Fate/the Atonement feel 改変版   作:悪役

5 / 19
契約

 

 

 

シンは目の前に現れた少女からマスターか、と問われた事に何の反応も出来なかった。

無意識の内では理解している。

この少女が、あの狂った騎士と同じ規格の超越種であるという事は理解している。

同じ存在だからこそ、狂った男と比べて、余りにも美麗だったから意識が麻痺しているのだ。

それ故に、本来答えなければならない問いに答える事が出来ず………そんな自分を叱咤するかのように手の甲の痛みが自分の口から声を漏らした。

 

 

 

「……っ」

 

 

焼け火鉢を甲に押し付けられたような痛みに、思わず手を見るとそこには先程の赤い紋様が、今はしっかりとした形となって浮かび上がっていた。

その事実に、少女は得心を抱いたという風に小さく頷き、立ち上がった。

 

 

 

「正式な挨拶は後程に。これよりバーサーカーと思わしきサーヴァントを迎撃します。マスター」

 

 

あっさりと迎撃をする、と言ってのける少女に、逆に正気を取り戻す。

見惚れている場合などではない。

今、現在進行形で修羅場であるのに、呆けている余裕があるか、と思い、魔術回路に魔力を通して肉体を操作しようとするが

 

 

 

「う……ぎぃ……!」

 

 

操作自体は幾らでもなるが、操作される肉体がボロボロ過ぎて、少し動くだけで全身に激痛が走る。

それでも動かないと死ぬ以上、まず立ち上がらなければいけない、と思い、奮起し──

 

 

 

「失礼を」

 

 

一瞬で体が転ぶように宙を浮かんだ、という奇天烈な感想を抱いた。

何だ、と思うと目の前に少女の綺麗な顔があって危うく色んな意味で死に掛けた。

 

 

「は? ──いや、ちょ! あった……!」

 

 

思わず反射的に叫ぼうとして、更に激痛を招き寄せてしまったが、これに関しては全国の男子諸君は俺の行動に文句を言える人間はいないと思う。

何せ、餓鬼とはいえ男が、同い年………ではないのか?

多分、年上と思わしき女性にお姫様抱っこされるのだ。

流石にたまったものでもないし、何より

 

 

「剣が………」

 

 

振るえないだろ、と続けようとした言葉は肺から込みあがった血液を吐血する事によって邪魔された。

その事に、少女が一瞬、表情を怒りの形に歪めていたのだが、シンは込みあがった血液に対処するのに忙しく、それを見逃した。

そしてシンが改めて言い直そうとした時には、セイバーと名乗った少女は可憐な笑みを浮かべながら

 

 

 

「ご心配なく──一刀あれば威を示すには十分です」

 

 

酷くあっさりと一撃で敵を打ち倒す、と宣言した。

余りにも滑らかに言うものだから、俺も何も言う事が出来ず、放心してしまい──地に着いた獣の咆哮が空間を打つのを聞き届ける事しか出来なかった。

 

 

 

※※※

 

 

セイバーは傷だらけのマスターを片手で抱えながら、こちらを睨むように剣を構える敵サーヴァントを見る。

見た目だけは明らかに精神を病んだ狂人に見えるが、左手を前にして盾代わりにしながら、剣を深く構える姿勢は間違いなく獣ではなく人しか取る事が出来ない剣術の姿勢だ。

 

 

 

………理性も、知性すら忘却しても培った技能だけは忘れていませんか………

 

 

その姿勢だけは例え野蛮であったとしても、武人としては感服するしかない。

逆に言えば、それは敵としては厄介である、という証拠なのだが。

私のような木っ端英霊の初戦が難敵とは、生前から敵手の巡りは悪いが、それは死後もそうらしい、と苦笑しそうになるが、それが生者すら巻き込んでとなると笑ってはいられない。

腕に抱くボロボロの少年を思えば、自然と心は刃と一体化する。

あっという間に冷えいていく思考と魂。

 

 

目は相手の挙動を

耳は息遣いと心臓の音

鼻は体を動かす為の息を全て、全身に巡らせ

体は地面に伝わる振動を

培った心眼は敵の殺意を知らせた

 

 

 

一瞬にして、それらの戦い方を整える自分に、内心で苦笑する。

 

 

 

………人間、一度死んだ程度では変わりませんか……

 

 

