Fate/the Atonement feel 改変版   作:悪役

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悪魔の憎む詩

 

 

 

真は脇を貫通する傷を手で押さえながら、現れた少年の形をした怪物を睨む。

12歳程の年頃をした少年は酷く無邪気で、それだけならば容姿も含めて、天使のような微笑みをした少年としか見えないだろう。

 

 

 

 

しかし、今の状況──サーヴァント3人、魔術師3人に睨まれた状態で自分の血で濡れた手を広げて挨拶をする、という状況で見れば、最早それだけで異様な光景だ。

 

 

 

例え一般人であっても強烈な圧や恐怖を感じせざるを得ないサーヴァント3人に睨まれてにこやかに微笑む事が出来る子供など居る筈が無い。

 

 

 

真は見た事が無いが……本能で分かる。

この少年は人ではない。

ましてやサーヴァントでもない。

マスターとして与えられた眼で見ても、サーヴァントのステータスが読み取れないのもそうだが……それ以上に全身にこびりつく重苦しい魔の気配。

例えどれ程、無邪気な笑みを振りまこうとも漏れ出ている邪悪な気配。

存在している以上、人に害為さずにはいられない魔物──死徒であると理解出来る。

 

 

 

 

……死徒まで蠢いているのかよ……

 

 

英霊を、聖杯を死徒が求めるとは世も末である。

聖杯の由来を考えれば、偽物であってもお前達の敵の概念では無いか、とツッコみたいが、下手に口を出せばどう転ぶかが読めない。

アレにとっては俺達なんて魔術師がどうかと言うよりは楽しむべきか、啜るべきかの二択くらいしか考える余地が無いのではないかと思うが……確かに死徒の圧力は凄い。

俺はおろかクラリスとシルヴィアと組んでも、命を懸けてようやく真面な一矢が届くのではないかと思われる圧だ。

 

 

 

 

……でも、アーチャーやランサーに絶対に勝るとは……

 

 

セイバーを入れなかったのはセイバーが弱いのではなく、セイバー自身の技能が対人に振り切られているからである。

こういう怪物を相手にした場合、有難いがアーチャーとランサーは非常に適しているとしか言えないのだ。

片や不滅の英雄に、もう一人は不死身且つ不死殺しの大英雄だ。

大抵の無茶はこなせれる、と思い、思い切って二人のマスターに視線を向ける。

声に出せば気付かれる以上、これで気付いて欲しいという想いは……二人が小さく頷く事で達成された。

見れば、アーチャーやランサー、セイバーも頷いているので最悪の展開は免れたと思われる。

で、あるならば

 

 

 

 

「──それで? 死徒一匹が聖杯欲しさにマスター殺しか? 天気が曇っているから幸いでしたってか。ご苦労な事だな」

 

 

遠慮なく挑発を放つ。

何をするか分からない相手だが、だからと言って過剰に怯えていたら怪物は益々つけ上がる。

更にはこれで敵意を俺に向けて、少しでも行動を読みやすく出来ればという考えだが……予想通りセイバーがほんの刹那の間だけ半目でこちらを見て来たが、無視する。

逆にアーチャーとランサーが小さく礼を言うように頭を下げるのにはどうしたものか、とは思うが。

すると死徒は死徒でへぇ? と愉快そうに頷き

 

 

 

「たかが人間が言ってくれるじゃないか。とても僕達と出会った経験があるようには見えないけど……()()()()()()()()()()?」

 

「まさか。怪物らしく弱みに付け込んでみたらどうだ? 女を前にしないと格好つけれない腰抜けとか」

 

 

何か琴線に触れたのか。

俺の懇親の自虐冗句に少年の形をした怪物は笑った。

今度は今までの悪意と邪気に満ちた物と違って、心底から笑ったものであると感じ取れた。

 

 

 

「──これはまた愚かだねぇ。君、今の──心底から言っただろ?」

 

「女を盾にして後ろからキャンキャン吠える犬の名前を知っているか? 腰抜けって言うんだ。馬鹿な道化がいたものだって思って帰れ」

 

 

余計に笑われたが、別に気にする事ではない。

笑うならそのまま帰れ、と本気で思うが、向こうは勝手に笑って満足してそのまま言葉を続けてくる。

 

 

 

「随分と自虐的な生き方だねぇ。そんなんじゃ息苦しいだけじゃないか。もう少し趣味とか開拓した方がいいんじゃないかい?」

 

