Fate/the Atonement feel 改変版   作:悪役

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欲望の在処

 

 

シンが次に目を覚ました時、シンは部屋のベッドで寝ている状況であった。

それだけならば、昨日の出来事は全て夢の出来事だったのだ、と思えるかもしれないが………特に昨日は何もしていないのにわざわざ靴を履いたままベッドで寝転んだりするとは思えないし、服も昨日の服のまま。

それでも、可能性だけならば寝ぼけたとかも有り得るのだが………

 

 

 

君は、君が成りたいものになるがいい────

 

 

 

あの言葉を、夢幻として扱うには、余りにも真摯な言葉であった。

成りたいものになってもいい、という激励と同時に、成りたくないものには成らなくてもいいのだ、という許しの言葉。

どうしてあそこまで、俺のような屑を相手に、優しい言葉を言ってくれるのかは分からないが、だからこそ嘘などではないという事は分かる。

だけど

 

 

 

「成りたいもの………」

 

 

シンが、自分が夢見るもの。

こうしたいと思えるものに成れ、という激励を前に………シンは何も考えれなかった。

成りたいものなんて無かった。

………昔は、母のような立派な魔術師になろうと思ってはいた。

この場合の立派、というのはよくある定型な魔術師になる、というわけではない。

闇を肯定しながらも、闇に呑まれず、理念や思想があるわけでもないのに、ただ生き方が眩しいような、そんな形の魔術師になりたい、と思ったのだ。

成れるか成れないかは可能性は零ではなかっただろうけど………自分の手で壊した未来だ。

最早、未練さえ無い。

なら、他の道は何があるのだろうか────?

 

 

 

「ちょ、ちょっとちょっと! あ、歩くの、速い………!!」

 

 

ぼーっとしていた頭に叩き込まれる絶叫に、ようやく意識が内ではなく外を認識する。

自身の体が今、学校を終え、アメリーと一緒に帰宅しているのを認識し、己の速度が、少女を置き去りにしている事に気付く。

思わず振り返ると少女が必死に息を整えている光景があるので、完全に自分が悪い事をしたのだと認識する。

 

 

「………ごめん。何も見えていなかった」

 

「はっ………う、ううん………勝手に追いかけたの……私だし………どうしたの?」

 

 

散々と追い掛け回す羽目になった少女からしたら、当然の質問だ。

それに答える義務も俺は持ち合わせていないけど………答えない理由も存在しなかった。

しかし、それはそれで癪だから、逆に思わず問い返してしまった。

 

 

 

「どうもしてないって言ったら信じるか?」

 

「うん、無理。だって貴方───何時もより生き生きしてる」

 

 

 

────正直、その言葉は聞いて愉快になる言葉では無かった。

 

 

だって、それでは今まで苦悩と向き合ってきた甲斐が無い。

自分の苦悩なんて、他のあらゆる苦悩に比べれば、つまらないものかもしれないが、それでも向き合ってきた俺にとっては死活に等しい問題だった。

なのに、それが………いきなり出会った謎の人物の一言に言われただけで、振り払われるようなものだとは思いたくなかった。

………勿論、それが餓鬼の癇癪だという事は理解していたが、

はぁ、と一息吐きながら、シンは心底他愛もない話をしているという風に

 

 

 

「なぁ、アメリーは何か成りたいモノとかある?」

 

 

質問からの質問に対して、普通ならはぁ? と問い返されても仕方がない所を、少女は一度首を傾げるだけに留め

 

 

 

「それは、将来の夢、とか職業的な事?」

 

 

と、律義に付き合ってくれた。

 

 

 

「うーーーん………どちらかと言うと………前者かなぁ」

 

 

未来を語るという意味ではどちらでも正しいのだろうけど……あの人が言った言葉の意味を考えれば、前者の方が正しい気がする。

職業などで語る未来は現実的で、やはり正しい事なのだが………あの言葉にはそんな小さい事だけを述べているように思えなかった。

大それた、己の領分を超えた望みを語るのならば、それは夢と呼称するべきだろう。

 

 

 

「成りたいモノ………やりたい事じゃなくて成りたいモノね………」

 

 

酷く適当に振った話題だというのに律義に付き合ってくれる少女に、苦笑しながら、答えを待つ。

 

 

 

「やりたい事なら一杯あるけど………成りたいモノ、なら私は一つかなぁ……」

 

「へぇ……教えてくれたりする?」

 

「………笑わない?」

 

「笑うものか」

 

 

他人の夢を笑うほど、流石に落ちぶれてはいない。

余程、邪悪でない限り、誰かの望みというのは他人が笑っていいものではない事くらい俺でも理解している。

他人の望みを笑う、という事は自分の望みを笑うのと同義だ。

他人が望む夢を笑った瞬間、自分の望みもまた地に落ちる。

だから、少女が顔を赤らめながら、チラチラ、とこちらを見ながら、しかし口から洩れた言葉に対して、シンは真剣に聞き届けた。

 

 

 

「その………家庭に入りたいなぁ………って」

 

「ああ………成程」

 

 