英霊などという大層な場所に召し上げられても、やる事は結局、剣を振るうだけだ。

人斬り包丁であるのは自覚していたが、死んだ後まで振り回さなければいけないとは業が深い。

だけど……

 

 

 

………少なくとも、英霊(わたし)を見て、自身の怪我よりも、私の心配をする人を守れるのなら

 

 

全てが全て、悪いわけではない、とセイバーは今度こそ笑みを浮かべ───音を超えた速度で振り下ろされる魔剣に完璧に反応しながら一閃。

 

 

──首を切った

 

 

 

※※※

 

 

 

「────は?」

 

 

傷口の痛みすら無視しながら、シンは目の前の結果を受け入れる事が出来ない、という意味の声を発した。

経過も結果も実に簡単なものだ。

セイバーと名乗った少女は、バーサーカーだろう、と告げた男が凄まじい速度で振るわれた刃に対して、それを払うような一振りを以て、完全に敵の一撃を無効化し、そのままの勢いで首を斬ったのだ。

言葉にすれば酷く簡単に聞こえるが、それを為すのに一体幾つの神業めいた………否、神業なんて美しい言葉ではない。

正しく、魔技としか言えないような境地だ。

力と神秘の度合いなら間違いなく打ち勝つ魔剣を、名刀とはいえ、人が作り出した刃だけであっさりと柳のように切り払い、その上でそのまま首を裂いた──のだろう。

最後が自信を無くすのは、自身が無いからとかではなく、シンにはその経過を見れなかったからだ。

音速を超える程度のレベルならば見れるように強化した瞳ですら、捉え切れない一刀。

理解できたのは単にバーサーカーの腕が唐突に弾かれるように横に動き、そして首に隠しようのない赤い筋が残って──

 

 

「────」

 

 

今、ようやく斬られた事を知った傷口から鮮血が零れたからだ。

膨大な血液は至近距離にいた俺達に触れる事はない。

何故ならば、まるで俺に血を浴びせないようにあっという間に10メートル程、バーサーカーからセイバーが距離を取ったからだ。

動いたという感触すら無かったが、あの剣戟を見た後では最早、驚く必要がない。

むしろこの程度など朝飯前なのだろう。彼女にとっては。

しかし

 

 

 

「………迂闊」

 

 

そんな魔技を放った本人は為した成果を誇るでもなく、むしろ険しい表情でバーサーカーを睨んでいた。

それに釣られ、シンもバーサーカーの方を見る。

鮮血を辺りに撒き散らしているバーサーカーはそのまま首がぐでん、と皮と筋が少しだけ繋がった状態で首をぶら下げていた。

余りにも奇妙なオブジェは、それだけでこちらの吐き気を催させる代物だったが──お陰でより吐き気を催させる代物がよく目立っていた。

人間なら即死。

彼らであっても、死を待つしかないであろう致命傷を負った狂戦士は───しかし、手に持った魔剣を一切手放していなかった。

で、あれば───魔剣と称された刃は、その名の通り、禍々しさを今こそ醸し出す。

 

 

 

 

ぞわり、と魔剣が一瞬、脈動したかと思った瞬間、魔剣から流血のような毒々しい色合いの形をした呪いが吹き零れた。

 

 

まるで、魔剣の手であるかのように動くそれ(・・)は、まるで迷うように少しだけゆらゆらと動き───唐突に首が千切れた男に向かって解き放たれた。

あっという間に、絡み付き、串刺しになる英霊は、今まで以上の咆哮………否、悲鳴を上げて魔剣の呪いに対してのたうち回っていた。

 

 

 

「A,、AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaGyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa■■■■■■ーーーーーー!!!!」

 

 

 

肺に繋がっていない首のどこからそんな音が出せるのか。

上げられる悲鳴は苦痛というより絶命の際に発せられるそれに近い。

………しかし、呪いはそんな悲鳴とは正反対に体を修復させていた。

千切れた首をまるで縫合するように縫い留め、拾い上げ、合致させる。

それだけ見れば再生なのに、この光景では癒しの光景には程遠い。

だが、結果として

 

 

 

「■■■■ーーー!!!」

 

 

バーサーカーの肉体は再生し──何故か、復活した後の方が禍々しいが魔力が増えている。

肉体にはドロドロとした魔力が充満し、鎧の内から零れそうになる程だ。

つまり、これが魔剣の効果、という事なのだろうか、とシンは息を止めて、結果を受け止めていた。

 

 

