Fate/the Atonement feel 改変版   作:悪役

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欠けし者

 

 

 

月と星の恵みが酷く近しい場所。

雲よりも遥かに高く、星よりは遠い空にそれらの星すらも見下ろさんとばかりに輝く黄金の船が飛翔していた。

超高度で輝くそれは飛行機ではなく、むしろ船のような形態を持つそれにはどう見ても飛翔する為の機関が付いているようには見えない。

そうなると当然、この船を動かしているのは機械などではなく、神秘を原料とした失われた遺物──宝具の証であった。

神秘の秘奥を目指すものならば、大抵の人間が涙しながら……しかし神秘の隠匿の一切を考えていない飛翔に膝を着いていただろう。

 

 

 

 

それも当然だ──この船に操る者達にはそんな下らぬ些事に囚われるような精神を持っていないのだから

 

 

 

 

「──お前に聞かせるにしては未だ形にならないあやふやな語りだが、聞いて貰ってもいいかな? アーチャー」

 

 

 

船の端にて天と地上の間を眺める者は一人の男であった。

凡そ、20代辺りの見た目をしており、その身体はしなやかながら無骨であり、長身を形作っている筋肉は人一人を砕くぐらいならば実に容易と思えるような人体美の完成系のような男。

黒服を纏い、黒のマントをはためかせた男は完成された男性像のようなフォルムを持っていた。

 

 

 

──そして同時にそれらを凌駕せんばかりの強靭な意思が金の眼から溢れさせてもいた

 

 

 

金髪金眼の燃える様なそれはまるで獅子にも思わせる程の意思を表現していた。

天と地を見上げているのではなく、染め上げているような彼はそれに見合う雄々しい声でこの船の持ち主──つまり、彼自身が召喚した英霊に声を掛けた。

 

 

 

 

「構わん、許す。真理は時に幽幻から現れる物。むしろ無意識にこそその者の魂が色濃く反映されるものよ」

 

 

男が雄大と称されるのであれば、黄金の男を称するの言葉は尊大と言うべきだろう。

その態度、視線、意志のどれを取っても絶大にして究極。

憚ることなく己を示し、その上で独占する存在感はそれだけで場を重くし、しかし煌めかせる。

 

 

 

傲岸不遜

 

天上天下唯我独尊

 

 

絶対にして至高と口に出さずとも示すアーチャーと呼ばれた英雄は黄金のグラスにある酒を飲みながら、マスターの言葉にそう返した。

そんな傍に居るだけで萎縮せざるを得ない英霊に対して、男はむしろそうでなくては、と言わんばかりに微笑みながら、しかし振り返らずに言葉を作った。

 

 

 

 

「俺という男はどこにでもいる男という始まりからスタートしたのだろう。どこにでもいる魔術師の家系、どこにでもいる程度の多少の才──俗に言うつまらん男というのは正に俺のような男だろうよ」

 

 

己をこき下ろすように言いながら、言葉と態度には卑屈さが存在しない。

男にとっては曰くつまらん男であるという事について否定的ではないからだろう。

己がつまらない。いいではないか。つまらないからこそ愉快にするのは己の義務だ、と誇示する男には一切の影が無い。

雄大に大地に根差す大樹の如き男を、背後にいる黄金のアーチャーは口を歪めながら赤い目で見ているが、男はそれに気付かずに言葉を続ける。

 

 

 

 

「その気になれば魔術師として、あるいは普通の人間として在り来たりな人生を送り、終わりを迎えていたのだろう。無論、俺とて在り来たりだからと言って下らない、とは思わん。普遍とは人々が作り上げた絶対基準。幸福の一定化を図ろうとしたのは間違いなく人間の一つの成功であり、大失敗なのだろう」

 

 

普通という概念に関しても男の口調には嘲る様子も無ければ下に見る様子も無い……が、握る拳はそれを否定していた。

 

 

 

「だが、叫ぶのだ。渇くのだ──足りていない、欠けている。俺は未だ完全ではないと魂が叫ぶ」

 

 

 

──燃える様なもう一つの黄金が世界に牙を突き立てる

 

 

握る手の平には力が籠り、この小さな拳でこの優美な景色を握りしめんと告げる様でありながら、しかしその口調は熱が籠ろうと常と変わらぬ口調であった。

 

 

 

 

