Fate/the Atonement feel 改変版   作:悪役

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剣を執る

 

 

激突の剣戟は高らかに

 

 

異なる時代を駆けた英雄二人の剣戟は闇の世の中でも壮烈に光り輝いた。

剣戟の音と時折思い出したかのように流れる流血の音で戦場という概念を生み出す二人は共に奇形であった。

 

 

 

「■■---!!!」

 

 

バーサーカーのクラスで呼ばれた男の英雄の剣技は圧倒的な"力"であった。

それも幼稚に振り回すだけの力ではない。

狂化され、魔剣の呪縛によって理性が焼き爛れた中で肉体に刻まれた殺戮本能によって振るわれる力はただの力ではない。

 

 

 

人を圧殺し、轢殺し、鏖殺する──純然たる暴力であった。

 

 

 

人型の災害となった男は正しく狂戦士の面目躍如。

敵と認識──否、敵と認識しなくても、ただ目の前にいた、ただ近くを通った、ただそこにいた、という程度の理由があれば全てを塵芥とする怪物。

 

 

 

故に今もまだその力に抗っている女もまた人の域を超えた存在であった

 

 

「ふっ───」

 

 

セイバーのクラスで呼ばれた女の英霊が殺し合いにて使う物は魔術を手繰る事ではなく、それ以外の神秘に頼る事でも無い。

彼女には聖剣も魔剣も、神剣も妖刀も、ましてや特殊な肉体も持ち合わせていない。

あるのは今はサーヴァントとなって多少、人の域を超えた体と──生前から才覚として刻まれた己の剣技という人の技だけだ。

それだけで、セイバーは嵐のように打ち込まれる攻撃に対応していた。

上段から振り下ろされる落雷のような一撃に対し、セイバーのただ一刀を振るう。

バーサーカーの上段に寄り添うように振られた一振りにはバーサーカーの力に比べたら圧倒的に力が足りていなかった。

なのに、その一刀は本来ならばセイバーを一刀両断する軌道を、少し横にずらし、大地を削るだけに終わり──その上でバーサーカーの顔面から胴体まで一直線の血の飛沫が生まれる。

 

 

 

現代の剣術家が見れば、涙して称える様な見事な切り落とし

 

 

頭蓋を切り裂き、脳まで切り裂かれた男は通常であれば即死。

如何に英霊とはいえ、脳を損傷して生きられる生命はいない───而して、条理を覆した事があるからこそバーサーカーはここに立っていた。

 

 

 

「………!!」

 

 

死を刻まれた肉体に、意思という名の眼光が宿る。

絶命という名のスイッチが、魔剣を胎動させる。

血のような魔力が肉体を侵食し、刻まれた死を無かった事にする程の超速再生。

しかし、バーサーカーはそれらの傷が回復する時など待たずに、残った左腕で傍にいるセイバーを掴もうとする。

当然、弁えているセイバーは即座に距離を話す。

悪夢のように伸びてくる手に、恐れる事無く足を動かし、背後に飛び去る。

敵に余裕を与える事になるが……死なない敵であるならば、余裕が有っても無くてもセイバーには余り意味が無い。

 

 

 

「………」

 

 

都合、17回目の致命傷。

失血死といった言い訳のある死ではなく、どれもが脳を割り、心臓を裂いた一撃だ。

英霊であっても霊核である心臓か脳を潰されたら死ぬしかないというのに、バーサーカーは魔剣の呪いを利用して復活を繰り返す。

八尾比丘尼か、何かか、と呆れたくなるが、当事者である自分には溜まったものではない。

何より……

 

 

 

"少しずつ速くなっている……"

 

 

気のせいではない。

今のような鍔迫り合いは何度も行っているが……一瞬だけ、視線を下に向けると胸の辺りの鎧に少し削れている部分がある。

……試しに前回と同じ速度で背後に飛び去った結果、前回は完全に避けれた筈の攻撃が避け切れなくなっている証だ。

 

 

 

──何ておぞましい

 

 

