Fate/the Atonement feel 改変版   作:悪役

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生ある祈り

 

 

 

───ここまで攻撃を交わしながら、遠坂真には戦闘を続行するつもりも無ければ、殺し合いに乗る気も無かった

 

 

 

クラリス相手と戦いはしても正直殺す気も無かったし、もしも唐突に戦闘を中断するような幸運があればもろ手を挙げて賛成していたくらいだ。

遠坂真にとって殺し合いなんて何のメリットも無い行いだし、やりたくも無ければ必要とも思っていなかった。

だから、出来るのならばクラリスがこいつと戦うのは不利益だと思わせればいいかと思い……それは乱入者が現れた後も変わらない方針───のつもりであった。

 

 

 

 

先程の口上に聞き逃せない言葉があった

 

 

 

3人の魔力が衝突した事に発生した衝撃波を魔術で逸らしながら、真はシルヴィアの方を無表情で見ながら声を掛けた。

 

 

 

「……お前、今、俺の母の名を出したな?」

 

 

しかも、その前にシルヴィアはこう言った。

ここに居るのは趣味と実益と──義理という名の仕事だと。

趣味と実益についてはエーデルフェルトの家名から大体読み取れるが……俺の母の名を出した上で仕事という事になると──最悪な予感が脳裏に浮かぶ。

それを恐らく正しく読み取った女は俺の炎に対抗する為にサファイアから産み落とされた氷結の嵐を身に纏いながら、優雅に答えた。

 

 

 

 

「ええ。正確には私の母に対する依頼ですが。内容は行方不明になった貴方を見つけて報告する事」

 

「……」

 

 

予想通り───最悪な依頼。

その通りならば、彼女はフランスの郊外で俺を既に見つけていた、というならば

 

 

 

「……その報告は」

 

「勿論、もうしていますわ。恐らく母が既に伝えているでしょう」

 

「──はっ」

 

 

考える限り最低の返事に思わず笑ってしまう。

3年に渡る逃避行がこんなろくでもない事件に巻き込まれた事によって無駄骨に終わるとは流石に思ってもいなかった。

だからと言って、真は殺意に身を委ねるつもりは無かったが……八つ当たりだけは非常にしたくなった。

仮想の弾丸が装填されるのを脳内で浮かびあげ

 

 

 

「──ACCESS(接続開始)

 

 

起動された魔術回路はほんの42本程。

それらを以て、魔術理論を組み上げ、構築する。

 

 

 

「I'll give will and the shape(知性無き形に) to the shape(今こそ意思と) without(形を授けよう) the intellect now.」

 

 

 

淡々と述べる呪文は小規模の世界改変。

周りに渦巻いていた炎は自分の魔力に反応し、形を変える。

 

 

 

「The mission by which it(汝に与えられた) was given(使命は) to you(狩人) is a hunter. Prey(悉くを) on completene(捕食せよ)ss.」

 

 

魔力を持って作られた形は虎。

炎を肉体として作られた獣は架空の唸りを以て己の生誕を祝った。

 

 

 

「なっ……!?」

 

 

クラリスは俺の魔術に驚いたように硬直し、

 

 

 

「──最高ですわ!」

 

 

シルヴィアは俺の魔術の出来に勝手に歓喜した。

当然、どちらの反応にも付き合う理由が無い俺は躊躇わずに炎の虎に行け、と命ずる。

創り手の言葉に、作られた獣は従い、突進した。

大地を溶かしながら燃え上がる獣は神話の獣のような幻想さすら生み出しながら、八つ当たり対象であるシルヴィアに向かった。

何もしなければそのまま炎によって"焼き喰われる"──が、当然、闘いに挑んできた魔術師にはそんな2流な事はしない。

シルヴィアもまた新たにアクアマリンの宝石を取り出し、指を滑らしながら、己の魔術回路を完全起動させる。

 

 

 

 

「──Standing(立ち上がりなさい)

 

 

 

気高き意思を以て、己と闇を直視する姿は確かに一流だ。

目の前から炎の獣が近寄っても尚、集中力を切らさないのはどの魔術師が見ても十分な評価を得れる。

自己への暗示、魔術回路の質と量と回転数。

どれを取っても満点に近い業は当然、現実に反映される。

 

 

 

「It's connected(蒼の) to number(十二番に) twelve(接続) of ao.Kaiou's stellar(海王の星の) silence(静けさよ). Be led to(汝の女王に) your(導かれよ) queen.」

 

 

流麗な美しい呪文は俺のように分かりやすい形とはならなかったが、結果は反映された。

炎を以て形となっていた虎が、段々と解れていったのだ。

アクアマリンは海王星の象徴であり、海王星には解放の意味もあるのを考えると………自身の魔力によって生成された虎が今、自分の手から解放される為の術式と判断する。

向こうも即興だろうに大したものである、と思っていると

 

 

 

 

「私を忘れないでよね………!!」

 

 

クラリスの叫びと共に解き放たれるのは髪を媒体にした巨大な剣。

どちらかではなくどちらもを狙う辺り豪胆と言うべきか、クラリスの心根が見えると言うべきか。

どちらにしろボーっとしていたら串刺しにされて死ぬだけだ。

地面を数度叩きながら形を崩しかけている虎に再度魔力を流し込む。

魔術によって解呪されつつあった虎は、正しく力づくで形を作り直し──そのままシルヴィアに向かって突撃を行った。

 

 

 

「……!!」

 

 

こちらの意図を理解したシルヴィアはやってくれますわね!? 的な顔をこちらに向けて来たが知らん。

絶体絶命だろうけど、その程度なら助かる力を持っているだろう。

で、自分に来る剣に対しては

 

 

 