「………神代の英霊は近代(私達)とは違い、摩訶不思議な現象を幾らでも起こす、とは知識では知っていましたが………首を斬っても死なぬとは………」

 

 

少女の言葉にも呆れの色が多分に含まれている。

思わず同意して頷きかけるが、そんな事をしている暇はないではないか、と慌てて口を開く。

 

 

 

「だ、大丈夫なのか………?」

 

 

こんな事しか言えない自分への嫌気で顔を顰めそうになるのを必死に堪えながら聞くと、逆に何故かセイバーと名乗った少女の方が申し訳なさそうな顔で

 

 

 

 

「申し訳ありません………一撃で倒すと言ったのにこの体たらく。後程、どのような罰も受け入れる所存です」

 

 

などと頓珍漢な解答が帰ってくるのであった。

 

 

「………はぁ?」

 

 

思わず素で反応してしまう。

そんな事を言っている場合か、とかよりもその程度の事で謝ってくる、という事に何かこう、すんごい既視感を感じてしまう。

どこぞの親父のような鈍感っ振りに何かすっごい腹の底から込み上がってくるものがあり、そのままぶちかましてやろうかと思い────代わりに吐血をぶちかましてしまった。

 

 

 

「げっほぅ!!?」

 

 

素っ頓狂な叫びで盛大に吐いてしまう。

ギャグかよこれ………!! と言いたくなるが、残念ながらマジである。

そりゃこれだけの重傷で思わず大声とか叫ぼうとしたら、色々と逆流するに決まっている。

ボドボドと結構、大量の流血がこれ以上、零れないように口を押えるが、量が量だから、抑えきれず、結果、少女の顔や髪に血が飛び移った。

 

 

………それが酷く申し訳なかった。

 

 

しかし、少女は一切気にせず、しかし、瞳に炎が浮かぶような色を見たような気がした。

 

 

 

「……マスター。回復に専念を。魔力もそちらに回して結構です」

 

 

少女の言葉に口を押えながら、首だけを振る事で否定する。

それこそ悪手だ。

敵は復活し、且つ強化されたのだ。

ここで少女が弱体化すれば、それこそ敵の思う壺だ。

大体、既に治療の魔術はかけ続けている。

しかし、重傷過ぎるからまだ治ってないだけだ。

魔力があれば、確かに再生の速度は上がるが、この戦闘中に復活するのは無理だ。

なら、今はひたすらに少女を信じるのが自分の戦い方である。

そんな自分に、やはり困ったような顔をしながら………しかし、直ぐに戦闘の姿勢を取り戻しながら、刃を構えてくれる。

第二ラウンドを開くしかない────そんな空気がある中で

 

 

「────」

 

 

狂戦士の男から殺意が薄れる。

何事か、という思いは次の瞬間、男の姿が霞のように消えていく事に繋がった。

 

 

「撤退………?」

 

 

セイバーが訝しげに告げるのを聞き、俺も視てみるが………確かに男の気配はもう存在していなかった。

正確には気配の残滓は残っているのだが………今の自分達の状態だと追う余裕は一切ない。

とても有り難いが………敵が自分達に有利な事をする理由なんて、向こうが予想外の事態に陥ったか……もしくはあのバーサーカーを操り切れていないくらいしか思いつかない。

暫く警戒状態を続けたが……一分経っても何も起きない以上、危機はとりあえず去ったのか、と思い

 

 

「…………」

 

 

一気に意識が薄れていく。

視界が段々と薄れ行く中、途切れては駄目だ、という思いから、瞳に魔力が通り、そして気絶しようとする自分に視線を向ける少女に向けて、視線を合わせ────そのままあっという間に闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

気絶した主を抱え、セイバーは主の部屋の寝床に彼を横たえていた。

何故、見知らぬ主の部屋の場所を知っているかというと

 

 

「………気絶する瞬間にこちらにお屋敷の場所を刷り込むとは………」

 

 

あんな状態で、仮にも英霊である自分に対してそんな精緻な魔術を使ってくるとは思ってもいなかったが、そのお陰で主を寒空の下に置かずに済んだ。

なので、それは有り難いと思いながら、少年の状態を見る。

一応、ここに来る前に、応急手当はしたが………魔術師でもない自分のような無骨物の手当ての方法など添え木などを使って固定するくらいしか方法は無い。

今の時代を考えれば、相当古い方法なのだろう、とは分かっても、だからと言って魔術師の主が普通の治療を受けていいのかが分からない。

幸い、少年の顔色は先程に比べれば遥かにマシだ。

診れば、恐らく左足の骨折辺りはもう治療されているみたいだ。

寝ている間にも治療魔術を使えてるのかもしれない。

………生憎、生前魔術師でもなければ、縁も無いからよく分からないが。

ともあれ、無事に済む、というのならば最上だ。

 