あの魔剣は致命傷を再生させる不死者という呪いだけではなく、蘇生させる度に男を強靭にさせ、更なる闇に落とす混沌だ。

恐らく敏捷さと筋力辺りは間違いなく1ランクくらい身体能力が上がっているとみていい。

出来れば限界があってくれたら嬉しいが……際限なく堕ち行くとなる可能性がある以上、長期戦は余り好ましくない。

神秘の欠片も無い自分ならば、剣に当たる必要なく、あの手に握られたらあっという間に"圧縮"されるだろう。

 

 

 

「………」

 

 

魔剣の攻略法については、一応、戦闘になるかもしれない、という考えからマスターと考えは共有した。

一つ目は単純に呪いの発生源、魔剣本体を壊す。

これの問題点は刀があるならば、石だろうが鉄だろうが、鋼、金剛石であっても斬れる自信はあるが……あれ程の魔剣を技だけで斬れるのか、という生前、神秘に関わらなかった自分の経験不足による不安がある。

二つ目も単純だ。

如何に不死者にする呪いであっても……その呪いを維持するのはあくまでマスターの魔力だ。

魔力が尽きれば、呪いは最早、起動しない。

が、これも問題である。

これはつまり、バーサーカーの呪いが尽きるまで戦い続ける、という崖から落ちながら駆け落ちるようなものだ。

どちらが先に地面に叩きつけられるような競争をしなければいけなくなるし……何より敵マスターの魔力の貯蔵量が不明である以上、二つ目は聊か不安が残り過ぎる。

そして、三つ目──再生が追い付かない速度で殺し続けるか、もしくは再生出来ない程の損傷を与えるかだ。

後者は剣使いである自分には難しいが……前者であるならば、それは()()()()()

 

 

 

「■■ーーー!!」

 

 

戦闘思考によってコンマ1秒以下で現実を刻んでいたセイバーを現実に戻す咆哮が響く。

咆哮と同時に開けられた距離を詰める速度は神速。

片手を突き出し、盾としながら空いたもう一つの手で振り上げた剣を振り下ろそうとする攻撃は、直撃したら自分はそのまま一刀両断されるだけだろう。

目の前の男のように私は不死身でも無ければ、不死を謳った伝承を築いていない。

何せ、絶対とは言えないが……セイバークラスである自分だが、そのステータスは基本的に低い。

総合的なステータスという意味ならば、自分はもしかしたらセイバークラス最弱かもしれない──が、ただ一つ、己のステータスにおいて誇れる物があるとすれば………

 

 

 

「───」

 

 

余分な呼吸が身体の機能から排除される。

視界からは色が失い、ただバーサーカーだけを視認する装置となる。

刀を握る感触だけを確かにした己は、そのまま疾走を開始した。

 

 

 

一歩にて彼我の距離を零にする

 

 

己とバーサーカーとの距離は凡そ40間程の距離が空いていたが、その程度、一秒、否、一息も要らない。

並みの英霊ならば近づかれた事に気付く事も出来ないであろう駿足を

 

 

 

「■■■ーーー!!!」

 

 

狂戦士は見事に対応してのけた。

至近距離に、戦闘本能は剣では不向きと判じたのか。

盾にしていた左の腕をそのまま振るい、殴る……というより押し潰すかのような一撃を、セイバーは静かに見ていた。

速い一撃だ──()()()()()()()()()()()()()()

上級の英霊であったとしても通用する一撃を前に、セイバーは無感動の眼差しを持って、()()()()()()()拳を見ていた。

しかし、見届ける事は無く、セイバーは更に一歩踏み込む事によって、敵の対応を無意味なものとした。

 

 

※※※

 

 

「──」

 

 

嵐のように暴れまわっていたバーサーカーが今、初めて止まる。

先程まで抱き締められる程の距離にいた筈のセイバーが知覚から完全に消え、追いきれなかったからだ。

それは生前培った殺戮本能という名の網からセイバーが抜け出したという証明であり──戦闘者としてのバーサーカーの敗北であった。

而して、その程度で終わるのであったならば、バーサーカーが英霊になる事など無い。

焦点が合っていない瞳は、ぎょろぎょろと正面を見回し、敵影が無い事を確認したら、バーサーカーは無暗に動く事はせず、踏み止まり、構える。

 

 

 

これが、このバーサーカーの特殊性

 

 