何もせずにその剣に突き刺される────()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

炎を使った蜃気楼という、よくある手品である。

魔術を利用した蜃気楼だが、お陰で二人の少女の驚く様が見れただけで少しスッとした。

ストレス発散は人間の健康を維持する為の必須技能だなと思いながら……さて、と本題を思い浮かべる。

 

 

 

 

このままでは色々とジリ貧である

 

 

勝敗がどうこうではない。

絶対に勝つとは言わないが、勝てないとも言えなくもない戦況だが……聖杯戦争においてただ勝つ事が勝利に繋がる事ではない、と俺は判断している。

例えば、ここでマスターのどちらかを討ち取ったとしよう。

その場合、サーヴァントは即座には消えない。

流石にそこから新たなマスターを見繕うのは難しいが……弔いの為に最後の抗いを見せる事くらいなら可能だろう。

勿論、それもマスターとの関係次第だろうが、楽観するわけにはいかない。

 

 

 

 

今の俺の死は、セイバーの死に繋がるのだから

 

 

そうなると当然、最初に選ばれる選択肢は逃走である。

だからと言って人の足はおろか同じサーヴァントの足では危険だし、後に続かない、と思っていると

 

 

 

「……おっ」

 

 

近くを見回していると──とんでもなく幸運な物が見つかる。

恐らく外にいるサーヴァントの攻撃の余波によって吹き飛んできたものなのだろうけど……相当ついている。

鍵は鍵穴から逆算して投影すれば一瞬である事を考えると……後はタイミングか、と思い、セイバーに念話を繋げてみる。

 

 

 

 

『セイバー。そちらの状況は?』

 

『──はい。正直に申すと芳しくはありませんね』

 

 

やはりと言うべきか。

向こうの戦況も決して良いと言えるわけではないようだ。

 

 

 

……その割には急な念話にあっさりと応えたけど……?

 

 

声色には特に緊迫した様子は無いが、セイバーなりの戦闘意識から来る物かもしれないと思い、改めて言葉を重ねる。

 

 

 

『こっちも似たような物だ。勝てないとは言えないけど……迂闊に勝ったら勝ったでサーヴァントの逆襲が怖い。だから──」

 

『撤退、ですね。同意見です。ですが』

 

『ああ、足ならこっちで見つけた。だから、後はタイミングなんだが……』

 

 

撤退における一番難しい事をどうやって打開するべきか……殺し合いをしながら上手く形に出来るのか、という事から念話の中で言葉を止めたが

 

 

 

 

『──それなら、マスターのお好きに動いてください。私はそれに合わせて動きます』

 

 

と、あっさりと何時でも行ける、という言葉を告げた。

……セイバーの言葉を信じるなら、敵はセイバーをして尋常ではない相手の筈なのだが……本人が出来ると信じるならマスターである自分は信じるだけだ。

 

 

 

『──分かった。派手な方法で知らすから準備しておいてくれ』

 

 

了承の言葉を受け取った後に念話を閉じて魔術回路を更に複数起動させる。

どうせなら派手な演出こそがこの二人にも、サーヴァントにも効くだろうし……精々盛大にやろう、と己の双剣の設計図を脳内に58本叩き込みながら──無意識に小さく唇を歪ませた。

 

 

 

※※※

 

 

 

真が予想していた通り、サーヴァント同士の殺し合いは魔術師にも負けぬ様相を映し出していた。

駅から外に出た場所は町の中心部。

人や車などが行き交う場所は最早、過去の話。

 

 

 

セイバー、アーチャー、ランサー

 

 

まるで誂えたかのように集まった3騎士の殺し合いは全員が全員、致命の領域の中で得物を振り合う接近戦となった。

アーチャーだけが唯一クラスからしたら得意距離(レンジ)ではないが……アーチャーのクラスで現界した事程度で近接戦闘能力落ちる事など一切ない英霊である以上、無問題だ。

その上で全員が全力を出す事は無いが、本気の殺意と攻撃を交わし合っているのだ。

人の生み出した街など硝子細工よりも脆く砕けていく。

今もまた

 

 

 

「梵天よ……!」

 

 

圧縮された眼力が地と空を走り、続いて燃え盛り爆発する。

爆炎は吠える様に高らかに舞い上がり、辺りを炎熱の地獄と化す。

しかし、ランサーは超常的な眼力を解き放ちながら、しかと確認していた

 

 

 

 

───灼熱地獄の爆炎の中、二つの影が飛翔するかのように躱し切るのを

 

 

 

影を確認した瞬間、炎の影絵の中から大量の矢が放たれる。

次々と放たれる矢は、最早、それ自体が魔弾である。

ランサーとて大英雄の霊格を持ち、それ相応のステータスを持っているが……スキルではなく、培ってきた戦術眼が躱すより叩いて落とした方がいいと判断する。

即座に長大な槍を構え、連続で全ての矢に対して槍を合わせる。

矢に合わせたというのに、その手応えは大剣や力自慢の英霊の一撃と何ら変わらない、という事実にランサーは肉体と心を震わせる。

様々な相手と戦い、時には神にも等しい英霊とも戦ったり教えを授かった事があるランサーだが──これ程の手応えを感じる矢は、果たして受けた事があったか。

 

 

 

 

その手応えに歓喜の熱を笑みとして浮かべ────ようとした瞬間、ヒヤリと死神の手触りが首元を過ぎた

 

 

 

 

「──!!」

 

 

冷気を感じ取った瞬間にランサーは即座に無理矢理首を捻る。

その0.1秒後に───何時の間にか己の上を首を下にしながら剣を振りぬいている武者の姿があった。

黒の髪を翻しながら刃を振りかざす女の姿はランサーからして悪夢のように感じる。

 

 

 

 

───その隙を見逃すアーチャーではない

 

 

 

先程の連打ではない、一つの一射に拘った矢はランサーをして不可避の速度を生みながら己の胸元に直撃した。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

