勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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前回までのあらすじ


父、還る。


31

 

 

天空城  〇日

 

 

 おれは しょうきに もどった!

 とか馬鹿な事を脳内日記に書かないと、なんかもう申し訳なくて今から遥か大空の彼方にある天空城から大地へめがけてダイブアウェイしたいけども、恥を晒して生きております。

 

 

 途中から朧気ながら意識はあったんだけども、本格的に意識を取り戻したらドラゴンになっている俺の頭にリュカが縋りついて回復呪文をかけながら泣いていた。

 そして、俺が目覚めた事に気付くとその顔に笑顔をほころばせて、良かった、帰ってきてくれたって咽び泣く姿に俺は自分の過ちを思い知らされた。

 

 更に、妻達……あのデボラすらも目に涙を浮かべて俺へ駆け寄り。

 立派に育った子供達もまた、泣きながら俺に駆け寄り鱗がゴツゴツしているというのにも構わず抱き着いて、大声で泣きだして。

 

 

 俺は妻達を、そして子供達を守る為に戦った事は後悔していない、しかし。

 大事な家族を心配させ、泣かせたという事実が酷く、辛かった。

 

 

 そうやって家族達と再会をしていると、状況を見守っていた親父がまずは天空城で状況を整理し、そして俺を人間に戻す為の準備を始めようと話し出した。

 戻せる手立てがあるのか、と内心で驚愕しているとどこからともなくホルンの音が鳴り響き、次の瞬間視界に映る景色が移り変わりどこかの城の……人が座るには大きすぎる玉座がある広間に俺達は転移させられる。

 親父曰く、妖精女王たちの助力を受けて俺と決戦をする為に転移した異界から、天空城まで運んでもらったとの事だ。なんかこう、お手数おかけしてしまい申し訳ない。

 

 

 そうして、何度か来た事があるらしい家族とは別に、急に現れたドラゴンの俺に仰天する天空人さん達。突然お邪魔してなんかすんません。

 慌てふためき俺を迎撃しようと動き出する天空人達であったが、親父が私の息子に剣を向けるつもりかと一喝する事で、急速に場が鎮まる。

 どうやら、親父はさっさと自分がマスタードラゴンである事を明かして、何らかの手段で天空人さん達を納得させたらしい。

 

 

 そんなこんなで、ざっくりとした妻と子供達の今までの苦労を聞かされつつ、手段は講じているから暫くはここを自分の家だと思って寛ぐがよいと親父は話すと。

 後は、妻と子供達としっかりと話し合い、そしてお前が見守れなかった4年間を共有しなさいと告げて、広間から天空人達を伴って出て行った。

 

 

 その後は、リュカ達が、そして子供達がどれだけ頑張って、それでも奮い立って冒険をしてここまで来れたかを話してもらい。

 今度こそもう、勝手にどこかに行ったりしないでと、皆から目に涙を浮かべられて懇願された。

 

 

 申し訳ない気持ちと自分への情けなさでいっぱいだったけども、それ以上に俺は、みっともなくも嬉しかった。

 俺は、生きていて良いんだと、心から思えたのだから。

 

 

 

 

天空城  ◇日

 

 

 お腹が減りました。

 空腹を空腹と感じてなかったが、子供達から思い出話を聞いている時に巨大な腹の音を鳴らしてしまい、気まずい思いをしながらそう言えばずっと寝てて何も食ってなかったことを思い出す。

 親父曰く、急激にドラゴンとして変貌させられた関係で、本来ならば食事は殆ど不要になる筈だが体を維持するために必要なのだろう、との事だ。

 まぁ食べたものはしっかり消化されるだろうから、排泄は心配せんでいいだろう。とも続けた、有難いけどそうじゃない。

 

 子供達はそんな俺の腹ペコ事情に、じゃあ4年分の僕達の誕生会ここで開かせてもらおうよとレックスは嬉しそうに話し、広間から駆け出していく。

 あのー、息子よ。お父さん、親父の家だからってどちらかというと他所様のお家だから微妙に居心地悪いし、申し訳ないから遠慮する。とか言えない空気だった。

 

