勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある? 作:社畜のきなこ餅
HP50%トリガーで、ドレイク(巨竜)発狂モード突入。
雷光の雨が天から降り注ぎ、破壊を告げる光球が乱舞する戦場。
その場に立つものは、すべて等しく無傷と言えるモノは居なかった。
大事な家族を取り戻す為に戦う人々の方は言うに及ばず、それらを一手に相手をしている黒銀の巨竜もまたその全身の鱗をひび割れさせ、翼の被膜は既にずたずたに切り裂かれている。
だが、互いに引く事はなく、また幾度目かともわからない正面からのぶつかり合いが始まる。
既に盾を砕かれ失ったコリンズが、天空の鎧の守護に身を任せて光球を一手に引き受けながら引き絞られた矢のように巨竜めがけて突進し、巨竜の脛めがけて両手で構えたウォーハンマーを全力で叩き付け。
苦痛に呻く巨竜が不届き物を蹴り転がし、腕を振り上げた一瞬を狙ってパパスが巨竜の脇腹めがけて剣を一閃し、更に追撃とばかりにビアンカとタバサが切れかけている魔力に顔を顰めながらも、メラゾーマを合わせて叩き込む。
しかし、開戦時から常に走り続け背中に乗せた二人を庇うように立ち回って来たチロルの前脚に光球が炸裂し、前のめりに転がるようにチロルは激しく転倒してしまう。
そして、同時に投げ出された金髪の親子を焼き払うべく巨竜は息を大きく吸いこみ、灼熱の吐息をすかさず浴びせかける。
咄嗟に身を起こそうとするが、体が言う事を聞かないチロル、そして思わず目を瞑ってしまった娘をせめて庇おうとタバサを両腕でしっかりと抱きしめるビアンカ。
すかさずポピーがフバーハをかけ直すが、その勢いは留まる事を知らず、成す術もなく2人と1匹が灼熱の吐息で焼き尽くされる。その寸前に。
全身のばねを使って大きく飛び上がるも後一歩距離が及ばなかったシャドウを足場にした……先ほどまでアンディが背負っていた背嚢を背負ったテンが、天空の盾を構えながら灼熱の吐息の前に躍り出……苦痛の呻き声を上げながらも、天空の盾が展開した結界で何とか事なきを得る。
さらなる追撃とばかりに、灼熱の吐息が終わった瞬間輝く息を吹きかけようとする巨竜であるも、デボラがグリンガムの鞭ですかさず巨竜へ攻撃を仕掛ける事で追撃を中断させ。
その隙を逃さないとばかりにソラが放ったイオナズンが、寸分違う事なく巨竜の顔面に炸裂する。
その間にテンは枯渇しそうな最後の魔力で、自分を含めたビアンカとタバサ、チロルにベホマラーをかけると傍に駆け寄って来たシャドウに跨り、アンディが戦線離脱と引き換えにフローラと共に守り抜いた背嚢から引き抜いてきたエルフの飲み薬を飲み干すと共に。
巨竜の動作を油断なく警戒しながら、ビアンカとタバサへ背嚢から引っ張り出したエルフの飲み薬を投げ渡すと、自らも戦線へ復帰すべくシャドウに合図を送り巨竜めがけて駆け出し始める。
攻撃力は現状で皆無だが、致命打をその盾で防ぎ、なおかつ呪文と道具で回復に回るテンを巨竜はその瞳で見据えると。
確実に仕留めるべく、レックスやパパス、デボラが攻撃を加えるのにも構わずにテンめがけて、無数の光球を殺到させる。
「は、ははは。コレはちょっと、マズイかな?」
自らへ殺到する光球の量に、いつもののんびりとした笑みを引きつらせながら少年はぼやくように呟き。
せめてもの抵抗にと、シャドウの足を止めさせずに盾を構えながら必死に回避へと移る。
しかし、その攻撃の量にテンも段々と捌ききれなくなり、とうとう無防備な所を晒した瞬間光球が殺到しそうになった時、ヘンリエッタが颯爽とテンとシャドウの傍へ駆け寄り、その手に握った剣の刀身に罅を作りながら。
見るモノを圧倒させるほどの、美しくもしなやかな剣技でテンをあわやという場面から救い出す。
「気を抜くな、テン!」
「ありがとう、ヘンリエッタママ!」
見れば、光球の中を無理に突っ切って来たのか体のあちこちに傷を作りながらも、苦痛を表に出すことなく叱咤する母の一人の言葉に、テンは気を引き締め直してヘンリエッタへ回復呪文をかけると。
全体に回復呪文を飛ばし、時に補助呪文を欠かさずかけ続けるマリアの傍で、攻撃呪文でマリアを襲う巨竜の攻撃を迎撃し続けている母、フローラを援護すべくシャドウを走らせ始める。
一進一退で苛烈な攻防が繰り広げられ続ける。
集まった人間の中で、最高峰の攻撃力を誇るパパスとレックス、コリンズの3人が一歩たりとも最前線から引くことなく黒銀の巨竜と切り結び……。
「くっ、中々に硬いな。だがぁ!」
「お爺ちゃん、僕も続くよ!」
「俺も行くぜ……ぬわーーーーーーーっ!?」