アーチャーはランサーを射貫き、そのままビルの壁にまで吹き飛ぶのを見届けながら、その戦果を舌打ちした。

 

 

 

……撃たされたか

 

 

ランサーの体勢にセイバーの奇襲を受けての感覚の隙。

どれを取ってもアーチャーにとっては絶好の機会であり──それこそがセイバーの目論見通りである事を理解したからだ。

セイバーには己の手で敵を打ち倒さなければいけない、という願望は無い。

あるのは合理的なまでの戦術論理。

最も的確に敵を倒せるのならば、誰が倒しても同じだ、という思考こそがセイバーの剣技と同じくらい厄介な"技"だ。

 

 

 

 

何せこの戦術論理はアーチャーですら賞賛しそうになる程、的確だ

 

 

セイバーが生み出した状況は弓兵であるアーチャーにとっては正に吸い込まれそうになるくらい魅力的な隙なのだ。

アーチャーからしたらこの程度の距離ならば敵がどれ程、高速に動いていたとしても射貫けるのだが……ランサーを相手にしても必ず当たる、と心の底から感じ取れる程なのだ。

 

 

 

 

完全完璧なタイミングで仕掛ける先を見据える戦術眼。

 

そのタイミングで振るわれる刃の驚く程の清廉で──空恐ろしくなる程に透き通る剣技。

 

 

本来、Aランク以下の攻撃ならば受け付けない肉体を持つアーチャー(ヘラクレス)だが……ヘラクレスも持ち合わせる心眼ですら完璧なタイミングであの一撃を受ければ斬られる、と推測出来るのだ。

心の底から畏怖を感じ取りながら……しかし大英雄の魂は一瞬にも満たない空白にそれらを握りつぶす。

 

 

 

 

──元よりヘラクレスには慢心を抱く気の緩みは無い

 

 

特に己の体と魂を存分に使い潰してでも守ると誓った小さき主を持った此度の現界においてはヘラクレスはどの世界の自分よりも妥協が無いと断言して良い。

 

 

 

必勝 必滅 必殺

 

 

この三つこそが自分が主に与えられる唯一の福音だ。

故にアーチャーはセイバーの一撃を脅威とは感じても恐怖は感じない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そういう意味ではセイバーに対して油断していいわけではないが、気にし過ぎる必要はない。

 

 

 

……問題は

 

 

と思考しながら、アーチャーは諸に胸の中央部に矢を受けたランサーが吹き飛んだ粉塵と瓦礫の中に視界を向ける。

丁度そのタイミングで粉塵が吹き飛ばされ──中から無傷のランサーが現れた所であった。

流石に己の事でもあるが故に呆れるのは筋違いではあるのだが……どうやらあの槍兵もまた不死身の英雄らしい。

 

 

 

 

いや、不死身というより……あの鎧が不滅と言うべきか

 

 

ここまでで都合49発程撃ち込んでいるが、己の矢を以てしても無傷。

こうなると自分の攻撃が失敗しているのではなく、太陽の如き絢爛な鎧の効果と見て取っていいだろう。

厄介ではあるが……恐らくセイバーも気付いている通り、鎧である以上、絶対的な効果があるのは鎧で覆われている所だろう。

頭部にも加護が無いわけでは無いのだろうが、間違いなく鎧で覆われている所と比べれば遥かに効き目は低いと思われる。

 

 

 

 

つまり、アーチャーにとってはどちらも殺せる算段が付いたともいえる

 

 

真っ当な攻撃の順番を語るならより脆いセイバーから行くのが常套手段。

恐らくランサーも同じ事は思っているだろう。

バトルロワイアルのような形式となった場合、最も狙われやすく且つ狙いやすいのは弱い存在から狙うのが定石。

卑怯でも無く汚いわけでもな当然の筋道を、しかしアーチャーは頷けなかった。

 

 

 

「……」

 

 

ランサーも同じ気持ちなのか、距離も相まって一種の膠着状態に陥る中、セイバーだけがゆらりと自然体の無構えの構えで自分とランサーどちらにも対応できる間合いで立っている。

己の立場を分かっている筈のセイバーには、一切の焦燥の色が見えない。

 

 

 

 

アーチャーとランサーに比べれば、セイバーの霊格は吹けば飛ぶような儚さ(カタチ)

 

 

それらはステータスにも反映されており、精々セイバーが自分達に打ち勝っているのは敏捷櫻井さんではないかと思われる。

その最も弱い英霊こそがここまでの戦果を形成しているのが脅威であった。

技巧の冴え、戦術眼の妙、刹那の間に隙を見出す反射神経。

霊格の差を技と速さだけで覆そうとしている事にアーチャーは畏敬の念を禁じ得ない。

アーチャーの心眼はセイバーに対して一度か二度、斬り殺された後、己の宝具によって勝てるという見積もりを立てている。

しかし、それはあくまで剣士としてのセイバーだけの技を見て取っての見積もりだ。

 

 

 

 

サーヴァントとしての奇跡──宝具を使われたのなら話は別だ

 

 

 

アーチャーも、ランサーも認めなければいけない事実。

十二の試練と鎧(宝具)が無ければ自分達は今以上にセイバーに追い詰められていたという事実を。

アーチャーは素でセイバーの刀を弾け、ランサーは鎧によってセイバーの攻撃箇所が頭部に限定されているからこそ凌げている。

逆に言えば……アーチャーとランサー程の大英雄が既に肉体を斬られているのだ。

神代を生きた英雄二人にとっては驚愕するしかない。

彼らにとって神秘は当たり前のように存在し、己と己以外の力や技になる事が常であった。

なのにこのセイバーは一切の神秘も無く自分達に脅威の念を湧き立出せる。

 

 

 

そんな相手が宝具を使えば、と思うと慎重にならざるを得ない

 

 