「例えば?」

 

「そうだねぇ……僕の場合は珍しい物を集めるのが好きでね──そこの人形の令呪や心臓は結構価値がありそうだし、そのついでに大英雄を従えれるならラッキーかなぁって思ってたんだけどねぇ」

 

 

アーチャーが憤怒で全身が少し赤くなるのを見ながら、真はクラリスが狙われた理由を知る。

 

 

 

死徒がコレクターに耽るとは……いや、ある意味らしいか

 

 

何せ不死ばっかり好き勝手謳う怪物達だ。

()()()()()()()()()()()

呆れから、つい真は口を滑らせた。

 

 

 

「難儀な連中だな──特にあんたは他人の願いを受け入れては歪ませてるんだから」

 

 

ぁ、と無意識で口を封じたが遅い。

一瞬、死徒の少年は動きを固め……しかし次の瞬間目と口を歪め、

 

 

 

 

「──僕の事を知っている……ってわけじゃないのに随分と知った口を聞くじゃないか? ……ああ、いや……()()()()?」

 

 

少年の眼が俺の眼を凝視する。

じろりと顔ではなく眼を凝視する様に、俺は色々としくった、と思うが、悪魔の興味を惹いてしまった以上、どうしようもない。

 

 

 

「へぇ……これは結構、大物かな? 我が姫君には当然劣るけど……飾るに中々に美しそうだ。黄金……いや、もしかして宝石に届くのかな? 益々興味深い。抉」

 

 

言葉が途中で途切れたのは少年が喋れなくなったからだ。

何せ上唇から上が消えたら人間の構造上喋るのは不可能だ。

余りにも一瞬の殺害。

 

 

 

それを為したのはセイバー──ではなくアーチャーであった

 

 

厳密に言えばセイバーも踏み込む姿勢を作っており、しかしそれよりも速くアーチャーが射たのだ。

その速さにも驚いたが、それ以上にアーチャーがまさか自身を守る為に射たという事実に驚いて、クラリスとアーチャーを見るが

 

 

 

「──最高のタイミングねアーチャー。あれ以上、淫らに恩人を穢していたら私が先に仕掛けていたかも」

 

「そうであろうと思っていたからのでな。それに私とて魔物の囀りを聞き続けるには聊か忍耐力が足りなかったようだ」

 

 

忍耐の極致のような男が良く言う、と思うが、もしかしてこれ、アーチャーなりのジョークだろうか。

それに恩人とはまた大層な……と思いつつ、自分は少年の死体を見る。

上唇から上を吹き飛ばされた少年の背は当然だが縮んでおり、犬のように舌がぶら下がっている光景は逆に滑稽に見えるが……真は無感動に死体に語り掛けた。

 

 

 

「死人が死んだ振りをして楽しいのか?」

 

「いやいや。これが時々オーディエンスを驚かせてね。身内は全く驚いてくれないけど、時々魔術師が腰を抜かしたりしてくれるからつい」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

気味の悪さは正しく随一であるし、単純に脳が吹き飛んでも尚、死なないというのは確かに恐怖だ。

 

 

 

──でも真にとっては恐怖するものではない

 

 

大体、この死徒は何も解ってない。

恐怖(ホラー)を語るなら喋ってしまったら3流もいい所だろうに。

喋るという事は知性がある証明。

無理解の怪物から不可解の怪異に成り下がったら、今時の子供は泣いてくれないというのに。

……思考が逸れた。

見れば、もう顔が再生されているのを見て、復元呪詛かと思いながら

 

 

 

「やるのか? こっちにはお前のような怪物殺しのエキスパートがいるんだが」

 

「職務上は駄目なんだけどねぇ……まぁ、ここで無駄死にする可能性がある事を考えれば止めておきたいね。英雄ヘラクレスは魅力的だけど御せるかどうかは話が別みたいだ」

 

 

好き勝手は最後までを貫くつもりらしい。

が、正直有難い。

相手は間違いなく死徒の中でも上級の死徒だ。

でなければ、幾ら死徒でもヘラクレスの一撃を受けてもあっさりと再生するのは難しいだろう。

職務上だとか何だとか気になる事は多々あるが……引いてくれるならばこれ程有難い事は無い、と思いほっとし──向こうの手に着いた俺の血を舐めとる行為を()()()()()()()()