「魔術は確かに恐ろしくもつまらない物では無かったが……俺の肉が、魂が違うと叫ぶ以上、惰性で続けるわけにはいかなかった。お陰で家族を皆殺す事になったが、彼らも信念があった以上、仕方があるまい」

 

 

酷くあっさりと血の繋がった人間を皆殺しにしたと告げるが……やはりそれに関しても後悔所か恥じる様子もない。

 

 

 

俺と彼らの道は激突するしかなかったから殺した。

 

 

本当に、ただそれだけの感想だけを抱いて、彼は再び己の人生を続ける。

 

 

 

「世界に出た事はやはり間違いでは無かった。多くの文化を、多くの技術を、多くの人間を見れた。家に籠っているだけでは見れぬものばかりを見れた事は俺に喜びと楽しみを確かに教えてくれた。特に武芸を学ぶ時間は正しく夢中の時間であった──だというのに俺の心は否と叫び続けた」

 

 

やれやれ、と首を振る男。

貼り付いた雄々しい笑みは聊かも翳りもせず──握りしめた拳の力も変わらなかった。

 

 

 

「そこから先は様々な事をしたとも。命懸けで死徒を殲滅した事もあれば、人の命も救い、逆に陥れもした。神秘の欠片に触れる事もあれば、最先端の技術を見届け、時には人の営みを賞賛もした。それらの行為は確かに俺に喜びを与え、怒りを湧き立出せ、楽しみも覚えた──なのに、どうしてか。俺の飢餓感は聊かも変わらなかったよ」

 

 

そう告げる男にはやはり雄々しい笑みが張り付いている──あるいはそう奮い立つ事を刻んだが故に、そこから変わらなくなったからだろうか。

その事を苦笑してかぶりを振り、ようやく彼は背後にいるサーヴァントに振り返った。

 

 

 

「そうして今、俺は聖杯戦争に参加している。聖杯そのものに興味が無いとも言わんが……何よりもそこにこそ俺が求めるモノがあるのではないか、と思いな──すまんなアーチャー。長話にするつもりは無かったが、どうやら俺には文を短く纏める能が無いようだ」

 

「構わん。少なくとも無聊の慰め程度にはなったしな。未だ輝くには至らんが、何、最後まで笑みを絶やさず己の生き様をこき下ろしたのならば、下らかったが、聞き心地は悪くなかった」

 

 

何の呵責も無く、男の人生をまだまだつまらんと告げる男には遠慮という概念が無かったが……それなら良かった、と同意する男にはどうでも良い事であったらしい。

 

 

 

「お前という男は詰まる所、愉悦の何たるかを知りながらも、而してそれだけは物足りぬと傲慢にも強欲を夢見ていると申すか──はっ、身の程を弁えぬ雑種が餓鬼道に堕ちるのは当然の末路よな」

 

 

傲慢と強欲が人の形になったような黄金のアーチャーが嗤いながら己のマスターに辛辣な言葉を告げるが……その口調は愉しそうに笑っている。

さもありなん。

アーチャーにとって人間の業とは愛でるべきもの。

堕落する様も、雄飛する様もアーチャーにとってはどちらも愉しむモノ。

今、彼が飲んでいる酒と変わらぬ。

それを理解してか。

男もまた苦笑しながら頷く。

 

 

 

「全く以てその通りだ。返す言葉も無い。人生を謳歌しながらもまだ足りぬと吠えるなど我ながら欲深い──が、しかしそこで諦めるなど()()()()()()()()。オズワルド・ローゼンハイムとして生まれた人生の主役は俺だ。その俺が満足しないのであれば満足するまで疾走せずにどうするという? 妥協してこんなものだ、と諦めれば良かったのか? ()()()()()()。そんな物が人生だというなら生まれた時に手首を噛み千切ればいい。妥協して堕落した人生を続ける等、誰が人間と認めるか。家畜にも劣る肉になるならば、そこらの肥料になった方が何兆倍もマシであろう?」

 

 

 

鮮烈な黄金の意思に、アーチャーもまた笑みを深める。

全く以て揺るがない。

男……オズワルドと名乗った男は自分の人生をこき下ろし、アーチャーから下らぬと認められた上でも一切変わらない。

アーチャーの、真の王を前にしても変わらぬ不遜はほんの少しでも醜さや弱さを露呈すれば速やかに処断するレベルのそれを一切揺るがせない。

その強固さはとても欠けたモノを捜索している迷い人には見えない。

 

