勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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前回までのあらすじ

本作屈指のイイ空気勢ジャミ&ゴンズ、盛大に満足しつつ散る。


34

エビルマウンテン  〇日

 

 

 ジャミとゴンズを下し、介錯を終えた俺達は遠巻きに眺めてくる事しか出来ない魔物達を無視し、戦いで負傷した俺の治療を終えると。

 背中にリュカ達を乗せて一気にエビルマウンテンの突破を狙う、大型の魔物も多数闊歩している居城だけあって、多少窮屈なれど突入する分には言うほど問題はなかった。

 

 ジャミとゴンズについて思うところが無いと言えば嘘になる、だけども……いや、やめておこう。女々しいだけだ。

 

 

 時折立ち塞がる気概のあるヘルバトラーらしき魔物を、光球集中砲火で蹴散らして次々と階層を突破し、何やらパズルじみた仕掛けはブレス一撃で通路をこじ開けて無理やり押し通り。

 たまに魔物達の呪文やブレスが俺の体に直撃するも、背中にしがみついているマリアやポピー、リュカがすかさず回復呪文を飛ばしてくれるおかげで、ほぼ不沈艦と言える状態だ。酷い話にもほどがある。

 

 

 そうしてギミックや厳戒態勢の魔物を片っ端から蹴散らし力押しでこじ開けて到達したのは、酷く開けた空間。

 そして、遠目に見える祭壇で独り祈っている壮年の女性の姿を確認できたため、翼をはためかせて女性の傍へと降り立つ。

 

 突然現れた巨竜こと、俺の存在に女性は目を見開いて驚愕するが、すかさず俺の背から飛び降りたパパスさんが女性へ駆け寄って強く抱きしめる。

 どうやら、この女性がマーサ義母さんらしく。パパスさんは涙を流して男泣きに泣きながら、ようやく会えたと、抱き締められたと呟いている。

 駆け寄りたくも、どうして良いかわからないと言った様子のリュカに視線を送り、行ってやれと促したところで。

 

 

 広い空間に歪な亀裂が俺の目の前で作られ、そこからマーサさんを中心に俺達めがけて悪意を具現化したかのような漆黒の魔力が降り注ごうとしているのが見え。

 咄嗟に、伏せろと家族達へ向かって叫びながら、翼を広げて俺の体全体を使って家族達を魔力の暴風から必死に庇う。

 

 

 結論から言えば、誰一人命を落とすことなく不意打ちとも言える暴風を凌ぎ切る事が出来た。

 一瞬死ぬかと思ったが、一足先に我に返ったリュカがすぐにベホマを飛ばしてくれたおかげで事なきを得る事が出来た、良かった良かった。なんて言ってたら怒られた、正直申し訳ない。

 

 何やら、ミルドラースと名乗る亀裂から聞こえる声が、長々と色々とほざいているが命を賭けてでも大魔王の力を削ごうとするマーサさんを説得するのに忙しいから後回しなのだ。

 しかし鬱陶しい事この上ないので、亀裂めがけて極光のブレス(弱)を叩き込んで強制的に黙らせておく。

 

 

 そんな事をしていたら、マーサさんが茫然とした顔で俺を見上げていたので。改めて自己紹介しつつ、娘さんは必ず幸せにしますと順番が前後している事をマーサさんへ宣言。

 マスタードラゴンの子であり、ソレが娘の夫であり孫の父であると共に、何人もの女性を娶っているという状況にマーサさん思わずあんぐり。

 小さくブツブツと呟いている内容から、私は怒るべきか娘を幸せにしてくれたのを感謝すべきかどちらなのでしょう、と悩んでいる様子だった。なんだか申し訳ない。

 

 魔界に来た俺達の様子から、もしかしてとは思っていたがまさかドンピシャリの大的中と言う状況に、さすがのマーサさんも頭を抱えているらしい。

 重ね重ね、なんだか申し訳ない。

 

 

 

 そんなこんなで多少グダりつつも、状況を軽く整理をする。

 俺としては、メンバーを分けてでも長年の生活で疲弊したマーサさんを地上へ連れ帰ってほしい所であったが、マーサさん自身から反対されたためNG。

 