 

 

 

──真は知らない

 

 

否、魔術師としては知っている。

血とは魔術師にとって最も魔力を通しやすい素材。

単純且つ当然の事実だからこそ真は見逃した。

 

 

 

 

その血液にどれ程の高魔力かを──()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

変化は劇的であった。

血を舐めた少年は先程よりもはっきりと硬直した。

それ所か眼を見開き──遠坂真の全身が干上がる様な感覚と余りにも冷酷極まりない冷たい刃が全身を指し貫く感触を覚えた。

 

 

 

 

「……ぇ?」

 

 

背後の少女二人が冷気に当てられ膝を着く。

かく言う自分もまた余りの殺意にくらりと視界が歪む。

その威圧と感情。

大英雄である3騎ですら押され、攻撃ではなくマスターを守る為に立ち塞がるしか出来ない程の坩堝。

人型の、少年に押し込まれたとは思えない感情の地獄があっという間に世界を侵食し、恐怖と殺意を伝染させていた。

 

 

 

 

人類全てを縊り殺すという殺意が──今、遠坂真に全て注がれていた

 

 

 

ぎょろり、と先程まで黒目であった赤い赤い、血のような眼がこちらを見ている。

憎悪なんて生易しい物ではない。

殺意なんて軽々しい物ではない。

それら二つを混ぜて、煮詰めて、固め、最早言葉では到底表し切れない深い虚のような感情。

 

 

 

 

「ひっ……!?」

 

 

クラリスからの小さな、思わず出て来た悲鳴に真は心臓が飛び出したかと思ったが……逆にそれで自身を取り戻す事が出来た。

何時の間にか投影していた刃が砕け散る程の敵意をぶつけられ、投影した剣がイメージを保てなくなった事は分かるが、今はそれが余りにも心許なかった。

ならば、剣をとは思うが、砕ける様な恐怖は今もそこに存在している。

魔術回路を手繰ろうにも、普段のようにいかない。

アーチャーの圧とて絶望的で、死を感じる様な物ではあった。

だけど、これは余りにも違う。

アーチャーが巨大な山が睨んでくるような圧倒的な偉大さであるならば、これはブラックホールの真ん前に突然放り出されたようなものだ。

 

 

 

 

どこまでも暗く、逃げようにも逃げれない絶望の闇

 

 

その闇が今、呪詛を何億にも積み重ねたような言葉を吐き出した。

 

 

 

 

「──こいつは極上だ」

 

 

極上だ、と告げながら、その言葉は余りにも呪わしかった。

極上と言いながら、少年は間違いなく極上と称したそれをぶち撒けてやりたいと切に願っていた。

 

 

 

 

数千年に及ぶ憎悪の花が今、咲き誇る

 

 

「面白い……実に面白い。ここまでスパイスが効いた物語(料理)を食べるのは久しぶりだ。楽し過ぎて()()()()()()()()。よりにもよって、今、このタイミングで■■の■■者の■■だって? はっ、相も変わらず正気を疑うね。秩序とばかり戦っているせいで常識っていうのを弁えるのを忘れた()()()。ああ、くそ、最悪(さいこう)だ! まさかこんな状況、こんな場所で()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 

意味の分からぬ言葉の奔流、

一つ一つの言葉には津波の如き荒ぶる感情が込められており、その全てが遠坂真に向けられており、その余波だけで人類最高級の魔術師2人が沈静さを失い、大英雄が戦意を維持しながら、警戒を深める。

今直ぐにでも気絶すれば楽になる程の感情を受け止め、干上がりそうになった舌を……それでも真は動かした。

 

 

 

 

「……何が、言いたい?」

 

 

何とか形になった掠れた声に、吸血鬼はようやく面貌を上げた。

先程までの少年特有の愛らしさをかなぐり捨てた、憎悪に塗れた復讐鬼としての怪物が今、右足を一歩踏み出す。

心音が一際高まる。

より強く、深く視る事になり、真の眼球はその右足を凝視してしまう。

 

 

 

其はあらゆる暴威

 

人々が想像した神罰にして大海嘯の具現

 

人類を掃討する暴虐にして究極の救い

 

 

籠められた願望を読み取ってしまった真は無意識に先を想像し、息を止める。

結末を想像した真は止めろ、と叫ぼうとするが……直ぐに無意味である事を悟る。

 