 

 

そう──彼は求めるモノが見つからない事に残念さは感じていても、迷いは抱いていない

 

 

そもそもオズワルドという男の機能には立ち止まるという概念は無く、ただ進むという鉄の意思が入力されている。

その在り方はアーチャーをして嗤い、口を滑らせる程であった。

 

 

 

「で、あるならば、お前の欲の方向性を見誤っているという事だろう」

 

「──ほう?」

 

 

一切隠さぬ笑い。

アーチャーを前にして嬉々として笑う様は見かけの割には童のような好奇心の塊であり、その事にアーチャーは苦笑しながらも酒で口を湿らせてから先を続ける。

 

 

 

「お前の話を聞く限り、お前の今までの人生は一人で完結している。己の意思と肉の身をもって鉄の如き決断を下しながら、一切も顧みぬ。聞こえはいいが、要は貴様は己と己に関わるモノにしか視線を向けていない、実に狭苦しい在り方だ」

 

 

 

言われた言葉をしっかりと受け止めたオズワルドはふむ、己の過去を見返す。

成程。

確かに自分の人生に他人が存在しないとは言わないが、オズワルドにって他人とはあくまで己の全身を前に立ち塞がる壁になるか、己の背後で震えるか、罵倒するか、称えるかのようなものだった。

己に武を教えて頂いた師であったりは違うのだろうが……やはり、オズワルドにとって他人とは正しく"自分以外の他の人"でしかなかった。

 

 

 

「人間は醜悪でか弱い生き物よ。己が肉体一つで成し遂げれる事など余りにも小さいし脆い。だが、オズワルド。そんな人間の愉快な所は他人を受け入れる器は無い癖に、多くを迎合し、集団として一つの形に収まる事を是とする理性と本能。これには虫も獣にも真似できん」

 

 

個人では弱く、何も出来ない為、集団を持って一つの事を成し遂げるという意味ならば確かに人間は他の動物のそれよりも遥かに巧みでありながらどん底だ。

動物のそれがシステマティックな生態としての集団動作であるが故に弱肉強食という概念はあっても裏切りという概念は存在しない。

 

 

 

「確かに人間の特徴的な分野であり、愉快な部分ではあるが……しかし、集団で成す事の何に俺が求めるモノがあるというのだ?」

 

「逸る出ない。我が言う他者とは何も集団を意味するものではない」

 

 

嗤うアーチャーがマスターの勇み足を抑える。

むっ、と唸りながら腕を組むマスターもまたつい力んでしまったのに恥じたのか、何時の間にか踏み込んでいた一歩を戻しながら、今度は冷静にアーチャーの言葉を待つ。

 

 

 

「そも他人とは何だと思う? オズワルド」

 

「決まっている。自分とは違う、だ」

 

「然り。他人とは己と違う生物であり存在体。趣味趣向はおろか行動規範、願望、方向性が全く違う生き物だ。無論、似たり寄ったりのつまらん雑種はいるだろうが、総じて全く同じ、という存在はほぼおるまい」

 

 

同意見であるのだろう。

オズワルドもアーチャーの言葉に頷き、先を促すように黙す。

それに応じ、アーチャーは酒に月を映し、まるで星すらも己が愛でる対象と言うように血の色をした眼を光らせる。

 

 

 

「分からぬか、オズワルド──つまり、他人にはお前が持ち得ない余分を持ち合わせているという事だ。大半はお前の眼には下らぬモノばかりを持ち合わせた輩だろうが……時に雑種の中には愉快な程に捻じれた人間もいれば、狂気のような純粋さを持ち合わせている者もいる。ふん……そういう意味では人間とは総じて畸形であると言えるだろう……今の世は随分とつまらぬ形ばかりが浮き彫りにされているがな」

 

 

現代の人間は価値ある者が少な過ぎる、と断じた男は黄金の王気に少しばかりの不機嫌の色を覗かせたが、マスターであるオズワルドは全く気にせず、ふむ、とアーチャーの言葉に深く頷き

 

 

 

「……つまり、俺の求めるモノ、欠けていると感じるモノは物事ではなく……他人によって見出すものかもしれない、と?」

 

「万全である形を持って満足しない者が完全になるには己だけでは足りぬ。あらゆる出来事も欲や物でも満足しないとすれば……最後に埋めるべき欠片は人だ──それがどのような結果を招き寄せるかまでは知らぬがな」