間違いなく何もかもが狂っている筈なのに、事、戦闘においての判断は理性的にしか見えない。

狂気のクラスに宛がられ、魔剣によって混沌に堕とされても尚、過たない戦闘本能。

事、殺戮においては英霊の中でも上位に入るかもしれない狂気の武芸者。

 

 

 

──故に、殺戮の本能を上回るのであれば、バーサーカーと同等かそれ以上に血を纏った英霊であるという事を、理性無きバーサーカーでは気付かない。

 

 

バーサーカーの鋭敏な知覚が違和感を察する。

理性が無い以上、ほぼ第六感と変わらぬ感覚に、しかしバーサーカーは疑わない。

疑うという思考が存在しないのもそうだが、戦場で己の死を感じ取る能力が無ければ、土台、戦場の星にはなれない。

思考が無くても本能のみで違和感を探すが、その答えは一秒後に判明した。

 

 

 

違和感があったのは地面

 

 

時刻は夜ではあるが、今宵は月夜であり、更には何時もに増して月光が辺りを照らしている。

明かりが無い場所で、唯一光源とする月の光によって照らされている地面にバーサーカー以外の影が大地を染めていた。

それも、バーサーカーの影にまるで飛び掛かるように映し出された影が。

 

 

 

「■■■ーーー!!」

 

 

即座に振り返らずに魔剣を背後に振り上げるように突き刺す反射は正しく獣のようでありながら的確。

戦場にて輝いた英霊がその場にいたのならば、バーサーカーでありながら一切失われていない武芸に賛辞の言葉を述べる者もいる程の戦闘反射。

 

 

 

──しかし、バーサーカーに返ってきた手応えは少女の形をした剣士を貫いた感触ではなく、突き刺す為に使った右腕が輪切りにされる感覚であった

 

 

理解を理解する事が出来ないバーサーカーは己の腕が切り刻まれようとも一切、顧みずに殺戮の為に動く獣だ。

事実、バーサーカーは己の右腕が人参のように幾つもの肉片に輪切りされようが、頓着せずに振り返り、魔剣を振るおうとした。

──が、その途中でバーサーカーは再び動きを止めた。

 

 

理由は二つ

 

 

一つ目は、背後の宙より飛び掛かるように落ちてきていた敵が今は背後になっていた正面にはおらず、何時の間にか先程まで正面であった背後に立っている事を知覚したから。

二つ目は、もっと単純な物理的な理由だ。

 

 

 

如何に不死身の英霊であるとはいえ──物理的に全身を切り刻まれたら動く事など不可能であるからだ。

 

 

 

※※※

 

 

真実、文字通りの血の雨が降る。

セイバーの背後に立っていた狂乱の戦士は酷く丁寧に、その身を切り刻まれ、分割し、血と(はらわた)をぶち撒けた。

 

 

 

ぱっ、と花開くように咲いたそれは血染めの花のような雅さを醸し出していた

 

 

都合、24の肉片に切り分けられたバーサーカーはそれに見合う量の血液と臓物を噴出し、限定的な血の雨を降らせた。

血の雨の中心に立っているセイバーは当然、返り血として鎧や髪、肌などを血に染めていくが、特には気にしなかった。

生前もよく自分は血の雨を降らせ、飽きる程に浴びた。

今更、浴びる事に躊躇いなど無い。

 

 

 

とは言っても……ここまで無駄に刻んだ事はありませんが

 

 

自分達の時代で人を斬るのに、ここまで無駄に刻む事などほぼ(・・)必要が無い。

趣味の悪い人間はどうだか知らないが、流石に私でもここまで人を切り刻んだ事は無い……が、同時に必要である以上、躊躇う理由も無い。

故に試しにここまで刻んでみたのだが……ミシッ、と空間が軋むような音を聞いた瞬間、これでも駄目か、と思い、改めて距離を取る。

 

 

 

視界に入ったバーサーカーであった肉片は、丁度、再生されている最中であった。

 

 

まず、自分に降り注いだ血液や臓物が時が戻ったかのようにバーサーカーの肉体に高速で戻り、刻まれた肉片は魔剣から湧き出た茨の如き黒い魔力に覆われ、刺され、縫い合わされていく。

 

 

その間、わずか2秒ほど

 

 

使用すれば、理性が失わされるという最大のデメリットがある事を除けば、魔術的な観点からすれば凄い事である、と聖杯に植え付けられた知識が告げるが、セイバーには興味が無い。