 

 

「何が言いたい? ああ、うん、そうだね。ここまで言葉にしたい感情は久しぶりだからしっかりと言おうか」

 

 

三日月に歪む嘲笑は吸血鬼というより悪魔のそれ。

それもその筈。

何故なら少年は生粋の()()使()()

他人の願望を受け取り、歪めながら形にする生粋の御子。

4つの魔獣を創造した怪物の生みの親なれば──その身体は悪魔へと墜ちる。

而して吐き出される言葉は無垢なそれ。

偶像を愛し、空想のピーターパンを自称する以上、彼は願望を歪める事は出来ても、願望からは逃れる事が出来ない。

 

 

 

 

 

だから、彼の言葉は最初から最後まで──邪悪に満ちた純粋さであった

 

 

 

 

「──前言撤回だ。永遠の地獄(ネバーランド)で存分に踊って貰うよ」

 

 

 

右足から伸びる影が一瞬にして巨大になる。

その事実に、今度こそ真は大声で周りの皆に叫んだ。

 

 

 

 

「!! ──ここから逃げろぉぉぉっぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

俺と同じ感覚を得たのか、それとも最初からそのつもりであったのかは知らないが、英霊3人の反応は正しく最高であった。

それぞれのマスターを抱え上げ、それぞれの最高速度で即座に離脱する。

マスターに遠慮する事もせず、最高速度を持って離脱する判断力と瞬発力は当然、人間技を超えており、死徒ですら容易く追えず、追いつくのも難しい物だったが……少年はそもそも追う気等無かった。

何故なら右足から伸びる影は膨張を留まらず……凡そ200m先にまで伸びており、サーヴァントの速度よりも速く伸びているからだ。

 

 

 

セイバーは何があっても対応出来るよう姿勢を正し

 

アーチャーは何があってもマスターを傷つけないように己の肉体を盾とし

 

ランサーは何があっても突き穿つ決意とマスターを守る覚悟を身に宿し

 

 

悪魔使いの少年が今、己の悪魔を招いた。

 

 

 

 

「さぁ、破壊の時間だ。"陸の王者"の蹂躙乱舞を魅せてくれ」

 

 

 

刹那──それは顕現した。

 

 

 

影から一瞬で浮き上がり、まるで空間から唐突に生まれたかのように発生したそれは単純に巨大な怪物であった。

全長凡そ200m、もしくはもっとあるかもしれないかい巨大な鯨のような巨大にして強大な生命。

単純にして無比な悪魔は、それだけで人々の心を恐怖のどん底に押し落とす。

巨大な質量というのはそれだけで人心を惑わし、肉も魂も昏迷に叩き落す。

何せ、あるだけで200mの質量を押し付けてくるのだ。

 

 

 

 

 

どんなに大きくなれても3mと少しくらいにしかなれない人間からしたら空が落ちて来たのと変わらない

 

 

 

そしてその悪魔はその質量を持って、傍にあった全ての家屋、ビルを押しのけ、地面に着地すると同時に大質量による圧壊と地震を誘発させた。

 

 

 

 

「──くぅっ!!」

 

 

セイバーは即座に主を抱え、縮地によって圧壊よりも速く逃走を試みるが、どれ程素早く、人間の限界を超えれても限界がある以上、巻き上がる粉塵と衝撃に吹き飛ばされてしまう。

 

 

 

 

「ぬぅ……!」

 

 

アーチャーは大質量の衝撃を全身にしこたま打ち付けられるが、その上で一切マスターに被害を齎さずに受けきり、そのまま吹き飛ばされた方角にあるビルを突き抜けた。

 

 

 

 

「むっ……!」

 

 

ランサーは空中でも自在に動ける程の焔の出力を持って躱し切り、衝撃を槍で弾き飛ばすが、想定より巨大且つ凶悪な魔獣を相手に攻めあぐねる。

マスター二人は当然、生き残る事に必死であり、精々自分の身を考えるだけで……その中

 

 

 

「──」

 

 

その巨大な質量を持って全てを押し潰す光景を視認してしまった少年が居た。

ここら一帯はクラリスが人払いの結界を張っていたが……あくまで人払い、つまり一帯に近づけないだけであって、ここまでの巨大な怪物を相手にする予定が無かった以上、この街から全ての人が消えてしまったわけでは無い筈だ。