 

 

くくっ、と血の匂いを漂わせながら嗤うアーチャーのそれは間違いなくマスターであるオズワルドに向かっていた。

己を愉しませるモノであるならば、オズワルドがどれだけ惨たらしい結末になっても構わん、と言葉も無しに告げるアーチャーは正しく人から外れた理を持って、人を愛でる邪心を持ち合わせていた。

通常のマスターでも勘が鋭い人間ならば気づくだろう。

 

 

 

 

この黄金の英霊は己の愉しみの為ならば、例えマスターであっても"使い潰す"事を

 

 

マスターを殺せば、楔を失ったサーヴァントは消滅するのだが……この男にとってはそんな事で愉しみを空費する方が下らぬ、と断言するだけだろう。

相手が召喚者だろうがなんだろうが、王の決定は絶対だ、と己の法を貫く男には迷いも情も無い。

 

 

 

 

そんな欲望に曝された男は──こともあろうに笑みを深めていた

 

 

それは正しく肉食動物の笑み。

黄金の獅子として誰よりも雄々しく、凶暴な暴食獣のような笑みを浮かべ、アーチャーの言葉を祝福として受け止めていた。

 

 

 

 

「──なら、結末は決まっている。それが正しいかどうかはまだ不明だが……もしもそうならば、俺はどんな結末に陥ろうとも笑って果てるであろうよ」

 

 

 

オズワルドはアーチャーの言葉を全て理解した上で笑って告げている。

己の想像にも吐かない絶望極まる結末を迎えるやもしれんが……オズワルドは例え、足先からゆっくりと捕食されたとしても笑いながら果てれると断言出来る。

そもそもオズワルドは死を恐れない。

彼は魔術の基本原則である魔術を習うとはすなわち己の死を受け入れる、という基本にして、しかし正しい意味で受け入れて切れない前提を当たり前のように己に刻んでいる。

命を奪う者としての当然の責務。

 

 

 

 

殺すという気概を持つ以上、どのような殺され方をされても笑って受け入れる気概を持たずしてどうして他人を殺せようか

 

 

例え、その死に様が道半ばによる死であったとしても、オズワルドにとってそれは所詮、自分はそこまでしか生きれなかった下らん命であった、と蔑むだけである。

獅子のような苛烈さと激しさは当然の如く己にさえ向けている。

 

 

 

「俺は無様な生よりも閃光のような死を尊ぶ。人間とはただ生きるだけでは余りにも面白味が欠ける。重要なのは如何に生きるか、ではなく如何に死ぬかだと思うのだがお前は違うのか──ギルガメシュ」

 

「戯け。貴様如きが王に覚悟を問うなど不敬極まる。本来であればその舌を切り落とす所だが……が、稚気を持っての問いに真面目に受け答える方が阿呆か」

 

「それ自体は否定せんが、俺とてお前に言葉を発する時は常に命懸けである事は承知しているとも。しかし、知りたい事は知りたい。聞きたい事は聞きたい。告げたい事は告げたい。実に単純な心理だと思ってくれないか?」

 

「それこそを阿呆と言うのだ」

 

 

 

黄金の獅子のような男が黄金のサーヴァント──人類最古にして最強の英雄王を心の底から畏敬の念を得ているように、英雄王もまたこの時代に生まれながらも埋もれた獣のような人を嗤う。

 

 

 

 

──互いに対する感情は敬意と愉悦だけではない

 

 

 

英雄王は無言で告げた。

己の愉しみの為ならば、己がマスターですら悠然と絶望を与えると。

男は言葉で告げた。

如何に生きるよりも如何に死ぬかが主眼であり……それに応ずるのであれば、誰が相手でも敵対すると。

それすなわち──互いが互いに己の欲望を邪魔するのであれば何時であろうとも躊躇わずに殺し合う、という事だ。

英雄王ならまだ分かるだろう。

往来の気質もそうだが、それ以上に彼はサーヴァントだ。

人を相手にした時、サーヴァントが人間に負ける事なんてほぼ無い。

それもサーヴァントとして最強の一角とされているギルガメシュならば猶更に。

 

 

 

 

で、あればオズワルドはサーヴァントの力量も見通せない能無しであるかと言えば──それも否だ。

 

 