その視線を、セイバーは柳の如く受け流しなら、さらりと軽口を叩いてきた。

 

 

 

 

「どうしました? アーチャーにランサー。大英雄であるお二人が私程度の木っ端英霊に対してそこまで警戒をする必要は無いと思いますが?」

 

 

無駄口に付き合う必要は無いが……口もまた戦術の一つになり得る事を知っているアーチャーは敢えて軽口に乗る事にした。

 

 

 

「口が回るなセイバー。それ程の絶技を見せた後に木っ端等と言われても誰が信じるという」

 

「アーチャーに同意しよう。よくもまぁ、その脆い体でそこまでの技を練り上げたと感心するしかない。俺如きの賛辞では価値は無いだろうが、それでもその剣技は称えるしかあるまい」

 

「大英雄のお二人にそこまで言われるのならば私の大道芸も捨てた物ではないようですが……そっくりそのままお返ししたい所ですね──欠片も敗北感を抱かれていないのに賞賛されても無意味です」

 

 

全く以てそうだな、としか答えられない問いにアーチャーもランサーも、セイバーも苦笑する。

元より英霊とは奇蹟を形作った者。

特に戦から生まれた英霊であるならば、逆転や虐殺など赤子の手をひねるよりも()()()()()

 

 

 

 

敵が脅威──実に当たり前だ

 

 

敵が英雄を模した存在である以上、脅威にならない筈がない。

それこそ生前から経験した事だ。

──故に英霊殺しもまた自分達の特技である以上、本番はここからだ、とアーチャーは神性の証明でもある赤眼を以て二人を見る。

セイバーと変わらぬ自然体の出で立ちで──これまで以上の圧を全身から発しながら、大英雄は()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

※※※

 

 

噴出する闘気と殺意にセイバーはあくまで冷静の表情を浮かべながら、剣を構えた。

余裕のようにも見えるが、セイバーにとっては刹那の間ですら綱渡りだ。

彼らの武装はどれも神代の、恐らく神かその係累によって作られた特殊な武装。

自分の刀も十分な名刀ではあるが、人の手によって錬鉄された武器と神の手によって作られた武装では格が違う。

ほんの少しでも彼らの攻撃を受け取れば、その瞬間、彼女の刀はそこらにある建物と同じように砕け散るだろう。

バーサーカーもそうだが、近代の英霊を試し過ぎである。

 

 

 

 

その上で不死身だ不滅だなんて反則にも程がある

 

 

こっちには斬られても無傷等という特殊能力は無いのだ。

───それでも2騎が本気で殺しにかかろうと敗北するとはセイバーも思っていない。

彼らに奇蹟の象徴である宝具があるようにセイバーにも宝具がある。

最悪の場合、己も宝具を開帳して2騎を滅殺する覚悟はしている。

アーチャーの気迫に負けじと殺意を冷気として垂れ流す。

ランサーもまた自分達の殺意に対抗するかのように熱のような魔力を無言で組み上げているのを感じ取りながら、互いが互いの必殺を夢想し

 

 

 

 

 

駅内部から巨大な爆発と閃光が発生した瞬間、セイバーは合図を悟った

 

 

 

今までと比べても遥かに巨大な爆発音と衝撃波はアーチャーとランサーどちらに対しても今まで以上の大きな隙を生み出した。

その瞬間、セイバーもまたサーヴァントとしての自分に形作られたスキルを今こそ発揮した。

頭頂部から足の先までの全ての筋肉を意識して踏み出す。

踏みしめた大地が悲鳴を上げるかのように亀裂を作るのを見届ける間もなく、セイバーの位置はサーヴァントの速度を超えた速度でランサーの眼前に現れた。

 

 

 

 

「──っ!」

 

 

敢えて一度も使わずただ己の足だけで高速を刻んでいたが故に瞬間移動に近い歩法にランサーは驚愕に更に硬直を深め───しかし、即座に彼は槍を持っていない手を手刀の形に押し込め、そのまま突き出した。

見事な戦闘反射───が、セイバーからしたら欠伸がするような緩慢な動きだ。

セイバーの眼には()()()()()()()()()()手刀を突き出そうとしているようにしか感じず、だから突き出される手をこちらから手に取り、引っ張り上げ、その動きに合わせて足を引っかけ───そのままアーチャーの方に吹き飛ばした。

 

 

 

「ぬっ!」

 

「くっ……!」

 

 

恐らく2騎ともこちらの意図を読み切ったのだろうが、初動が遅れた二人は乗るしかない。

アーチャーとランサーが敵対している以上、近付いたのならばどうあっても対処せざるを得ず──そのタイミングで駅の構内から機械仕掛けの絡繰りを以て飛び出してくるマスターに感謝の笑みを浮かべる。

 

 

 

 

「ぬーすんだバイクで走り出すーーー!!」

 

 

何か微妙な叫び声と共に飛び出してきたがともあれ無事ならば問題無い。

セイバーもまた一息で少年が駆っているそれに近付き、乗り込む。

そのお陰で騎乗スキルがこれの扱い方を仔細なく理解させたので便利という感想を抱きながら、そのまま少年の背後から腕を回して持ち手を掴む。

その時、何故か少年の体が固まったが気にしない。

 

 

 

 

「このまま走り抜け──」

 

 

言葉を途中で切りながら、音よりも速く抜刀。

左腰にある分、遅れたが十分にカバー出来る。

抜き斬り、即座に右手にパスし、そのまま背後から来るそれに向かって振りかざす。

刀の表面を滑るように乗ってくるそれをそのままミリ単位の精密作業で細かくずらし、自然と横に通り過ぎる軌道に変える。

そこまでして隣を突っ切ろうとするそれが矢であるのを感知したがそれはどうでもいい。

右手に刃、左手はこの絡繰りの持ち手を握る以上、腕で支えれない以上、更に密着し顎を彼の肩に挟む形にする。

 