分からない。

見た限り、人影は見えなかったが……だとしても、この少年は酷くあっさりと大量虐殺する事を是としたのだ。

ただ一人を殺すために、無数の誰かを殺す事に何の呵責も持たずに行ったのだ。

 

 

 

 

「──っ!」

 

 

相手が死徒であるとという考えは捨て去られた。

激情は全身を駆け巡り、恐怖は焼き消された。

体を縛り付けていた圧は全て弾き出され、殺意が魔力を生み出し、魔力が魔術回路の中で駆け巡り、魔術回路が今の遠坂真に可能な魔術を組み上げていく。

その中で、遠坂真が最初に起こした行動は

 

 

 

 

 

「──テメェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!」

 

 

魔力が込められた咆哮を口から吐き出した。

指向性のない叫びは周りのビルや家屋の窓硝子を破壊し、衝撃を伴う。

無論、その程度の拙い魔術では巨大な悪魔を打ち倒すには儚さ過ぎる──が恐怖に縛られた魔術師二人を解き放つには十分であった。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

「……っ!」

 

 

少年の叫びにクラリスの瞳に知性が戻る。

戻った後に見せられたのは絶望的な程に巨大な悪魔と破壊の光景だ。

それだけで再び理性を失ってもしょうがない光景だが……クラリスもまた真と同じように巨体に踏みつぶされたかもしれない誰かの事を想像し、頭に血が上る。

別段、クラリスは赤の他人の全てが幸福でなければいけない、などという綺麗事を考えているわけではない。

 

 

 

彼女が願うのはあくまでも自分の仲間達が出来る限り普通の幸福を甘受する事

 

 

 

その為ならば自分の手も血に染める事を覚悟している。

だから、彼女は赤の他人がどれだけ亡くなろうと知った事ではないが……目の前の光景が下手すれば自分の仲間に降りかかっていたかもしれない、となると話は別だ。

今は人払いの結界を張った後、仲間達は皆、避難している筈だが……しかし、タイミングは違えば目の前の光景の中に自分達の仲間がいたかもしれないのだ。

 

 

 

 

そうと考えればクラリスの赤い目にも怒りが灯る。

 

 

 

元より世の理不尽に対して抗うと決めたからこそアーチャーを召喚し、アインツベルンを滅ぼし、聖杯戦争に参加したのだ。

相手が()()()200mくらいの巨体なんて絶望するに値しない。

故にホムンクルスの少女は声高らかに己の最強に命を下した。

 

 

 

 

※※※

 

 

全く同じタイミングで理性を取り戻したシルヴィアもまた焼き付くような怒りに身を震わせていた。

最も、少女は他の二人と違い、生粋の魔術師だ。

己の魔道の躍進の為ならば、他の全てを犠牲する事を許容する。

 

 

 

 

──が、それは在り来たりな魔術師の思考だ。

 

 

 

少女の魔術師の在り方は常道から大いに外れながら、しかし王道を愚直に進む。

その思考の中には当然、神秘の隠匿という考えがあるが……無辜の民を虐殺する怪物に対しての正当な怒りも持ち合わせていた。

 

 

 

 

シルヴィアリーチェ・エーデルフェルトは生粋の貴族である

 

 

 

それは身分による上下でも無ければ、階級としてのそれではない。

人の上に立ち、気品と誇りを持って生き続ける事が出来る尊き人という意味での貴族だ。

母の血は強し、とでも言うべきか。

母、ルヴィアが持っていた魔術師らしくないが惹かれざるを得ないという気質を受け継いでいた。

それ故にシルヴィアもまた目の前の光景を許せない。

これが魔術の進歩の為の苦痛と覚悟を孕んだ犠牲であるならば気に食わないが納得しただろう。

あるいは死徒である以上、己の肉体の劣化を防ぐ為の虐殺なら、許しはしないが、理性の部分で理解を得ただろう。

 

 

 

 

しかし、これはただの殺人行為の()()()()

 

 

 

 

神秘の躍進にも繋がらなければ、一般の常識に当て嵌めてもマイナスしか思い浮かばない無駄な虐殺。

誰に取っても、何に取っても益にならない。

更にはその主犯ですら、大量虐殺に目を向けていない。

死する者はただ運が悪かっただけ。

無駄に散らして、無駄に削れるだけの何の意味も意義も無い大掃除。

 

