勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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大変お待たせしました。
エンディングとも言える、話となります。


36(本編完結)

 

 

 

 王妃マーサを背に乗せ、誰一人欠ける事無く凱旋した白銀の巨竜の姿を、魔界に通じる異界への入口の前に集まった人々は固唾を飲んで見守る。

 そして、背に載せた人々を下ろして人間の姿に戻ったドレイクが、大魔王を滅ぼした事を告げた瞬間洞窟中に響き渡るような声で歓声が響き渡った。

 日々を生きる大多数の人々は知る由もなかった、地上を蝕もうとした悪意は討ち滅ぼされたのだ。 

 

 

 そして、時は流れ……長年の虜囚生活によって衰弱したマーサの治療と、激戦を終えたドレイク達の疲労が取れた頃のグランバニアにて。

 彼の国の歴史上、前例のないほどに盛大な宴が催されていた。

 

 

「ドレイク、本当に、本当にありがとう……」

 

「水臭い事言わないでくれ、パパスさん」

 

 

 杖の支えを要しつつも、自らの足でしっかりと立っているマーサの傍に寄り添いながら、義理の息子であると共に娘の伴侶であるドレイクに国王のパパスは深く頭を下げる。

 その顔付き、そして漂う雰囲気はかつて旅をしていた頃に比べ、随分と落ち着いた年相応のモノへと落ち着いていた。

 

 もう、剣を手に取り戦う必要はないのだとパパスは理解し、残りの生を妻と家族達と過ごそうと決意した男がそこにはいた。

 

 

「マーサさんも、アレから体調はどうだ?」

 

「正直良すぎて怖いくらいよ。レックスの結婚式を夫と一緒に見るまでは死ねないわ」

 

「夫婦そろって、末永く長生きしてくれ」

 

 

 療養生活の間、自らの娘を含めた複数の伴侶を娶っている義理の息子に持っていた隔意も、まぁそれなりに打ち解けたマーサは。

 ドレイクの問いかけに上品に笑いながら、夫婦揃っての長生き宣言をしてくれた様子に嬉しそうにドレイクは笑みを浮かべると、二人と乾杯してから朗らかな笑顔を浮かべて給仕に回っているサンチョへ近づく。

 

 

「サンチョも、こんな時ぐらいゆっくりすれば良いのに」

 

「何を仰いますか坊ちゃま、こういう時だからこそしっかり働かないと。しかし……ううっ……パパス様とリュカ様が旅に出られてから、今日この時をサンチョは待ち望んでおりました……!」

 

「サンチョは相変わらず、涙脆いなぁ」

 

 

 空のグラスが幾つも載った盆をテーブルに置き、目尻に浮かんだ涙をハンカチで拭うサンチョの様子にドレイクは苦笑いを浮かべつつ。

 全部終わったんだ、後は平和な生活が続くさとドレイクが言葉をかけたところ感極まったサンチョの啜り泣きが号泣へと変わり、気まずさからドレイクはサンチョから飲み物を受け取りつつそっとその場を立ち去る。 

 

 

「やぁドレイク、まさか義理の息子が大魔王討伐の立役者だなんて、驚けば良いのか鼻高々なのか。どっちだろうな?」

 

「何言ってんのよアンタ!まずは感謝するのが先さね、全員無事に帰ってきてくれた上に平和を齎してくれた事のね!」

 

「ははは、変わんないなお二人さんは」

 

 

 既にほろ酔い気味なのか、赤ら顔のダンカンはドレイクに気付くと肩を叩きながらとぼけた表情でそんな事を呟き。

 隣に立っていたダンカンの妻、マグダレーナが遠慮ない強さで夫の脇腹を肘で小突く事で勢いよく咳き込ませている。

 そんな、本来の歴史であればありえない幸せな二人へと、ドレイクは笑みを浮かべながら言葉を交わし。次の人物の下へ向かう。

 

 