 

 

「それにしても………」

 

 

セイバーはお部屋を見まわす。

そこには何も無かった。

無論、何も無い、とかいうわけではなかったのだが………生活感というものが欠片も無い。

ここで暮らしている、というよりここに泊まっている、という形。

定住の地ではなく、移ろう者としての部屋の作り方に、この少年は旅人か何かなのか、と思った。

 

 

 

………魔術師としての工房にもしていませんでしたしね

 

 

もしかするとこの少年は魔術師ではなく、魔術を手放した者なのだろうか?

それならば、聖杯戦争に巻き込まれた被害者となる。

となると、自分は厄災を招き寄せた存在になる。

 

 

「どうしましょうか………」

 

 

──正直、セイバーは聖杯などいらない。

生前に未練が無いかと問われれば勿論、あると答えるが、むしろ未練が一切なく生きるなど人間の生き方ではないだろうから、別におかしいとも思わないからやり直そうとも思わない。

もしも、聖杯を得たとしても、マスターに譲るか……最悪、第二の生を得るかくらいしか考えていないくらいだ。

つまり、別段、少年が契約を切ったとしても文句を言う気が無いレベルだ。

まぁ、それもマスターが起きた時に語り合う事だろうと思いつつ、

 

 

 

「それにしても………まさかセイバーで呼ばれるなんて……」

 

 

 

自分が人類史に名を遺した理由は将としての自分だ。

呼ばれるなら一番高いのがライダーで、他は精々アーチャーで呼ばれるのが精々だろうと思っていたのに、セイバーだ。

アーチャーはともかくとしてセイバーの自分が聖杯戦争で呼ばれる確率は極々僅かの可能性の筈。

何故なら、まず自分の歴史に名を遺すように生きてこなかったのだ。

己の名を思い浮かべば、将兵としての名を思い浮かばれるのが普通であり、剣士としての自分など噂話とかそのレベルの域でしかない。

言うなれば、ライダーの自分が人々が思い浮かぶ自分であり、セイバーの自分はそういう物から掛け離れた、私個人としての在り方が浮き彫りにされている。

召喚の形を見る限り、媒介を使った召喚ではなく、完全な縁召喚のようだから………つまり、この少年と私には何か共通する形があるという事になるのだろうか………?

 

 

 

ライダーやアーチャーではなく………セイバーの自分と共通する──

 

 

 

「───それこそ、今、考えるは詮無き事」

 

 

どのクラスで呼ばれようが、マスターが余程の邪悪でない限り、従うのがサーヴァントの務め。

で、あるならば今は主の就寝を守るのみと思い、意識を研ぎ澄ませ

 

 

 

「………ん………」

 

 

自身のマスターの寝顔が歪むのを感じ取った。

傷が痛むのかと思い、姿勢を楽にさせるべきか、と思ったが………数秒後に少年の目から涙が零れるのを見て、しまった、と思った時には遅かった。

少年は苦しそうな顔と心底から申し訳なさそうな顔のまま………小さな寝言を宙に放った。

 

 

 

「ごめ……なさ…俺……生まれるのを………」

 

 

 

間違えてしまった──

 

 

 

懺悔のような告白を聞いてしまったセイバーは今度こそ絶句した。

だって、その言葉は──とても身に覚えがある痛みだ。

生前に何度も自分に吐いた恨み言にそっくりな言葉を聞き、セイバーは思わず腹を切りたくなった。

………まさかあっという間に理由を知る事になるとは思ってもいなかったが………なら、余計に迷いは消えた。

 

 

 

理由も理解も未だ不明だが………少なくとも守る事だけは迷わずに済みそうだ

 

 

そう思い、セイバーは目を閉じた。

寝るのではなく意識を集中し、ここら一帯の気配を探る為に。

せめて今日だけは、現実の事を気にせず寝れるように。

 

 

 

 

 

 

 




感想・評価など宜しくお願い致します。

たった一言でも言葉を貰えたら感無量です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。