 

 

 

その下らなさにシルヴィアの堪忍袋は一瞬で断ち切られ、その結果、少女もまた己の最強に槍に向かって叫んだ。

 

 

 

奇しくもそれはクラリスがアーチャーに叫んだ同一時刻。

 

 

 

 

「アーチャー!! ──ここで一人だけ逃げようなんて言ったら怒るからね!」

 

「ランサー!! ──私一人を逃がして満足するような器の小ささを露呈したら分かっていますわね!?」

 

 

 

二人の少女の叫びは細かい所は違えど、同じ怒り、同じ言葉を持って大英雄の魂に熱を届けた。

 

 

 

※※※

 

 

「──」

 

 

アーチャーは誇るべきか、苦々しく溜息を吐くべきか悩む。

アーチャー個人としては当然、人々を苦しませる魔獣の存在は憎々しく、殴り殺してやりたいが、それでマスターを危険に晒すのは本末転倒だ。

サーヴァントとして正しい方法はマスターだけでもこの場から戦線離脱させる事だとは思うが……同時にマスターの願いを叶えるのもサーヴァントの役目だ。

で、あるならば仕方が無い。

 

 

 

元より怪物を殺すのは己の専売特許

 

 

 

世界全ての神話を相手にしても尚、誇れる怪物殺しのエキスパート。

それを二度目の生でも成し遂げろというのならば、ヘラクレスは新たな試練を前に挑むしかない。

喜悦に歪む唇をマスターから隠しながら、アーチャーは全身の筋力を盛り上がらせ、魔力を張り巡らせる。

 

 

 

ああ、それにそうだ──私はこの少女に誓ったのだ。最強であると。

 

 

何に対しても強くあれ、という期待に応えると誓った以上、相手が魔物であろうと関係ない。

大体、あの魔物が最初に狙ったのは少女だ。

その事実だけで鏖殺するという選択肢しかない。

神性によって赤く染まった目に光が灯る。

矢を顕現させ、限界にまで弦を引き絞った一射を持って我が殺意を証明しよう。

 

 

 

 

「■■■ーーーー!!!」

 

 

まるで狂戦士(バーサーカー)の如き咆哮と共に最強のアーチャーの一射が神速を以て大怪獣に放たれた。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

「──」

 

 

ランサーはマスターの咆哮に微笑を浮かべた。

ランサーの人格を元に形成されたスキル"貧者の見識"は当然ながら少女の性格も見抜いている。

今の叫びに至る理由が決して正しさや優しさだけから生まれた物では無い事を理解した上で、カルナは微笑する。

 

 

 

カルナは善も悪も良しとする

 

 

全ての邪悪を許すというわけではないが、そこから芽吹く想いや道を信じているからこそ、カルナは良しとした者の槍となる。

闇の中で輝くのを良しとしたのではなく、闇を以て輝こうとする少女をカルナは受け入れ、賞賛し、迷いが無くなる自分を自覚する。

 

 

 

 

「──了解した、マスター」

 

 

答えを返すと共に槍に込められた焔が力を増す。

日輪は不滅なり。

何度落陽を迎えても、日の登らない明日が無いように、カルナの焔もまた不滅である。

 

 

 

 

怪物とは日の光を恐れ、疎まれたものであるならば猶更に

 

 

 

※※※

 

 

セイバーは背後に迫っていた怪物を前に縮地を以て何度も逃げていたが──背後に現れた2騎の英霊がその戦況を打破した。

空からランサーが焔を噴出しながら、眼に光を灯して現れ、アーチャーが地上から限界にまで弦を張り詰めた弓を以て現れ──同時に攻撃を仕掛けたのだ。

 

 

 

 

日輪の輝きを灯した眼力とギリシャにて頂点に輝いた剛腕による一射が同時に怪物を穿った

 

 

音もなく怪物の体が()()()()

比喩ではなく、文字通り怪物の体は消えたのだ。

厳密に言えば4つ足のみを残してだが……あれ程絶望的な巨大さを以て蹂躙していた怪物が、まるで夢の如く消え去ったのだ。

その暴威に助けられたと分かっていてもセイバーは戦慄せざるを得なかった。

息を飲んだ後にようやく強烈な衝撃波と音が辺りを鳴り響かせるが、それくらいならセイバーでも問題は無い。

ようやく安息を得られたが、セイバーは改めてアーチャーとランサーを警戒するが

 