興味は無いが頭を痛める事実だけが存在している。

この手法でも倒せなかったという事実と再び手強くなってしまった、という事実だけだ。

 

 

 

「……」

 

 

本当ならば、マスターの助けになりたいのだが、これを見る限り、短期にて打ち倒すのはほぼ難しいと言わざるを得ない。

このサーヴァントを倒すに当たって、最も単純で効果的なのは契約者であるマスターを殺す事だ。

それが出来ない以上、私はバーサーカーを引き付けるか、もしくは魔剣を斬るのに専心するか……

 

 

「宝具を展開するか、ですか」

 

 

別段、秘めるものでもないが……宝具とはサーヴァントの真名に繋がる物。

そして真名とはサーヴァントの伝承を紐解く手がかりにして答え。

すなわち、己の弱点と強点の全てを晒すようなものだ。

大した物ではないとはいえ、真名を晒すという事はマスターの危機が増える事にも繋がるのだ。

おいそれとは使えない──このような規模も敵の数も分からない聖杯戦争となれば尚更に。

 

 

 

……成程

 

 

改めて理解する。

()()()()()()()()()()()()

魔術師同士の殺し合い。

過去を英雄を兵器として召喚し、戦う。

これだけならば、珍しいのはサーヴァントである英霊の方なのだろうが……その実、戦いの趨勢を握るのはサーヴァントではなくマスターである魔術師だ。

無論、サーヴァント同士だけで決着が着く事もあるのだろうけど、今のような状況に陥った場合、切り札となるのはマスターだ。

 

 

 

強力なサーヴァント一人が戦うのではなく、マスターとサーヴァントが協力し、勝利への道を築くのは聖杯戦争

 

 

本来ならば納得と同時に飲み込む真実を──私は苦虫を嚙み潰したような感覚で飲み込んだ。

これが、普通の魔術師をマスターにしての闘争であるなら何の感慨も抱かずに飲み込むだけであったのだが……あの少年を前にした場合は何の感慨も抱かない、という事が出来ない。

戦闘能力が無いとか、そういう話ではない。

 

 

 

あの少年は致命的なくらい()()()()()()()()()()()()()

 

 

最後まで人を殺す事に躊躇いを覚える──からではない。

きっと彼は人を殺せる。それも優しさで人を殺せる。

殺せるのだろう──問題は殺した後だ。

優しさで人を殺せる人間は優しさに追い詰められるのだ。

 

 

 

優しい人が追い詰め、傷つけるのは何時も自分自身だ

 

 

……闘争の引き金を引いたのは向こうからだ。

正当防衛、という言葉からならば、こちらには義がある。

悪くない、悪くないのだ。

闘争を回避しようとして無駄に犠牲が出てしまった、と思うだろう。

現実的な意見ではそうなのかもしれない。

 

 

 

だけど、それで悪いのは決して逃げようとした人ではないのだ

 

 

戦いを回避しようとして何が悪い。

魔術師の外法外道を無視しようとして何がおかしい。

 

 

 

──殺したくない、という願いの何がおかしい

 

 

それを偽善だの間違いだの言うのは外野の意見だ。

やれ綺麗事だの、現実逃避だの言う奴など言わせておけばいい。

……勿論、現実である以上、綺麗事だけでは生きてはいけない。

今の世は、自分が生きていた時代に比べれば、涙が流れるくらいに平和な時代だが、戦争が完全に無くなったわけではないだろう。

それでも、殺したくない、という願いが嗤われる事なく、正しいと甘受される時代になったのならば、人を殺したくない、と思う気持ちに悪い所など一つも無いだろう。

生前から隠しながらも剝き出しにしていた怒り。

 

 

 

殺したくない、と願う善人が間違っていると、とまるで悪のように叩かれるのは余りにも理不尽だ。

 

 

だから祈らざるを得ない。

出来る事ならば……少年が少しでも苦しまない結論を、と。

叶う事が不可能である事を理解しても、そう願わずにはいられなかった。

 

 

 

※※※

 

 

圧倒的、という言葉では物足りないのだろう。

圧倒、とは敵の存在を超える事。

あらゆる行動に対して、力や技を持って超えていく行動をこそ圧倒、という。

だからこそ、今の状況は圧倒的という言葉を使うには相応しくなかった。

 

