勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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前回までのあらすじ

ミルドラースさん、フラグの海に埋まる。

4/2 長い充電時間頂いておりましたが、今週末更新させて頂きます。


35

「ギガ、デイィィィィィン!」

 

 

 天空の剣を握りしめた、白銀の巨竜の背に乗った勇者。レックスが何度目かもわからない破邪の雷光を大魔王ミルドラースへ放つ。

 その一撃は、イオナズンを足元に撃ち込まれてよろめいた大魔王に直撃し、お返しとばかりにイオナズンをミルドラースが放つも白銀の巨竜が身を挺して背に乗った家族達、そして足元で闘う者達を庇う。

 

 規格外の魔力から放たれたその呪文は、一撃で巨竜……ドレイクの全身に軽くない痛手を与えるも、即座にマリアとポピーが回復呪文をかける事で修復されていき。

 その瞬間、体力と魔力の補充を終えたリュカがドレイクの背から飛び降りながら、手に握りしめたドラゴンの杖の力を解放してドラゴラムを発動すると。ドレイクとよく似た、幾分か細身のドラゴンへと変貌。

 ドラゴンと化したリュカは視線だけでドレイクへ合図を送ると、灼熱の炎を大魔王へ浴びせかけ……ドレイクはそのブレスと反発しないよう位置を調整しながら、輝く息をミルドラースめがけて発射する。

 

 ブレスの余波によって、絶え間なく襲い来る魔物の群れが壊滅状態に陥る中、何匹かのギガンテスが決死隊とばかりに飛び出してくるも……。

 ドレイクの足元で闘い続けている、パパスとコリンズの連携でそれらの魔物は成す術もなく迎撃されていき、遠距離から呪文を放とうとしていたライオネックの頭部に、テンが放ったビッグボウガンのボルトが深々と突き刺さる。

 

 

 大魔王との決戦は、さながら砦が如き立ち回りをするドレイクを基点として、圧倒的な攻撃力と体力を誇る大魔王ミルドラースと言う名の城を攻略する攻城戦が如き様相を呈していた。

 人数上はドレイク側が圧倒的に不利であった。

 

 

 だがしかし。

 

 

「今です!皆さん!」

 

「コリンズ、突出しすぎるなよ!」

 

「お爺様こそ!無茶は禁物だぜ!」

 

 

 ドレイクの背に乗り、戦況を窺っていたマーサが響き渡るような透き通った声で合図を送ると共に状況が動く。

 

 互いに背を預け合いながら、パパスとコリンズが互いに叱咤しあい、隙を見せる事なくドレイクへ群がろうとする魔物達を斬り伏せて蹴散らし。

 彼らへ忍び寄ろうとする魔物を、ゴレムスやアンクルが全力で叩き潰し、スライムナイトのピエールが傷付いた戦士達をベホイミで癒しながら、ライオネックと切り結ぶ。

 

 

「ベネットお爺ちゃん特製の爆裂ボルトだ。持っていけぇ!」

 

「テン!玩具に夢中なのは良いけど、シャドウの事も考えるのよ!」

 

 

 爆弾岩の欠片を素材にした、突き刺さった目標にイオラ並みの爆発をピンポイントで叩き込むボルトをビッグボウガンにセットしたテンが、跨ったシャドウの機動性で翻弄しながら危険な呪文を放とうとした魔物達を狙撃して爆砕し。

 前線でグリンガムの鞭を振るうデボラが、グレイトドラゴンの攻撃を避けながら注意を飛ばす。

 

 

「ビアンカ、近寄る魔物はこちらが引き受ける。攻撃呪文の手を緩めるな!」

 

「言われなくてもわかってるわヘンリエッタ!頼りにしてるからね!」

 

 

 チロルにビアンカと共に跨ったヘンリエッタが、デーモンスピアを振り回し果敢に向かってくる魔物の息の根を一突きで止めながら、返り血を浴びても気にすることなくビアンカへ向かって叫び。

 片手でチロルに掴まりながらビアンカはその叫びに対して吼えるように応じながら、ミルドラースが隙を晒すたびに地上からメラゾーマをこれでもかと言わんばかりに放ち続ける。

 

 そうして戦線をかき乱し、白銀の巨竜を討伐するのに邪魔な連中に対してミルドラースが業を煮やし、巨竜討伐ではなく人間達を先に滅ぼそうと目標を変更すれば……。

 その隙をドレイクは見逃さず、全身に魔力を迸らせて天に向かって咆哮し、その直後に暗黒の空間全体に青白い雷光の雨を豪雨のように降り注がせることで、魔物の群れに壊滅的な損害を与えた上でミルドラースの巨体に多大なるダメージを与える。

 

 