 

 

「セイバー。一時休戦を提案させて貰う」

 

 

それを読んでいたのだろう。

タイミングよくランサーが即座にカウンターの言葉を放った為、セイバーも止まらざるを得ない。

……それに内容もまたセイバーにとっては正直、欲しい類の言葉だ。

セイバーも自分が弱いとは思っていないが……セイバーの力はあくまで人を相手に培い、本領を発揮する者だ。

聖杯の知識で幾らかは情報は得ているが、そこから察するだけでもアレは自分の天敵の類である事は理解出来る。

だから、アーチャーとランサーの援軍はセイバーにとっては万軍所か億にも匹敵する提案ではある──が、そこで馬鹿正直にはい、分かりました、と頷くわけにもいかないのが現状だ。

さて、どうするべきか、と考えて沈黙を選んでいたが……その隙に抱えていたマスターが自分の腕から無理矢理降り

 

 

 

「──協力感謝する。ここに来たのはマスターの保護だろ? それはセイバーに頼むから二人は存分にあのイカレた怪物(ファッキンモンスター)をぶちのめして欲しい」

 

 

などと勝手に言うものだから、セイバーからしたら小さく吐息を吐くしかないが……マスターの意向である以上、聞くしかない。

 

 

 

 

……まぁ、正直、今回に限ってはごねた方が問題になっていましたが

 

 

 

むしろ協力に関しては最悪、こちらから打診しないと行けなかった場合もあるのだから、それを考えると幸先がいい。

向こうの義侠に感謝するべき、と言うべきなのだろう。

 

 

 

「……分かっていると思うが」

 

「──ああ。もしもセイバーが二人に手を出そうとしたら俺が自害するよ」

 

 

さらりと告げられた言葉にセイバーはさっきより大きな吐息が出てしまう。

勿論、マスターには聞こえていないが、サーヴァントの知覚は誤魔化せない。

アーチャーとランサーが小さく苦笑し、アーチャーが皮肉を投げてくる。

 

 

 

「──随分と大変なマスターを持ったものだ」

 

「ええ、本当に。羨ましくても代わりませんけど」

 

 

要らぬ、と一言呟きアーチャーは一歩前進する。

向かう先は今はあの巨大な怪物の足しかない場所──ではない。

今の、ほんの数十秒の時間で鯨に象の足がついたような怪物は全身を再生しつつあるのだ。

 

 

 

 

「■■■ーーー!!」

 

 

再生された新しい口を以て、巨大な悪魔は吠える。

それだけで全身が殴打されるような感覚と心を打ちのめす衝撃が来るのだが……サーヴァントは元よりマスター達はもう折れなかった。

 

 

 

「品のない怪物ね。一々、吠えないと他人を恐怖させれないみたい」

 

「ええ、気が合いますねクラリス。所詮、怪物という事なのでしょう──弱い者を嬲って満足するような下らない気質の持ち主ですわね」

 

 

少女二人は怪物に負けない、という意気から本来の不屈と不敵を取り戻す。

その事に賞賛の気持ちが込み上がるのをセイバーは我慢しながら……もう一人のマスターである少年の顔を見る。

……ある意味、予想通りと言うべきか。

 

 

 

そこには憤怒の念を刻まれた少年の顔があった

 

 

鋼の瞳は常よりも爛々と輝き、魔術回路は最早、眼に見える程に回転し、輝き、殺意と共に魔力に転換されていく。

……仏蘭西の時と同じようで違う。

今回は見ず知らずの誰かの喪失と嘆きに身を震わせながら、しかし今回は純粋な怒りの念によって全身を燃え滾らせている。

 

 

 

許さない、認めない、殺してやるという人間を象徴するような感情で全身を染め上げていた

 

 

鬼のような形相であるというのに……中世的な顔に赤く美しい長髪によって一つの絵画のような美しさを生み出していた。

魔術回路によって彼の体を中心に碧色の光が漏れているのもまた神秘的であった。

……最悪、理性が飛んでいないかと思い、セイバーはマスターに声を掛ける事にした。

 

 

 

「……マスター」

 

「何、セイバー」

 

 

声を掛けられた途端、憤怒の顔を消してこちらに答える姿を見て、さて、これは自動的に返事をしているだけなのか……あるいは吹っ飛んだ理性の上で冷静な返事をしているのか、と悩んだ。