成程、確かにそれもまた一つの夢か、と思う。

自分だけで形作る夢ももあれば、誰かとしか形作れない夢もあるのをすっかり失念していた。

少女の望みは今時の少年少女の間からだとロマンティック、と言われるかもしれないが、俺は全くそう思わない。

誰かと日々を歩む事を望む事を、夢見がち(ロマンティック)などと笑うものか。

………その夢を叶えれるか、どうかはさておき。

 

 

「そんなに照れる事はないだろアメリー。立派な夢だと思うよ」

 

「………」

 

俺の言葉に、少女が不満そうに頬を膨らませるが、それに関しては俺は気付いていない振りをして無視する。

それにしても、自分一人で作る未来しか想像していなかったが、他人を含めた自分の未来、となるとシンからしたら荒唐無稽の御伽噺に近い。

それが出来ない、と悟ったから、自分は家族から離れる事になったのだから。

なら、やはり自分に出来る事で未来を思い描くしかないのだが………やはり、何も思いつかなかった。

 

 

「………進路について、考えてるの?」

 

「ん……まぁ、そうなるのかな?」

 

 

進路、と言うと途端に呑気に聞こえるが、今の自分はまだ学生なのだから別におかしくはないか、と思う。

恐らく普通の少女であるアメリーは大学とか就活について、俺は悩んでいる、とか思っているのだろうけど、それをわざわざ訂正する事もないだろう。

 

 

「恥ずかしい話、アメリーみたいに何か、成りたいモノっていうのが何も思いつかないんだ。お陰でそれがずっとぐるぐる脳内をかき回している」

 

 

成りたいモノ、なんてモノは、シンにとっては最高級の贅沢に他ならなかった。

あるとしても、シンにあるのは末路(終わり)であって、結果(未来)があるとは思えなかった。

そんな自分に唐突に、結果がある、だなんて言われても、信憑性も無ければ、想像もつかない出来事である。

だから、シンは幾ら考えても、成りたいモノがあるのか、という問いに答えがあるとは思えなかった。

その事に、アメリーは首を傾げ………何故そんな当たり前の事に気づかないんだろう、という顔で問いただした。

 

 

 

「ねぇ、シン。さっきから成りたいモノばかりで考えているけど………成りたいモノ、より先に、やりたい事は無いの?」

 

 

 

 

「────」

 

脳天に銃弾を撃ち込まれたような納得。

魔術回路の起動のような感覚に、思わず、瞬きを一度大きくしながら、少女の方に振り返る。

そんな俺に呆れたような顔と………何故か嬉しそうな喜びを混ぜ合わせた表情で少女は聞き分けのない子に躾けるかのように指を一本立てて続ける。

 

 

 

「成りたいモノ、なんていうのはやりたい事の先にあるものでしょう? 料理人に成りたかった人は多分、料理する事が好きか、もしくは自分が作った料理で喜んでくれる人がいるからでしょう? 宇宙飛行士に成りたい人は(ソラ)に興味があったから──誰かと添い遂げたい思った人はその人に愛されたいから。例外はあるだろうけど、でも、やっぱり一番良いのはやりたい事で成りたいモノになる事よ」

 

 

成りたいと願うものはやりたいと思う事の先にある。

成程、全く以てその通りだ。

成りたい、というのが願望であり結果だ。

なら、その結果に辿り着くには経過であるやりたい事がある、という事だ。

ああ、それは───

 

 

 

■■シンが、自分には得る事が出来ない、と諦めた、ありきたりの未来────

 

 

 

「────はっ」

 

 

本当………ここ最近はメンタル的に大ダメージだ。

何もかも諦めなければいけないと悶々している時に、何も諦めなくていい、と諭され、何かに成れるものが見つからない、と聞いてみれば、まずはやりたい事を見つけないと、と昔の諦めを突き付けられる。

お陰で少女の顔を見れない。

空を見上げなければ、醜い言葉を吐き出しそうだ。

 

 

 

───そうだ。まず、シンにはやりたい、と思える事を喪失していた。

 

 

唯一、魔術だけが取り柄だったが、今はそれを誇る事が出来ない。

魔術だけが自分の全てだったのに………それを失くした俺は翼が捥がれた鳥のようなものだった。

……別に何も出来ないというわけではない。

人並み以上には身体能力はあると思うし、料理も洋食ならそこそこ出来ると思う。

勉強も魔術に比べれば、そう難しくない。

その気になれば、己の性能だと、まぁ、何かは出来るのだろう。

でも、それは出来るだけだ。

そこに熱意も無ければ、夢も無い。

空っぽの生き方だ。

あるいは、それもまた人間の生き方の一つなのかもしれないけど………そんなどうでもいい生き方を為せ、と言う為に、姿の見えない誰かが激励した、とは思えなかった。

 

 

 

………唯一、やりたかった事も、既に清算している。

 

 

ずっと、と言うと大袈裟かもしれないけど、かつて温かいシチューを飲ましてくれた人をずっとずっと救いたくて………そして、何とか救えた、と思う。

自分の父と母の下で幸せを掴んでくれたら、と思う。

その結果、父が色んな意味で食われていたとしても知らん。

親父は桜さんの幸せの為に犠牲になるがいい。でも、母さんを泣かせたら呪う。

だから、やっぱり、シンにはやりたい事が見つからなかった。

 