 

 

「あーーー!!」

 

 

何故か少年から悲鳴が上がるが、それも気にしない。

音速で突っ切る矢の衝撃波から逃れる為にそのまま無理矢理左に切り返しながら、セイバーは背後の英霊に対して一瞬視線を向ける。

わざわざ眼で語る気も無いので直ぐに視線を前に向けるが……あれ程の英霊ならば自分の挙動の意図は通じたであろう。

 

 

 

 

これだけ距離が開いていたのならどんな一射でも対応出来る事を

 

 

故にセイバーはそのまま絡繰りを走らせて戦場から脱出する。

追撃が来ることは無く、二人の戦闘音がこれ以上響く事も無かった。

 

 

 

 

※※※

 

 

してやられたか、とランサーはアーチャーと絶妙な距離を空けながら、セイバーの手際を褒め称えていた。

あっという間に粒となるセイバーの主従だが、サーヴァントの力ならば直ぐに追い付ける距離ではあるが……ここで追い付くというのはマスターを放置するという事だ。

マスター同士を置いていくという事もさることながら、ここにいる一騎がアーチャーである以上、仮にアーチャーと一緒にセイバーを追いかける事になってもアーチャーには自分のマスターだけを撃ち抜く技量がある。

そうなれば意味も無し。

 

 

 

無論、アーチャーにとっても同じ懸念であろう。

 

 

ランサーとはいえ宝具やスキルによっては遠距離から攻撃出来る可能性もある以上、捨て置けない。

見事に出し抜かれた。

セイバーもそうだが、セイバーのマスターの胆力にも賞賛するしかない。

そう思いながら、アーチャーを見ると無言で弓を仕舞っていた。

それに応じて身構えを解きながら彼に語り掛ける。

 

 

 

「いいのか、アーチャー。未だ敵はここにいるが?」

 

「私自身は幾らでも応じれるが、マスターの命だ。今回はここで舞台を下りさせて貰おう」

 

 

そうか、と頷きながら実は自分の方にも念話で退却の指示を出されていた所だ。

確かにマスターからしたら一番の狙いが居なくなったというのもあるのだろう。

それに──あちらのマスターはどうだか知らないが、アーチャーを相手にするのならば俺もまた全力で応じなければいけない。

この男には最善の手段として槍を使うべきだ、と経験が告げている以上、間違いなくこちらにも被害が出る。

 

 

 

「──偉大なる大英雄。お前の在り方と強さに俺は敬意を以てこの槍を向ける事を誓おう」

 

「──生憎だがその賛辞は受け取れない。此度の私は誇りよりも勝利こそを選択する。心せよ灼熱の鎧を纏う槍兵──この身はただ最強である事を選択する」

 

 

アーチャーが告げた言葉の意味をランサーは全てを理解し、応じた。

 

 

 

 

「肝に銘じようアーチャー。その上で、やはり俺は敬意を持つ事は止める事は無い。同じサーヴァントとしてお前の在り方を俺は尊ぶしかない」

 

 

巌のような体に沈黙の鎧を纏わせたアーチャーはその後、ほんの少しだけ首を小さく下に傾げ、

 

 

 

「──願わくば」

 

 

ただそれだけの言葉を告げながら、しかしその後の言葉を濁すアーチャー。

ランサーはその途切れた言葉を、しかし追及しない。

隠された言葉をしかと理解し、その上で今生の生き方の為に口を閉ざすアーチャーに合わせる形で俺もまた頷き。

 

 

 

 

「ああ。願わくば」

 

 

 

───再戦を。あのセイバーも含めて

 

 

 

互いの殺人許可証を無言で交換しながら、その言葉と同時にアーチャーが霊体化して去って行くのを見届ける。

俺もそれに応じて霊体化し、自分のマスターの下に向かう。

そうしながら思うのはやはり今回の敵手の事だ。

セイバーもアーチャーも尋常ではない英霊だ。

どちらを獲るにもランサーをして命懸けになる事は必定だ。

 

 

 

 

……聖杯戦争自体も尋常で無ければ、参加者もまた尋常ではない存在が集うか

 

 

あるいはそれこそが聖杯戦争と思うべきか。

ランサー───インドにおける大英雄の影、カルナはそう納得の理屈を得ながら、マスターの下に向かう。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

真はセイバーと隣町にまでバイクを走らせ、そのまま適当なホテルにチェックインした後、セイバーには本当に申し訳ないが先に風呂に入らせて貰った。

 

 

 

「……あぁーー」

 

 

とは言ってもヨーロッパには体を横たわらせる浴槽は確かにあるにはあるが、日本とは違う形式だ。

シャワーだけが主流であるのでただ浴びる、という形なのだが……余りにも風呂が恋しかったので魔術を使ってお湯を精製し、勝手に日本式のを適当に真似て極楽気分を無理矢理味わっていた。

 

 

 

 

「しぬーーーーー」

 

 

呑気な口調だが、実は本音であるから酷いものである。

何せ敵が敵だ。

マスターであるアインツベルンのホムンクルスに地上で最も優美なハイエナと名高いエーデルフェルトの次期、もしくは現当主。

 

 

 

 

更には謎の太陽のような鎧と槍を持ったランサーに───ギリシャ随一の大英雄、ヘラクレスなんて正気じゃない

 

 

流石にヘラクレスは冗談であって欲しかったが……確かによくよく思い出してみれば、身体的特徴にあの不死性は父や母が寝物語で聞かせてくれた英霊の特徴にそっくりそのままである。

それが今度はバーサーカーではなくアーチャーとして召喚されるだなんて悪夢過ぎる。

 

 

 

 

「……どうして俺の下にそんなとんでも大英雄ばかりが集まるっていうんだ……」

 

 