 

 

何も起きていない状況では、圧倒なんて言葉は使えないのだから

 

 

 

「が……ぁ……!」

 

 

バーサーカーのマスターは無様に地に伏し、声を漏らしながら、串刺しにされる幻痛に侵されていた。

強化によって屋上まで駆け上ったセイバーのマスターである遠坂真はそんなバーサーカーのマスターを見て、目を細め──そして無視し、暗示を受けている人質達に向かったのだ。

 

 

戦いは起きない。見下される事すらない。

 

 

この状況で、何をどうして圧倒的なんて言葉が出るか。

蛇に睨まれた蛙、なんて対比ではない。

最早、竜に無視されている虫のような状況だ。

 

 

く……そ……!!

 

屈辱という言葉を端的に表した状況に、魔術師は怒りという感情を持って激痛をほんの少し無視し、手を動かす。

魔術回路が起動し、殺意が呪いとして形に成る。

その瞬間、手の平に衝撃が起き、反動で手が押される。

何事か、と思い、視線を向けると──手首から上が無くなった肉の断面が見つめてしまった。

数秒、何事か分からず、断面を見続けていたが、時間と共に理解が深まり、そして

 

 

「ぐ、あぁぁぁっぁぁぁぁぁあぁぁぁぁーーーーー!!!」

 

 

思い出したかのように手首から発生する激痛と流血。

あっという間に自分と服、地面を血の色に染め、悶える私を、しかし為したであろう少年は一切、振り返らない。

暗示をかけられている人間に一人一人、暗示を上塗りし、避難させる事だけに注力しており……これっぽっちもこちらに興味を持っていない、という現実が更に私を追い詰めていた。

 

 

 

ここまで……ここまで差があるというのか……!!

 

 

魔術師の力量はほぼ生まれの才に左右される。

生まれ持った魔術回路の数、質、属性、そして積み上げた歴史。

どれもが己の意思ではどうにも出来ない部分だ。

経験や道具などで多少、質を上げる事は出来るだろうが、結局のところ、焼石の水に過ぎない事は理解している。

才こそが最も、魔術を磨くのに必要な砥石である事は理解している。

だが………だが!!

 

 

こんな落後者風情に負けているだと……!

 

 

魔術に邁進している魔術師が相手なら、屈辱に身をよじる事はあっても、納得はしただろう。

しかし、この子供は魔術を裏切ったのだ。

根源を、『 』に挑むという魔術師の大前提である願いから足を背けた臆病者であり、期待外れだ。

そんな存在に負けるなど、それこそ恥知らずにも程がある。

底無しの怒りが少年の後姿を焼いているのを実感する。

 

 

 

──が、底無しの怒りが勝敗を覆すような原動力になるというのならば……より深く、深く、心の芯まで燃えろと叫んでいるのは果たしてどちらの方だったか。

 

 

痛みに悶えながら、少年を睨んでいた時間は幾程か。

気付けば、人質に集めた人間は全員、城の屋上から消えており、そこにはようやく、といった感じにこちらを見る少年の姿があった。

 

 

 

「───」

 

 

場所の都合上、丁度、少年の背中に月がある。

満月を背負った少年の瞳は鋼色に輝いており、その幻想さは酷く魔的であった。

 

 

 

「───ぁ」

 

 

全ての怒りが拭い落とされるような感触。

幾多の魔術防壁を突破して、刻み込んでくる美しさ。

あれ程、憎んでいたというのに、少年が持っている尊さはまるで子供の頃に忘れ去った夢のようで自然と涙が流れた。

その上で、心に浮かんだのは拭い去られた上で、しかし沸き上がった検討違いの怒りであった。

 

 

 

何故……どうして……()()姿()()()()()()()()()()()()()……

 

 

理屈も道理も吹き飛ぶ神秘性。

希望が形になったような魔がそこに存在している。

これこそが少年の真実であるという事を理解した今ならば、求める事は見つめる事だ。

これこそが魔術師が目指すものであるという事を、己は見て、観て、視るのだ。

そうすれば、何れ己は──

 

 

 

「──残念ながら、それは勘違いだ。偶像になるなんてお断りだよ」

 

 

少年の言葉と共に、意識が現実に戻ってきた。

見ている光景は何も変わっていないが……自分の意識が戻ってきている感覚がある。

まるで窮屈な繭の中から這い出たような感覚に、敵が目の前にいるというのに自分の体をつい見てしまう。

片手が消え去った事すらどうでも良くなる程の疑問は、少年の口から語られた。

 

 

「……やっぱり、あんた、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……何?」

 

 

訳の分からぬ納得は、そのまま訳の分からぬ謎に繋がる。

私が、バーサーカーのマスターではない?

