勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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平和になった時代、穏やかな日常。
闘いぐらいでしか役立てない、男の闘いが今始まる。かもしれない。


後日譚1『職業:無職』

 

 

 大魔王ミルドラースを討伐し、平和が訪れた世界。

 そんなある日の事、白銀の巨竜として大魔王討伐の闘いにて八面六臂の活躍をした男、ドレイクはグランバニア城のテラスにて……

 

 

「……いかん、暇過ぎる」

 

 

 仕事がないという現実から逃避するかのように、ぼんやりとお茶を啜っていた。

 何故ドレイクは暇なのか、ソレには色々と政治的事情が大きく関わってくる。

 

 ドレイクと言う存在は、言ってみれば単独で国家総動員した軍隊にすら匹敵する、この世界における単独でありながらも最強の戦略級ユニットと言えるのだ。

 更に、天空の勇者としての実績がある上に子供達は誰もが綺羅星が如き才能の塊で、各国家の要人とも関係が深い。

 トドメとばかりに、彼の父親は最高神であるマスタードラゴンと来たから、更に国家として考えた場合彼の扱いは非常に面倒この上ない事となる。

 

 ここまで積み上げたら、いっそ排斥した方が楽としか言えないレベルの存在なのだが、彼が成した功績と名声が幸いにもその手の風潮が産まれる事を防ぐ役割となっていた。

 しかし、ドレイクが無職と言う名の妻達のヒモ状態というのは、変わらないのである。

 

 

「なぁピピン、ちょっと畑とか耕したりとかで貢献できたりしないかな?」

 

「出来ないと思いますよ」

 

「だよねー」

 

 

 ついでに、ドレイクと言う男は割と戦う事以外は、これと言った特技が無い生い立ちをしていた。

 せめて、幼少の頃から始めており大神殿でも実績のあった農業をやろうかと、傍に控えていた若い兵士に問いかけてみるも、返事は無常である。

 

 

「レックスは勉強中だし、タバサはダンカンさんのところで宿の手伝いしてるしな……」

 

「ドレイク様は、ゆっくりしても許されると思うぐらい実績上げてるからのんびりしてれば良いじゃないですか」

 

「なんかこう、気持ちが落ち着かない。こう……嫁の稼ぎだけで生活するあらくれ的な存在になったみたいで、やだ」

 

「難儀な性分してますね、ドレイク様」

 

 

 考えていても埒が明かないとドレイクは一念発起すると、カップの中のお茶を飲み干して席を立って歩を進める。

 目指すは、玉座の間にいる義父と愛する妻の一人であるリュカの下である。

 

 

 そんなこんなで辿り着き、王としての職務に専念するパパス達が落ち着くタイミングを待って玉座の間へ足を踏み入れるドレイク。

 そして、ドレイクが神妙な顔をしているから何かあったのかと心配する二人であったが、ドレイクの言葉に思わず苦笑いを浮かべる事となる。

 

 

「暇すぎて、居心地が悪いとは……難儀な性分だな、お前も」

 

「そうだよドレイク、そんな事気にしなくていいのに」

 

 

 ドレイクの言葉に苦笑いしつつも、旅を続けその中で路銀を稼ぐために魔物退治をしたり街の住人の依頼を受けたことがある父娘は、ドレイクの気持ちもまた何となく理解はでき。

 それ故に、ドレイクにも出来そうでかつ国家間の問題を招かない仕事として、新兵への訓練教官をやってみてはどうかと仕事を持ちかけた。

 

 そしてコレが、ある意味において悲劇であり喜劇の始まりであった。

 

 

 ドレイクという男は、幼少期に母から訓練を受けながら……へびておとこや、ホークブリザードが闊歩する魔境とも言える環境を生きてきた男である。

 故にこそ、彼にとって訓練や鍛錬と言うものは死と隣り合わせであり、死中に輝く生を掴みとる為のモノなのだ。

 

 つまりどう言う事か起きるかと言えば。

 

 

 

「こひゅー、こひゅー……」

 

「あばっ、あばばばばっ……」

 

「くっくるーがとんでいる、ぴよ、ぴよ、ぴよ……」

 

 

 息も絶え絶えに練兵場に転がる未来を夢見ていた新兵だった者達が、その答えだ。

 

 

「ドレイク」

 

「はい」

 

「頑張らせすぎ」

 

「ごめんなさい」

 

 

 ついでに、下手人であるドレイクは妻であるリュカに、練兵場の隅にて正座させられ説教を受けていた。

 ドレイクにとっては軽い、子供でもできる運動から始めてみようかという気持ちで、かつて自分が受けていた訓練や走り込みを延々とさせていただけなのだが。

 いかんせん、エルヘブンの中でも少々ズレている一族出身な母親から受けていた訓練自体が、一般的な訓練から大きく離れているということ自体をドレイクは知らない事がこの悲劇の原因だったのは言うまでもない。

 

 

 そんなこんなで、ドレイクの訓練教官は一日でその任を解かれる事となり。

 どうしたものかと、とりあえず手慰みとばかりに一角うさぎ一家の新作を彫りながら、次の無職脱出計画を思案するドレイクなのであった。

 

 

「あのードレイク様、思ったんですけども」

 

「どうしたピピン」

 

「もういっそ、リュカ様やビアンカ様、そしてそのほかの奥様方に飼ってもらうのが一番なのでは?」

 

「ぶっ飛ばすぞこの野郎」

 

 

 

 

 うららかな日差しが降り注ぐ中、今日も今日とて半ば指定席じみてきたグランバニア城のテラスにて。

 そんな会話を続ける男達なのであった。




魔物退治に出ようにも、それはそれで妻や子供達に心配かける事になるので出るに出れないアホな男が。そこにはいた。


こんな感じで、緩い後日譚を不定期に今後出していく予定です。

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