 

 結論から言えば、天空人達からも子供達は可愛がられているようで、サンチョさんも料理人として参加しつつ誕生会を天空城で開く事となった。

 食事は大変美味しかった、どうやって食べたモノかと思っていたが……タバサやポピー、ソラがかわりばんこで俺に給仕をしてくれて事なきを得た、子供達も楽しそうで何よりだと思った。

 しかし、子供達の成長もとてもうれしかったけど、それ以上に俺は泣きに泣いた。

 早く、人間の姿でこの子達を抱き締めてやりたいと思わず呟けば、傍にいたリュカ達が俺を慰めるように頭を撫でてくれた。

 

 子供達もだけど、ボク達も抱き締めてね?と冗談ぽく妖艶に微笑まれつつ。

 俺には、もちろんですと返しながら頷くことしか出来なかった。

 

 

 

 

天空城  ♪日

 

 

 子供達と語らい、天空人達と語らい、妻達と語らう日が続く中。

 ふと、気になったことがあったのでパパスさんに光の教団について今どうなってるか尋ねて見た。そしたら予想外過ぎる斜め上の回答が返って来た。

 

 

 パパスさん曰く……光の教団は、俺へリュカ達が決戦を挑む一年前に。グランバニアに白旗振って降伏してたらしい。 

 何があったの、と思わず茫然と呟くと。チロルとシャドウを丁寧にモフモフしながらブラッシングしてたテンが教えてくれた。

 

 例の魔物軍団大進撃を挫いた俺のネガキャンを繰り広げようとしていた光の教団は、グランバニア大臣主導の下行われた俺の活躍と栄誉を称える活動に思いきり塗りつぶされたそうな。

 そこに、ラインハットの王家とサラボナのルドマンさんが全力で支援を重ね、結果光の教団は物資の補給すら難儀する羽目に陥り。子供を浚ったり奴隷を確保したりなんて出来る状態じゃなくなっていたらしく。

 

 一年ほど前に天空城をセントベレス山へ接弦後、有り余る体力でクライミングしたコリンズが先行偵察した時には、信者と共に輝く汗を流しながら畑仕事に精を出すイブールが居たらしい。

 

 ジャミとゴンズとラマダについて聞いてみたが、それっぽいのは居なかったそうだ。アイツらどこに行ったんだろう。

 まぁ一旦あいつらは横に置くとして、その時にコリンズは目を疑う余り警戒を疎かにして物音を鳴らし、イブール達に気付かれてしまったそうだが……。

 

 ヘンリエッタの面影が強く残る髪の色と顔付き、そして身に纏った天空の鎧にイブールは自ら歩み出ると。

 我々は最早そちらへ弓引くつもりは欠片もない、どうか私の首で彼らを見逃してほしいと。魔物へと変貌した体で闘おうとする事もなく、その命を差し出してきたらしい。

 

 

 思わず俺の体にもたれかかり転寝していたコリンズにマジか?と聞いてみたらマジだよ、と返された。マジかよ。

 コリンズもまぁ、マリアが受けそうになった仕打ちを聞いていたから最初は思いきり疑ったらしいが、共に畑を耕していた信者達がイブールを庇うように飛び出てきたから信じざるを得なかったらしい。重ね重ね、マジかよ。

 話を続けて良い?とテンが首を傾げてきたので、謝りつつ先を促す。ついでにシャドウは大きく欠伸をした。

 

 

 で、まぁ。イブールの供述曰く。

 俺が意識と理性をぶっ飛ばした最初の一年に満たない、下手すると半年ほどで人里の活動が困難になったらしい光の教団がまずぶち当たったのは食糧問題だったらしく。

 這う這うの体で、空を飛べる魔物達の助力で外でも熱心に活動するほどの信者は大神殿へ戻り、言うほど熱心でもない信者に教義に縛られずに生きろとイブールは勅令を出したそうだ。いや待てお前誰だよ。