誰に問うても答えられない質問を中空に発しても返ってくるのは無音くらいである。

ストレス発散にしか使われない酸素が可愛そうになるが……本当のストレスは大英雄達が敵として現れた事ではない。

 

 

 

 

「……知られた」

 

 

 

自分の生存を知られた。

自分の場所を知られた。

 

 

父と母を知っている自分からしたらそれは最悪な結果を招く。

どこまでを報告されたかは知らないが……例え聖杯戦争が起きていたとしてもあの両親は間違いなく自分を探しに来る。

もしかしたら……桜さんも来るかもしれない。

最悪だ。

最悪の可能性だ。

 

 

 

 

「……何でそこで魔術師らしく切り捨ててくれないんだ……」

 

 

魔術師は後継者を他の何よりも慈しむが、それは慈愛ではない。

魔術の先を紡ぐための引継ぎ装置としての愛だ。

自分のような欠陥品に注ぐものでもない……否、分かっている。

二人が自分に注いでいるのはそんな構造的な愛ではなく、親としての愛である事くらい理解している。

 

 

 

 

それが余りにも……憎らしかった

 

 

この一瞬でも自分を心配しているだろう親が余りにも憎らしい。

こんなになっても切り捨てる事よりも見つける事に専心している親が苦しくて苦しくて仕方がない。

 

 

 

 

何よりも正しいから……正しくあれない自分には己を焼き焦がす破滅の炎のようであった。

 

 

解っている。

こんなのは八つ当たりだ。

父と母は正しいし、間違っていない。

悪いのは生き方を間違えた自分だ。

悪いのは──常に周り全てを巻き込んでは狂わす災厄となった自分だけなのだ。

 

 

 

 

「──」

 

 

気付けば自分の手元にはナイフがあった。

父のように異常な投影は出来ないが、宝具みたいなとんでもじゃない限り自分でもこの程度の道具は投影出来る。

鋭利な切っ先。

遠坂真の殺意によって生まれた銀の煌めきは吸い込まれるようで──

 

 

 

 

「──マスター。湯加減は如何でしょうか?」

 

 

セイバーの声を聞いて正気に戻った俺はあくまで冷静にナイフを空想に戻した。

嫌な汗まで浮かんでいるのをお湯で流しながら、あくまで真は平静な声で返した。

 

 

 

「ああ。まぁ、魔術で出したお湯だけどまぁまぁ行けるよ。でも、ごめん。本当なら女性のセイバーを優先するべきだったな」

 

「……マスター。私は今、サーヴァントなのでお食事もお風呂も必要ではないんですよ?」

 

「それは余りにも機械的過ぎるだろう。サーヴァントだって人間だったんだから、生きていた事をやりたくなるだろうし、求めるのは何も間違いじゃない。何度言われても俺は固辞するからな」

 

 

はぁ、と扉越しにも聞こえる溜息を吐いてくるのはセイバーなりの抗議か、心底からの呆れかは知らないが、どんな風に言われたって俺は方針を変える気はない。

セイバーはサーヴァントだけどあくまで人間。

セイバーがしたい事なら余程の悪事じゃない限り支援するし、最低限、この時代における普通を自分は彼女に見せて、教える義務がある。

 

 

 

 

その上でセイバーが嫌悪して拒絶するなら話は別だが……戦闘前のアイスを見る限り、結果は上々だと思っている

 

 

 

見てろセイバー。今度はジェラートでもソフトクリームでも貢いで甘味地獄に叩き込んでやる……!! などと邪な考えを脳内に浮かべ──だからこそ次の瞬間にガチャリと空いた扉に対して反応が取れなかった。

 

 

 

 

「──で、あればせめてお背中だけでもお流しさせて頂きます」

 

 

 

 

「──」

 

 

なんですと、というツッコミが口から放たれることは無かった。

視界一杯の美しい女性の体を見てそんなツッコミが取れる人間がいるのならば目の前に連れてきて欲しいが現実は厳しいので不可能で御座ります。

黒髪の長い髪を背中に流しながら、戦場に出たとは思えない艶やかで滑らかな傷一つない美しい肌。

お慰み程度にタオルを持ってはいるが、そんな物では全身は当然隠せず、丸みがかかった胸やら何やらが諸に眼球に直撃する。

 

 

 

 

紛う事なく──セイバーの全裸であった

 

 

 

「? 如何為さりましたか?」

 

 

首を傾げる動作に合わせて胸が震えるのを見て、結構なお点前とか思考し──ようやく自分の人格が復帰した瞬間、真は全力で叫んだ。

 

 

 

 

 

「なんでさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!???」

 

 

 

 

※※※

 

 

マスターの叫び声に合わせて何事かと現れた従業員を暗示で撃退するマスターを見守りながら、セイバーは最終的にマスターがようやく布団に倒れ伏すのを見つめた。

あの後、慌てて目を瞑り、即座に出て行かれたが、セイバーからしたら何もそこまで気にしなくても、という感覚である。

自分の体なんて気にする事なんてない。

一般女性は自身の体を秘め隠し、好いた男にのみ見せる切り札のような物なのだろうけど、生憎セイバーにはそんな感覚は無い。

 

 

 

肉体があるのは敵を斬る為

 

 

女の体で生まれたのはただの偶然で、子を成す為でも無ければ愛を育む為では無かったのだから。

 

 

 

……ああ、でもそういう思考は現代を生きるマスターには不適切だったのやもしれませんね

 

 

つい、己の時代に合わせた思考をしてしまったが、ここは現代なのだ。

今の女性というのは自分とは違う慎ましやかな生き方をしているのか、と思うと確かにマスターには見苦しい物を見せたかもしれない。

だから、思わずセイバーはマスターに対して謝罪した。

 

 

 

 

「申し訳ありません──ご迷惑とお見苦しい物をお見せしました」

 