 

 

「───なぁ、アメリーの理論だと、家庭に入りたいのはアメリーのやりたい事って事になるけど………そこまでしたい事なのか?」

 

 

思わず、下世話で、お前が言うか、という言葉を、つい口から漏らす。

聞いた後に、しまった、と自分を罵倒する。

俺がその事を聞く権利があるわけないのに、聞こうとするなんて糞か。糞だった。

とりあえず、聞かなかった事にして貰おうと慌てて口を開こうとするが

 

 

 

「───うん、そうよ。とってもとーーーっても、やりたい事なの」

 

 

聞いた事が無い様な、嬉しそうな声に、口が勝手に閉じた。

少女は興奮からか。

少し顔を赤らめた顔で、酷く嬉しそうな顔で両手を顔の前に合わせて笑っていた。

まるで、誕生日プレゼントを貰った童女のような笑い方。

 

 

 

 

「なぁーーんにも無かった私だけど、ここまで熱中したのは初めてなの。ずっと適当に生きて、適当に死んでいくものだと思ってたのに………こんなに素敵な想いが、私にもあるなんて」

 

 

部屋の引き出しの奥から、宝箱が出てきた、みたいな言葉を、少女は嬉しそうにくるくると回りながら告げる。

何時もと変わらぬ帰り道が、まるでパーティ会場の中心であるかのように踊る少女は妖精のように無邪気だった。

……その無邪気さに、一瞬、背筋が冷える様な感覚を覚えるが………気のせいだと首を振り、そのまま少女に反論する。

 

 

「……でも、したいって事は相手はアメリーの事を見ていないんじゃないか? 悪く言うつもりとかじゃないけど………もしかしたら見る目が無い男なんじゃないのか、その相手は」

 

「Non。それこそ勘違いよ。見る目が無かろうが、有ろうが振り向いてくれないって事は、私にはまだ見てくれる魅力が足りないって事よ。私が他の何よりも素敵………は自意識過剰だけど、その、見てくれるような女になれていたら、どんな理屈や理由があっても見てくれる筈だもの」

 

 

男にばっかり責任を押し付けるのは大っ嫌いだもの、と笑いながら答える少女の表情には虚飾が無い。

そこまで言えるのなら、それは立派な強さであり、在り方だろう。

きっと少女には、そんな自分が誇らしく───見ている人が輝かしく見えているのかもしれない。

 

 

 

そんな事は、絶対に無いのに。

 

 

何でこう、周りの人間は納得の下に道選んでいる強い人ばかりなのだろうか。

偶にはもう少し、自分に悩んでいるような人っていないのだろうか。

そんな愚痴を、シンは負け犬として内心で溶かした。

 

 

 

全く以て意味のない、戯言であった。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

シンと分かれたアメリーは色々と嬉しくなって鼻歌まじりで帰宅していた。

思わず、スキップしたくなるような気分、というのはこういう事なのか、とアメリーは思った。

気分が高揚する。

好きな人の違う姿、というのは人によっては幻滅する、というが、そんな事は全然無い。

今まで霞がかかったように朧気で、不確かで儚げな彼も美しかったが、今みたいに普通の人間のように迷う様は母性本能も相まって可愛らしい。

ぼんやりと浮遊する姿も良かったが、今みたいに未来に懊悩する姿もまた良し。

 

 

 

ああ、何て素敵な恋煩い────

 

 

これ程、甘美なお菓子なんてこれ以外に無いだろう。否、あったとしても私はこれこそを至高と信じる。

想い一つで、セカイは一気に変貌するのだ、とアメリーは本気で信仰していた。

だからこそ、少女は赤くなった顔で、生まれてしまった不満を、頬を膨らませて吐いた。

 

 

 

「ああ───出来れば私の手で悩ませたかったなぁ………うーーん悔しい」

 

 

長年………は流石に現実を見なさ過ぎなので、アレだが、それでも彼がこのフランスに留学してから、という条件なら誰よりも一緒にいたというのに、救い上げる役割を、誰だか知らない存在に奪われるとは。

やっぱり悔しい。

まぁ、でもそれならそれで

 

 

 

鈍感小娘ごっこ(・・・・・・・)も終わりかな」

 

 

くすり、と笑いつつ、楽しみが近付いているのを理解する。

別に何かを知っているわけではないのだが、やはり、何事であれ、サプライズは面白い物だろう、と思う。

だから、楽しみで仕方がない、と思い───トントン、と頭を指で叩く。

それと同時に、少女は浮足立っていた意識は落ち着き、歩く速度もゆっくりとなる。

見た目には特に何も変わらぬ変化。

どこにでもいる少女は特に変わらず───状態を反転させた少女は明日もまた少年と出会える幸福を考えて笑うだけだった。

 

 

 

 

 




感想・評価など宜しくお願い致します。


もうすぐサーヴァント召喚に入ろうと思います!

あ、第一話、ちょっと最後の方のアメリーの台詞、修正しました。
脳内で唐突に設定が思考を貫いて………!!
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