「おお婿殿! お主にはどれだけ感謝を重ねても足りぬわ、デボラも娶ってくれた上に孫まで見せてくれた事まで含めてな!」

 

「もうあなたったら、そんな事言うとまたデボラに叩かれますわよ?」

 

「こちらこそ、ルドマンさん達の援助のおかげで遠慮なく大魔王をぶちのめす事が出来た。感謝し足りないのはこっちの方さ」

 

 

 義理の父の一人である、ルドマンと軽くグラスを合わせて乾杯しながら共に杯の中身をドレイクは呷り。

 横目で、気付いてない振りをしながらも、こちらに聞き耳を立てているデボラに気付き、まとめて折檻を受ける前にドレイクはそそくさとルドマン夫妻から離れ……。

 近くで談笑していた、アンディ夫妻の傍へ歩を進める。

 

 

「この間は苦労かけたなアンディ、嫁さんとは上手くいってるか?」

 

「ああドレイクか、勿論だとも。僕には勿体ないぐらいに出来たお嫁さんだからね」

 

「あ、あの、その。初めまして、スーザンと申します」

 

 

 新たな中身の入ったグラスを目についたテーブルから手に取り、ドレイクはアンディとグラスを突き合わせる。

 そして、紹介されたアンディの嫁に挨拶を返し、妙に緊張している様子から首を傾げて聞いてみれば。 ドレイクの活躍を詠った詩があり、その詩の渦中の人物だからねとアンディはグラスの中身を啜りながら答える。

 ドレイクはどんな詩なのか気になって聞こうとするも、聞いたら恥ずかしくて死ぬかもしれないという予感を感じ。軽く談笑をして二人から離れる事を選んだ。

 

 

 

 ドレイクは、パーティに来場している人物たちの様子を軽く視線を巡らして見回す。

 誰もが笑顔を浮かべ、そしてその全ての笑顔には未来への希望が輝いていた。

 何故か、生まれ持っていた知識にあった理不尽に納得がいかず、故に立ち向かい続けて得られた未来。

 眩いばかりのソレに、ドレイクは無意識の内に柔らかな微笑みを口元に浮かべて、グラスの中身を飲み干す。

 

 そして、少し離れてパーティの様子を見詰めていたドレイクに、プサンがほろ酔い状態を隠すことなく近づき。

 左手に持っていた、中身が満たされたグラスを息子へと手渡す。

 

 

「ドレイク、お前が勝ち取った未来で幸せだ。そんな離れたところに居るモノじゃないぞ?」

 

「親父……ああ、そうだな」

 

「……ドレイク、お前の中の魂がこの世界に産まれたモノと少しだけ違うと言う事は私は最初から知っていた。しかし、その事に負い目を感じる必要はないぞ……お前は私の息子なのだからな」

 

 

 プサンからグラスを受け取り、宴の中心へ向かおうとするドレイクの背に、プサンから穏やかで父性に満ちた声が投げかけられる。

 不意打ち気味に放たれたその言葉を聞いていたのは、ドレイク以外には居らず……ドレイクはグラスを肩越しに掲げて、プサンへの返事とした。

 

 

 

 

「ドレイク大丈夫? 飲み過ぎてない?」

 

「結構飲んでる筈だけど、割と平気なんだよな……」

 

「お父さん、お酒臭いよー」

 

 

 宴の渦中で談笑していた、愛しい妻と子供達の輪へとグラス片手に近づくドレイク。

 そんな夫に、いち早く気付いたリュカが心配そうに声をかけ、ジュースを片手に兄弟達と談笑していたレックスが楽しそうに笑い声を上げる。

 息子の言葉に、ドレイクはニヤリと笑みを浮かべると片手で抱き上げて頬擦りし、頬擦りされた息子はじたばたともがいて逃れようとする。

 