 

 

疲労に突っ伏していた少年の体が少し硬直する。

何故、という思考はそのまま首を傾げる事に繋げていると

 

 

 

「……ご迷惑云々はともかく見苦しくなんてあるもんか」

 

「え?」

 

 

小声且つ早口で言われたから思わず問い返すとマスターはあーーと枕に一度顔面を叩きつけた後、勢いよく起き上がり、若干赤い顔で

 

 

 

 

「セ、セイバーの体は見苦しくなんてないから! だから、そんな風に男に容易に見せるのはよくない!!」

 

 

と言うだけ言ってそのまま再び枕に顔面を叩きつける勢いで布団に体を倒した。

耳まで真っ赤になって羞恥に悶えているようだが、セイバーにははぁ、と首を傾げるものだ。

……つまり、少年にとっては私は魅力ある体付きをしているからしっかりと秘めるべきだ、と言いたいのだろう。

よく分からない感覚だが、仮にそうだとしても──大抵の人間は自分の本性を見れば自分を相手に性欲など掻き立てない。

 

 

 

「──マスター。お忘れかもしれませんが、私はただの人斬り包丁なのです。この手で斬った人数は二桁なんて数では納まりません──見た目に汚れなど無くとも、私の全身は血で濡れているのです」

 

 

己の本性はよく理解している。

例え、それがどういう形であっても、自らの意思で人を惨殺する殺戮者だ。

人に触れていい存在でも無ければ美しい筈が無い。

その言葉に、マスターはゴロリと顔だけをこちらに向けた。

表情はまるでふーーん、という顔で

 

 

 

「──セイバーの時代も、セイバーがどういった人生を歩んだのかは知識としては知っている。だからもう一度その上で言うよ──セイバーは綺麗だ。だから、二度目の人生は人間として生きていいんだ」

 

 

 

 

「──」

 

 

眼を見開く自分を意識する。

彼の言った言葉は生前、ある人に言われた言葉にそっくりだったからだ。

 

 

 

 

『今はただ刃であればいい。しかし、もしもそなたが誰かと居たいと願える相手が出来たのならば……その時は人として、女として生きようと選ぶのは決して許されざる事ではないのだ。それくらいならこの捻くれた世界も許してくれよう』

 

 

 

 

死後ですら未だ輝きを保つ御人。

出会う前ですら血に汚れていた人斬り包丁を、ただ一人受け入れ、窘めてくれた御方。

あの時、確か自分には私が膝を着く相手は貴女だけです、と告げて……あの御方は困ったように、しかし愉快に笑って

 

 

 

 

『馬鹿者。主と友や情愛を抱く男と一緒にするでない。わしが言っているのは武者としてのそなたではなく個人としてのそなたじゃ景虎』

 

 

その言葉にも私は確か首を振り、恐らくそんな人と一生出会えないでしょうと答えた。

それに対しても、あの御方は否、と首を振り

 

 

 

 

『──必ず会えるとも。個人の願いを抑圧し、頑張るそなたに何の報酬も無い等と天が許してもわしが許さぬからなっ。だから……何れ、必ず貴様を刃としてではなく人として見る者が現れる。そう、あるいは──』

 

 

 

途切れさせた言葉は当時の私にも、今の私にも不明の言葉だが、彼女はその後、かかっ、と笑うだけであった。

この世でただ一人、上杉不識庵謙信が忠節を誓い──更には剣の術理で打ち負かしてくれた殿上人。

その御方の言葉が遠い未来において現実となって現れた。

硬直した私に対して首を傾げている少年は特別な言葉を放ったとは欠片も思ってもいない様子であった。

それもその筈。

 

 

 

 

少年は最初からあるがままに自分が生きていく事を望んでいた

 

 

 

今更変える態度も無ければ心も無い。

あの御方はかつて私にこう言った。

何れ傍にいたい、と願う誰かが生まれたのならばその心に従うがいい、と。

殺人者である事も関係なく心にだけ従え、と。

……正直、セイバーには未だその領域には至っていない。

セイバーにとってこの少年は得難いであろうが、ただの守らなければいけないか弱いマスターだ。

傍に居たいのではなく、傍に居なければならないとしか考えれない。

 

 

 

 

少年は確かに私に似ているが……だからといってそれだけで全てを預けるのは難しかった

 

 

故に私は沈黙し、少年はそれに対して何を思ったのか。

 

 

 

 

「セイバーも疲れているだろうし、ちゃんと眠ってくれ。サーヴァントは疲れないとかいう言葉は聞く耳持たないから。だから、まぁ、うん……お休み」

 

 

それだけ告げると少年はパタリと気絶するかのように眠りに落ちていった。

寝息を察する限り本当に寝たようだが……もしかして魔術を使ってまで寝たのかという疑惑が生まれるが……とりあえずもう一度だけ吐息を吐きながら、我ながら珍しい事だがお言葉に甘えようと目を瞑る。

 

 

 

 

少なくとも今夜の襲撃は無い

 

 

 

どちらの英霊も存分に魔力を使った。

そういう意味では霊格が低い自分は燃費がいいのであの二人相手には長期戦という意味では相性が良い。

で、あるならば襲撃するのならば万全の状態──明日になるだろう。

逃げれるのならば逃げるつもりだが……相手にアーチャーがいる以上、マスターとも覚悟をするよう心掛けている為、問題無い。

それでも意識を戦闘の感覚に切り替えながら、スイッチを切り替える感覚で彼女は眠りに落ちようとする。

気配を感じれなくても、殺意や鉄の音だけで起きれるように──そうしてセイバーは瞳を閉じ、鉄の匂いだけは纏わせながら、眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

唐突にヒカリを感じた。

余りにも眩しい光は自身の眼を灼くが……そこまでしてセイバーの意識が誰とも知らない赤ん坊の姿で、見知らぬ男性に抱き上げられている事に気付いた。

一瞬、動揺するが、直ぐにセイバーはサーヴァントが夢を見ない事に気付き……もしも見るのであればそれは自身と魂で繋がっている人物──マスターの夢という名の過去である事に気付く。

赤ん坊である以上、今、自分を抱き上げている男性はマスターの父親であるのだろうと思うが……よくよく見ればどこかしらの部屋の中でもう一人、見知らぬ女性が布団……ではなくベッドに寝かされており、少々疲れた様子を見ると……もしかして産んで間もない時の記憶なのか、と思う。

 

 

 

 

……こんな時の記憶を……?