 パパスさんからも、どうか頼みを聞いてやってほしいと頼まれたので、同行を願う事にする。

 大型の魔物数匹に妻6人子供6人、パパスさんとマーサさんで結構な大所帯だが。何とか俺の背中には載せられる。

 いざとなれば、全員を載せて離脱すればいいし。最悪ルーラを使える娘達に危険な状態になった人員を連れて先に逃がせば良いしな。

 

 

 さて、それじゃあ。

 全ての悲しみの原因となった、大魔王を討ち取りに行こうか。

 

 

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 深き闇の中、王の中の王と自ら称する大魔王ミルドラースが、白銀の巨竜の吐息によって負わされた手傷を自ら癒しながら、瞑想に耽る。 

 地上で何やら部下の魔物達が色々とやっていたそうだが、ソレすらも大魔王にとってはどうでもよい話であった。

 

 

 大魔王にとっては、自らの力を高める為の時間稼ぎ程度になれば良いという程度だったのだ。

 故にこそ、ゲマと言う部下には好きなようにやらせていたし、ゲマの遺臣とも言える魔物二匹も大魔王にとっては塵芥に過ぎない存在でしかなかった。

 

 大魔王にとっての渇望は、自らの栄光を阻んだ竜神マスタードラゴンへの復讐と、自らの力を以って全てを自らの手の中へ納める事ただそれのみ。

 故にこそ、羽虫が如き侵入者を駆除せんとした自らの攻撃を防ぎ、かつ自分へ手傷を負わせたマスタードラゴンの力を感じさせる白銀の巨竜は、何においても捨て置くわけにはいかない怨敵となっていた。

 

 だからこそ、大魔王は油断も慢心も捨てて枯れ枝のような異形の老人と言える姿を捨て去り、瞑想をしながら真の姿へと自らの体を変貌させていく。

 心身になじみ切った進化の秘法、それが齎す全能感に大魔王は酔いしれながら、かつて天空の勇者に討たれた魔王とは違い自らの理性と心を保持したままその体を膨張させていき。

 肥大化したエゴとプライドに似つかわしい異形の姿へ変り果てながら、轟音と共に自らが君臨する空間へ侵入してきた白銀の巨竜と、その背に乗る英雄たちを見据える。

 

 

 集めておいた魔物達の中で何匹か逃げ出そうとしたのを、大魔王は見せしめとばかりに縊り殺し逃げたら殺すとだけ魔物達へ言い含めながら。

 殺意をその目に漲らせる白銀の巨竜へ向かって、その口を開いた。

 

 

「良くぞ来たな、竜神マスタードラゴンの力を持つ者よ。しかし、貴様の力など気の遠くなるような年月の果てに得た私の力の前には無力だ」

 

 

 眼前に立つ白銀の巨竜は確かに強いと、大魔王は自らの目で見たまま受け入れ、故に自分の勝利は揺るがないと判断すると。

 絶望を与えるべく、暗黒の魔力を纏いながら口を開き、絶望を告げる。

 

 

「私の下僕達がくだらない事をしていたようだが。それすらも不要だったのだ、何故ならば私は運命に選ばれた者なのだからな……さぁ来るがよい。私が魔界の王たる所以を見せてやろう」

 

 

 白銀の巨竜の背に乗る黒髪の少女が、引きつったような悲鳴を喉から出すのを聞きながら、大魔王は魔物達に攻撃命令を下した上で。

 不埒者である白銀の巨竜、そして天空の勇者たちを葬るべくその足を踏み出した。

 

 

 大魔王の言葉、そして迫りくる魔物達の軍勢。

 しかし、白銀の巨竜には怯えの感情は一切無く。

 

 

 

 ただ一言を以って、開戦の狼煙とした。

 

 

 

 

「お前の遺言はソレでいいんだな」

 

 




少し短めですけども、マーサさん救出と決戦前の前振りでキリが良かったので投稿しました。
次回、しょっぱなから第二形態モードのミルドラースさんとの決戦です。

Q.なんで最初から第二形態なん?
A.慢心と油断なく不届き物を滅する為です。後は、一撃は油断ならないから変身の隙つかれてはならん。という心理も働きました。

Q.で、実際ミルドラさんドレイクより強いん?
A.タイマンだとドレイクは勝てません。回復手段が乏しい故にイイ所まで追い詰めた後撃墜されます。

そして、単独で力を積み上げ、部下たちに対して無関心であるが故に複数の力が集まった強さと言うモノをミルドラさんは知りません。
集めた魔物達も弾除け程度にしか見てないというブラック上司です。

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