オズワルドはギルガメシュの力を一切見誤っていない。

敵対すれば自分が100%を超過するレベルで敗北すると理解している。

 

 

 

 

 

理解した上で──それでも己を曲げぬと笑う大馬鹿者であるだけである

 

 

 

故にギルガメシュもオズワルドなりの敬意と生き方を嗤うが故に多少の失言に目を瞑り、オズワルドは戦意は持てども……本音を言えば出来る限り戦わなければいいが、と笑う。

それは臆病風に吹かれたわけではなく……単にまだこの王と語り合えれば、と願っているからである。

 

 

 

「……そろそろか」

 

 

オズワルドは再び視線を地上に向ける。

まるでその言葉を待ち侘びていたかのように地上を所々覆っていた雲は払われ、何も邪魔する事のない地上の風景が現れた。

大地を見下ろすオズワルドはその光景に感嘆しながら苦笑する。

こんな高所から見た事も無いというのに全身を懐郷の念に覆われてしまっているのだ。

存外帰巣本能とは馬鹿にしたものではないな、と思いながら、オズワルドは敢えて否定せずに言葉を小さく紡いだ。

 

 

 

 

「……欧州の大地。懐かしき我が故郷までは日が出たら着くか」

 

 

その気になれば高速で着けるのだが、ギルガメシュにその気はなくオズワルドも特に急ぐ理由はない。

だから、オズワルド夜闇の中、一人笑みを零す。

己の意思で世界を踏破するつもりではあるが、やはり己の願望を叶えたいという願いはある。

英雄王の言う通りであるならば、己の望みを埋める物が人である以上、巡り合うのに必要なのは運だけだ。

だからこそ、願わざるを得ない。

 

 

 

 

己が欲する者を──どうか今直ぐにでも会わして欲しい、と

 

 

 

※※※

 

 

遠坂真は嫌な汗と共に起床した。

思わず魔術回路を開き、架空の設計図を脳内に描きながら周りを見回す。

周りには既に起きているセイバーが鋭い目で窓を睨んでいるのを見ており──そこで気付く。

起きた原因は視線だ。

それも窓に張り付いているとかそんなのではなく……酷く遠い場所から己を見つめられているという確かな確信が己の体と心胆を冷やしていた。

 

 

 

「セイバー……これは……」

 

「はい。恐らくアーチャーですね……既に監視されています」

 

 

……真が眼球に強化を叩き込んで窓の外を見るが、彼の視力ではアーチャーの姿を見つける事が出来ない。

つまり、アーチャーは真の視認距離からも遥か遠くから自分達を見ているという事であり──そこからですら自分達を殺傷出来るという証左であった。

朝から冷や汗を流しながら、真は直ぐに立ち上がる。

 

 

 

「──速くここから離れよう。ここを巻き込むわけにはいかない」

 

「はい、ですが……」

 

「……分かっている。逃げるのは不可能、だな──アーチャーの能力って言ってもバーサーカーの時の彼だけど、それは頭に叩き込んでいるよなセイバー?」

 

 

無論、と頷くセイバーの冷静さに正直ホッとしながら自分は直ぐに服を──いかん、これ、俺がここで脱いだらセイバーもここで脱いでしまうのではないか?

いや、そんな悠長なことをしている場合ではないのは分かっているのだが、既に監視されている状態でセイバーを霊体化させるわけにはいかない以上、人の眼がある場所であの鎧を着させるわけにはいかない。

 

 

 

 

「……」

 

 

ごめんなさいホテルの皆さま、と内心で告げながら服を片手に速攻で風呂場に突撃した。

セイバーの事だから急がないとどうかしましたか? と首を傾げながら突撃しそうだからマジ速攻で。

 

 

 

 

※※※

 

 

閑話休題、速攻で荷物を纏めてチェックアウトし、ホテルから出て──まるで真夏の太陽を浴びたような感覚が己の身を灼いた。

 

 

 

「うっ……くぅぅ……」

 

 

焼けた岩石を両肩に乗せられたような感覚に真は一瞬、よろめきそうになる。

先程までのが監視なら……これは恐らく敵意だ。

お前を打ち倒すぞ、という人間ならば誰もが持っているであろう感情が……ギリシャの大英雄が発したのならば如何なる魔術師であっても発狂しそうになる程の圧となる。

 

 

 

死ぬ

 

 