 忌々しい攻撃に四つの腕で自らの体を守りながら、瞑想で傷を癒そうとするミルドラースであるも。

 そこにすかさずドラゴンへと姿を変えたリュカが灼熱の息を浴びせかけると共に……ドレイクの背に乗っているレックスがギガデインを、タバサがメラゾーマを、ソラとフローラがイオナズンを連続で叩き込み。

 魔物の群れの圧力が緩んだタイミングで、マリアとポピー、そしてマーサが治療と補助を全体へかけ直していく。

 

 

 最早封殺と言わんばかりの布陣と連携、しかしある意味で当然とも言えた。

 リュカ達は、自分達の持てる力全てを使ってドレイクを取り戻す為の闘いを挑む為に、幾重にもパターンを構築した上で様々な作戦を用意していた。

 その作戦は、致死の一撃を率先して受け止める白銀の巨竜と化したドレイクと……。

 長い年月の間ミルドラースに利用され続ける中、大魔王の精神性と特性を分析し、適切な手を指示し対応を打てるマーサが加入した事で盤石と言える状態となっていたのだ。

 

 

 

 大魔王ミルドラースは、自分が今置かれている状況を理解できなかった。

 進化の秘法を御しきり、更に永い年月で魔力と力を蓄えた王の中の王である自分が、何故ここまでやりこめられているのか。

 苛立ちと共に放った呪文や攻撃は、誰も死なせないと強い意志と決意を持ったドレイクに全て防がれ、矮小と断じた者達の攻撃は自分の配下のみならず自分自身にも少なくない痛手を与えてくる。

 

 

「何故そのような力を持ちながら、人の為に戦う……?いずれ排斥されるというのに……」

 

「そんな事、俺が知るかぁ! 家族の為に戦ったらついでに世界が救われる、その程度でいいんだよ!」

 

 

 一矢報いんとばかりに、逃げ惑う魔物達を踏み潰しながらミルドラースは白銀の巨竜へ突進し、四つの腕による一撃を叩き込もうと襲い掛かる。

 しかし、左右に分かれた白銀の巨竜ことドレイクと、ドラゴンに変じたままのリュカがミルドラースの剛腕を全力で受け止めた。

 納得がいかないとばかりに、大魔王は白銀の巨竜へ語り掛ける。しかし巨竜はその言葉を一蹴し、ミルドラースの膂力に負けそうな妻の様子を横目で見るや否や。

 

 

「レックス! 力を託す、ミナデインをぶち込んでやれぇ!」

 

「うん!」

 

 

 背中に乗ったままのレックスに、超弩級の一撃を放つよう合図を送る。

 まずいと思い逃げようと大魔王はもがくも、ドレイクに受け止められた2本の腕は震えるのみで言う事を聞かず、リュカに受け止められている方の腕は多少自由が利くも、それでもまともに動かす事は出来ない状態で。

 

 潰走状態となっている魔物の群れの中からドレイクの背後へ戻ったパパス、ビアンカ、ヘンリエッタ、デボラ、コリンズ、テン。そしてチロルとシャドウを筆頭としたモンスター達の家族達と明日を迎えたいという願い。

 そして、ドレイクの背に乗ったままのマーサ、フローラ、マリア、タバサ、ソラ、ポピーの平穏な愛に満ちた日々を続けたいという祈り。

 この場には居ない、遥か遠い地上で息子たちの帰りを待つマスタードラゴンと……家族と友の帰りを待つ者達の想い。

 

 今この時も、大魔王を逃さない為に拘束し続けているドレイクとリュカの……天空の剣に宿るホークの未来への希望が。

 

 

 ドレイクの背で瞑目し、天空の剣を掲げるレックスの体に確かな力となって集まっていく。

 

 

 

 最早目も開けていられないほどの輝きと暖かさを放つソレを、大魔王ミルドラースは恐怖した。

 なんなのだアレはと、どうして絶対的な力を手に入れた自分を凌駕する力をアレから感じるのだと。

 

 

 絶対的な支配者となるべくただ独りで力を高め続けた事が、皮肉にもミルドラースから今自分を滅しようとする力の存在を理解させることを拒ませていて。

 己の欲望と害意の為に、他者を踏み躙る事すら無関心であった王の中の王。大魔王ミルドラースは……。

 ドレイクを起点として作られてきた絆が齎した、レックスが放つミナデインによってその存在を根源から抹消されるその瞬間まで、己の間違いに気づく事は無かった。

 

 

 




【悲報】ミルドラース、ミナデインによって爆砕される【残当】

プロット上は、追い詰められたミルドラースさんが第三形態発動してぶっ殺しに来るまで考えたのですが……。
無関心で独りであったが故に、束ねた力に蹂躙される。と言う展開の方がスムーズになりそうだったのでこうなりました。
故に、ミルドラース救済案は永遠に没となったのだ……。


次回からは大団円のエピローグの予定。
ラストバトルがドレイク戦に比べあっさり?でも正直、あれ以上の激闘を書く自信なかったんです。
お許しください。

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