 それでまぁ、残った一握りの信者と魔物達で、俺が大神殿時代に耕してた頃から細々と続けられてた畑を大幅に拡張、そうやってる間にイブール自身にもまた変化が起きていたらしい。

 

 贅を捨て去り、日の出と共に畑を耕し、僅かな糧を皆で分け合い日が落ちれば瞑想に耽る。

 その生活を送っている内に、イブールは大魔王ミルドラースが齎そうとする破滅に対して疑問を持つと共に、かつての自分達の愚かさを見詰め直したそうだ。アイツ悟り開いてやがる。

 

 

 そんなこんなで、もはや仙人じみた状態となったイブールと信者、そして魔物達の所に現れたコリンズが……イブール達の罪を断罪に来た使者に見えたそうで。

 だがしかし、自らを信じてついてきてくれている信者達を死なせたくなかったイブールは、自らの命を以って償おうとしたそうな。ゲマが地獄の底でどうしてこうなったと頭を抱えている気がする。

 

 

 ちなみにそんな彼らをコリンズは害すに害せず、直情径行なアイツにしては珍しく玉虫色の回答をした後天空城へ戻り、ヘンリエッタ達に見て聞いたことを報告したところ。

 ヘンリエッタは言うに及ばず、いつもにこにことしている聖母然としたマリアすら笑顔のまま固まったらしい、そりゃそうなるわな。

 なお彼らについては人畜無害と言う事で、ルドマンさん経由でちょっとした生活支援が始まってるらしい。

 

 

 イブールもまた俺にかつての罪を詫びたいって言ってるらしいが、その、なんだ。

 俺、どんな顔してアイツに会えばいいんだ?笑えばいいのか?それともお前そんなんじゃなかっただろ、って全力で突っ込むべきなのか?はたまた祝福するべきなのか?

 

 

 

 

 

天空城  △日

 

 

 妖精達や天空人達の助力、そして呪文によって俺はとうとう人の姿に戻る事が出来た。

 親父が、人間の姿を取った時に使った術式を応用したものらしいが、俺を呼び戻す為に使った親父のマスタードラゴンとしての力を剥離させることは難しいという話であった。

 非常に申し訳なくなり、親父に対して感謝を告げると共に深く詫びたら、いっそこのままドレイクが次代のマスタードラゴンになれば良いと、愉快そうに笑われた。

 

 あのー親父殿、そんな事言いつつ人の姿で酒や美食を楽しみたいって思ってませんかね? ちょっと、俺の目を見て返事してくれ。

 

 

 しかしまぁ、その辺りの事情は今はさておくとしよう。

 まずは、号泣しながら抱き着いてくる子供達を抱き締めてやるのが、先なのだから。

 大丈夫だ、お父さんはもうお前達を置いてどこかに行ったりはしない、本当に本当だ。約束する。

 

 その日は、子供達に抱き着かれたまま一夜を明かした。

 力自慢のコリンズのホールドや、見た目の割に意外と力が強いテンのパワーが少しきついがお父さんは強いから平気なのだ。

 むしろこう、あちこちに抱き着かれてる関係で寝がえりが出来ない。だけども、幸せな重みだった。

 

 

 

 

 

天空城  ×日

 

 

 子供達に抱き着かれて夜を明かした次の日、色々あったがあんまり覚えてない。

 その日の夜は、しっかりと防音された天空城の一室で妻達と共に一夜を明かした。

 

 

 

 

 色々と、大変だけども幸せな夜だった。




帰ってきました日記形式。

そしてイブールさん、極限状態の最中悟りに目覚めてました。
欲に取り付かれ、色に取り付かれた末に。それらから半ば強制的に脱却させられた中で、図らずも秘境の修験者が如き状況になってたようです。

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