魔術師としての高さなど関係なく死ぬという事象が頭に思い浮かび、何度も血飛沫を巻き散らかしている自分を幻視する。

様々な方法で死ぬ自分を見つめ、自然と呼吸が荒くなる中──ひんやりとした感触を手を包んだ。

 

 

 

「大丈夫です──死ぬ時は一緒ですよ」

 

 

 

「──は」

 

まさかそんな怖い事を言われるとは思ってもいなかったのつい自然と笑ってしまう。

てっきり私が守ります、とかそういう格好いい系の言葉を告げるかもと思っていたらまさかの駄目な時の場合を教えてもらえるとは有り難くて泣きそうだ。

お陰で死ぬに死ねない。

 

 

 

「……意外。セイバーはそういう時、現実的な事を言うと思ってた」

 

「現実ですよ。貴方が死ねば私も死ぬ。サーヴァントなのですから当然です」

 

「自分が死んだらそれこそアーチャーのマスターとかに二重契約を申し込んでみたらどうだ?」

 

「まさか──少なくとも今回の現界では私のマスターは貴方だけですよ」

 

 

どーにも有難い言葉を聞きながら、真は背筋を伸ばして立つ。

とりあえずアーチャーからやる気ある有難い視線を感じ取れる。

それはいい。

しかし……早朝故に多くの人はいないがそれでもまばらに人がいる中だ。

人払いの結界も張られていない以上、今、ここでやり合えば周りに被害が広がる。

 

 

 

……アーチャー、ヘラクレスなら覚悟を決めればやりかねないが……あのマスターがそんなタマかな……?

 

 

アインツベルンと、魔術師と決別したというような態度が昨日の彼女の態度であったが……しかし願いがあれば周りを無視するというのは別に魔術師特有の考えではない。

そうなるとここは不味い。

関係ない人を巻き込んでしまう。

早く場所を変えないといけないのだが……足ではアーチャーの知覚から外れる事は恐らくほぼ不可能だろうし、昨日かっぱらったバイクを使うのはより不安定な体勢になる以上、更に危険だ。

どこかに逃げ込まなければ、という思考から真は視界を見回す。

 

 

 

車に強化をかけて逃げる……駄目だ。アーチャーの弓なら強化しても間違いなく貫く。

なら、細道を利用してアーチャーの視線から外れる? 可能ではありそうだが……細道に逃げられる前に仕留められる可能性が有る為、一旦保留。なら、いっそこっちから近付くというのも手だが……真っ向から近付くのはリスクが有り過ぎるから、あるとすれば……

 

 

思考を深めながら、真は様々な手段を考え──ふと疑問に思った。

 

 

 

……何で、攻撃を仕掛けてこない?

 

 

一般人も容赦無用という性格ならもう攻撃を始めてもいいだろう。

アーチャーの力量を考えれば多少遠距離とはいえ当てれる筈だ、と知名度からくる信頼度だが間違いでは無いと思う。

なのに、未だ攻撃を仕掛けてこないのは……やっぱり一般人を巻き込むのは御法度と考えているか──もう既に攻撃を仕掛けているから?

ぞっとする思考に真は反射的に魔術回路を開き、身体に強化を掛ける。

セイバーもそれに気づいて、刀だけを実体化して不自然に見せないように手元に置いているが、今は注意している余裕はない。

 

 

 

 

……いや、幾ら何でも早計か……?

 

 

攻撃を仕掛けてきているのなら、セイバーは勿論の事だが俺だってその魔力と恐らく発生する大音量と衝撃を感じ取れる筈だ。

幾らアーチャーとはいえ物理法則を超えるには魔力を使わなければ不可能の筈。

そう思い、顎先に流れる汗を腕で拭いて──ふと空を見上げる。

見れば、空はどんよりと雲に覆われており、もう少しで一雨来るんじゃないか、という嫌な天気。

そういえばようやく天気の事に気付いたと思い、緊張感の中だと雲ですら癒しになると思い──強化された瞳が雲とは違う黒点を見つけ

 

 

 

 

「──あ」

 

 

全ての納得を驚愕と共に受け止めながら、真を貫くそれを躱す事が出来なかった。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

セイバーはマスターが空から落ちて来た物に貫かれるのを呆然と見ていた。

類い稀なる動体視力を持つセイバーには落ちて来た物が自分には現代のどの道具よりも見慣れた原始的な木製の矢である事を捉えたが、それ故に衝撃が強かった。

 

 

 

──馬鹿な!!?