聖杯戦争の人間が聞けば、何を素っ頓狂な言葉を吐いているのだと思うだろう。

サーヴァントが傍におり、魔術師の命を聞き、そして令呪を持っている。

これだけの状況証拠があって、どうしてマスターではない、などと馬鹿げた言葉が出るという。

その疑問を察したのか、少年は変わらず無感動の表情のまま、口だけを機械的に動かした。

 

 

「まず一つ──あのバーサーカーの燃費は決して良くない。元々かなりの大英雄だったんだろうな。それだけで十分に悪食なのに、クラスがバーサーカー。更にはほぼ常時発動状態の魔剣だ。並みの魔術師程度なら一人二人ではとてもじゃないけど賄いきれない」

 

 

それは……その通りだろう。

あのバーサーカーの狂犬ぶりは最悪だが、性能だけで言うならば間違いなく大英雄クラスだ。

格が高ければ高いほど、強力になるのが英霊だが……逆に言えば、高くなれば成程、供給する魔力量は増える。

聖杯戦争が単純な力の有る無しで終わらない理由の一つだ。

強力なサーヴァントはそれだけで安心感が生むが、それを維持するのに燃費を食う。

弱いサーヴァントはそれだけでは不安を感じるが、使い方や宝具次第で十分に強力な駒となる。

その上で、確かに自分の実力以上のサーヴァントの操作は無意味極まりないが……そんな程度の条件なら幾らでも方法はある。

無いのなら他所から持ってくるのが魔術師である。

その結論を口に出そうとするが、まるでそれを遮るように冷えた声が吐き出された。

 

 

 

「無論、これは解決できる程度の問題だ。一人で足りないなら一人以上で貢げばいい──そこで二つ目だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「──」

 

 

一人で……? いや、それは……魔術師同士の決闘で……

 

 

言われた言葉に、思わず自分は周りを見回す。

当然、周りには少年以外誰もいない。

先程までいた人質もいなくなった以上、ここにいるのは敵である少年と自分だけ──そこまで思考してようやく理解する。

何故、()()()()()()()()()

魔術師同士の決闘?

何だ、その馬鹿らしい言い訳は。

この少年に唯一勝っている利点である数の利を使わない理由が魔術師(わたし)にあるわけがない。

いや、そうだ……単に供給役として死なせるわけにはいかない、という手段が……だからといって、マスターである自分の命に比べれば劣るものだ。

ああ、それに……そもそも……()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

最後に誰かと会った記憶は……そうだ、あの少年が現れ、暗示を防がれ、その上で無視された際に癇癪で妻を殴った時から記憶が無い。

 

 

突けば突く程、ボロが出る自分の記憶に血の気が引くのを感じながら──最後に、止めの言葉を聞かされた。

 

 

 

「最後に──()()()()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()()()?」

 

 

「──」

 

 

本能が叫ぶ。

それを知ってはいけない、と本能が叫んでいる。

魔術師としての立場や誇り、それら全てが失墜する。

それを分かっていて……尚、体は動いた。

人としての本能が悟っても、魔術師としての"知りたい、知るべきだ"という自滅に等しい知識欲が全てを暴け、と体を動かす。

それが自滅であると分かっていても……魔術師は己の死よりも魔道を追及する事だけを望む。

因果は今こそ結び、ここに結末を晒す。

魔術師の令呪。

それは先程、飛ばされた右手首に刻まれていた筈であり、その吹き飛ばされた手首の甲には──

 

 

 

……何の刻印も浮かんでいなかった

 

 

 

「……は、は……」

 

