分の意思を表に出さない妹の言葉にレックスは驚き、しかしソレだけ特別な事なのだと思って納得をする。
「私は、そうですわねぇ……お父様に頭を撫でてっておねだりしたいですわ」
兄弟姉妹の中で、一番小柄なポピーは夜風にその長くウェーブのかかった金髪をたなびかせながら、上品に微笑む。
それぞれ方向性は違うにせよ、みんなが言いたい事。そしてやりたい事をしっかりと見定めている事にレックスは、顔を俯かせ。
ぺしん、と軽い音を立てて妹であるタバサにその頭をはたかれる。
一々悩んだりするからおかしい事になるのだと、お兄ちゃんがお父さんにしてもらいたい事。言いたい事を我儘に言えばいいじゃないと言われ、少年の心に霧のように立ち込めていた悩みが不意に晴れる。
「僕は……お父さんに頑張ったよって、頑張ればこれだけ出来たんだから。お父さんだけじゃなくて皆で頑張ろうって、言いたい」
自分の意思を確かめるように呟いた、兄弟姉妹のまとめ役とも言えるレックスの言葉に妹たちは満足そうに笑みを浮かべる。
時折、眠りに就き続ける父である漆黒の巨竜を間近で見た事のある子供達は、強い決意を以て明日へと臨む。
家族みんなで帰る為に。
ドレイク「か、家庭内暴力かな?」(震え声)
しかし、現状においては作者から見ても残当なのであった。
ドレイクがかつて使っていた、ドレイクとホークによって漂白済みの(元)皆殺しの剣は、レックス君の愛剣となっております。
折れた鋼の剣は打ち直され、レックス君が後ろ腰に下げるサブウェポン状態です。
え?二刀流? その辺りは決戦回をお待ちください。
Q.ソラちゃん天才過ぎひん?
A.小説版王女(ポピー)も、幼いのに船舶設計に手を出して成果を上げてたから、このぐらいきっとできるのだ。
Q.なんで修正したん?(Take2)
A.作者にシリアスとギャグの混在は不可能だって思い知ったから。