 

 

有り得ない事ではないかもしれないが、若干、困惑せざるを得ない記憶。

しかし、その前にマスターに許可なくプライベートの記憶を覗き見てしまう事に申し訳なさを感じるが……当然、記憶はそんな事を待ってくれない。

 

 

 

 

「どう……? 士郎。貴方と、私の子供よ。可愛いでしょう……?」

 

 

女性は美しい顔と笑みを浮かべていた。

産後で疲労も残っているだろう女性は、しかし誇りと……何故かは知らないがしてやったりという顔で夫であろう男性に笑みを向けていた。

その笑みを見せられた男性……今は自分であるマスターを抱き上げている男性は震えた手と顔で、まるで地獄を覗き込んだような顔で、男は答えた。

 

 

 

 

「……遠坂……俺、は……俺は……この子を……この子を抱けない……抱く、資格が無い……」

 

 

絶望感さえ抱きながら、己の子供を抱き上げる父親には心底からの恐怖に体を震わせていた。

自分には産んだこの子を抱き上げる資格が無い、と男は許して欲しいと涙すら浮かんでいたが……女はそれを許さなかった。

 

 

 

 

「──駄目。許さない。貴方は、この子を抱いて生きるの。私、言ったわよね。貴方を真人間にして、もう苦しいくらい幸せにしてやるって」

 

 

愛を語るように朗らかに笑う女性は、男にとっては絶望の象徴でしかなかったのか。

まるで目の前でギロチンを落とされたかのように、女を見る男に、しかし女は勝ち誇った。

 

 

 

どうだ、見たか──もう絶対に許してやるものか、と笑う表情はある意味で悪魔の様で

 

 

 

 

「──しっかりと抱き上げてね、お父さん」

 

 

 

──その絶望と愛情の一幕を赤ん坊であるマスターは見つめ、捉えていた。

 

 

生まれつきの魔眼を通して男と女の姿を見る赤子には全てを理解する知能までは無かったが……言語化できない知能でも彼の眼はしっかりと真実を見通していた。

 

 

 

 

 

──詰まる所、男にとっては自分は絶望の象徴であり、女にとってはそんな男を苦しませてでも繋ぎ留まらせる、実に使い勝手のいい道具()であった

 

 

 

その納得と同時に眼を閉じ始める赤子に同調して意識が微睡んでいくのを感じ取りながら……セイバーは意識の上で沈黙していた。

……その光景は自分の知る家族とは似ているようで全く違う光景であった。

 

 

 

 

私の家族が自分に向ける愛は利己的な我欲であり、愛など一切存在しなかった。

 

 

ただ利用でき、己の支配を広げる事が出来る、という出来のいい道具を賞賛する我執による歪みきった愛と言う名の妄執であった。

少年の家族には痛みに塗れていたが……確かな愛があった。

 

 

 

 

男が絶望したのは確かに愛していたからこそ、抱いてはいけないという罪から

 

女が勝ち誇っていたのは確かに愛していたからこそ、許さないという罰から

 

 

男も女も確かに互いに愛し、それぞれの形で少年に愛を向けていた。

……しかし、その光景を、赤子であった少年はどう思ったか。

自らを見て絶望する父親。

自らを見て利用する母親。

 

 

 

 

──何も知らぬ赤子は、果たしてその光景をどう感じたか

 

 

 

疑問に答えられることは無い。

そもそも過去とはいえ、少年が意識して覚えている事柄なのかもわからない。

視界が闇に染まると同時にセイバーもまた意識を閉じる。

……明日から戦いに挑むというのによくないモノを視てしまった。

刀に迷いが生じるのは良くない。

この件については忘れる事は出来なくても、せめて明日だけは思い出してはいけない。

 

 

 

 

今はただ刀として生きる事だけを念頭に置こう

 

 

 

その思念だけを現実に持ち帰り、セイバーは意識そのものを暗闇として魂の交流を断つ。

 

 

 

 

 

……願わくば、あの赤子は何も理解していない事を祈りながら、セイバー()()()()願いを胸に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




うーーん、ちょっとセイバーの強そうに書きすぎたかもしれないです。
作者、普通に反省。
とりあえず、ようやく次回で前作に追い付けます……。



言い訳に聞こえるかもしれませんが……セイバー自身はかなりの戦上手だからこそのこの描写ですが、実際の所、セイバーはランサーに対しては首から上しか狙う事が出来ず、アーチャーに対しては逆に不用意な傷を与えてはいけないので状況だけ見れば有利に見えても実は全然有利では無いです。


柔よく剛を制す型のセイバーだからこそここまでやれているだけなので、次回辺りはアーチャーが本領を発揮するので多分、今回みたいにはならないかと。



セイバーに言葉を与えた御人も多分、予想が付く範囲かなぁっと思っています。
戦国時代において上杉謙信を超える剣才を持つ人間なんてそう……多くは……居ます……はい、実はあの時代、剣聖と呼ばれる人間がかなり居ます……はい。
上泉信綱然り丸目長恵然り、有名な立花道雪然りととんでも剣豪大量におられるので……えーーとまぁ、強いて言うならば上記に上げた御人ではありませんという事で。



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