乾いた笑いが喉から洩れる。

滑稽にして無様。

愚か者にして道化者。

才も知恵も運も持ち合わせていなかった魔術師の最後には酷く相応しい人生(過去)計画(未来)に裏切られる、という陳腐な終わりであった。

 

 

 

※※※

 

 

全てを悟って脱力した男を目の前にしながら、自分は腰にある剣を手に取った。

剣とは殺意の証明。

剣を執る、という事は殺す覚悟をするという事。

それくらい子供でも理解しているし、事実、そうする、否、そうしなければならない。

この男は確かに……恐らく本来のバーサーカーのマスターである人物に踊らされた手駒だったのだろう。

同情はする。

事実、ただ俺を殺しに来ただけならば俺はここで手打ちにしても良かった。

 

 

 

だが、ここで俺が許せば死んだ少年の嘆きが無くなってしまう

 

 

例え、この男が操られていたのだとしても、事細かに全てを命じたわけではないだろう。

人質辺りくらいは示唆されたりしたかもしれないが……その後の己の行いは暗示下であったとしても己の思考で動いた筈だ。

人質を暗示で洗脳し、その上で自殺させ、その死を嗤った。

そこに責は無いとは言わせない。

捨てたこの男も、見捨てた俺も同罪。

捨てられた少年からしたら何の意味も無いけど……だからこそ、俺は剣を執らないといけない。

 

 

 

笑う事も怒る事も、悲しむ事も憎む事も出来なかった少年に対する……本当に厭らしい自己満足──

 

 

全く、本当に父にも母にも届かないなぁ、と思い、剣を振り上げ

 

 

 

「──駄目よ。貴方には似合わないわ、それ」

 

 

──まるで似合わない衣服を着ようとした子供、あるいは友人を窘める様な声。

今もまだ学校の帰り道に、友人とウィンドショッピングをしている中、声を掛けるように、少女の声が俺の動きを制止した。

セイバーの声ではないが、自分には聞き慣れた声ではあった。

 

 

 

「──」

 

 

一度、真は目を固く閉じた。

正直に言うならば、見たくも聞きたくも無かった。

声の方に振り返れば、自分に待っているのは塗炭の苦しみだ。

断言出来る──この声は最後の最後まで自分を苦しめる黒炎のような言葉だと。

 

 

 

──本当に情けない

 

 

自分にあんなに頑張った父の血が、あんなに素晴らしい母の血が流れているのかが本当に疑問だ。

ああ、それとも、これが順当の結果なのか。

父の異形の才能と在り方。

母の優秀にして優美な生き方。

結果、生まれたのが異形にして優秀なだけのガラクタ。

ひたすらに周りの足を引っ張り、他人の人生を歪ませる事ばっかりだ。

 

 

 

──だからこそ、真は逃げる事だけは出来ず、振り返る。

 

 

「──こんばんわ、アメリー。こんな時間にこんな場所に来て。何か忘れ物でもしたか?」

 

「──こんばんわ、シン。そうね、忘れ物といえば忘れ物だけど……でも、私としてはここは"俺に会いに来てくれたのか"みたいな甘い言葉を言って欲しかった所ね」

 

 

肩辺りまで伸ばしたブロンドの髪に、綺麗な青い目を細めた少女は本当に普段と変わらない。

それこそ、夜中、散歩していたら偶々出会った、みたいな姿だ。

 

 

 

──いっそ、姿も変貌してくれていたら良かったのに

 

 

そんな弱音を内に秘めながら、真は自分でも伽藍堂した笑みを浮かべている事を自覚しながら──己の口から決定的な断絶を言葉にした。

 

 

 

 

「そっか──その忘れ物っていうのは俺を殺すのを忘れていた、とかそういうのかな? バーサーカーのマスター、アメリー・ランベール」

 

 

マスターがマスターである事を指摘する。

それは決定的な敵対の意思であり、拒絶の意思である筈なのに……その言葉を受けた少女は細めた目に合わせて口元を微笑の形に歪めた。

 

 

 

 

まるで、それは恋を受け入れら、花開く女の笑みのように見えながら──同時に、魂を手に入れた悪魔のようにも見えた──

 

 

 

 

 

 




感想・評価など宜しくお願い致します。



次は、何故か急激に見てくれたホライゾンの方を書くかもしれません
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