 そんな事をすれば、構ってもらいがちな彼の子供達は僕も私もー、と父親であるドレイクに飛びつき始め。

 グラスの中身を零さないようテーブルに置いたドレイクは、まとめて面倒を見てやるとばかりに一遍に抱き上げ、父親の腕や腰にぶら下がった息子や娘達が嬉しそうな歓声を上げる。

 

 

「うふふ、ドレイクまであんなにはしゃいじゃって」

 

「まるで大きな子供よねー」

 

 

 そんな夫と子供達の様子に、ビアンカはクスクスと微笑み、デボラはこれ見よがしに溜息を吐きながらもその目には家族を慈しむ感情を隠しきれておらず。

 二人の視線の先で、子供達はしきりに今後は父親であるドレイクと、ずっと一緒に居られるのかと念押しをしていた。

 

 

「ドレイクさんの英雄譚を、劇場方式で広めれば……」

 

「……マリアさん、その話。詳しく聞かせて下さいな」

 

「承りました。まずは各国で有名な吟遊詩人の心を擽るようなドレイクさんの逸話をですね……」

 

 

 そして、ドレイクと子供達の様子を尻目に、未来を見据えた英雄譚の伝達をマリアが目論見。

 その独り言を聞き逃さなかったフローラが、ほんわかとした口調とオーラを崩すことなく詳細を望み、後日ドレイクが恥ずかしさの余り悶えて転がるエピソードが伝播される切っ掛けになったりしていた。

 

 

「なぁマリア、ヨシュアはどうした?」

 

「兄さんならあちらにいますよ。ご令嬢様方に囲まれて身動きが取れないようです」

 

「……ヨシュアもアレで、顔は整っているし腕は立つからな」

 

 

 ついでにドレイク様の親友で独身ですから、令嬢様方は狙いますよね。などとマリアは朗らかに笑いつつ、視線で助けを求めてくるヨシュアの助けをそっと見なかった事にし。

 ヘンリエッタもまた、マリアに続いてヨシュアを見捨てつつ、頭を強引に撫でられ逃げようとしつつも満更じゃなさそうな息子のコリンズの様子に、穏やかな笑みを浮かべる。

 

 やがて、父親に構ってもらって満足したのか子供達は一人、また一人とドレイクから離れて母親の傍へと戻り。

 元気が有り余ってる子供達の相手で少し疲れたのか、ドレイクはグラスを手に取ると中身を一気に呷ると、そっと傍に寄り添ってきたリュカの頭を撫でながら。

 走り続け、戦い続け、頑張り続けてきた男はぼんやりと言葉を紡ぎ始める。

 

 

「……なぁ皆。俺は俺なりにずっと頑張ってきたつもりなんだけどさ……俺は、頑張れたのかな?」

 

 

 知りうる限りの理不尽な運命に抗い、立ち向かい、薙ぎ払ってきた男の呟き。

 その内容に、ドレイクの言葉の意味が解らない子供達は首を傾げる等して不思議がる中……。

 ドレイクを愛し、ドレイクが愛する妻達は互いに顔を見合わせて、柔らかく苦笑いすると。

 

 

 口を揃えて、しょうがない人だなぁというどこかズレた感性を持つ夫へ、告げる。

 

 

「「「「「「むしろ頑張り過ぎ」」」」」」

 

 




以上を以って、拙作である本作は一旦本編完結となります。
長く、そしてブレまくった本作にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。




長い充電期間を置かせて頂いた理由ですが、あのまま勢いで書くと寿命的に一人置いていかれたドレイクが。
「俺は、大丈夫だ……まだ、まだ頑張れる……」
と疲れ切った目で、呟きながら妻も子もマスタードラゴンすらも居なくなった世界で、一人守護者として戦い続けるというエンディングを書きそうだったからです。

なので、色々とハッピーエンドな作品や展開に触れたり、グラブルのポブ散歩走り続けたりしてハッピーエンド力を溜めておりました。

途中、何個かネタがある平和になった後の世界の番外編、後日譚を書いた後。締めのエピローグを書いて終了となります。

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