 

 

セイバーは一切隙など作っていない。

断言出来る。

例えば、今、欠伸をして通り過ぎて行った男性が唐突にアーチャーに変貌して攻撃を仕掛けるという奇想天外な事になったとしても反応出来ると断言出来るし、何なら今、出て来たばかりの宿の扉からアーチャーが現れたとしても対応出来る。

全方位、全可能性を探りながら警戒していたセイバーに死角など無いと断言出来る。

ましてや遠距離から飛来する矢なんて最も警戒するものだ。

その有り得ない現実を、しかし受け止めるのもまた速かった。

セイバーは即座に矢を偶然かわざとかによって受けた左腕を抱えながら倒れようとする少年を支えながら、即座に己の足を使って直ぐ近くにある細道に入る。

そして直ぐに彼の腕の矢……貫通して危うく胸まで貫く所であったそれを見て、即座に矢尻が付いている部分の木の部分を切り落とし、

 

 

 

 

「抜きます」

 

 

の一言と共に抜き取った。

流石に痛みを堪えるような歯を食いしばっていたが、危機が迫っている以上、マスターの片腕が使えない状態になるのは避けたい。

幸い綺麗に貫通しており、骨や神経は外しているようだから治療はそう難しく無いものと察し、そのまま鎧に換装しマスターの盾になる。

……視線は感じるがやはり姿は見えない。

セイバーが感じるように敵はやはり長距離からの狙撃を持ってマスターを射貫いた事になるが……

 

 

 

「マスター……今のは……」

 

「ああ……とっても絶望的で、出来れば鼻で笑って欲しい推理が一つあるんだが、出来るかセイバー?」

 

 

軽口を叩いているが……その顔は引き攣った笑みを浮かべており、声は余りにも馬鹿らしい絶望に笑っていた。

息を飲みそうな顔に、しかしセイバーは頷いた。

そうか、と魔術で治療を続けながら、マスターはその鼻で笑って欲しい推理を披露した。

 

 

 

「……俺とセイバーの感知能力を乗り越えて魔力を持った一射を俺達に気付かせないで当てるなんて多分ほぼ不可能だ。速度で誤魔化そうとしてもセイバーが気付く。微細な魔力で誤魔化そうとしても俺が気付く。なのにこうして矢が届いたっていうなら……方法は一つだけだ。セイバー、()()()()()

 

 

 

私と同じ、という言葉にどういう事だと訝しがろうとして……今、握っている刀を見る。

 

 

 

 

私と同じ……私が出来る事は刀を振るう事だけで……

 

 

 

──気付いた瞬間、セイバーもまた冷や汗を流した。

この事実に気付いた時のマスターの絶望と驚愕は如何ばかりであったのかを身を持って体感しながら、セイバーもまた思わず笑いそうになる声で、答えを返した。

 

 

 

「……つまり、何ですか? ──アーチャーは超長距離狙撃を、一切、()()()使()()()()成功させた、と?」

 

「どうだ? セイバー。出来れば馬鹿らしい、と言って笑い飛ばしてくれないか?」

 

 

とんでもない無茶振りを振ってくるマスターに応えられる度量が無い自分には出来ない相談である。

確かにとんでもなく馬鹿らしい事この上ない推理だ。

アーチャーの正確な距離は不明だが……最低でも1里は離れていると思われる。

最大ではその倍以上だ。

それを……魔力はサーヴァントである以上、最低限は消費しているだろうが、その程度なら確かに自身の感知能力でも気付かないが……己の筋力に風向きやマスターの行動予測、更には己が気付かないように矢の飛ぶ先も調節する。

どれを取っても不可能の領域だ。

そもそも弓が保たないだろう……と思ったが、アーチャーの弓が神代の頃の物で制作されているのならば保つのか。

だが……だが、それでもこればかりはセイバーでも絶句するしかない。

 

 

 

 

艱難極まる試練を全て突破した大英雄の絶技

 

 

 

神業なんてちゃちな言葉では扱いきれない魔技。

正しく神の栄光(ヘラクレス)と呼ばざるを得ない。

その畏怖は自身たちの退却が絶対不可能である事を示しており──しかし、次にマスターが浮かべたのは恐怖ではなく……不敵極まる笑みであった。

 