「コリンズーーーー!?」
そして時折致命傷を負わされるもすかさずかけられるリュカとマリアの回復呪文で立ち上がっては、めげる事無く立ち向かい。
3人に巨竜が気を取られた隙を、罅折れた剣を投げ捨て戦線離脱したヨシュアから回収してきた長槍を構えたヘンリエッタが、鱗の僅かな隙間や負わせた手傷を狙って渾身の刺突を浴びせかけ……。
その4人から少し離れたところに陣取るデボラは、変幻自在にグリンガムの鞭を操り後方を狙う光球の撃墜や、隙を晒した黒銀の巨竜へ容赦ない痛打を叩き込んでいく。
「使い慣れない武器だと、甘える気はないぞ!」
「アンタ、ドレイクが絡まないと凛々しいのに、絡むとポンコツになるわよね……って、隙だらけよドレイク!」
そして、一歩下がった戦線の中央ではリュカが攻撃呪文と回復呪文を使い分けながら、時に巨竜の注意を引き付け……時に危険な状態に陥った仲間をすかさず、治癒し死の淵から呼び戻し。
チロルに跨る事で機動力に優れたビアンカとタバサが、高威力呪文を惜しげもなく連発しては離脱を繰り返す事で、巨竜の目標を散らしながら手傷を負わせていき。
「コリンズ、大丈夫? ごめんね、きっとあと少しだから、もう少しだけ頑張って。皆!」
「謝らないでリュカ、皆で帰る為に頑張るって決めたのは私も一緒よ!」
「そうだよリュカお母さん! 皆で帰ろう!」
シャドウに跨ったテンは、機動力と天空の盾による防御を生かして時に前衛や中衛、更には後衛に飛ぶブレスや攻撃を必死に防御し。傷付いた仲間を呪文で癒しては道具をばら撒いて戦線を補填していく。
「容赦ないなーパパ、だけど。僕も負けてられないね、往くよシャドウ!」
更に、前衛や中衛に比べて多少攻撃の苛烈さはおとなしめであるも、時折後方にまで飛んでくる灼熱の吐息や輝く息をフローラが攻撃呪文で迎撃し、マリアが渾身のフバーハを前衛や中衛含めて絶えずかけ直す事で凌いでおり。
「凍てつく輝く息、ならばコレで!」
「フローラさん、それに皆さん!フバーハをかけ直します!」
「お待たせしましたお母様、私が代わりますのでお母様は魔力を回復して下さい!」
マリアが魔力を切らせばポピーが、ポピーが魔力を切らせばマリアがそれぞれ互いにカバーし合いながら、戦線の維持を徹底し。
「パパ……お願い、帰ってきて……!」
それらの援護を踏まえて、呪文に於いてこのメンバーの中で最大火力を誇るソラが、幾度も幾度もイオナズンを巨竜へぶつけ。手空きになればフローラもまた、ベギラゴンで攻撃呪文の援護を行っていく。
黒銀の巨竜もまた負けてはおらず、しかし大きな隙を晒す形となる雷光の雨を放てないまでも、光球を絶えず作り出しては広範囲に攻撃を仕掛け。
その致死の一撃を与える鉤爪を振るい、圧倒的な攻撃力を誇るブレスを使い分けて人間達を追い詰めていく、しかし。
レックスの天空の剣による一撃が、黒銀の巨竜の胸に深い傷を刻んだことで、ようやく巨竜は膝をつき、その猛攻を止めた。
だが、未だ戦意は消えておらず、よろめく足で再度立ち上がろうとしているところで、プサンは力の限り叫ぶ。
「今だレックス! お前の想いの丈を、皆の想いを束ねて、ドレイクへ放てぇ!!」
「……うん!!」
祖父であるプサンの言葉に、レックスは天空の剣から伝わる意思が導くままに剣を天高く掲げ。
プサンの叫びに意図を察した彼の家族達、そして倒れ戦線離脱しながらも闘いを見守っていた者達が、祈りを魔力に変えてレックスへと託す。
託された祈りと想い、そして魔力はレックスが掲げた剣を激しくも、しかし穏やかな青白い雷光で包み始め。
想いを託された少年は、奇しくも父であるドレイクがサラボナの街でブオーンを撃破した技を放った時と同じ構え……剣を背中に担ぐような構えをとる。
そして。
「帰ってきて……お父さん!!」
少年の涙交じりの叫びと共に、全力で振り下ろされた剣から放たれた青い雷光は。
途中で空を舞う大鷲が如き姿へと変わりながら、茫然と少年を見詰めていた巨竜めがけて真っすぐに飛んでいき。
黒銀の巨竜に大鷲の雷光が炸裂した瞬間、巨竜を青白くも清浄なオーラを放つ雷光が包み込む。
そして、雷光が止んだその場所には。
全身を傷だらけにしながらも、悪意が結晶化したような漆黒の鱗などどこにも見当たらない。
白銀色の鱗に身を包まれた巨竜が、意識を失くしてうつ伏せに倒れていた。
NGシーンでは、目をぐるぐるにしながら気絶していた白銀巨竜ドレイクが最後に出てくる予定でしたが。
さすがに自重しました、だけどコリンズのぬわーーは我慢できなかった。許してほしい。
次回は後始末と、ドレイク人間になれるかどうかについてのお話の予定です。