その答えを、今までの付き合いで考えるとどちらか、と決めるなら

 

 

 

……後者ですね

 

 

怒りに呑まれながらもその思考は冷静にして沈着。

灼熱の如き怒りに魂事身を焦がしているからこそ、その怒りを発散する為に冷静さを利用しようとしている。

生前、合理を基に戦を刷新した革命の王を知っているが故に驚く事は無い。

彼女はこれ程、感情を噴出さなかったが……感情すらも合理の仕組みに組み込むという点では同じだ。

 

 

 

 

これがあの第六天魔ならば気にせず放り投げてもいいのだが……このマスターに全てを任してもいいのだろうか……?

 

 

ほんの1秒くらいしか悩む余裕は無かったが、結局出た答えは

 

 

 

 

「──マスター。無茶をするなら私も付き合うので」

 

 

 

そんなあやふやな答えしか告げれなかった。

己の語彙力の無さに恥じ入るが……それでも届いたのか。

少年はバツが悪そうな顔になって目を逸らし

 

 

 

 

「──分かっているよ。無謀な事はしない」

 

 

と答えてくれたので、とりあえず今はそれで安心するべきかと思い、自分もマスター達よりも一歩前に出る。

そのタイミングでアーチャーが声を掛ける。

 

 

 

 

「──あの巨大な魔物は私が相手しよう。セイバーはマスター達の警護を。ランサーは全体の補助を頼む。可能なら本体の魔物を打ち倒してもらいたい。何か不満は?」

 

 

セイバーはランサーと同じタイミングで首を振る。

人相手ならともかく怪物を相手にした場合ならアーチャーかランサーの方が経験があるでしょうし、役割にも不満は一切無い。

 

 

 

「……先程は右足の影からあの怪物が出てきました。で、あれば他の四肢も疑った方がいいかもしれません」

 

「だろうな。おまけにあの少年事態も魔物であるなら、本人も留意しておいた方がいいだろう。あれが死徒……吸血鬼であるのならば影等も注意しておいた方がいいな」

 

 

己とランサーの意見が放たれるのと同時に怪物──あの少年が告げた言葉を信じるなら陸の王者が再び全身を表す。

相も変わらずの大きさに、近代の自分では馬鹿げていると思えないが……神代の英霊である二人は一切気にせず、遊撃に出るアーチャー等、特に気にせず前に進む始末だ。

それを再確認して、セイバーは内心で独り言ちる。

 

 

 

 

別段、この二人に比べて殺し合いという意味では劣っているとは欠片も思っていませんが……英霊という格では間違いなく自分が一番低いですね

 

 

 

どうしようもない事実に苦笑を浮かべるが──別にそこまで気にしていない事実だ、と思い──自分を切り替えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──英霊同士の殺し合いは休止し、英雄と死徒、魔術師による殺意と憎悪によって戦場は塗り替えられる

 

 

 

 




また風邪で倒れるとは……!

ともあれ再び難産……! 既存のほぼオリジナルのようなものだから仕方が無いのですが、出来れば奈須さん! 空の王者についての設定をもう少し深く掘り下げて欲しいです……!


さて、ここからは最後に告げた通り英霊と死徒、魔術師同士の殺し合いになりますが、この3竦みだと魔術師メンバーが酷く不利になってしまうという。



あ、ちなみに少年が真の血についての言及はオリジナルです。
彼が使える姫君が滅せられた時、幾ら万華鏡の魔法使いであっても血を一切流さずというのは無理でしょうし……その時、少年、あるいは忠義者二人は敢えてその血を舐めとり、自身に刻んだという。



この憎い相手を生涯忘れない、という誓いで。



もう一つ……よくあるサーヴァントステータスですが……これは見たいという人はいるのでしょうか?
自分も見るのは好きですが、さて初心者の人が作ったオリジナルステータスを見るよりはよ、次を更新せよって思うのかな? って思うのでちょっと聞いておこうかなっと。
現状、見れるステータスがあるのはセイバーとアーチャーかな。
バーサーカーはまだ一旦無しにしておこうかと。
カルナはほぼ原作のままです。
魔力とかそこら辺は上昇しているかなってくらいです。



ともあれ、次回でドイツ編……終わるか、もう一話あるかなって感じです。


次回もよろしくお願いします!!
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