 

 

「──はっ。ここまでお膳立てされたなら逃げる気も失せるわな」

 

 

あるいはそれは追い詰められたからこその蛮勇。

逃げる余地が一切無くなったからこそ、攻撃本能に全てを注いで生み出された笑みと同時にセイバーの全身に膨大な魔力が駆け巡る。

 

 

 

「……っ」

 

 

近代の英霊であるセイバーの魔術回路は強靭ではないが、仮にも英霊の回路だ。

人を超えた精霊種として成り立っている魔術回路を──全て埋め尽くさんばかりの魔力にセイバーは危うく悦の声を上げそうになる所であった。

その代わり、セイバーもまたマスターと同じ笑みを浮かべる。

別段、セイバーも強敵を相手に喜びを得る様な神経は持っていないのだが……明確に己よりも上を行くかもしれない相手というなら話は別だ。

 

 

 

 

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己の魂が真に屈したのはあの御方だけだ。

故にそれ以上の絶望等許せない。

最早、斬殺するしかない、と冷たい笑みを浮かべながらマスターの敵意に感謝する。

 

 

 

「──セイバー。徹底抗戦だ。マスターはともかく……サーヴァント相手にまで優しくする気は流石に俺も無い」

 

「ええ、分かりました──如何な大英雄であろうとも此度は一切合切斬り捨てましょう」

 

 

この戦争において遂に敵意を持って剣の主従は意思を合致させた。

今、この時だけは間違いなく遠坂真は聖杯戦争のマスターであり、上杉不識庵謙信もセイバーのサーヴァントであった。

願望器ではなく己の生存を勝ち取る為のそれを持って、二人は完全な戦闘意識を作り上げ、行動を開始する。

 

 

 

「──しかし、どうやって近付きますか?」

 

「ああ。空から攻撃されたからお陰で逆の方法を考え付いたよ」

 

 

そう言ってマスターが視線を向けると見ればそこには……確かマンホールとか言ったか。

この街の地下に繋がる入り口の一つに視線を向けられ、成程とセイバーも頷く、が

 

 

 

「……それだけでは少々距離が離れて過ぎていると思われますが……」

 

「問題無い──敵は一人じゃないだろ?」

 

 

その言葉と共にセイバーは今度は巨大な魔力を感知し──しかし自分達とは別の方角に飛んで行くのを悟り、マスターの言う言葉も理解と共に咀嚼する。

そうだった。

今回の闘いはあくまで3竦み。

敵の敵はあくまで敵だが……利用出来るのならば敵でも活用するべし。

己よりもマスターが先に考えに至ったのは少々緩み過ぎだが、その反省は剣で返すとしよう。

 

 

 

 

「では」

 

「ああ、反撃の時間だ」

 

 

 

──殺し合いの開幕は静やかに

 

 

 

 

 

二度目の英霊闘争は未だ多くの人々が寝静まる早朝にて開始した

 

 

 

 




いや、ちょっと待って──ギルガメシュ書くの楽し過ぎ!
くっそ、やっぱり英雄王って超格好良すぎる!


あ、でも……もしも何かこれは少しギルと違うんじゃないかっていう言葉やら何やらがあれば遠慮なく指摘してもらえれば。


そして再びオリジナルマスターですが、御覧の通りに事、精神力だけで言えば恐らく全マスター中最高のイカレ具合。
英雄王相手にも引かず、媚びないそれは実は召喚した直ぐに恐らく軽くでしょうけど殺し合ったかもしれない英雄王ならやるのかなぁ……くっそぅ! きのこさんにそこら辺のお話聞いてからやっぱり書きたいですなぁ!!



そして! そしてそして! ようやく前回に追い付きました……!!


いやぁ、ヘラクレスなら無茶振りをしても軽く返してくれるから素敵ですね!
最早、神業と言うのも生温い大絶技。
まず筋力から無理ゲー判定が入るでしょうし、次に視力で無理ゲー入って、というか全部無理というか不可能ゲー。
しかし、それを覆してこその大英雄。




セイバーが近代だからこそ成し遂げられた人の極みであれば

アーチャーは神代だからこそ成し遂げれた人体を凌駕した極みという



ともあれ、本当に前回からお待たせしました。ここからがいよいよ自分も読者さんにとっても未知の領域です。
どうかこれからもよろしくお願いします。



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